広井王子さん「サクラ大戦には望郷の想いがあるんです」 サクラ大戦20周年記念 20年目の太正浪漫~帝劇スタアインタビュウ~第2回
1996年9月27日にゲーム『サクラ大戦』が発売されてから、丸20年。そんな節目の年には、ぜひこの方にご登場いただかねば話が始まらない。原作・総合プロデューサーの広井王子さんだ。
メディアミックス作品の中でも圧倒的な展開を見せた『サクラ大戦』を生み出し、声優が舞台上でもそのままキャラクターを演じる『サクラ大戦歌謡ショウ』では、アニメ界にミュージカルを根付かせることに成功。また作品的に重要な意味を持つ音楽は、歌曲だけでも200曲以上あり、そのすべてを作詞している。まさに『サクラ大戦』は広井さんの作家性あっての作品といえよう。
今回は、サクラファンには気がかりだったことをこの機会に直撃! 20年目にして語られる真相など、単なる昔話に終わらない特濃な内容になっているぞ!
――『サクラ大戦』20周年を迎えて、まずはお気持ちをお聞かせください。
広井王子さん(以下、広井):最初に入交さん(入交昭一郎氏。当時セガ副社長、『サクラ大戦』製作総指揮)とやるとなった時に、「『ガンダム』のように20年もつものを作りたい」と話したんですよ。作品のベースに力がないと、土台が喰い尽くされて20年もたせることはできない。わりと作家性が強いものが残りますよね。『ガンダム』も富野さんという強い作家がいての話ですから。
やはり製作委員会制度みたいなもので作ると、なかなか20年というのは難しくて、そういう意味では『サクラ』はその中間辺りにいたのかもしれない。セガがいて、レッドがいて、他の会社もいるという、ある意味委員会制度に近い中で、みなさんが僕の個性を取り入れてくれて作ることができたのは、本当にうまくいったなと思います。
――大正時代というモチーフも『サクラ大戦』の大きな個性になっていますが、これも最初から考えていたのでしょうか?
広井:僕が着想した時は、昭和の戦後すぐの頃。闇市があるようなところに、舞台を作っていく物語だったんです。そこでショウをやりながら戦う。戦いの要素は最初からありました。ただ、時代が違う。
――そこから大正に移したのは、どの辺りのタイミングで?
広井:わりと早かったですね。すぐに昭和は諦めました。生々しいから。
――確かにそれはありますね。
広井:ドラマもたくさん作れるし、すごくいいと思っていたんですけど、「華やかさをどうしようか?」という結論が出なくて。ダークサイドに堕ちてしまいそうなので、諦めました。ゲームとしては華やかさが必要なわけです。
その点、大正というのは英語が街中にあって、すごくモダンな世界だった。でもそれにみんな気が付いていなかったんですよ。そこで大正を「僕の感覚のモダンな世界」で描いたら面白いかなと思いまして。蒸気革命みたいなものがあって、その一方でバーチャル技術もあるような世界観を作ったんです。
銀座線の中を弾丸列車が移動するようなことも含めて、空想科学みたいなものを詰め込んだんですね。それをみんなが「スチームパンクだ」と言ってくれたので、そういう言葉のイメージが付きましたけど、僕のイメージでは19世紀の機械科学をさらに進めたものだったんです。全部ギアで動いている、みたいな。
――大正時代を話題に、祖父や祖母と久しぶりに話ができたというファンの逸話も多く耳にしました。居間のピアノで「さくら」を弾いていたら、親が「いい曲だな」と言って、ソファーでずっと聴いていたという話もありましたね。世代を超える力があったのも、『サクラ大戦』の素晴らしさだと思います。
広井:『サクラ大戦』を作る時に、音楽は重要視しました。映画の中でも映画音楽にはすごく大事な部分がありますが、さらにそれを強調して、ゲームだからできることがあるんじゃないかなと思ったんです。それに将来は舞台をやりたかったので、歌は作っておきたかったというのが本音ですね。「花咲く乙女」の詞を書いた時、僕の中ではさくらにピンスポットが当たっている舞台の絵が浮かんでいたんですよ。この歌を舞台でかけたいと思っていたので、「花咲く乙女」は特に思い入れがありますね。
そして実際に舞台を作って、初めて母親が僕の仕事を観ましたからね。それまでゲームは見ませんでしたから。舞台をやって初めて喜んでくれて、親孝行ができました。
――最初の歌謡ショウの時は、思い描いていたものと、実際に出来たものではまだギャップが相当ありましたか?
広井:それはそうですよ。最初は舞台のスタッフからは「ゲーム屋さんが来た」というお客さん扱いで、こうしたいという意見も聞いてくれないですから、僕らが作ったものを完全に掌握できない歯がゆさはありました。それは声優さんたちも同じで、舞台人扱いしてもらえませんから、みんなも心の中がザラついていたんじゃないかな?
――そうなると、3回目の『紅蜥蜴』でようやく歌謡ショウの形が作れた感じですか?
広井:はい。稽古場も変えましたしね。ちゃんとした稽古場を借りて、その中にセットも組んで、スタッフも総入れ替えしました。それは2回目に園岡さん(園岡新太郎氏。元劇団四季。歌謡ショウオリジナルキャラクター、ダンディ団のボス・団耕助役として歌謡ショウを支えた)が来たことが大きいんですよ。
舞台人である園岡さんに「お前がプロデューサーなのに何やってんだ! これは舞台のやり方じゃない!」と怒られましたからね。それで「じゃあ、どうすればいいんですか?」と相談して、園岡さんの知り合いに来てもらって、仲間になっていったんです。それからそのチームとずっと一緒に舞台を作って、今でも2ヶ月に1度くらい飲み会をしています。
――歌謡ショウで培われたノウハウは、その後数々のアニメやゲーム原作のミュージカルを生み、活かされていますね。
広井:そのことで、舞台を観るお客様が増えていくのは嬉しいことですね。僕は『サクラ』の舞台だけに来てほしかったわけじゃない。「みんな、舞台は面白いよ!」って言いたかったんですよ。
――実際、歌謡ショウのおかげでアニメファンの間に「劇場に舞台を観に行く」という習慣が根付きましたから、ひとつのジャンルを作ったと思います。
広井:『サクラ』を舞台化する時にすごく悩んだんです。舞台人が営々と築き上げてきたものの中に、土足で入るみたいなことはやめようと、ずいぶん勉強もしました。ただひとつだけ、彼らの気が付いていないことがあったんです。
たとえば『国定忠治』にしても『瞼の母』にしても、世代の共通認識があったわけですよ。ところが、今の世代にはもうわからないんです。今の共通認識っていったら、マンガとかゲームですから。ならば、ゲームを原作にして舞台というのもアリだぞと。そういう時代になるんじゃないかと思ったんです。
――20周年というと、「20周年の歌謡ショウで『四谷怪談』をやりたい」と仰っていたことが、ファンには鮮烈な印象として残っています。
広井:そうですよねぇ。さくらのお岩、マリアの伊右衛門、いいですねぇ。カンナの宅悦、見たかったですねぇ。
――内容の構想として、どのようなものがあったのでしょうか?
広井:『四谷怪談』は『忠臣蔵』の外伝だ、ということがやりたかったんです。だから最初のシーンは判官切腹からで、浅野内匠頭が腹を切って、仇討をするぞというところから伊右衛門が裏切って、あの騒動になるわけですね。そこにちょっと手を加えて、伊右衛門がお岩の霊によって最後に改心して、討ち入りがうまく行ったというシーンが後ろに描かれながら、2人が宙乗りで空を飛んでいくという愛の物語に変えたかったんですね。
単なる化け物の執念の物語ではなく、お岩の愛に伊右衛門も最後は気が付いて、お岩が赦す。そして2人はちゃんと天国で結ばれ、そのバックグラウンドに討ち入りがあるという話を作りたかった。それが僕のぼんやりとした構想でした。
■ 『新サクラ大戦』に華撃団構想の真意! 20年目にして新事実が続々と!
――『サクラ大戦 活動写真』の同時上映として、『魔法少女アイリス』『さくらちゃんハーイ!』という幻の短編アニメ企画があったそうですが、他にも幻の企画などがありましたら教えてください。
広井:『さくらちゃんハーイ!』はイメージボードまで描いたんですよ。学園モノで、カンナが泣いて教室が洪水になっちゃって、みんなでボートで脱出するとか(笑)。
――ドタバタギャグなんですね。
広井:ほんとドタバタですよ。『魔法少女アイリス』は、『カードキャプターさくら』みたいなイメージでアイリス大活躍をやりたかったんです。マスコットのジャンポールがいて、変身スティックを持って戦うという。元々は、アニメの中で蒸気テレビにこんな番組が映っていたら面白いかな、というアイデアだったんですよ。
あとは、あの時代から何世代も経った宇宙モノというのもありました。コロニーの中に東京があって、そこで戦うという。本部の壁には歴代の華撃団の写真が飾られていて、メンバーにはさくらの何世代目とかがいて、「話はひいおばあちゃんから聞いてます」みたいな。それが僕の中の『新サクラ大戦』だったんです。
――時代が太正から移るというアイデアは、初めて聞きました。以前、世界各地に広がる華撃団構想について教えていただいた時は、上海華撃団やイスタンブール華撃団という言葉にワクワクしました。
広井:『サクラ』には始めから都市構想というのがあるんですよ。どんなに壊されても東京は繁栄する。それは東京にものすごいエネルギー体があるからだと。エネルギー体があるところにしか都市は繁栄しない。だからマンハッタンみたいな小さな島でも繁栄する。
逆に、東京を他に移しても、東京にはならない。東京が地政学的に持っている地場のエネルギーの上にあるから繁栄する。ローマもそうだし、パリもそうだし、どこの都市もみんなその土地にある力で繁栄しているだけだと考えました。
その力には善も悪もないから、繁栄すれば善悪両方繁栄するんですよ。そうなった時には、悪をどうやって潰していくかという作業でしかない。戦争なんかしている場合じゃなくて、地域の都市を守るということを国家は鮮明に打ち出すべきだ。それが軍隊を小さくすることだと思ったんですよ。
『サクラ』の頃はまだ少なかったですけど、今やテロという形になって、はっきり出てきましたよね。もはや大きい軍隊では守れない。だから降魔をテロだと考えればいいわけです。事前に月組が察知して、阻止するという構想でした。都市を小さく守るということにこだわったのは、それが理由です。
――サクラでは様々なメディアミックス展開がなされました。中でも、作家性などを考えると、一番うまく行ったのはOVAでしょうか?
広井:OVAは楽しかったですね。今までにないようなことをやっていましたから、あのシリーズはもっとやりたかったですね。
――翔鯨丸の発進を屋根の上から眺める、名もなき太ったおじさんに、玄田哲章さんをキャスティングしたのは驚きました。
広井:みんな出たがったんですよ! 飲み会で会うと「広井さん、出してください!」って言われたんですよ。玄田さんも、飲み会の時に「アニメ作るなら出してよ!」って言われたのだと思います。それで、役がないからこれでいいやって(笑)。
――ゲームでは戦闘、歌謡ショウでは歌劇、OVAでは太正時代の日常という、それぞれの長所を活かした描き方も印象的でした。
広井:そうです。はっきりと分けていましたね。
――羅宇屋(らおや。煙管のヤニ取りや管の交換をする露天商)が登場する作品なんて、日本のアニメ史上『サクラ大戦 ~桜華絢爛~』だけですよ。
広井:あははっ、そうですか(笑)。
――日本の色々な文化を教えてくれたり、調べるきっかけをくれたのが『サクラ大戦』なんです。
広井:ただ、説明台詞はやめてくれと言ったんです。羅宇屋とはこういうものだと説明すると、勉強になっちゃうから。当時の日常に普通にあったものは、説明なんてしないですよね。外国人のマリアが酢昆布を不思議がったりするけど。基本、みんなが知っているものとして登場させたので、画面にただ映っていたりするわけです。
――それが情報量の濃さになりましたね。なんとなく映っているものを調べてみると、すごい歴史があるという。
広井:劇場版では、轟雷号の発車シーンにこだわりましたしね。
――あれもスジ屋が印象的でした。
広井:昔は国鉄の社員がダイヤを作る時に、ああやっていたんですね。
■ 『サクラ』に込められたのは、望郷の想い
――9月23日から25日まで『横山智佐のサクラ大戦 20歳の誕生日会』が開催されますが、そろそろまた広井さんが仕掛けるサクラをファンも待ち望んでいると思います。何か構想はありますでしょうか?
広井:それはセガさんが「広井さんでもう一度やりましょうか」みたいな話にならないと、難しいと思います。僕が動くと、公式になってしまうんですよ。キャストさんたちが個人的に動くのは許諾しているみたいですけど、僕がやるとなると大事になるので、なかなか自分からは動けないんです。
正直な話、20年もたせてくれたのはお客様のおかげなんですよ。みなさんの記憶の中で『サクラ』が素晴らしいものであったのなら、『サクラ』はお客様それぞれのものなんだと思っています。
20周年だからセガだとか、僕だとかということじゃなくて、お客様それぞれの中での20周年でいいと思うんです。僕はたぶん、お客様に渡すために作ったのかもしれませんね。これだけのお客様に支えられて、幸せだなと思っています。
――銀座、浅草、大正時代といった言葉には、『サクラ』の匂いを感じるようになりましたからね。
広井:うちは東京で六代続いて生きてきたので、それを利用しました。『サクラ』の中には僕の血や肉が入っています。
最初に「作家性があるもの」と言ったのは、そういうことです。20年前にも「これは僕の個人史です」と話したと思うんですけど、うちの母親から聞いたとか、おばあちゃんから聞いたという話を織り込んでいますから。紅蘭は本当に僕の従姉妹の話です。そういった自分の個人史を、うまくエンタメとして入れ込んだ。だから他の人がやっても入らないし、『サクラ』の匂いは出ないでしょう。
もしも東京の中で生きてきて、新しくプロデューサーとして立つ人がいればね。それこそ神田で生まれ育って、「サクラはこうだよ!」ってやってくれるプロデューサーがいれば、新しいものが出来るかもしれないですね。
『サクラ』には望郷の想いが、僕にはあるんです。東京っ子なので、銀座に行く時はお洒落して、浅草は遊び場というように子供の頃から育っていますから。今でも銀座に行くと背筋が伸びますしね。
まぁ、ラスト歌謡ショウはあってもいいかもしれないですね。歌謡ショウみたいなものは、稽古場で役者と同じ飯を喰って生活する1ヶ月間がないと、できないんですよ。またそれが楽しいんですよ! その楽しさがお客さんに伝わるんです。次に何かやれるとしたら、ラスト歌謡ショウでしょうね。
[取材・文/帝劇スタ夫]
公演日程/2016年9月23日~25日
チケット/全席指定5,000円(税込・浅草花やしき入園料含む) 発売中
会場/浅草花やしき内「花やしき座」 東京都台東区浅草2-28-1
出演/横山智佐
23日(金)14:00開演 西原久美子 伊倉一恵 折笠愛
23日(金)18:30開演 西原久美子 伊倉一恵 折笠愛
24日(土)13:00開演 渕崎ゆり子 富沢美智恵 陶山章央
24日(土)17:30開演 高乃麗 渕崎ゆり子 陶山章央
25日(日)13:00開演 西原久美子 伊倉一恵 陶山章央 園岡新太郎 西村陽一 ベロ武田
25日(日)17:30開演 高乃麗 西原久美子 陶山章央 園岡新太郎 西村陽一 ベロ武田
「花やしき座」開場は開演の30分前です。
花やしきへは遊園地の開園時間から入園できます。
主催/浅草花やしき
協力/株式会社セガホールディングス 株式会社レッド・エンタテインメント
企画・制作/株式会社ムラヤマ
公演に関するお問い合わせ/浅草花やしき
TEL 03-3842-8780(10時~17時)
http://www.hanayashiki.net/
車椅子でお越しの方は事前にお申し出ください。
チケットに関するお問い合わせ/レイネット
TEL 03-3481-0428(11時~18時 土日祝を除く)
>>サクラ大戦ドットコム
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