映画『ポッピンQ』の悩める5人少女は、なぜ踊るのか!? 宮原直樹監督にその真意を聞いた!
東映アニメーション創立60年の節目におくるオリジナル劇場アニメ映画『ポッピンQ』が、12月23日(金・祝)より全国公開を迎えます。高知や東京などそれぞれの場所で、悩みを抱えながら中学卒業を間近に控える5人の女の子が主人公の物語。彼女たちは、異世界“時の谷”で出会い、冒険のなかで成長していきます。『デジモンアドベンチャー』(総作画監督)、「プリキュア」シリーズ(CGディレクター)などを手がけてきた宮原直樹監督のもと、キャラクター原案に『キノの旅』、『世界征服~謀略のズヴィズダー~』の黒星紅白さんを迎えた布陣で、かわいく爽やかな映像も注目を集めています。
今回は、そんな同作の宮原直樹監督にインタビュー。作画とCGの両方に向き合ってきた監督の作品歴を振り返りつつ、ダンスへのこだわりや、映画のテーマに関することなどをうかがいました。
──まずは『ポッピンQ』に至るまでの、宮原監督のこれまでのお仕事について少しうかがえたらと思います。もともとアニメーターとして東映アニメーションに入り、「ドラゴンボール」シリーズ、『デジモンアドベンチャー』などの(総)作画監督を経て、CGのセクションに移られたそうですね。
宮原直樹監督(以下、宮原):そうです。ちょうど2000年ごろ、映画にCGが、ダーっと入り始めた時期でしたね。それまでに『ターミネーター2』(1991年)や『ジュラシック・パーク』(1993年)があって、ディズニ―のアニメーション映画にも、どんどんCGが入るようになっていって。『美女と野獣』(1992年)の舞踏会のシーンはまだ背景の一部に使われているだけだったのですが『ムーラン』(1998年)の迫力ある群衆シーンなんかを見ると、CGに対する認識が変わりましたね。アニメを作る中で、CGはこれからきっと役に立つものだろうと、自分としても薄々感じるようになりました。
アニメーターって、「アニメーターとしての道を極めよう」という志向の人が多いんですが、僕は逆に、そろそろ絵を描く以外の仕事もしたいと思っていたタイプだったんです。その頃はまだ、演出みたいな恐れ多いことは考えていませんでしたが。アニメーターとはまた違う「技能」を何かやりたい、と思っていました。そんな時に、東映アニメーション内でもCGの部署が立ち上がったんです。アニメーターに対して募集がかかったんですが、「ハーイ!」と手を上げてみたら……「あれ、自分一人だけ!?」という感じでした。
──宮原監督は特に悩まず、作画からCGにスッと移られたんですね。
宮原:「新しいおもちゃだ!」という感じで。アニメを作るための技能を、全部やりたかったんだと思います。
──CGの部署に移られて、初めて参加された作品はなんでしたか?
宮原:細田守監督の『劇場版デジモンアドベンチャー 僕らのウォーゲーム』(2000年)ですね。その時点ではまだ、メインのCGディレクターさんのアシスタントという立場だったんですけど。その続編の『デジモンアドベンチャー02 前篇 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』(2000年)からは、CGアニメーターとして参加しています。
──その数ヶ月後にはもう、『映画 も〜っと! おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ』(2001年)でCGディレクターになられていますね。
宮原: CGディレクターといっても基本的に、「もうちょっとココ、かっこよくやって!」みたいなことを横から言っているようなものなので……。 CGって、でき上がるまでに何工程もあって、それぞれにスペシャリストがいるんです。モデリングのスペシャリスト、それを動かす仕組みを作るスペシャリスト、アニメーションをつけるスペシャリスト、最後に合成をするスペシャリスト、という感じで。僕もひと通り経験しましたが、ディレクターになってからはサボってましたね。
──CGのディレクションをされるようになって、作画との違いを感じたことなどはありましたか?
宮原:鉛筆かパソコンかのツールが違うだけで、作画もCGも一緒なんだということがわかってきました。ちょうど世の中的にも、CGをデフォルメして作画のような見た目に近づける動きや、逆に作画でも今まで以上にリアルなカメラの概念を取り入れる動きも出てきて。作画とCGの両者が、だんだん近づいていき、最終的に良い形になるんじゃないかなと薄々思うようになりました。
──その後、CGアニメ『ロボディーズ-RoboDz-風雲篇』(2008年)では演出を担当されていますよね?
宮原:『ロボディーズ』は、まさに「セルアニメをCGに置き換える」という発想の作品でしたね。もうひとつは、西尾大介(*1)という強烈なディレクターの持つ味を、いかに周りの演出陣も再現できるかが課題でした。僕にとって初めての演出だったので、コンテの描き方やディレクションの仕方を西尾さんから学ばせていただいて、それが今の自分にもつながっています。西尾さんに言わせたら、「お前なんか全然まだまだ」だと思いますけれど(笑)。
*1フリーの演出家。『ふたりはプリキュア』、『ドラゴンボール」シリーズなど、東映アニメーションでシリーズディレクター(SD)を務めた作品多数
──そこからは、「プリキュア」シリーズのダンス映像を多く手がけられています。CGによるダンスを初めてエンディング曲に取り入れた「フレッシュプリキュア!」(2009年)も、ご担当されたそうですね。
宮原:前期エンディングテーマの『You make me happy!』は、CGディレクターが別にいて、コンテも本編の志水(淳児)SDが描かれているので、僕はアドバイザーのような形でした。作画とCGの両方を経験している立場から、「セル画だったらこういう表現になりますけど、CGだとこんなやり方もあります」というようなことを言ったり、横からお手伝いさせてもらった感じです。後期エンディングテーマの『H@ppy Together!!!』には、もうちょっと深く関わっていて、舞台設定やギミックなども考えています。
そのあとは、『プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!』(2010年)、『スイートプリキュア♪』(2011年)のエンディングダンス、という流れです。
──『プリキュアオールスターズDX 3Dシアター』(2011年)では初めて監督を務められました。サイレントながらストーリーもある作品でしたが、いかがでしたか?
宮原:ストーリーの部分以外は、これまでやってきたことの延長線上だったので、それほど新しい挑戦という感じではなかった気がします。『ポッピンQ』に比べると、全然です(笑)。今回は、自分にとっても本当に挑戦でしたね。
心と心を通じ合わせるツールとしての「ダンス」
──ここからは、その『ポッピンQ』についてうかがえればと思います。まず、企画はどのような形でスタートしたのですか?
宮原:後にポッピンQで組むことになる松井・金丸、両プロデューサーが長編映画の企画を探しているところに自分のアイディアプランを出したのが発端です。その時点では自分が監督をやるとは思っておらず、仮に「やれ」と言われても辞退しようと思っていたんですが……。「ここまでアイディア出したなら、宮原さんが自分でやるしかないですよ?」と、プロデューサー2人に詰め寄られました(笑)。
──なるほど(笑)。宮原監督発信の企画ということですが、どんなところから発想していったのでしょうか?
宮原:「ダンスを映画たりうるものにする」というのが、ひとつ目標としてありました。まず、CGによる映像のクオリティって、東映アニメーションも他社さんも、ある程度、行き着くところまでいったなと思えたんです。とてもきれいだし、実際のアーティストさんのライブみたいな映像も作れるようになりましたから。それならほかになにがあるのか考えたとき、「ダンスが映画のクライマックスになれるんじゃないか」という可能性に行き当たりました。
──ドラマ的なクライマックスを、ダンスが担う。
宮原:アクション映画だったら、相手をバーン! と倒す派手なアクションがクライマックスにきますよね。ダンス映像でも、それと同じことができるんじゃないかと思ったんです。『ポッピンQ』にはアクションシーンも当然入っていますが、物語は、あるダンスシーンを頂点とした大きな山になるように組んでいきました。
──そうなると、クライマックス以外でも、ダンスが物語を進めるような場面がありそうですね?
宮原:なので序盤には、すっごく下手なダンスシーンがあります(笑)。モーションキャプチャーの撮影で、ダンスの上手い人に、ワザと下手に踊っていただきました。どんなに崩しても上手いので苦労しましたが、最後はバシッと決めていただき、見ていてクスっと笑っちゃうシーンにできたかと思います。
──CGによるいろんなダンス映像が作られていますが、下手なダンスというのは新鮮です。
宮原:それぞれの下手さっぷりにも、ちゃんと設定があるんです。伊純(CV:瀬戸麻沙美)とあさひ(CV:小澤亜李)は、運動神経はいいけれどダンスは初めて、という下手さ。蒼(CV:井澤詩織)は、物おぼえはいいけれど基本的な運動神経が悪い、という下手さ。小夏(CV:種﨑敦美)は、ピアノをやっているからリズムはとれるけれど身体がついていかない、という下手さですね。
──ダンスの動き一つひとつからも、キャラクター性が垣間見えるんですね。
宮原:そのあたりは、モーションキャプチャーのアクターさんたちのお力ですね。以前から一緒にお仕事させていただいている大阪のチームにお願いしたんですが、バッチリ期待に応えていただきました。
──どんなチームなんでしょうか?
宮原:「プリキュアショー」でキグルミを着て踊るアクターさんたちで、全国でも有数の、クオリティが高いと言われているチームです。プリキュアの『DX2』、『DX 3Dシアター』のころからお世話になっています。当時は歴代プリキュア全員を合わせると22人でしたが、それを6人で割り振って演じ分けてもらいました。彼女たちには、キャラクターを演じ分ける為のディレクションが必要ないんです。プリキュアショーの中で、それまでの歴代プリキュア全員を演じた経験があるので、22人の性格や動きをすべて理解してくださっているんです。
──22人もいるとキャラのかぶる部分もありそうで、すごく難しそうですね……。
宮原:もう、プロ中のプロですよね。『ポッピンQ』は、5人でモーションキャプチャーを撮りましたが、伊純たち5人の上手いダンス、下手なダンス、その中間のダンスなどに加えて、ポコン(CV:田上真里奈)たち“ポッピン族”5体のダンスも踊ってもらいました。ポッピン族は二等身なので、踊り方もまた違うんです。人間の感覚で両手を上げると、手が頭にめり込んじゃうから、ちょっと控えめにしたり。その上で、ポコンやダレン(CV:本渡楓)、ルピイ(CV:新井里美)のような男の子タイプは、ガニ股っぽくするなど、かなり細かい踊り分けをしていただきました。アクターさんたちには、声優さんたちと同じくらい、「キャスト」になっていただいています。
──ダンスを映画にする、ダンスでキャラクター性を表す、といったお話をうかがってきましたが、そもそもなぜダンスをモチーフにしようと思ったのでしょうか?
宮原:ダンスって、起源をさかのぼると、言語よりも前に生まれていたようなんです。まだ言語がない時代に、自分の思いを伝えるためにダンスがあった。それなら、バラバラだったヒロイン5人がそろっていく、心と心を通じ合わせるツールとして、ダンスは最適なんじゃないかと思いました。
小・中学校の授業でダンスが必修化された、ということからの流れもあります。ダンスをやったことのない先生が子供に教えるために受ける講習会があって、僕と松井プロデューサーとで行ってみました。僕らと同じ世代の大人たちが一生懸命踊っていてる姿を見ていても、ダンスの可能性というか、やっぱりダンスは「誰かに何かを伝えるツール」なんだなと感じましたね。
誰かのために、誰かと協力することを経験していく
──ヒロインを5人にされたのは、どんなところからでしょうか?
宮原:黒星紅白さんの絵が大好きでキャラクター原案をお願いしたんですが、一人よりもたくさんいたほうが絵柄的にもリッチだな、と(笑)。一本の映画で描ける人数としては、これ以上となると厳しいですし、複数にするなら5人がベストだと思いました。
──それぞれのイメージカラーのコスチュームに身を包んだ5人の女の子というと、「プリキュア」を連想するアニメファンもいるかと思います。東映アニメーション創立60年の節目のオリジナル作品ということで、これまでの東映アニメーション作品から、確信犯的に何か要素を入れ込んだり……というようなことはありましたか?
宮原:結果的に、そういう見方ができる部分もあるかもしれないですね。ただ実際には、特に「60周年記念だから」といった考え方はしませんでした。キャラクターでいうと、ゼロから伊純を作って、ムードメーカーの子、アクションシーンで活躍しそうな子、司令塔的な子、輪に入らないけれど肝心なところでは活躍する子……という感じで配置を決めていっています。衣装の色合いはステレオタイプになりがちなんですが、そこは個性ということで、デフォルメして配置しましたね。
──演じる声優陣は、どんな基準で選ばれたのでしょうか?
宮原:実は僕、声優さんをぜんぜん知らないんです。なので単純に、オーディションで演じてもらった音声をひたすら繰り返し聴いて、キャラクターのイメージに一番近い人を選ばせていただきました。できあがった作品を見た方から、「どのシーンでも、誰がしゃべっているのかわかる!」と感想をいただいたので、そこは成功だったのかなと思っています。アフレコの前段階として、スタッフ/キャスト全体での台本読み合わせもやらせていただいたので、各キャラクターの性格や演技、キャラクター同士の距離感の目星を付けられたのも大きかったです。
──伊純を筆頭に、ヒロイン5人それぞれが10代らしい悩みを抱えていますね。
宮原:大人からすれば些細な悩みなんですけど、このくらいの年齢の子にとっては、それがすべてだと思うんですよね。たとえば田舎の町で一番足が速い子にとって、その事実は「私が王様!」と思えるくらい、優越感や特別感があることなんだと思います。一方で、それが壊れた時の絶望感も大人が考える以上で、「もういる場所がない」というところまで思い詰めちゃう。15歳の、小さな世界の絶望、みたいなものがあるんだと思います。このあたりはプロデューサー陣や、脚本の荒井修子さんのお力を借りつつ、いろんな人の経験を聞いたり、自分の若いころも思い出しながら、伊純たちの気持ちをじっくり考えていきました。悩みの乗り越えかたも当然、15歳視点で考えなくてはいけませんでした。
── “時の谷”に迷い込むや、敵から逃げて、ダンスの特訓もして……と、15歳の女の子にとって困難な展開が続きます。
宮原:本当に否応なく巻き込まれていくので、「グチグチ悩んでるヒマはないぞ」と。伊純は今まで陸上をひとりでやってきたし、小夏はピアノをひとりでやってきた。蒼はひとりで勉強していて、あさひの武道もひとりで突き詰めていく世界です。そんな彼女たちが、事件に巻き込まれていくなかで、初めて誰かのために誰かと協力することを経験していく。自分はひとりで生きているんじゃないんだと気づくことが、15歳の彼女たちの成長につながるんだろうと思いました。
──それでは最後に、公開を楽しみに待っているファンにメッセージをお願いします。
宮原:『ポッピンQ』は、特定の年齢層に向けて作っていません。小さなお子さんから、伊純たちと同じ15歳くらいの方々、僕なんかと同世代の人たち、「子供と話が通じない」というお父さん・お母さん視点でも見られるものになったかと思います。ストーリーとしては一本にまとめていますが、見る角度を変えると、ド青春ものや、ファンタジーもの、ダンス映画など、いろんな捉え方ができる作品に仕上がったんじゃないかと思いますので、ぜひ注目していただければうれしいです!
[取材&文・小林真之輔]
『ポッピンQ』作品概要
>>映画『ポッピンQ』公式サイト
>>映画『ポッピンQ』公式Twitter(@POPIN_Q_staff)
【ストーリー】
「別々の方向を見ていた、その時までは―。」5人の少女たちが過ごす、特別な時間の物語。
春、卒業を控えた中学3年生の伊純(いすみ)は悩んでいた。不本意な成績で終わってしまった陸上の県大会。あの時出せなかったパーソナル・ベストを出したい。このままでは東京へ転校なんてできない。伊純は、毎日放課後にタイムを測っていた。だが、そんな伊純の行動は、県大会で勝った同級生へのあてつけだと周囲には受け止められていた。
卒業式当日、ふらりと辿りついた海で“時のカケラ”を拾った伊純の前には、見たこともない風景が広がる。そしてポッピン族のポコンが現れる。ポコンは伊純と心が通じ合っている“同位体”だった。
伊純が迷い込んだ場所は“時の谷”。ポッピン族は、様々な世界の“時間”を司る一族。ところが、その“時間”がキグルミという謎の敵のせいで、危機に瀕しているという。
“時の谷”には、伊純と同じく“時のカケラ”をひろった少女たちがいた。勉強のためなら友達なんかいらないという蒼(あおい)。プレッシャーでピアノのコンクールから逃げだしてしまった小夏(こなつ)。父のすすめる柔道と母のすすめる合気道のどちらも選べないあさひ。みな悩みを抱えたまま“時の谷”へとやってきていた。そして伊純と同様、その傍らには“同位体”のポッピン族がいた。彼女たち“時のカケラ”の持ち主が、心をひとつにしてダンスを踊ることで“時の谷”を守ることができ、元の世界に戻ることもできる。だが5人目の少女、沙紀(CV:黒沢ともよ)はみんなと踊ることを拒絶する。「私は元の世界になんか戻りたくないから」。
その言葉に伊純の心はうずく。「私だって元の世界に戻って前にすすめる自信なんてない」──。
【スタッフ】
監督:宮原直樹
キャラクター原案:黒星紅白
企画・プロデュース:松井俊之
プロデューサー:金丸裕
原作:東堂いづみ
脚本:荒井修子
キャラクターデザイン・総作画監督:浦上貴之
CGディレクター:中沢大樹
色彩設計:永井留美子
美術設定:坂本信人
美術監督:大西穣
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音楽:水谷広実(Team-MAX)、片山修志(Team-MAX)
主題歌:「FANTASY」(Questy)
配給:東映
アニメーション制作:東映アニメーション
製作:「ポッピンQ」Partners
【キャスト】
瀬戸麻沙美、井澤詩織、種﨑敦美、小澤亜李、黒沢ともよ
田上真里奈、石原夏織、本渡 楓、M・A・O、新井里美
石塚運昇、山崎エリイ、田所あずさ、戸田めぐみ
内山昴輝、羽佐間道夫、小野大輔、島崎和歌子