海賊版撲滅の近道は、“本物”に触れる機会の創出…タイに販売店舗を出店し一年、ジャパンマンガアライアンスの事業報告記者発表会レポ
株式会社ジャパンマンガアライアンスは、2017年2月28日、都内において事業報告記者発表会を開催しました。
同社は、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、アニメイトの5社による、日本発の本物のマンガ・ アニメを海外に展開することを目的とした合弁会社です。2015年9月に設立し、これまで5社のシナジーを活かした海外事業を展開してきました。また、2016年2月にはタイ・バンコクに販売店舗(第一号店)を開店。
本稿では、第一号店の開店から1周年、及び同社の1年間における事業内容をお伝えしていきます。
株式会社ジャパンマンガアライアンス 代表取締役 國枝信吾 氏(写真中央)
取締役 塚本進 氏(写真右)
取締役 峰岸延也 氏(写真左)
取締役 隅野叙雄 氏(写真左から二番目)
取締役 相賀信宏 氏(写真右から二番目)
発表会では、株式会社ジャパンマンガアライアンス(以下、JMA)の代表取締役 國枝信吾氏が登壇し、同社の設立経緯について説明しました。
JMAは、前述した通り、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、アニメイトの5社で2015年9月1日に設立された合弁会社です。事業内容は、5社のシナジーを活かして、日本発の本物のマンガ・ アニメを海外に展開することを目的としています。
設立の背景には、近年、海外における日本発のマンガ・アニメの人気が高まっていることを挙げました。しかし、その一方で日本の作品の情報が正しく伝わらないほか、海賊版が出回っていること、そして日本のコンテンツを知らない方が圧倒的に多いことなど、様々な問題や課題が残っていることも指摘。
そうした状況を打破するために、JAMを設立。國枝氏は、同社が掲げる目的として、「著作権・権利関係がきちんと尊重され、日本と同様に様々な形で本物の作品に接する機会を増やし、ファンが爆発的に広まるインフラ作りを行う」と言葉を添えました。
JMAの取り組み第一弾として、2016年2月、タイのバンコクに販売拠点を設けました。JMA バンコク店は、バンコク中心部のサイアム地区にあるMBKセンター7階に店を構え、アイテム数3万5000点を保有する日本のアニメやマンガなどのコンテンツも取り扱ったお店です。店名は違えど、“アニメイト バンコク店”と言い換えれば、ピンとくるのではないでしょうか。
さて、オープンから一年を迎えたJMA バンコク店ですが、果たして来店数や売上、もとい日本のコンテンツに対するタイ国民の反響などはいかがだったのでしょうか。今回の事業報告記者発表会では、このJMA バンコク店の活動実績から見る、海外版対策やタイの顧客概要など、詳細な数字も公開された貴重な場となりました。
【店舗概要】
アニメイトバンコク店(英文:JMA animate Bangkok store)
オープン日:2016年2月6日
面積:560㎡(170 坪)
商品内容:書籍(主にタイコミック、日本コミック)、キャラクターグッズ、CD、DVD、フィギュア、プラモデル、カード等。
アイテム数:3万5000点(うち書籍 2万1000点)
商品個数合計:約9万個(冊)
所在地:MBK Center 7階、7th Floor,444 Phayathai Road, Wang Mai,Pathumwan, Bangkok 13330、Thailand
営業時間:10:00 ~ 21:00
公式サイト:http://www.animatejma.co.th/
Facebook:https://www.facebook.com/AnimateBangkok/ (2月19日現在でフォロワー7万5896人)
海賊版撲滅の近道は、“本物”に触れる機会の創出
まずはJMA バンコク店の特徴について。ひとつは、日本と同様に本物の作品に接することができる売り場の存在。「何を当たり前のことを…」と思われそうですが、こと海外における小売業に関しては、外国の書籍や音楽・映画を無断で複製した出版物、いわば“海賊版”の流通を打破しなければなりません。
未だにタイの夜市には、海賊版が販売されているとのことですが、JMA バンコク店では、著作権・権利関係がきちんと尊重され、守られ、偽物ではなく本物の作品を販売。また、JMAは現地翻訳出版社11社と共同で海賊版撲滅イベントを行い、さらに毎月、海賊版対策会議を開催するなど、現地側のサポートも徹底しています。
そもそも海賊版の跋扈(ばっこ)は、タイ国内で本物が手に入らなかったから、海賊版に手を出してしまう…という背景が少なからずあったといいます。しかし、今回のJMA バンコク店のオープンにより、本物を身近に触れられる機会が増え、ひいては国内全体で海賊版の撲滅に繋がるきっかけ作りになったのではないかと、JMAは期待しているようです。
続いての特徴は、店舗内・店舗前にイベントスペースを設置したことです。
こちらはJMA バンコク店のフロアマップです。左側の薄い黄色部分では、イベントスペースやシアタールームが設けられており、ここでは作品のオンリーショップや展示会、握手会、サイン会、ミニライブなど催し物が定期的に開催されるようです。
また、店舗前にはイベントホール(345㎡)を設置。じつは、店舗を構えるMBK Center 7階には、ボーリング場、シネコン、レストランなどがあります。なかでもシネコンは、日本のアニメ映画が放映されている期間中、店舗・イベントともに相乗効果が高いようです。
このほかにも、日本の漫画家を招聘してのサイン会、日本の声優や歌手のライブ、ファンミーティング、アニメの上映会など、今までタイでは行われてこなかったイベントを多数開催。店舗での様々なイベントや販売活動により、タイ人のファンを育て、聖地化することができ、結果的に沢山のタイ人から支持され、店舗へ訪れる環境を整えられたようです。
活動実績:タイの店舗で最も売れた日本の書籍は…
続いてはJMA バンコク店の顧客概要について。
まずは男女・年齢分布を見てみましょう。年齢購入額分布では11歳~20歳、21歳~30歳が多く占めています。なかでも10代の規模間について國枝氏は「今後の市場の盛り上がりが期待できる」と、その手応えをコメントしました。なお、男女の購入額比率は、約6:4です。
会員登録数は約3.5万人、かつアクティブな会員数は約1.3万人とのこと。そして会員売上率は49%、残りの51%は会員登録していない人ですが、後者の数字はアジアや欧米の観光客が中心のようです。
注目すべきは、会員月間購入平均単価が約1,530円/人と高額であること。2017年2月現在、為替レートは1Baht(バーツ)=約3.22円です。具体的に生活の支出金額では、水が30円~75円、電車が45円、タクシー初乗りが100円、マンガが135円~450円、そして大卒の初任給が42,000円となります。先ほどの年齢購入額分布の10代~20代の規模感、タイ国内の一般的な金銭感覚を並べたとき、いかに会員月間購入平均単価が高いかは、想像に容易いのではないでしょうか。
また、月間レジ通過数は1万回/月。2016年2月のオープンから年末12月までの推移を見ると、所々スパイクがあるのが分かります。なかでも同年7月23日・24日に店舗前スペースにて、新作発表及び海外版反対イベント「ANiCO」の開催は大きな反響があったようです。
当日はバンコクの翻訳漫画出版社12社がブース出展し、日本のコンテンツの魅力を強力にアピール。さらにJMA4社の協力を得て、タイで人気の作家、藤沢とおる氏( 「GTO」) 、橘公司氏( 「デート・ア・ライブ」)、酒井まゆ氏(「シュガー*ソルジャー」)、太田垣康男氏(「機動戦士ガンダム サンダーボルト」)の4名を招聘し、店前ステージでサイン会も行いました。タイで日本のマンガ家4名がサイン会を行うというのは前例がなく、両日合わせて4,000人の来場者数を記録したとのこと。
12月はクリスマス商戦の盛り上がりが寄与。10月にタイ国王が亡くなり、国中で自粛ムードが漂うなか、レジ通過数を維持し年末商戦に繋がっています。それだけ同国の顧客が思う店舗に対する期待感の高さがうかがえます。
JMA バンコク店のロイヤルカスタマー(企業・商品・サービスに対しての忠誠心の高い顧客)は、全売上の20%から、かつアクティブな顧客の4.5%で構成されています。月間購入平均単価は約6,200円/人と、先ほどの会員月間購入平均単価と比べて跳ね上がり、加えて大卒の初任給である42,000円を考慮すると、その15%を占めるのだから驚きです。また31歳~40歳の層が厚くなっていることも分かります。タイの経済発展にもよりますが、今後もロイヤルカスタマーは増加の一途をたどるとJMAは推測しています。
最後にジャンル別売上構成比。おもに輸入・現地仕入れと合わせてグッズが中心です。内訳は、フィギュアやプラモデルが上位を占め、次いでクリアファイルや缶バッジ、アクリルのキーホルダーなど単価の低い商品が並ぶといった、日本とそう変わりはありません。
日本の書籍は、当然タイの書籍と比べると単価は高いですが、はじめに日本語版、その後ローカライズ(翻訳)してタイ語版を発売すると、「一段階人気が上がる」とその効果の高さについて國枝氏は語ってくれました。すでに日本のマンガは、半分以上がタイ語に翻訳されています。売場のこだわりとしては、日本では当たり前の「今月の新刊」など分かりやすいPOPやフィーチャーを徹底して、顧客が買いやすいように促しているようです。こうした心配りは、現地の本屋ではなく、JMAだからこそ出来るサービス精神の賜物かもしれません。
ちなみに現地で最も売れ行きの良かった書籍は、「君の名は。」の小説、次いで同名作品のマンガだったとのこと。タイでは映画「君の名は。」が2016年11月に公開され、異例の大ヒットを記録し、その勢いが書籍の売上を押し上げたようです。小説は1,000冊以上、12月に発売したマンガも2017年2月までの集計を合わせると、こちらも1,000冊超えを達成。
一方で海賊版が多く出回っているAV商品については、9%という想定よりも高い数字を記録し、手応えを感じていることを明かしました。
以上がJMA、もといJMA バンコク店による事業報告になります。これまでの数字を見てわかる通り、初年度から黒字化という予想以上の順調なスタートをきりました。
國枝氏は「日本の同サイズの店舗と比較しても、非常に好調に推移している。来店数・売上ともに想定の倍ぐらい」とコメント。続けて要因については「イベント施策で盛り上げたことに加え、単価が高いお客様が想定よりも多かったこと」と分析。
また、直近の取り組みとしては、2017年3月1日に、東京タワー3階 ツーリストインフォメーションセンター内にて「アニメイトJMA東京タワー」をオープン。訪日外国人の入場者数が年間56万人を超える東京タワーにおいて、来訪される訪日外国人に対し、日本のマンガ・アニメへの容易なタッチポイントになるための拠点を目的として出店したとのこと。
タイに続いて今後も海外展開を検討しているようで、現在はアジアをはじめ欧米、欧州をリサーチ中という。
JMAは、“ホンモノ”のマンガ・アニメ関連商品をファンが実際に手に取って購入できる実店舗を運営、かつ海外における海賊版対策を強化し、日本のマンガ・アニメの海外展開をオールジャパンで強く促進することを目的としています。
さらに最新情報の発信と現地リサーチを行い、インバウンドの拠点を作ることも目指しているようで、次なる活動報告も今から楽しみです。
[取材・執筆/Pick UPs! 原孝則]
>>ジャパンマンガアライアンス 公式サイト