キーマンを追えばみんなが『ヤマト』に熱狂している理由がわかる……?『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第二章「発進篇」の裏側を神谷浩史さんが語る!
日本のアニメ史を語る上で外せない作品のひとつでもある『宇宙戦艦ヤマト』(以下、ヤマト)。シリーズの中でも劇場公開された『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(以下、さらば)は、空前の大ヒットとなり、未だにファンの間で語り継がれている名作になっています。
そんな『さらば』をリブートした『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下、2202)が全七章で劇場上映されます(第一章となる「嚆矢篇」は2017年2月に上映)。待望の第二章「発進篇」は、2017年6月24日に公開。『されば』にはなかった展開や新キャラクターが登場するなど、まだまだ謎を秘めているストーリーに注目が集まっています。
そして、『2202』でも特に注目すべきは新キャラクターのクラウス・キーマンです。彼は一体、どんな人物なのか? その答えを探るべく、アニメイトタイムズではキーマンを演じる神谷浩史さんにインタビューを行いました。難しい立場にいるキャラクターだからこそ、神谷さんは独自の視点で『ヤマト』という大きな作品を見つめているようです。
「『ヤマト』は特殊なんだな」と感じました
──『2202』第一章「嚆矢篇」から引き続き参加されている神谷さんは、第二章「発進篇」をご覧になっていかがでしたか?
キーマン役・神谷浩史さん(以下、神谷):僕と同様に、きっとみなさんも期待してくださっていると思います。そんな期待がある中、スタッフさんもすごいプレッシャーを持ちながら作られていたんだなと、熱意が伝わってきましたね。
前作の『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下、2199)があれだけの成功を収めて、オリジナル要素も入れつつ、無事完結しました。さらにその先の『ヤマト』シリーズで史上最高の興行収入を得た『さらば』を下地に敷いた続編を作るということで、おそらく相当な期待とプレッシャーがあったんだと思います。それをはねのけるような気合の入ったフィルムでしたね。
TVシリーズ二話分で構成されていましたが、第一話にあたる部分のほとんどがバトルみたいな感じで、気合の入りまくった映像を見て、『2202』のスタッフの勢いを感じた第一章でした。
──キーマンが登場しているシーンはいかがでしたか?
神谷:まだ謎の多いキャラクターなので、一体どういった意思を持ってそこに存在しているのかが分からない、というのが素直な感想です。第一章が始まるときに羽原信義監督とシリーズ構成の福井晴敏さんから「キーマンはこういう役柄です」ということはお教えいただいてるので、それに沿った形で根っこの部分に関してはブレることなく存在していたはずです。みなさんにどう映るのか気になります。
僕個人の感想としては「『ヤマト』に出てるんだな」とちょっと感慨深いものがありましたね(笑)。
──どのキャストも『ヤマト』に出演することが決定したときの周りの反応がすごかったそうです。神谷さんの周りではどういった反応がありましたか?
神谷:僕は、その作品が話題になっていない限りは、あまり「あの作品に出てるよね」と言われないんですよ。でも、『2202』に関して言うのならば、第一章が始まってないのに、「『ヤマト』に出るんでしょ?」と言われて、「『ヤマト』は特殊なんだな」と感じましたね。
『ヤマト』って見たことはないけど、主題歌の1番さえ歌えればどんな話かおおよそ伝わるじゃないですか。「さらば地球よー♪」から始まるメロディーとともに歌詞の内容が全部メインストーリーなので、そういう稀有なコンテンツなんだなというのは肌で感じましたね。
第一章の取材のときにも言いましたが、日本のアニメーション界で『ヤマト』は昔話と同じくらいの知名度があるほどの作品に昇華していたんだなと感じました。桃太郎の絵本は読んだことがないけど、なぜかストーリーは知っていたりしますよね。『ヤマト』は、もはやその次元の作品になっているんだなと思いました。日本のアニメでそういった作品は『ヤマト』以外にないですよね。「そういうものに参加しているんだな」ということを、みなさんが反応してくれることで実感しています。
──確かに、これだけ大きな作品に関われることは、あまりありません。個人的には、アニメの歴史に残る作品にクレジットされるのは、すごいことだなと思っています。
神谷:そう思っていただけるのはありがたいですね。僕が参加させていただいた作品はどれも大切ですし、どの役も大切です。もちろん『ヤマト』も大切ですが、『ヤマト』が特別だと強く言うつもりはありません。作品が公開されて、『ヤマト』がどういう形で受け取られるかは、みなさん次第です。みなさんが作品を受け取った上で、「神谷浩史という名がクレジットされていることは、すごいことだ」と言っていただけるのであれば、これほど嬉しいことはないですよね。
いろんな想像をしていただければと思ってます、こちらとしても(笑)
──第一章を経て、第二章 発進篇のアフレコはいかがでしたか?
神谷:キーマンは、第一章の二話目からの登場でしたが、第二章では話数でいうと4分の3に関わらせていただいています。比較的に自分の立場が分かる状態で参加できました。
ベテランや新人の方が大勢いる中で、僕や主役の小野大輔、鈴村健一、平川大輔などが、中堅どころとして新人にもベテランにも現場で自由に振る舞えるような立場でした。自由と言うと聞こえが悪いんですけど、僕が新人のときは、ベテランの方の芝居を聞いても、「そこから何か吸収してやろう!」と思うよりは圧倒されて終わってしまっていたんですよ。でも今は、多少余裕が出てきて、より野心的にみなさんの芝居を聞いたり、感じることができるようになってきているので、アフレコ現場に行くのが楽しいですね(笑)。
──チャレンジもできるといった感じですか?
神谷:日々チャレンジではあるんですけど、新しいことに自分で挑戦していくのは、なかなか難しいんですよ。やっぱり我々は、受け身のお仕事ということもあって、求められないとチャレンジができません。そういった中で、ベテランの方々とセリフを交わす現場を用意していただけたこと自体が、他の作品には滅多にないチャレンジでした。新しいことができているなと思っています。
──そんな中、キーマンを演じる楽しさや難しさはなんでしょうか?
神谷:演じるのは難しいですね。というのも、素性が明らかではないし、「素性が明らかではない」と言ってしまうと「何かしら裏があるのでは……?」と思われてしまうのが難しいですよね。僕も取材では、ぼやかして伝えなければいけないんですよ(笑)。
──(笑)。
神谷:みなさんの目にキーマンというキャラクターが映ったときに、「何を考えているか分からない、謎の人物」という映り方をすると思います。今のところそれは間違っていません。そういう役を意図して演じているので。
『ヤマト』にもいろんなキャラクターが登場しますが、その中でも考え方に共感できるキャラクターには感情移入できますよね。でも、キーマンって何を考えているのか分からない、感情移入できないキャラクターなので、みなさんも警戒して見ていると思うんですよ。そういう意味でも、今のところは損な役回りだなという印象があります。
そして、僕は「自分の意志をあまり感じられないクールなキャラクター」というポジションを与えられているので、その役割を全うしなければいけません。今までの僕は、周りが情熱的になっている中で一人クールなことを言ったりするキャラクターに、少し違和感があったんです。普通は、周りが情熱的な芝居をすればするほど、自分もそっち側に行きたくなっちゃうんです。
──周りの空気に押されるわけですね。
神谷:でも今は、そういう役割も大切だと分かった状態で『ヤマト』に参加できているので、「周りが情熱的になればなるほど、キーマンは冷静でいなきゃいけない」と、バランスを考えながらマイクの前に立てています。何年か前にこの役を振られていたらモヤモヤした感情を抱えながらスタジオにいたかもしれません。まあ実際、行ったら行ったで難しいんですけどね(笑)。
──(笑)。ディレクションは細かいのでしょうか?
神谷:そこまで多くを言われることはありません。ですが、キーマンは全く感情を表に出さない分、裏の感情がどうなっているのかを僕が作らなければいけないと思うんですよ。シーンに合った心情を自分で構築していくことが、自分に課せられた役割だと思いながら演じていました。
福井さんが脚本を書かれて、監督が物語を絵にして、結城信輝さんのデザインしたキャラクターが動く。そこに第四の関わり方として、キャラクターの整理した気持ちを録ってもらうのが、僕に課せられたことです。まだ、福井さんや監督に「そうじゃない!」と言われていないので、今のところは大丈夫かなと思っています(笑)。
──なるほど。しかも、神谷さんだけがキーマンの今後の展開を聞いているそうですね。ここで言えるのか言えないのか、ギリギリのところだとは思いますが、かなり先のことまで聞いているのですか?
神谷:彼がどういう人物なのかは聞いています。もちろん先々の話も薄っすらと聞いているんですけど、そこに対してキーマンがどうアプローチしていくのかまでは聞いていません。今のところ、「キーマンという人物はこういう思いでここにいます」「こういうつもりでこれをやってます」ということは、深く聞いてないんですよ。あまり気にせず、「ガミラス人と地球人を取り持つバレルの部下」として、意思を伝えるためにキーマンというキャラクターがいるというような感覚でいます。先々のことに関して言えるとしたら……そうですねー(笑)。
──難しいですよね(笑)。
神谷:まあでも、文字通りキーマンになっていくと思います!(笑)
──(笑)。現状はガミラス側の意向をうまく進めるだけの人のようなイメージです。でも何かありそうな感じも漂っていて……。ファンの間でも「デスラーと何か繋がりがあるんじゃないか?」という声も上がっています。
神谷:そういうふうに、いろんな想像をしていただければと思ってます、こちらとしても(笑)。
──ちなみに、神谷さんが第二章「発進篇」で衝撃的だったシーンはどこでしょうか?
神谷:キーマンという役を担当させていただいてるので、キーマンのシーンになるんですけど、キーマンが古代に向かってとあるセリフをいうシーンですかね。唯一、彼の意思みたいなものが垣間見れるセリフなので、そこは衝撃的でしたね。なかなか棘のある言い方をするので、すごいキャラクターだなと思いましたよ。
「『ヤマト』はこうあるべきなんだ!」という思いを理解していく鍵になれるかもしれません
──キーマンは『ヤマト』ファンの中でも注目の人物だと思います。キーマンとは、どんな立ち位置の人物なのでしょうか?
神谷:今回、取材を受けていてなんとなく気づいたことがあるんです。ヤマトクルーはテレサにテレパシーで話しかけられて、イメージを頭に植え付けられます。それは各々の頭の中にしか存在しないものなので、共有はできないんですよね。ただ、ヤマトのクルーはそのイメージに全員魅せられているので、己の中で感情が高まって、行動に繋がっています。
それって、よく考えたら、第三者の目線で見たら理解できないシーンなんじゃないかなと思うんです。第三者からすると、ヤマトクルーが見たイメージを見ることができないから、なぜヤマトクルーが突き動かされているのかがわからない。
──冷静に考えてみればそうですね。
神谷:ただ、『ヤマト』の歴史を知っていたり、前作の『2199』を見ている視聴者はヤマトクルーの気持ちを汲んで見ることができるんです。古代たちを中心に感情移入しながらこの作品を追っていくことができます。
しかし、ニュートラルなところで、『ヤマト』は知っていて『2199』も見たけど、「沖田艦長の意思を継いで行動することまで汲みとって作品を見られない」という視聴者も当然出てくるはずなんですよ。
僕はキーマンという役を任されているので、そういう目線でこの作品を冷静に見ているんです。だから、何かに取り憑かれたように「なぜなら『ヤマト』だからだ」と言われても、キーマンはピンとこないんですよ。
だからこそ、ヤマトクルーのような「『ヤマト』はこうあるべきなんだ!」という思いが持てない方は、キーマンを軸にしてこの作品を追って行くといいのかなと思います。キーマンを追うことで、気持ちが変わっていったり、「『ヤマト』はこうあるべきなんだ!」という思いを理解していく鍵になれるかもしれません。
──確かに我々は、『ヤマト』が好きだからヤマトクルーの気持ちを汲み取ることができます。そう考えると、全く知らない人から見たら「なんだこいつらは!?」と思いますよね。
神谷:そうだと思いますよ。逆に言うと、そういう作り方ができるのも『ヤマト』だからだと思います。少なくとも、第二章のキービジュアル見たら分かるじゃないですか。
──(笑)。
神谷:こんなおじさんがメインにいることなんて、昨今のアニメではなかなかないと思うし、強気だなと思いますね(笑)。これを受け止めてくれるのが『ヤマト』のファンであり、こういうものを求めていると思うんですよ。『ヤマト』とか言っておきながらヤマト映ってないですからね(笑)。
一同:(笑)。
神谷:「『ヤマト』はそういうものだ」といきなり言われても、「えっ!?」と思う方も出てくるはずだし、でもそういう方たちにも『ヤマト』を見てもらいたい思いがあるんです。そんな方たちのための視点が、もしかしたらキーマンなんじゃないかと思っています。
──なるほど、目からうろこが落ちました……。今のお話にも出てきましたが、『ヤマト』は多くの方に愛されています。『ヤマト』がここまで愛されている理由は何だと思いますか?
神谷:そうですねぇ……。「ストーリーが非常に単純である」ということは大切だと思います。「地球が宇宙人に侵略・汚染されてしまったから、その地球を元に戻すための旅に出て、その結果、地球は元通りになりました」という、大枠はハッピーエンドで『ヤマト』は終わります。そして、地球が救われたというメインストーリーは、なぜかみんな知っているんですよね。でも、その理由が全く分からなかったんです。
それは、冒頭でも言いましたが、歌の力が大きかったというのもあったと思います。さらに+α、一歩踏み込んだところで『ヤマト』を支えているのは、ヤマトという艦ですよね。元々、大和という下地となる軍艦があって、それを未来の宇宙へ飛ばすというのが、ロマンがあるじゃないですか。なおかつ、大和を発展させて、ある程度理論に則って兵器ができていたりします。
そこに人間ドラマが混ざってくるんですよね。割と全方位に好きな要素がある話なんだなと思います。日本でSFというものが根付いたきっかけのひとつがおそらく『ヤマト』です。だって、ワープって『ヤマト』で知りましたから。
──そうですね。
神谷:でも、「なぜそれだけの影響力があったのか?」というのは、僕には分かりません。こればっかりは。でも、アニメを作っている人の意思が、存分にフィルムに焼き付いていたんだと思います。旧作なんて、始まって1分ぐらい真っ黒な画面で主題歌だけ流れてましたから! 今考えても、いい意味で狂った演出だと思いますよ!
──(笑)。
神谷:それを受け入れられる土壌があったわけだし、そうしてまでも伝えなきゃいけないという思いもあったんだと思います。両者のその思いが合致した結果、あそこまでのムーブメントになって、その遺伝子が未だに根付いていて、「やっぱり『ヤマト』だろ!」と言う人がいるんじゃないかなと。
僕は『ヤマト』世代ではないので、その真理が理解できてないんだと思います。だから、キーマンという役がピッタリなんですよ。キーマンというキャラクターを通じて『ヤマト』を冷静に見ていった結果、最終的にどこにたどり着くのか、僕自身も気になっています。「やっぱり『ヤマト』ってこういうところがいいんだ」というのが分かったときに、その答えが見つかるかもしれません。
──なるほど……! 本日はありがとうございました!
[インタビュー/石橋悠]
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第ニ章「発進篇」
2017年6月24日(土)より、全国20館にて2週間限定劇場上映
※シリーズ全七章順次劇場上映
劇場にて特別限定版Blu-ray 最速先行販売
デジタルセル版配信も同時スタート!
●「第二章 発進篇」STORY
※第二章は第三話~第六話の計四話で構成されます。
謎めいたガミラスの青年キーマンに誘われて、月面のガミラス大使館で大使のバレルと面会した古代は、惑星テレザートとテレサの物語を聞かされる。そして地球に戻った古代は〈コスモリバースシステム〉が地球にもたらした負の遺産の存在を知らされるのだった。改めて地球政府の方針に憤る古代は、自分たちに送られてきたテレサのメッセージに応えるべきと防衛軍の上層部に掛け合うが、ヤマト発進の許可を得ることはできなかった……。
海底ドックに眠る宇宙戦艦ヤマトの前に、あのメッセージを受けたヤマトクルーが集う。古代は彼らと共に、“反逆”とも取られかねぬ独断での出航を決意するのだった。いま再び、宇宙戦艦ヤマトが発進する。行く手に待ち受けるのは最新鋭戦艦のアンドロメダ。一方そのころ、太陽圏に侵攻したガトランティス先遣部隊が、第十一番惑星に迫っていた――。
●第二章CAST
古代 進:小野大輔
森 雪:桑島法子
島 大介:鈴村健一
真田志郎:大塚芳忠
徳川彦左衛門:麦人
佐渡酒造:千葉 繁
山本 玲:田中理恵
新見 薫:久川 綾
南部康雄:赤羽根健治
相原義一:國分和人
太田健二郎:千葉優輝
岬 百合亜:内田 彩
桐生美影:中村繪里子
西条未来:森谷里美
榎本 勇:津田健次郎
山崎 奨:土田 大
土方 竜:石塚運昇
斉藤 始:東地宏樹
永倉志織:雨谷和砂
藤堂平九郎:小島敏彦
芹沢虎鉄:玄田哲章
山南 修:江原正士
バレル:てらそままさき
キーマン:神谷浩史
沖田十三:菅生隆之
●STAFF
製作総指揮:西﨑彰司
原作:西﨑義展
監督:羽原信義
シリーズ構成:福井晴敏
副監督:小林 誠
キャラクターデザイン:結城信輝
ゲストキャラクター・プロップデザイン:山岡信一
メカニカルデザイン:玉盛順一朗・石津泰志
美術監督:谷岡善王
色彩設計:福谷直樹
撮影監督:堀野大輔
編集:小野寺絵美
音楽:宮川彬良
音響監督:吉田知弘
音響効果:西村睦弘
オリジナルサウンドエフェクト:柏原 満
CGディレクター:木村太一
アニメーション制作:XEBEC
製作:宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会
>>『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』公式サイト
>>『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』公式ツイッター(@new_yamato_2199)