この記事をかいた人
- 塚越淳一
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第2話以降、「アイドル」がOP主題歌として流れ、EDでは女王蜂の「メフィスト」が流れた。第1話のラストで、アイの命を奪った本当の黒幕を絶対に見つけ出し復讐すると誓う子供のアクアが描かれたが、双子には、生まれてくる直前に亡くなっているアイの大ファンである、医師とその患者の女の子が転生しているので、アクアは生まれながらに有能だった。アイが死んでから十数年後、彼は芸能界という深い闇の中に自ら足を踏み入れ、犯人を探していく。その展開は、まさにサスペンスであり、そんな復讐劇の要素を引き立ててくれているのが「メフィスト」である。何より、心をざわつかせるストリングスとドラムのイントロが最高にカッコ良い。アニメ本編からイントロが流れてくるパターン(特に第7話は秀逸!)も素晴らしいのだが、アクアが改めて、「どんな手を使ってでも、必ず見つけ出してやる、そのためなら俺は…」と誓う第11話(最終話)のラストでは、このイントロにアニメーションが付けられていたのが印象的だった。
「メフィスト」は、ゲーテの戯曲『ファウスト』の悪魔の名前から取ったタイトルだが、そこから考えても、悪魔に魂を売ってでも、犯人にたどり着き復讐するという、特にアクアの強い願いがメインに描かれている曲のように思えた。だが意外に歌への導入はポップさがあって、ビート感強めのAメロでは、アニメ序盤の学園生活を送るアクアやルビーたちの雰囲気も想像できた。ちなみに、〈星は宝石の憧れ〉という歌詞が、アイとアクアとルビーの関係性のメタファーになっているのはエモかった。
ただ、この曲の面白いのは歌詞が小説のようになっているところで、視点がところどころで変わるし、物語がどんどん前へ進んでいく。ここはルビーの心情かな? ここはアクアかな? このBメロはアイを描いているだろう、サビはまさに魂を売り、願いを叶えようとしている雰囲気だな、といろいろ考察していき、1コーラス目でアニメの最終回くらいまで描いているのかと思いきや、2コーラス目ではさらにその先へと進んでいく。たとえば〈誰を生きたか忘れちゃった!〉〈よく狙いなさい〉など、アニメを最後まで見ても、これはどういう意味だろう?となってしまうところがいくつかあった。これには「物語の終盤を揶揄している」と赤坂先生が驚いていたほどで、まだ原作者の中でしかない物語の深淵に近づいてしまうほど、作品に深く深く潜り込んで歌詞を書いていたのだと感じるエピソードでもあった。(※「【推しの子】赤坂アカ×横槍メンゴ×女王蜂 特別対談~前編~」)
そのように物語が歌の中でも進んでいくので、ボーカルはどんどんシリアスになっていくし、アレンジもエモーショナルになっていく。だが絶望というよりは、まだ燃えたぎる何か!といった雰囲気は感じられた。
そして、そんな目まぐるしく展開していく楽曲を、声の表情を変えながら表現していくボーカルには圧倒された。特にサビでの音の大ジャンプしての裏声は圧巻だったし、そもそもが1人では歌えないような譜割りなので、いったいどこで息継ぎをするんだろうという感じすらしたのだが、この曲も「アイドル」でのikura同様、アヴちゃんにしか歌えない曲と言っていいのだろう。OP主題歌だけでなく、ED主題歌までもが卓越した技術力が必要となる楽曲で、ここまでの表現をするためには、確かなスキルや素質が必要であることを思い知った。
アイは嘘を愛だと言ったが、よくよく考えると、ドキュメントにだって嘘は含まれるし、物語だって歌だって言ってしまえば嘘なのである。でも、そこにある本当を感じて我々は感動する。その本当を伝えるために、メロディやアレンジや歌唱があるのだとすると、『【推しの子】』のOP/ED主題歌は、これ以上ない究極の2曲である。その嘘を愛として伝えるために、死にものぐるいでしてきたこれまでの経験や蓄えてきた知識や努力、そして才能。それらは本来エンタメを楽しむために感じ取らなくていいことなのかもしれないが、この2曲からは、それを受け取ってしまうし、受け取ってもいいと思った。
[文/塚越淳一]
アニメBlu-rayブックレットの執筆(「五等分の花嫁∬」「まちカドまぞく」「まちカドまぞく2丁目」「「ちはやふる」「リコリス・リコイル」etc.)、内田真礼、三森すずこなどのライブパンフレット、22/7写真集、久保田未夢UP_DATE執筆ほか、いろいろ
※TVアニメ『【推しの子】』オープニング主題歌
※TVアニメ『【推しの子】』エンディング主題歌