この記事をかいた人
- タイラ
- 99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えない間「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行いライターに。
小川:僕は、聖書や神話のモチーフも気になりました。塔の中にあった石の墓に「知識」が入っていて、そこに入ると死ぬみたいな刻印もあったので、「禁断の果実=知識的な繋がり」があるんじゃないかと。また、世界を構築する積み木は創世神話を連想させますよね。
タイラ:それで言うと、劇中に登場する様々な「石」の存在が物語を読み解く鍵なんじゃないかなと思いました。
小川:あの世界ができた発端も空から落ちてきた石ですもんね。
タイラ:石にはいろんな意味がありましたよね。石は悪意が含まれているものであり、「石=意思」っていうダジャレ的な読み方もできる。ということは僕たちの意志には必ず悪意が含まれていて、そういう世界で生きているんだみたいな話にもなりそうですし。
小川:悪意に染まっていない石はすごく貴重で13個しか見つからなかったって言われてますしね。石ってじゃんけんで言うとグーだったり、人を攻撃するイメージあります。
石橋:小島秀夫さんのゲーム『DEATH STRANDING』で安部公房さんの『なわ』の引用で紐と棒の話が出てきていて、何かを繋ぎとめるものが紐(なわ)、攻撃するものが棒だって言っていたのと似てるね。それに地球の始まりも隕石だったりするよね。
小川:物語の始まりにもなっているあの石は映画『2001年宇宙の旅』に出てきたモノリスのイメージだと思うんですが、本来その世界に無かったものを授ける存在です。あの大きな石は最後にも登場しましたが、結局世界の行く末を決めたのは集められた別の石でした。
タイラ:なるほど。あの大きな石は人間に知識や特別な力を与えるシステムでしかなくて、最後に世界を動かすのは人間の持つ「石=意思」だと。
石橋:そうか。人類が一番最初に使った道具が石だよね。石を使って狩りをしたり火を起こしたりしたと思うから、あの大きな石はテクノロジーのことを表している。それを利用して人間がどう生きるのかという話でもある。
カカヘカヘッカヘヘッヘカヘカヘッカカッヘカヘカカッヘカヘカヘッカヘカヘカッヘカカヘッカヘッヘカヘカッカカヘカッヘカヘカカッカヘッカヘカヘヘッヘカヘヘカッヘヘッ pic.twitter.com/Dc1Qh1Ifd2
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) July 17, 2023
タイラ:石と言えば、眞人が石を使って自傷行為をした後に、「この傷が悪意の象徴だ」というシーンがありますが、あそこはどう解釈してますか?
石橋:あれは眞人の優しさだと思う。多分、眞人は良い家の子だからきっと武術とか習ってるんじゃないかな? だからいじめっ子に喧嘩で勝ってたんだと思う。眞人は優しくて理性があるから自分の家庭の事情でむしゃくしゃした感情をいじめっ子たちにぶつけてしまったことへの後悔があって、それで自分の悪意への罰として傷をつけたんじゃない?「なんでこんなことをしてしまったんだ!」って。
小川:その傷が悪意の象徴か。自分の内側にあったものですよね。
タイラ:なるほどなるほど……。石に関しては大分理解が深まりました。話してよかった〜。
石橋:ネットでもよく見たんだけど、眞人の新しいお母さんである夏子さんはなんで塔の中で出産しようとしたんだろう。跡継ぎ候補かな?
タイラ:僕も単純にそう思いました。あの世界を維持するための、大叔父の跡継ぎを産もうとしていたのかなと。
小川:そう考えると、あの塔の中には後継者候補ばかり集められていますね。眞人やキリコ、ヒミなど仕事を継いでくれそうな血縁者や身内を集めている。
タイラ:じゃあ青サギはその候補者たちを集める役割を果たしていたのかもしれないですね。
石橋:後継ぎに相応しい人間を集める装置としてサギが登場したのか。
小川:夏子が出産しようとする時に、眞人が産屋に現れるじゃないですか。あの時、夏子はすごくうろたえた表情を見せますよね。
タイラ:夏子からすると、自分や息子を犠牲にして後継者問題を解決しようとしているのに、「なんで眞人まで来たんだよ!」ってことなのかも(笑)。
おはようございます。 pic.twitter.com/tfd7skd0J2
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小川:観賞中にずっと思っていたのが、「眞人の目的、珍しくね?」ということでした(笑)。会って間もない新しい母を助けるためにあそこまでのリスクを取るのはすごくないですか?
タイラ:「夏子さんはお前の大事な人なの?」と誰かに尋ねられるたびに眞人は「お父さんの好きな人です」と言っていましたよね。眞人の強がりもあると思うんですが、本当に父親や夏子の幸せのためだと思うんです。夏子が出ていった原因が自分との不仲だって眞人は思っている。そこで小説の『君たちはどう生きるか』を読んだので行動したのだと思います。
小説の中の重要なシーンとして、主人公のコペルくんが友人を裏切って学校に行けなくなってしまうというものがあります。そこで、ウジウジ悩んでいるのですが、母親やコペルの面倒を見ている叔父さんが「後悔しないように行動する大切さ」「上手くいかない可能性や、意地やプライドなど無駄な考えを捨てて行動する」ことを教えます。
眞人はその部分に感銘を受けて、考えるな感じろの精神でやるべきことをしようとしたんだと思います。
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石橋:確かに眞人が小説を読んで涙を流すシーンがしっかり描かれていたから、影響は必ず受けているよね。助けなければいけないっていう衝動に駆られて眞人は動いている。よく考えると、冒頭でお母さんを助けきれなかったよね。火事の現場に駆けつけたからと言って、眞人に何かができるわけでもないけどその後悔もあるかも。
タイラ:眞人、あいつ寝間着からわざわざ着替えてから火事の現場に向かってましたよね(笑)。体裁を気にして。
小川:彼は、何度も思い起こしたり、トラウマになっている演出も多かったですよね。
石橋:その後悔もあったのかもしれない。やっぱり、ひとつひとつ丁寧に考えてみると納得のいく解釈が生まれていくね。
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) July 26, 2023
タイラ:記事の最後になるので、好きなシーン発表会でもしましょうよ。
僕は、眞人が青サギに対抗するために武器を作ったりする一連のシークエンスが大好きです。『スタンド・バイ・ミー』を見ているような。子供が自分の力で大人と交渉して、ナイフの整備をしてもらって、弓矢を作って……と逞しくなる眞人の姿が良かったです。
ちなみに、宮﨑さんは「子どもたちに絶対ナイフの扱い方を教えたい」ということを書籍に書いているので、そこも入れてくるか! と思いました(笑)。
小川:僕は、ヒミの「私帰るわ、あなたを産まなければいけないから!」という旨のセリフが好きでした。あんなセリフ聞いたことなくないですか? 眞人という素敵な子供を産む楽しみがある、でもその先には火事で命を落とすんですよ。しかも、死にゆく母親に会ったら普通それを回避しようとするのが物語じゃないですか。
でも、今回はそれをしない。死に逆らわない姿勢とか、辛い最期までにある幸せの尊さとか。色々詰まっているセリフだなと。眞人の母親はこう生きたのかと思うとグッと来ますし、セリフとしてのビビットさもありましたね。
タイラ&石橋:あそこ最高だったね〜。
石橋:俺はシーンじゃないんだけど、インコがめちゃくちゃ好きだった(笑)。あのクリーチャー感というか、キモカワイイ感じが良いよね。
タイラ:なんか中肉中背というか、ちょっとムキムキで可愛くないのに可愛かったですよね(笑)。
石橋:包丁を研ぐシーンとか怖いところもあったりして、あのデザインや演出は天才だなと思った。ここまでインコという生き物を有害に描いたアニメないんじゃない?(笑)。あいつ好きだったな〜!
タイラ&小川:確かに(笑)。
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— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) July 24, 2023
上記の通り本作は見る人の人生や好きなもの、職業、育ってきた環境などによって、楽しみ方や読み取り方が全く違う作品です。
それどころか、同じ人でも見る回数や時期によっても、伝わるものが変わることでしょう。独特であり、説明が少ない作品だからこそ「答え」のようなものがない。
それ故に長く語り続けられる作品になると思います。80歳を超える宮﨑駿監督の集大成とも言える本作を劇場で体験できるのは今だけです。
それだけでも貴重な体験になると思いますので、ぜひ一度でも良いので足を運んでみてはいかがでしょうか。
あなただけの素敵な思い出がきっと生まれるはず!
99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えなかったので、「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行い、ライターに舵をきりました。面白いコンテンツを発掘して、壁に向かってプレゼンするか記事にしています。アニメ、お笑い、音楽、格闘ゲーム、読書など余暇を楽しませてくれるエンタメや可愛い女の子の絵が好きです。なんでもやります!