【ゲームクリエイターインタビュー】『怒首領蜂 大往生 ブラックレーベルEXTRA』、『キモかわE!』制作者・5pb.盛政樹さん編 後編
リリース直前の話題のゲームソフトを制作するゲームクリエイターに、新作ゲームソフトの紹介や開発秘話をご紹介いただきつつ、仕事の内容やゲーム業界に携わったきっかけ、ゲーム業界を目指す皆さんへアドバイスをしていただく企画『ゲームクリエイターインタビュー』。
今シリーズは『メモリーズオフ』シリーズや、昨年ゲーム界に衝撃を巻き起こした『カオスヘッド』などを手がける5pb.にクローズアップしていく。
第3回目は『Lの季節』シリーズを制作するほか、2月19日にXbox 360用ソフト『怒首領蜂 大往生(どどんぱ だいおうじょう)ブラックレーベルEXTRA』や、3月5日発売のニンテンドーDS用『キモかわE!』など自称「“萌え”と“燃え”まで手がける」、5pb.ゲーム事業部ディビジョン2のプロデューサー、盛政樹さんにお話をうかがった。
今章では盛さんが手がけた新作『キモかわE』について、そして今後の展望やゲーム業界を目指す人へのアドバイスなど、語ってもらった。
⇒前編はコチラ
●ギャルゲー嫌いがギャルゲー制作者に!?
――ここで話題をぐっと戻して、データイーストから次に入社されたのがトンキンハウスとのことですがどういう経緯で入社されたんですか?
盛さん:僕が入るまではデータイーストは割と硬派なゲームを作るイメージが強かったんですけど、ちょっと違う流れが来ている気がしてそろそろ辞め時かな、と。トンキンハウスというのは、元は教科書会社で、ゲームソフトも販売していました。でも制作は主に外注に出していて。ある時、トンキンハウスにちゃんとゲームを作れる人材を集めて、内部に制作ラインを作ろうという動きになったらしく、データイーストのスタッフが何人か移ったので、僕も新たなステップを求めて入社しました。
――トンキンハウスというとコンシューマーのイメージが強いです
盛さん:そうですね。ファミコンの頃からやっていて、一大ヒットとなったのは日本ファルコムの人気作品のスーパファミコンへの移植作『WANDERERS FROM Ys』かな。パズルゲーとギャルゲーを嫌って転職したのに、トンキンハウスで作ったのはパズルゲーとギャルゲーだったんですけど(笑)。
――ギャルゲーはあまり好きでないと
盛さん:自分ではギャルゲーを普段やっていませんでしたね。恋愛アドベンチャーなど、ボタンを押すだけでストーリーが進んでいき、プレイしていると誰でも同じように進んでいくところにも魅力を感じていませんでした。僕からすれば、シューティングゲームのように自力で敵の弾をかいくぐり、撃破していくほうがよっぽどゲームらしいだろうと。
――そんな盛さんがギャルゲーを作ることになった理由は?
盛さん:ただギャルゲーが徐々に世間で注目を浴びてきて無視できない状況になりました。
そこでこれをきっかけにうちでもギャルゲーを作って、ユーザーにトンキンハウスブランドを再認識してもらおうと思ったんです。
作ることを決めた時、「自分が何でギャルゲーが嫌だったのか」とか、「自分でも遊べるギャルゲーってどんなのかな?」とさんざん模索して作ったのがアドベンチャーゲームの『Lの季節』です。自分が苦手だった語尾に変な言葉を付けるキャラや、ベタなメイド服を着たキャラは一切出てこなくて、ストーリー自体も恋愛メインというより、学園で起こる事件を追っていくうちに秘密が解けてくるという内容でした。また後発だったため、他社と違ったものを作らなきゃという意識で作ったゲームです。
●社長・志倉さんとは10年来の付き合い
――そしてトンキンハウスから現在の5pb.に入社されたわけですが、社長の志倉千代丸さんとは以前から面識があったそうですね
盛さん:トンキンハウスでは『Lの季節』、『Missing Blue』、『D→A:BLACK』、『D→A:WHITE』と4つのアドベンチャーゲームを作ったんですけど、『Lの季節』のサントラの話が来て、その時に弊社社長の志倉と初めて会って。そこから腐れ縁のような付き合いでかれこれ10年くらい。そのうち、トンキンハウスがゲーム事業から撤退することになって、次の仕事を探していたら、ちょうど志倉が会社を興して。「基本的には音楽制作会社なので、他社版権物を取り扱うんだけど、自社版権のものも力を入れていきたい。そこでゲーム事業部を作ろうと思っているんだけど、来てくれない?」と言われて、僕も渡りに船といった感じで。
――盛さんは5pb.の創設メンバーの一人なんですね?
盛さん:そうなりますね。当時は9人くらいで、僕は一番仕事してなかったかも。「みんな、忙しそうだな」と見てました(笑)。
●ギャルゲーオンリーから多彩なラインナップで勝負!
――会社に入って、どんなゲームを作りたいと思ったんですか?
盛さん:ギャルゲーは作らなきゃいけないかなと(笑)。でもギャルゲーというジャンルがそこまで長く続くのか、不安もあって。続々とギャルゲーがリリースされ、移植されたり、新規参入してギャルゲーを作るメーカーも出てきましたが、結局、飽和状態になってしまいました。ギャルゲーを作り続けて、ブームが終わったら「終了」ではまずいので、僕としては普通のゲームを作ったほうがいいと思いました。でもアクションやシューティングのオリジナルを作っても注目度的にも難しいだろうから、ワンクッションで移植ものをやって、「いい移植だった」とか「オリジナルの要素が良かった」とか評価されるようになってから次のステップに行くのがいいのかなと。それでシューティングゲームの移植という方向で動き出したんです。
――ソフトハウスとしても幅が広がることはいいことですよね
盛さん:そうですね。そして元KIDのメンバーも会社に合流して、「ギャルゲーが得意な人が集まったからこれで安心してギャルゲーは任せられる」と思いました(笑)。でも版権取得に思いのほか、時間がかかってなかなか成果を出すことができませんでした。そこに元KIDメンバーが以前作ってきたタイトルを復活させたり、存在感を増すなかで、トンキンハウス出身のメンバーもいることをアピールしたくて『Lの季節』のライセンスを取得して続編を作りました。良作のギャルゲーが続々とリリースしてきたのに加えて、シューティングやそれ以外のジャンルのラインナップもそろい始めて、いい流れができたと思います。Division2もシューティングだけでなく、いろいろなジャンルのソフトも手がけるようになりました。
●DSでちょっとエッチな萌えアドベンチャー?
――それがDivision2の懐の広さの秘密だと。そしてDivision2の奇抜さが現れているソフトの一つが3月5日発売のニンテンドーDS用『キモかわE!』なんですね
盛さん:コミカルしつけアドベンチャーという今までの作品とはかなり毛色が違う、実験作というか、ちょっとエッチな萌えアドベンチャーです。
――DS用ソフトだとそういう要素を盛り込むのは難しそうですけど……
盛さん:倫理的にもかなり厳しいことはわかっていましたが、ハードルが高いほうが燃えると。でも先に『どきどき魔女審判!』が出てしまい、なんか2番せんじみたくなって。じっくり時間をかけて作る僕のスタイルがデメリットになってしまいました(笑)。
でも通常の萌えとは違う、キモかわ好きを狙って。キモイキャラが好きという方が少なからずいるし、まだディープにハマっていない人への入門編的なソフトになればいいなと思って。そして萌えに食傷気味な方に新しい風を起こせるようなものを作りたいという気持ちもありました。
――どんな内容なんですか?
盛さん:アドベンチャー要素とミニゲームがくっついたような。アドベンチャーだと朝起きるくだりから読まされるのがかったるいし、結局は女の子とのデートシーンが見たいはず。それならばいっそのこと余分なところは取っ払って、目的だけに集約しようとすごろく形式にしてみました。女の子のマスに止まればイベントかミニゲームが発生します。雰囲気的には、ご存じの方がどれくらいいるか分かりませんが、カプコンさんのクイズ『虹色町の奇跡』に近いかもしれません。サイコロの振り方によって止まるマスも違うし、各キャラの感情の増減もプレイのたびに違う。だから「今回はあの子をおとそう!」とロジックを考えて行動する。そういうところは僕がやってきたアーケード的な発想の表れでもありますね。従来の、読み進めていって、わかりやすい選択肢があって、キャラルートを攻略していくというゲームとは趣きが違います。今までになかったタイプのゲームで受け入れられるか、わかりませんがチャレンジするのがDivision2ということで(笑)。
●『キモかわE!』はコミック化など多角的な展開も視野に
――絵柄を見るとポップで女の子受けしそうですね
盛さん:結構、女の子に人気があるようで、ゲームショウでも「かわいい!」と言ってくれるのは女の子が多くて。最初はあまり想定してなかったんですけど、キモイものを「かわいい!」っていうのはだいたい女の子なんですよね。でもプロモーションが今、男性向きに発信している感じがするのでそこは考えどころですね(笑)。女の子にもプレイしてほしいんですけど、かわいい絵に加えて、人気声優陣が出演しているし、男性にも確実に楽しんでいただけると思います。
――DS用ソフトは男女年齢問わず垣根が低いので、幅広い層に愛されるソフトになりそうです
盛さん:そうなるといいですね。実はペンライト型しつけ棒などのグッズを作ったり、コミック化も決定しています。なんと一迅社さんの『まんがぱれっとLite』で、4月発売のVol.14から正式連載が始まります(現在発売中のVol.13にはプレビューマンガが掲載)。
ゲームのキャラクターデザインの方が描いていますので、絵のクォリティも折り紙付です。楽しい作品になっていると思いますのでぜひ読んでみてください。
――今後は『キモかわE!』のキャラクタービデジネスもいろいろ展開していきそうですね!
盛さん:それは期待しています。これがブームになって、ゲームも今度は女子向きのものを作れたらとか、いろいろ構想はあるので今後、少しずつ形にしていければいいですね。
●ゲームが好きな気持ちと信念を持とう!
――ゲーム業界を目指している方もこの記事を読んでいると思いますので、ゲーム業界に入るために必要なことなどアドバイスをお願いします
盛さん:僕がやっている仕事が企画なので、その面からお話ししますと、ゲームだけでなく、それ以外の知識はもちろん必要だと思います。でもまずはゲームが好きでないといけないかなと。ゲームのことを自分が一番良く知っていて、自分が一番ゲームが好きだ、というくらいじゃないとやっていけません。競争も激しいですし、自信や信念がないと気持ちが折れてしまうと思います。その自信はどこから出てくるかと言えば、「ゲームが好きだ」という根本的な気持ちです。だからゲームが好きだということがまず大切ですね。そして人間関係です。ゲームは一人では作れません。ゲームに限らず、社会では人と人が協力し合いながら仕事をしています。そこをちゃんと理解していることも必要だと思います。
――ゲーム業界に入ったら、「こんなことをしたい」とか「こんなゲームを作りたい」という信念やビジョンも……
盛さん:もちろん必要です。職を選ぶのと一緒で、ゲーム業界に入ったら何がしたいのかという目標は大事です。それによってメーカーなのか、デベロッパーなのかも変わります。ただゲームが作りたいならデベロッパーでもいいですし、自分が考えたものを世に問いたいならメーカーのほうがいいでしょうし。あと、これは言っていいものやら判断に困るんですが、僕は企画者やプロデューサーは、会社から見ると詐欺師だと思っています。ゲームはすごくよくできていても売れないことがあるし、逆にクソゲーでも売れることはあって。企画書の段階では売れるか、売れないかは正直、誰もわかりません。それを「絶対におもしろい! 売れる!」とうまくだまして、お金を引き出す仕事ですから(笑)。でも詐欺師と違うのはそれを実現するために全力を尽くすところ。うまくだますためには自分に信念がないとダメなんです。「こういうふうに作れば、こう売れる」とうまく説明できないとだませない。ゲームを作るためにも、ゲームの業界に入るためにも信念は必要で、そういう人が今、ゲームを作っているのだと思います。
●ファンにサプライズを与えつつ、新しい扉を開いていきたい
――今後のご予定を、話せる範囲で教えてください
盛さん:なかなか具体的にお話できる段階ではないものが多いんですけど……。僕自身、360のハードがすごく好きなので、360用のソフトは今後も作っていきたいです。ギャルゲーのイメージが強い会社からシューティングを出すことはサプライズだったと思うんですが、今年の夏頃に同じようなサプライズを起こせたらと思っています。「5pb.ってこんなこともやってたんだ!?」と驚きを与えられるようなプロジェクトを今、やっていますのでお楽しみに。あと『Lの季節』の続編は約9年ぶりのリリースだったので待ち望んでくれた方もたくさんいてくださって、僕の作るギャルゲーファンの方のことも決して忘れていませんし、コアゲーマー向けのタイトルも考えています。今のDivision2の路線をパワーアップさせて、更にサプライズを出してきたいなと思います。
――では最後に皆さんへメッセージをお願いします
盛さん:ここまで読んでいただければおわかりなっていただけたかと思いますが、Division2は5pb.の中でも異質な存在ですし、ずっとそうあり続けたいなと思っています。普通じゃないもので、なおかつクォリティの高いものをリリースしていくつもりです。シューティングゲームについてお話ししたように、ファンじゃない方もファンにさせるような要素を盛り込みつつ、作っていますので、だまされたと思って、我々、Division2が作るゲームをプレーしていただければ、新しい世界が開けるかもしれません。例えば『怒首領蜂 大往生 ブラックレーベル EXTRA』をやって「シューティングってこんなにおもしろかったんだ」とか、「キモかわいいキャラって萌えるな」とか新たな発見が待っているはずです。5pb.の横にDivision2のロゴを全部入れていますので、ロゴを見たら「何かありそう」と興味を持っていただけたらうれしいです。
●プロフィール
盛政樹さん……5pb.ゲーム事業部ディビジョン2プロデューサー。トンキンハウス所属時に『Lの季節』、『Missing Blue』、『D→A』シリーズなどを手がける。
Nintendo DS用ソフト『キモかわE!』
3月5日発売
初回限定版:7,140円(税込)
通常版:5,040円(税込)
発売:5pb.