【ゲームクリエイターインタビュー】『メモリーズオフ』シリーズ制作者の5pb.柴田太郎さんが最新作を語る!(前編)
リリース直前の話題のゲームソフトを制作するゲームクリエイターに、新作ゲームソフトの紹介や開発秘話をご紹介いただきつつ、仕事の内容やゲーム業界に携わったきっかけ、ゲーム業界を目指す皆さんへアドバイスをしていただく企画『ゲームクリエイターインタビュー』。
今シリーズでは『メモリーズオフ』シリーズや、昨年ゲーム界に衝撃を巻き起こした『カオスヘッド』などを手がける5pb.にクローズアップしていく。
第2回目は『メモリーズオフ』シリーズを制作するほか、3月26日にはDS用ソフト『ケータイ捜査官7DS バディシークエンス』、4月9日のPS2版『ヒャッコ よろずや事件簿!』の発売を控える、5pb.ゲーム事業部ディビジョン1のプロデューサー、柴田太郎さんにお話をうかがった。
今章では『メモリーズオフ』シリーズ誕生秘話と、シリーズ最新作について語ってもらった。
●初めて手がけたオリジナルが『メモリーズオフ』
――まず現在のお仕事内容について教えていただけますか?
柴田さん:肩書きはDivision 1のプロデューサーで、ゲーム全体の予算やスケジュールの管理、プロモーション方法の決定などをしています。それプラス、うちの会社はディレクターも兼任しているケースが多く、更にデータ作成やスタッフの手配、シナリオの修正、場合によってはHPやPV制作など何でもやります。プロデューサーと聞くと偉そうに見えるかもしれませんが、一番仕事量が多いんじゃないでしょうか。
――柴田さんの代表作として『メモリーズオフ』シリーズを挙げていますが、『メモリーズオフ』との出会いは?
柴田さん:キッドという会社にいた時代、当時の上司であり、5pb.でもプロデューサーをしている市川(和弘)が手がけたプレイステーション用ソフト『メモリーズオフ』でディレクターとして関わったのが最初のオリジナルです。同期入社だったライターの打越(鋼太郎)君の企画原案だったと思うのですが、シナリオを書いているので僕にディレクションのチャンスが回ってきました。僕の原案ではないにしても自分のアイデアや、やりたいこともかなり盛り込んであり、実質、企画&ディレクションの形でした。僕も会社もそれまでPCゲームからの移植作品が多く、他のスタッフもオリジナルは初めてという人間ばかり。上からも本気かどうかわからないけど「これが売れないとやばい」と言われて(笑)。スタッフも若く、キャストも山本麻里安さんや田村ゆかりさんなどフレッシュアな方と若い力で作った作品でした。キャラクターデザインのささきむつみさんが『電撃G’sマガジン』で『HAPPY LESSON』の連載を始めた時期と重なっていて、誌面で『メモリーズオフ』を大きく取り上げていただいたり、いいタイミングでもありましたね。シリーズの一番最初が99年のことで、あれからもう10年。早いですね。
――『メモリーズオフ』はめでたく大ヒットし、その後もいろいろなハードでリリースされました
柴田さん:実はワンダースワン版も試作されたこともあって、実際、画像コンバートまではやったんだったかな? 僕はドリームキャストへの移植を進言したんですけど却下されて。そのうち、当時のワンダースワンは白黒で、「モノクロはさすがにきつい」と中止になりました。その後、2000年にネオジオポケットに移植し、『メモリーズオフPure』として発売され、並行して制作していたドリームキャスト版『メモリーズオフComplete』も同じ年に発売されて、やっと念願が叶いました(笑)。
●等身大でストレートさがヒットの要因
――またシリーズとして現在まで続いていますがヒットの要因はどこにあると思いますか?
柴田さん:ユーザーさんからはよく「リアルな設定がいい」と言われますが、僕らとして超絶リアルにしようとか、ドラマっぽくしようという意識はそれほどなくて。ただ市川から「これはドラマなんだ!」と言い続けられていたのでそこは押し進められて、結果的に受け入れられたのかなと。そしてキャラクターが当時としては等身大だったのかなと。美少女ゲームといえば毎日パラメーターを上げて、女の子にこびていくタイプが多かったけど、そうではなく普通に会話をする雰囲気でお話が進んでいって、泣ける要素があって。タイミングも良くて、今までになかった球を投げることができたのかなって。僕らとしてはストレートを投げたつもりだけど、何か妙な変化がついて皆さんのツボをついたような。
狙った通りの反応じゃなかったりするのがまたおもしろかったりして。
――当時のPC版では『メモリーズオフ』のようなストーリーがしっかりあって、せつないテイストのゲームはありましたがコンシューマーでは珍しかった気がします
柴田さん:確かに移植タイトルではもちろんありましたが、オリジナルではなかったと思いますね。どちらかと言えばもっとゲームゲームしていたり、アニメアニメしていたり、アドベンチャーでも冒険活劇系が多くて、キャラクターがリアルで等身大の高校生で、ストーリーで泣けるものはなかったんですよね。それが目新しくて受けたんでしょうね。
あとはずっと出し続けたこと。話題を途切れさせることなく、テーブルの上に次々とおいしい料理を出し続けて、「どうですか?」と。1作目を買ってくれた人が「次に何やろうかな?」と思ったら、次が出て。期間が空いちゃうと忘れられてしまうかもしれないので絶えず仕掛けをし続けた。それはしたいからした部分もあるし、しなけれないけなかったこともありますけど(笑)。正直、『メモリーズオフ』はすごい特別があるわけではなく、スタンダードという想いがあるんです。
●スタッフも願うアニメ化
――でも『メモリーズオフ』も10年以上リリースされ続けて、そのカラーやテイストが確立された感じがします
柴田さん:そうだとうれしいですね。僕的には美少女ゲームの入門作になればいいなと思っているんです。例えば中高生がゲームをプレーする場合、対象年齢制限の関係でやれるゲームが限られるからこういうせつない青春みたいな作品をプレーするのはこのゲームが初めてという人も多いでしょう。それに自分達が過ごしている時間や生活に近い設定の中で起こる出来事に共感しやすいから特別な1本になっているのかなと。もちろん高校卒業してからこのゲームを知った人は高校生時代をもう一度、振り返るように架空の青春時代の世界に浸れるファンタジーとして楽しんでもらえる面もあって。最初のシリーズからずっと応援してくださる方がいるのは本当にありがたいです。テレビアニメ化もしてないし、コミック化もしてないのにこんなに名前を知ってもらって、愛してもらえるのはすごいですね。
――アニメ化されないのが意外な気がします
柴田さん:なぜでしょうね? 日常過ぎちゃってアニメ化しにくいのかも。ドラマでやれば成立するかもしれないけど、アニメだとデフォルメがきかないのもしれない。最近はそこも意識するようにはしてるんですけど……。最近では日常アニメも増えたので『メモリーズオフ』もアニメ化にできたらいいなと思ってますけど、こればっかりは僕らの力だけでは実現できないので。皆さんの熱い応援でムーブメントを起こしていただければ。
●これが『5』の完成版!『メモリーズオフ♯5 とぎれたフィルム』
――『メモリーズオフ』の最新のリリース状況について教えてください
柴田さん:今年の1月に『メモリーズオフ♯5 とぎれたフィルム』のPSP版が発売されました。PS2版として発売されてから4年。早いですね。ファンの方にはお待たせして申し訳ありませんでしたけど(笑)。あと『メモリーズオフ』シリーズのPSP用ソフトにはすべて、作品のその後を描いたアフターストーリーが付いていますが今作にもそれがあります。「『メモリーズオフ♯5』にはアフターストーリーを描いた『メモリーズオフ♯5 encore』が出てるじゃん!」という突っ込みが入ると思って、その間を埋めるお話を作りました。限定版には本として小説も付いてきます。久々の『メモリーズオフ♯5』とあって、演出的に「こうしたかった」という部分も入っていたり、バグもこっそり直したり(笑)。
あと新規OPとして彩音さんから新曲をいただきました。今までシリーズの1から4まで同じ曲の1コーラス、セカンドコーラスみたいにやっていましたが、今回は5のイメージに合わせた曲でオススメです。最初はOP曲とだけ発表してしまったため、「PS2版のOP曲『ORANGE』は入ってないんじゃないか?」と心配されて方もいたようですが、もちろん入っていますのでご安心ください。今回のPSP版で、ようやく完成形ができたと思っています。
●シリーズでは異色のライトで明るい『メモリーズオフ6~T-wave~』
――昨年8月に『メモリーズオフ6~T-wave~』がリリースされましたが、こちらはこれまでのシリーズとはちょっと違う印象があるんですが……
柴田さん:1回、『メモリーズオフ』の世界を整理し直してみようと。全キャラ、若返りをはかっていますし、設定もあいまいだったところを明確にしたりして。今までは割と沈んでいくようなお話が多かったのを、今回はライトに軽く、アップテンポなお話にしようというのを目的に作りました。「今までの『メモオフ』と違って、普通のギャルゲーみたい」という声もありますが、いいんです、それで。『メモリーズオフ6~T-wave~』は普通の美少女ゲームとして認知された後、『メモリーズオフ』の新章として始まるんですよと。実は
PSPへの移植作業も進んでいて5月頃には発売する予定です。特典も何をつけようか、悩んでいる最中です(笑)。
――ちなみに『メモオフ』と言えば社長の志倉千代丸さんも欠かせませんよね
柴田さん:仕事上のお付き合いをさせていただいた志倉さんが社長になるのは不思議な感覚でしたね(笑)。でも志倉さんは社長になったからといって変わったわけでもなく……。一緒にお仕事をさせていただいた時からクリエイターとして尊敬できる方ですし、音楽以外の才能も多才なので、こちらも刺激を受けつつ、いい関係でお仕事ができていると思います。曲を作る時にシナリオを読み込んで作ってくださって、最新作の『メモリーズオフ6~T-wave~』でも「今回明るいのでスピード感のある曲で」とお願いしたら、曲が上がってきた時、バッチリのもので「さすがだな」と。いい曲を作ってくれるのはうれしいんですが、できればもう少し早く上がってくるとうれしいんですけどね。まあ、僕らもスケジュール面では人のことを言えないんですが(笑)。
(次回へ続く)
●プロフィール
柴田太郎さん……5pb.ゲーム事業部ディビジョン1プロデューサー。キッド所属時に『メモリーズオフ』シリーズなどを手がける。主な代表作は『龍刻』、『ナイトウィザード The VIDEO GAME』、『メモリーズオフ』シリーズなど。
PSP用ソフト『メモリーズオフ♯5 とぎれたフィルム』
1月29日発売
初回限定版 7,140円(税込)
通常版 5,040円(税込)
発売:5pb.