【TAF2009】今度の押井守は“宮本武蔵”を描き出す!映画『宮本武蔵-双剣に馳せる夢-』製作発表会に主題歌を歌う泉谷しげるさんも登場!
3月18日、お台場・東京ビッグサイトで開催された「東京国際アニメフェア 2009」にて、映画『宮本武蔵-双剣に馳せる夢-』の製作発表が行われた。本作は『スカイ・クロラ』のヒットも記憶に新しい押井守氏が原案・脚本を務め、西久保瑞穂氏が監督を担当。制作は勿論プロダクションI.Gで、主題歌は、押井作品のファンでもあるという泉谷しげる氏が担当する。
宮本武蔵といえば、小説、ドラマ、漫画等、あらゆるメディアで親しまれてきた古典中の古典。だが近年には、物語の武蔵像と実在の武蔵の違いが指摘されつつある。そんな武蔵の真実の姿を、押井氏やプロダクション I.Gが映像化しようというのだ。いったいどんな『宮本武蔵』が出来上がるのだろうか。
この日会見に出席したのは、押井氏をはじめ、西久保監督、泉谷氏、プロダクション I.G代表取締役の石川光久社長。作品の概要はもちろん、制作の裏話、主題歌についてまでが語られた気になる会見の模様を、ここに紹介しよう!
●武蔵が生前に書き残した「五輪書」を映画化
会場では、まず『宮本武蔵』のPVを公開された。和風の打楽器BGM、モノトーンで構成された渋めの画面に、泉谷氏が歌う主題歌「生まれ落ちた者へ」が重なっていく。アクションをする武蔵や他のキャラクター達。そして画面には、ディフォルメキャラやデッサン人形のようなキャラクターCGも時折登場していく。いったいこれは……?
続いて、押井氏、泉谷氏、西久保監督、石川社長が登場し、いよいよ会見がスタート。
石川社長によれば、押井氏が、宮本武蔵が生前書き残した「五輪書(ごりんのしょ)」を元に映画を作りたいと言いだしたのが、今回の企画の発端だという。押井氏は何故「五輪書」を映像化しようと思ったのだろうか?
●物語の宮本武蔵像はウソ、だから彼のドキュメンタリーを作った
押井氏いわく「武蔵は昔から好きだった。現代の作品で書かれている宮本武蔵の事がどれだけホントなのかと調べていたが、ほとんどがウソ。だから、本当の『宮本武蔵』を作ってみたいんです。『五輪書』にしても、読んでみれば、これまでの一般的な武蔵像とは違うものです。そして武蔵が、左利きで、生涯妻帯しない女嫌いとか、書画を出したり建築にも詳しかったりする万能の天才だったというのは、レオナルド・ダ・ヴィンチそっくり。日本では、一つのことを極めるのは大事にされるけど、万能人ていうのは大事にされないんです。でもかつて戦国時代では、万能人が尊敬されていたんです。そういう時代背景の中で、万能人・武蔵の話をやりたかった。元々『五輪書』にしても、仕官したかった武蔵が、大名にプレゼンするために作った、自分の活動の記録っていうものでもあるわけ。だから僕は、ドキュメンタリーのつもりでやったんです。ただ、本人はもう死んでいるので、普通のドキュメンタリーはありえない。今生きていたらこんな風になっただろうというものです。それに、色々ご要望があったり、アニメーションを動かして欲しいっていう話もあった。(PVを観ると)予想外に動いているけど、僕は動かすなって言ったんだけど(笑)」とのことだ。
●脚本はまさに“ウンチクアニメ”それを音楽剣劇にアレンジしました
そして西久保瑞穂監督からも、制作の経緯が語られた。「まず、押井さんから上がったシナリオが、第一稿なのに“決定稿”と書いてあったのが、一番ビックリしましたね。“俺は直さない。直すなら西久保のほうで、コンテで直せ”って(笑)。あと中身も、しょっぱなから西洋の騎士の話が出て、最後は戦車まで出てくるという、宮本武蔵のドキュメンタリーですよね。で、シナリオでは、70分のうちの65分ぐらいは全部ウンチクだったんです。まさに、ウンチクアニメを作ろうという魂胆が見えました。僕の方は、これだけウンチクがあるのはイヤだなぁと思ったので(笑)、もうちょっと見やすく、面白くしようという感じで、今回の映画になったんです。多分押井さんにしたら、すごい不満が残る所が、多分にあるとは思いますけども、一応、好きにしていいと言ってたんで、ええ(笑)。それといわゆる“剣劇をみて語る”っていう方式にしたので、剣劇シーンもずいぶん増えました。あと、剣劇に浪曲を重ねて“音楽剣劇”のテイストで作ってるんで、それも楽しんでもらえると思います」。浪曲パートは、国本武春さんが務めるというから、要注目だ。
●押井映画じゃなかったから主題歌を作らなかったかも!?
更に、主題歌を歌う泉谷氏には、西久保監督からのオファーがあったそうだ。監督いわく「武蔵が『五輪書』を60歳から書いてるんです。泉谷さんも丁度今、60歳ということで、今なおバリバリやっているところがシンクロするなって思い、是非お願いしたかったんです。あと、さっきのPVに出てきたCGキャラが、60歳ぐらいの武蔵っていう設定なんですが、これも泉谷さんに似てるかなと思って(笑)」とのこと。
ここで泉谷さんにもお話を訊いてみたが、なんと泉谷氏は、押井作品が好きで、なかでも『イノセンス』『アヴァロン』がお気に入りだという。「押井さんの作品っていうのは、絶対忘れられないシーンがあるのがスゴイ!普通エンタテイメントって、観たら忘れるものなのに、『イノセンス』は困っちゃうことに頭の中にシーンが出て来ちゃうんですよ。だから、とんでもない人だなと思ってます。宮本武蔵自体は、吉川英治さんの美化された世界も好きだけど、古典になりすぎてるっていうか……。だから、『宮本武蔵』を押井さんが作ると聞いて話にのったんです。これが他の人だったら、のったかどうか(笑)。それで主題歌を作る時には、ありがたいことに、ちょっと絵コンテを見せてもらったの。権力を使って“よこせ!”ってね(笑)。で、みたら、おおーっ、やっぱすげえなって。これは相当、“気合い入れないといけない”と、と思って作りましたね。それで(主題歌を作る時の)自分のテーマとしては、宮本武蔵というよりは、今に置き換えて、アスリートのような……。なんかある高みとか、そういう技術のすごいところに行くには、恋したいけども我慢しなきゃいけねえ。戻ってきた時に女はいねえぞみたいな、そういう事をやらないと、無理じゃぁねえかと。そういう孤独感が、押井さんに一番合うかなあって。ただ監督はこちら(西久保監督)なんで、やっぱり好きに作ってもらったほうがいいので、わりと自由な発想で作って渡したんだけどね」と話してくれた。
●最後に出席者より、会場の皆さんに向けてメッセージが語られた
泉谷氏は「この映画はいつ公開になるのか明記されていないので、いいかげんにしろと。かなり、いいもんだろうけども、早くやる日、教えてよってとこですね。ファンとして一番最初に観に行きますよ(※6月公開予定と会場にて発表)」とコメント。石川社長は「押井監督とプロダクション I.Gの中の、この腐れ縁は相当これからも続きます(笑)」と言い、西久保監督は「今回は、押井守のウンチクと音楽剣劇というのをミックスして作りましたので、よろしくお願いします」と話してくれた。
最後に押井氏は「多分、僕が考えたものとだいぶ違ってると思うんですが、西久保のやることなんで、いい物になってると思います。僕が監督をやらないほうが多分良かったんだと思うし、それを決めた石川が正しいんだと思います。でも、僕自身も楽しみにしています。ですから、いつかまた『武蔵』を自分の手で、多分、実写でやりたいなって思っています。お金かからないと思うので、2億円ぐらいでできると思うんですよね。そういうのでやってみたいと思う方、ご連絡よろしくお願いします(笑)」と語ってくれた。
本作は。テアトル新宿、テアトル梅田、名古屋ゴールド劇場にて、6月公開予定。乞うご期待だ!
<公開情報>
テアトル新宿、テアトル梅田、名古屋ゴールド劇場にて、6月公開予定
<STAFF>
原案・脚本:押井守
原作:Production I.G
監督:西久保瑞穂
キャラクターデザイン:中澤一登
作画監督:黄瀬和哉
美術監督:平田秀一
色彩設定:遊佐久美子
撮影:江画久
CCIアニメーション:遠藤誠
編集:植松淳一
音響:鶴岡陽太
浪曲:国本武春
制作:プロダクション I.G
配給:ポニーキャニオン
主題歌「生まれ落ちた者へ」/泉谷しげる (6月17日発売)