映画『サマーウォーズ』の公開を記念して細田監督を中心にトークショーが開催!ネットとアニメのコミュニティ論を語る!!
Appleの直営店で行われているワークショップ。その中で、月刊インタラ塾というものがおこなれており、今回、8月1日から公開されている映画『サマーウォーズ』が仮想空間を題材にしていることから、本作品の監督である細田守氏、社会学者・批評家の濱野智史氏、細田さんと同級生で、同じ映研仲間の鈴木克彦氏をゲストに迎え、「WEBコミュニケーションとリアルコミュニケーションついて」「アニメとWEBについて」などを題材とした、トークショーがApple Store 銀座にて行われた。
●鈴木氏「細田監督は、リアルの部分の描き方がすごくうまい」
今回のインタラ塾では、大きく4つに別けて3人の方にお話をうかがっていった。
1章は「映像とデザインについて」。細田監督の普段のWebとの関わりあいから話がスタート。細田監督は「普段は、ビール片手にインターネットを見ています(笑)。困った時には利用しますが、掲示板などWebのコミュニケーションの場には積極的には行かないですね」と、コメント。
そして『サマーウォーズ』に登場するOZのデザインに関する話題へ。
細田監督は「今までの自分の作った作品には、『時かけ』のタイムリープの空間など、白を基調にした球体空間を出しています。今回はそれをインターネット空間にしています。白い色なのは、ネットワーク空間やハイテクなイメージというのが、バックが黒でサイバーな感じが多かったので。OZもそうですが、子どもやお年寄りに向けてインターネット空間を見せるとき、黒だと楽しいイメージとはかけ離れている。OZを全世界で10億人が利用していると考えた時、女性なんかも入っていけそうな感じにしたかったので、デザインは、『ALWAYS 三丁目の夕日』で美術監督をやられた上條安里さんにお願いしました」と、自分の中にあるWebのイメージを説明。
またデザイナー視点からみた『サマーウォーズ』ということで、クリエイティブディレクターの鈴木氏に話をうかがうと、「細田監督の作品には、バーチャルとリアルの両方が出てくることが多いのだけれど、両方出てきても、不自然さを感じない。それは、リアルの部分の描き方がすごくうまいからで、違和感がない。それと、画面上の絵作りの情報の整理の仕方がうまい。情報が画面上のいたるところにあるんだけど、それを感じさせない画やフレーミングをしている」と絶賛。細田監督は「面と向かって同級生に褒められると照れますね(笑)」とはにかんだ。
●濱野さん「アニメこそがメインストリームのような流れになっている。」
2章では「ネットつながりについて」を中心にトークを展開。
“アニメのコミュニティーとネットのコミュニティーは似ているのか!?”の問いに、社会学者の濱野さんは、「身も蓋もないことを言ってしまえば、両方とも現実から離れているから似ている。現実の恋愛から逃げているから“萌え”に走り、現実のコミュニケーションが苦手だから、ネットでバリバリしゃべったりしている。『サマーウォーズ』の面白いところは、アニメという虚構の世界の中で、ネットという虚構の世界を題材にして、2重の虚構を作り出しているところ」と答える。
細田監督は「作った側から思うことは、ドイツのアニメコンベンションに参加した際に、会場で思ったのが、アニメファンが集まっているのだと思ったが、参加しているうちに“集まっている人は本当にアニメ好きなのかな?”ってこと」と話をはじめた。「アニメをネタにして、コミュニケーションをとりたいんじゃないのかと思え、少し淋しい気持ちになった」とのこと。
濱野さんも「オタクと自称する今の10代の中には、細田監督がおっしゃられたような、ライトオタクと言われるような人が現れています。TVを観ずに動画サイトを観ている人が多くて、そこでアニメを題材にした動画が多くて、アニメこそがメインストリームのような流れになっている。彼らにとっては、“アニメ的なもの”が話のタネになりやすい」と、オタクそのものが変わってきているように見える現象を解説。
『サマーウォーズ』の主人公も高校1年生。今時の10代のキャラクターを作る上での制作話に話が及ぶと、細田監督は「今の高校生がどんな生き方をしているかは一生懸命考えるけど、10代にはなれない。寄り添おうとは思うけど、40代からみた10代になってしまう。リサーチはしないですね。その代わり、喫茶店やファミレスなんかに行って、窓の外を眺めて、そこにいる高校生の佇まいから想像することが多いです」とキャラクター作りについても、明かしてくれた。
●細田監督「包装紙はその時々で変わるけど、プレゼントの中身は捨てちゃうものではなく、部屋の片隅に置いてある」
続く3章は「人物造形について」をテーマに、“キャラクターは設定が先か、人物像が先か?”というテーマでトークが展開。細田監督は「制作陣が、そのキャラクターが実際にいたとして、どんな人なのかを共有できていればいい。打ち合わせでは、形にならないようなことを話していることが多い。それがキャラクターを作っていく」と、人物像が先と話すと、クリエイティブディレクターの鈴木さんは「広告は商品が先にあって、それを体言化していく。ハバネロだと案だけで100案くらい作りました。言葉ではなく感覚でわかってもらうのをイメージしてキャラクターを作成した」と広告側の視点から答えた。
最後の4章は、「コミュニティーと物語(ストーリー)について」というテーマ。
細田監督は「今回、リアルのコミュニケーションとデジタルのコミュニケーションで、どっちが良くて、どっちが悪いという話にはしたくなかった。家族だけでもなく、ネットだけでもなく、どっちも大事ですよというのを描きたかった」と『サマーウォーズ』の根源的な考えを話してくれた。
さらに「いい物語を作るには?」という質問に、細田監督は「その時々によって、受け入れられる物語があり、嗜好の好き好きはあるとは思いますが、ベースで楽しいものや泣いちゃうようなものがあると思います。その普遍的な方をテーマにするのが重要なのかなと。多様性や一過性じゃなく、ドシっとした強さみたいのが必要。プレゼントでいう中身。包装紙はその時々で変わるけど、プレゼントの中身は捨てちゃうものではなく、部屋の片隅に置いてある感じ。そういう気持ちを大事にして物語を作っていければと思います」と答えた。
●最後に3人から一言。
「取材でもそうなのですが、家族を切り口にした取材が多く、その方がわかりやすいというのもあるのでしょうが、今回はネットを切り口にした話ができて面白かったです(細田監督)」
「家族のつながりとネットのつながり、どっちがいいとか悪いとかじゃないというのがメッセージではないけど、映画を観るとなんとなく伝わってきます(濱野さん)」
「『サマーウォーズ』には色々な側面がある作品で、何度観ても楽しめる。家族をテーマにした作品を作ると聞いたときは、すごいところにチャレンジするなと思いました。出来上がりを観ると、こういうものを作らなきゃいけないのに、作る人がいないというのを感じ、意味がある作品だと思いました。観にいってない方は、是非観に行ってください(鈴木さん)」
3人ともまだまだ話し足りない様子のまま、イベントは幕を閉じた。
『サマーウォーズ』
http://s-wars.jp/
8月1日より、新宿バルト9、池袋HUMAXシネマズ、梅田ブルク7他全国ロードショー中