この記事をかいた人
- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
清潔感に溢れた瑞々しい歌声を持ってシーンに登場した奄美出身のシンガーソングライター、azusaの1stアルバムがリリースされる。
初アルバムにしてセルフタイトルを掲げた今作は『あにてれ Presents アニソンぷらす+』8月度EDテーマ「明日晴れたら」、アニメ『アマガミSS』前後期OPテーマ「i Love」「君のままで」、アニメ『もしドラ』OPテーマ「夢ノート」、アニメ『アスタロッテのおもちゃ!』EDテーマ「真夏のフォトグラフ」などの話題曲+新曲9曲を収録した全14曲入り(初回限定盤にはPV4曲を収めたDVD付き)。
また、作詞・作曲・編曲をほぼ全曲azusa自身が手がけるなどクリエイティブな才能も遺憾なく発揮した充実作となっているが、このアルバムの完成にたどり着くまではそう平坦な道のりではなかった模様。どんな気持ちで制作に挑んだのか、azusaに訊く。
●「(曲作りは)スケッチブックに好きなものを描いていって、それをひとつの絵にしていく感覚に近いのかも」
――デビューから1年経過して遂にアルバムがリリースされます。今の心境としてはいかがでしょうか。
azusa:デビュー当時はアルバムが出せるとは夢にも思っていなかったので、凄く嬉しいです。作品に恵まれているなと改めて思いましたし、この1年でたくさんのファンの方からパワーをもらったので、恩返しじゃないですけど、アルバムでたくさん曲を聴いてもらえたら嬉しいなって思っています。
――具体的にどんな気持ちでアルバムの制作に向かっていったのでしょうか。
azusa:普段から曲は書きためていたのですが、気が付いたらデビューしてから100曲以上の曲を書いていました。ただ、具体的に「アルバムを作りましょう」ってなった時には、「どの曲を入れるか」「新しく何を書くか」っていうのは全く決まっていなかったので、最初は正直「本当に完成するんだろうか」って不安もありました。もちろん、スタッフさんがアドバイスをくれますけど、まずは曲ありきですし「私が曲を書かなければ何も進まない」という状況に対するプレッシャーもあったので、前半のうちは「締め切りまでに間に合うのかな」ってドキドキしながら制作していた状況でした(苦笑)。最終的に、新曲を9曲収録することにしたのですが、短期間で9曲をレコーディングするということも初めてだったので、なかなかペースをつかめないところもあって、曲ごとに気持ちを切り替えながら制作に向かっていきました。
――100曲って凄いですね。9曲ピックアップするのも大変だったと思うんですけど、どういう風に決めていったんですか?
azusa:ホントに、すっごく迷いました(苦笑)。シングルとのバランスや「これは絶対収録したい!」という曲を集めていって、なんとか選んでいきました。
――じゃあ、あらかじめテーマを決めた上で選曲した、っていうよりかは、アルバム全体のバランスを重視して収録曲を決めていった感じですか?
azusa:そうですね。あえてテーマというのは特に設定しませんでした。何にも縛られず、自由な発想で作りたいなと最初に思っていたので、客観的に聴いて「この曲、良いなぁ」って純粋に好きな曲を集めていきました。でも、難しかったです!(苦笑)。
――そうですよね(苦笑)。その中で、最初に生まれた曲というのは何になるんでしょう。
azusa:最初に出来た曲は、1年以上前にデモテープを作っていた、12曲目の「夏祭り」ですね。次が3曲目の「マングローブの森」だと思います。
――話がそれちゃうんですが、iPhoneなどに思い浮かんだメロディーを録音することも多いですか?
azusa:そうですね。録音して、自宅で広げていくことも多いです!
――そこからどんな風に広げていくんでしょう? 今回も全曲をご自身で作られていますが、azusaさんは柔らかい雰囲気がある方なので、パソコンに向かって葛藤している姿が想像しがたいところがあって(笑)。
azusa:いつも葛藤しています(笑)。曲を広げていくときは、どういう風なイメージの色で固めていくかというのを一番に考えるようにしています。ただ、アレンジで曲の雰囲気が変わることが多いので、初期段階では「曲はできているのに、なかなか格好よくならないな」って進まないこともよくあります。そういう時は色々な素材を、自分のイメージにないような素材も含めてパソコン上に並べていって組み合わせると、意外と面白いものが出来たりするんです!スケッチブックに好きなものを描いていって、それをひとつの絵にしていく感覚に近いのかもしれません。
●「シングルとは違うテイストの曲も、私の届けたい音楽のひとつ」
――スケッチブックというのがazusaさんらしい表現ですが、そうやって作っていった曲の中でも、azusaさんがテーマに掲げていた“より自由な発想”で作れた曲っていうのは、どの曲になりますか?
azusa:自由な発想で作れたかなと思っているのは「マングローブの森」ですね。今までシングルに収録されてこなかったようなリズムやメロディーラインの、遊び心が表現出来た曲になったんじゃないかなと感じています。
――「マングローブの森」は生命力に溢れた、それでいて森の中を旅しているかのような浮遊感のある不思議な感覚の曲ですよね。これはどんな想いを込めて作られていったんですか?
azusa:まさにその生命力を描きたかったんです。この曲は、私の地元・奄美のマングローブの原生林をカヌーで渡るツアーがあるんですが、昔そこの森のような場所を渡ったときのイメージを思い浮かべながら書いた曲なんです。「マングローブの森を抜けたらイタリアに着いちゃった!」というような、閉ざされた森を歩いていって、別世界にたどり着いた時のような、その力強さみたいなものを書きたかったんです。自分がいる世界や自分が今見えている世界だけが、自分の生きていける場所ではないということと、自分の今いる場所から飛び出していくような信念の強さを書けたらとずっと温めていた曲だったので、こういう曲をアルバムに収録できたことはとても嬉しかったです。
――じゃあこういう曲を書けたということはazusaさんの中で大きな出来事でしたか?
azusa:そうですね。5曲目「ふーる ふーる」や9曲目「好きよ」もそうなんですが、シングルとは違うテイストの曲も、私の作りたかった音楽のひとつなので、こういうサウンドも楽しんで聴いていただけたら嬉しいです!
――“シングルとは違うテイスト”という意味で言うと8曲目「Two of us」の歌詞はとても新鮮でした。大人っぽい表情を見せる切ない曲ですが、この曲に関してはどんなイメージですか?
azusa:この曲はタイトルだけ聞くと2曲目「i Love」 (アニメ『アマガミSS』前期OPテーマ)のような幸せなイメージの曲かなって思う方もいるかもしれないのですが、失って初めて気付いた幸せを描いた切ない曲なんです。切なさを全面に出すためにもコーラス・ワークを厚めに入れていきました。
――切なさといえば、11曲目の「Just be a friend」も「マングローブの森」に近い、浮遊感のある曲なんですけど、片思いを描いた切ない歌詞が印象的です。
azusa:『アマガミ』『アスタロッテのおもちゃ!』で書いてきたラブソングは幸せの要素が多かったのですが、これは片思いのお話しになっています。こんなに想っていても、友達の枠を越えられないもどかしさをテーマにした曲で、私も書いていて新鮮でした。
●「繰り返したくさん聴いて欲しい」
――特に後半はドラマティックな流れで進んでいきますが、13曲目の「フラワー」はピアノの旋律と歌声のみというシンプルな構成の、このアルバムの中では異色な曲です。これはどういう想いを込めた曲なんですか?
azusa:デビュー以前の原点に戻るじゃないですが、そういう要素をみんなにも知ってもらいたいなと思って、ピアノ1本での弾き語りの曲にしました。敢えて飾りつけをせずにまっすぐに歌おうと思って、自分にリンクした歌詞を書いた曲です。この曲は、いつも応援してくれている方々への感謝の気持ちを描いた曲なんです。自分が小さいつぼみだとしたら、応援してくれる人たちが太陽で。そこに向かって私も伸びていっているような、そんなイメージです。
――まさに向日葵のようなイメージというか、凛とした印象があります。
azusa:ありがとうございます。でも、すごくキーが高くて、歌うのはピアノ一本だからごまかせないし、丁寧に歌いたいのに、なかなかうまく「歌えない!」って苦労しました(苦笑)。
――本当に様々な曲があって、セルフ・タイトル通り、azusaさんを知れる1枚になっていますが、このタイトルの由来は?
azusa:スタッフさんたちとみんなで考えたタイトルなんですけど、より多くの方に名前を知ってもらいたいというメッセージを込めてつけました。私の色々な一面が詰まったアルバムなので、私の全てを見られているような気がしつつ(笑)、初回盤にはDVDも収録されるので、本当に見られているような気分になって、今はまだちょっと恥ずかしいです(笑)。
――DVDには、「i Love」「君のままで」「夢ノート」「真夏のフォトグラフ」のPVが収録されています。撮影はいかがでしたか?
azusa:すごく楽しかったです!柔らかい雰囲気が伝わるよう努力しましたし、曲ごとに表情が変わっていくので、色々な私を楽しめる映像になったんじゃないかなって思います。でも、自分で見るとやっぱりちょっと恥ずかしいです(笑)。
――(笑)では最後にメッセージをいただけると嬉しいです。
azusa:バラエティに富んだ楽曲が勢ぞろいしたアルバムになりましたが、どれもazusaの一面ですので、その中に自分と重ね合わせられるようなお気に入りの曲を見つけていただけたら良いなって思います。繰り返したくさん聴いてもらえるような存在になってもらえたら嬉しいです。
<取材・文:逆井マリ>
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。