全曲解説、そのボリューム、なんと1万字強! 2年4ヶ月振りのNEWアルバム『SQUAER THE CIRCLE』について川田まみが語りつくす!
2012年5月30日(水)に発売されたシングル『Borderland』(テレビアニメ『ヨルムンガンド』OPテーマ)が好調なチャート・アクションを記録している川田まみさんが、2年4ヶ月振りとなるニューアルバム『SQUAER THE CIRCLE』をリリースする。
収録曲は、『No buts!』(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』OPテーマ)、『See visionS』(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』新OPテーマ)、『Serment』(テレビアニメ『灼眼のシャナIII-FINAL-』OPテーマ)の3曲に、新曲10曲を加えた全13曲。これまでのイメージを大きく一新するナンバーが顔を揃えており「私の素の部分をいちばん投影できた」と川田さん自身も認める進化作となっている。
しかし今作を制作するにあたってさまざまな紆余曲折を経験したという。その全てを語ってもらうために、アニメイトTVでは全曲解説を実施。アルバムに込めた想いをとことん話してもらった。
──待望のアルバム発売となりますが、前作『LINKAGE』からの期間を振り返ってみるといかがですか。
川田まみさん(以下、川田):気持ちの感情としては山あり谷ありの期間でした。私の活動拠点である札幌を離れて東京のライヴに出演させてもらう機会が増えて、今まで知らなかったことを知れたり、I've以外のかたと会う機会も増えて……仕事の幅が広がったってことだと思うんですけど、多少なりとも戸惑いもあって。
それなりに歌の仕事をやらせてもらってきているのでギャップもあったし、正直葛藤や怒りもあったし。怒るっていうのも変な話なんですけど(I'veから)放り出されたような感覚がそのときはあって……。でもその一方で改めて「自分は(周りのスタッフに)守られてきたんだなって感謝の気持ちも改めて感じたんですね。そしたら今度は怒りを感じてしまった自分に対する反省がはじまってっていう(笑)。
ちょうどそれと前後してI'veの先輩たちが(事務所を)離れていったりして、周りの状況が変わっていったことでも落ち込んでいて……。そこでの葛藤もあったんですけど、スタッフがバックアップをしてくれたので「じゃあ私も頑張らなきゃ」ってやっと前向きな気持ちになれたんです。
そんな感じでこの2年半は気持ちがグチャグチャしてたんですよ。「昨日まであんなに元気だったのに、今日はすごく落ち込んでる」っていう繰り返しで、毎日気持ちが違う状況で(苦笑)。
でもこのアルバムを作るにあたってはプラスの気持ちや感謝の想いを大事にしました。この2年半に感じた気持ちを絶対にムダにしたくない!っていうポジティブな感情を大切にしたというか。
──そう思えたきっかけはあったんですか?
川田:う~ん。一回どん底まで落ちたというか……。去年の年末くらいは底辺のところにいたんですよ。年末のI'veのイベントでトリを務めさせてもらったんですけど、そこで戸惑いがあったんですよね。I'veの中でどんどんと環境が変わっているなかで私も戸惑いがあって、実際にトリって聞いたときに、トリを望んでいたつもりだったのに押し付けられたような気がしたんです。
そんな自分にまた怒りを覚えたんですが、それを経験したことで覚悟が決まったんです。「やってみよう!」って。でもライヴが終わったあとに悔しくて泣いちゃったんですけどね(苦笑)。こんなんじゃダメだって。
で、年明けくらいにちょっと気持ちが落ち着いて、自分の立場について冷静に考えることができて。自分が幼かったから周りの状況が全然見れてなかったんだなって。でも少しずつ教えてもらって、ここまできて……もっと立ち向かわなきゃいけないところがいっぱいあったのに、そこじゃないところに気持ちがバラバラにいっちゃってたんですよね。だからしっかりと見据えていかなきゃなって、もっと本質的なところに向かうことができたんです。
今年の2月にレーベルメイトと新年会みたいなことをしたんですけど、私の誕生日が近かったのでみんながお祝いしてくれて。そのときに写真を撮ったんですけど、その写真に……すごく背中を押されたんですね。幸せな時間を守るためには頑張らなくちゃいけないんだなって。周りの人たちが私にとってはすごく大切なんだなって改めて感じました。
実はアルバムの話も結構前からあったんですよ。でもなかなか取り掛かることができなくて……それもしょうがなかったのかなって今では思います。気持ちの変化があったからこそできた曲ばっかりなので、逆に良かったのかなって。
──具体的にどんな流れで制作に入っていったんですか?
川田:今年の夏くらいに制作をすることが決まって、私の希望をある程度話して……。今回もプロデューサーは中沢(伴行)さんなんですけど、いつもであれば中沢さんのほうである程度すすめている間にわたしが歌詞を書いて……って作業的な感じで進めていたんです。今回は最初にスタッフ全員で打ち合わせをしたんです。つまり、みんなで結束を固めるところから始めたんですね。
普通はやってることなのかもしれないんですけど、私たちはできてなかったんですね。だから今回は「何かあったらみんなで集まる」っていうのを大事にして。
──そのときにどんなアルバムにするかって話が出てたんですか?
川田:ハイ。コンセプトとしては脱皮した、より洗練された川田まみを目指したいなと。今までの川田まみを壊して再構築していきたいなというか。そこで『SQUARE THE CIRCLE』(直訳:不可能なことを企てる)って言葉が出てきたんです。
私はイヤなことから逃げたり、めんどくさいことに背を向けていたことがあったんですね。でもそこでちゃんと前を向けていたらもしかしたらチャンスがあったんじゃないかなって……。だから今度は不可能だと思ってたことに対しても「チャレンジしていこう!」っていう決意を込めて、こういうタイトルを掲げたアルバムを作ろうと。
●M-1『SQUARE THE CIRCLE』
──オープニングは高瀬一矢さんの楽曲です。ドラマティックなサウンドと川田さんの決意がにじみ出たような歌詞も印象的です。
川田:映画のような、ドラマティックな楽曲に仕上がっています。「これから始まっていく」感じが伝わってくるかのような曲。砂漠というか、砂埃が巻き起こっているところをスッと入っていくような……そういう絵が見えたので、そこを意識しながらこの歌詞を書きました。旅をしているような感覚で書いたというか。
でも実はこの曲はいちばん最後に出てきた曲なんです(笑)。アルバムの制作中は「(歌詞を)書いては歌って、書いては歌って」って日が続いていて、後半はどういう表現をすればいいのか悩んでいて。だから私の葛藤みたいなモノがこの歌詞のなかにすっごく出ていて……ある意味、最後に書かなきゃ出てこなかったような歌詞になってるんですよね。だから、この曲でアルバムは始まってるけど、これで完結したっていうか……。
今回高瀬さんと組んだことも実は悩みのひとつだったんです。歌詞のなかに「誰かのマニュアル/この手に握りしめたtextbook&rule/破り捨てるんだ」って言葉が出てくるんですけど……自分自身をもっと突き進めていきたい、I'veも引っ張っていきたいって思いがあるなか、高瀬さんとタイトルを作るってところで、I'veってモノをすごく意識してしまったんです……捉われなくていいことなのに。
それでI'veの今までの代表作を聴きまくったりしちゃって、結局「私は私のモノを作ればいいんだ」って我に返れたんですけど、そういうことを経てその歌詞が出てきたんです。それは最後じゃなきゃ出てこなかった歌詞だと思います。最初から持っていた気持ちではあったんですけどね、悩んだことでより強い気持ちが出せたんじゃないかなって。
──それで「新しい地図を描く」という強い言葉が出てきたんですね。
川田:まさに。絶対わたしがやってやるんだ、時代を引っ張っていくんだって。今までにない楽曲ができたんじゃないかなって思ってます。ちょっと苦しかったですけどね(苦笑)。
●M-2『No buts! (テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』オープニングテーマ)』
川田:1曲目にどんな曲が上がってこようと、2曲目は絶対『No buts!』にしようって決めてたんですよ。大体わたしのアルバムって2曲目や3曲目に代表作が入ってるんですよね。だからどうなろうと2曲目はこの曲だなと。
でも不思議な感じですね。『No buts!』のリリース自体は結構前だし(2010年11月3日)、ライヴでずっと歌ってきていた曲だったので「やっとアルバムに入るんだ!」っていうか(笑)。
この曲を歌うときは「ここまでやっちゃっていいのかな?」「突き進めていいのかな?」って迷いがあったんですけど、この歌詞の内容、この曲のイメージこそ、私の根底にある精神だなって改めて感じました。アニメのタイトル曲なので、そっちに寄った楽曲にもなってるんですけど、「いっぱい迷って突き進もうぜ!」「いろいろやるけどやるしかない!」ってメッセージは私が生きていくうえでの指針ですね。
先日出したシングル『Borderland』(5月30日リリース/このアルバムには未収録)もやっぱりこの曲がベースになってるんですよ。この楽曲と出会えてよかったですね。
●M-3『my buddy』
川田:実は、葛藤がすごく表れた曲なんですよ。最初にオケを聴いたときにアッパーにもできるし、ダークにもできるし、っていう難しい曲だったんですよね。
これは10曲中、7曲目にできた曲だったんです。だから「次はなにを書こうかな」って悩んでたんですよね。残りは高瀬さんの曲だったんですけど(笑)。で、ここで過去のI've作品を聴いたりしてて、迷って迷って、「私なにやってるんだろう」って我に返った瞬間があったんですよ。
特にきっかけはなかったんですけど……『JOINT』のカップリング曲の『triangle』や『No buts!』もそうなんですけど、苦しさのなかから生まれる「やってやろうじゃん!」って気持ちがすごく私らしい気がしたんですよね。その気持ちをこの曲に書いてやろうって。
『my buddy』って相棒って意味なんですけど、私の悩んでいる苦しさ、嫉妬、葛藤みたいなモノこそが私の相棒なんじゃないかなって。だから「もっと来てよ!」「一緒に行こうよ!」って。すごく悩んだけど、自分らしさをブツけられた曲になりました。
──それで「お互い「行く!」しかない」」って歌詞が出てきてるんですね。
川田:そうなんです。「弱くて悩んでいる自分なんてブチ壊したい、今の自分じゃなきゃ書けない曲を書きたい!」って思って出てきた歌詞なんですけど……。
1stの『SEED』(2006年3月)のタイトル曲は「未熟な力今は武器に変える/未知の種」……無知こそ強いんだってことを歌った曲だったんですよ。今思うとよくそんなこと書けたなって感じですけど(苦笑)、『my buddy』の歌詞に出てくる「「0」は、無いんじゃなくて限りないunlimited/可愛い子猫たち/無垢な目が眩しい」っていうのは後輩や、昔の自分のことなんです。あのときはもっと無限大だったなって。
自分もそういうときがあったのに、後輩たちがキラキラしている姿を見て「頑張って欲しい」って思ったり、悔しいって思ったり……そういう揺れ動く気持ちも素直に書いてみました。もう「0」ではないけど、ある程度やらせてもらってきた今の私にしか書けない曲になったんじゃないかなって思ってます。
●M-4『Don't stop me now!』
川田:この曲は井内(舞子)さんが書いてくれた曲なんですが、前作『LINKAGE』(2010年3月)に収録されている『TOY』の続編にあたる曲です。『TOY』は作っている時点で「この曲の感じ、私にすごく合ってるな」って思っていたんです。実際ファンのかたにも人気のある曲で、このジャンルの曲はまたやりたいなって思っていたので『TOY』の雰囲気を今に落とし込んだ曲を作って欲しいって話してこの曲ができたんです。
『TOY』は、何不自由ないお城にいてキレイなドレスを着てクルクル踊っているお姫様が「私は幸せそうに見えるけど自由じゃないの」って窓の外に飛び出していくっていうお話だったんですけど、『Don't stop me now!』はその主人公が外に飛び出してからのお話なんです。ドレスやヒールを脱ぎ捨てて日常を送っていて……楽しいんだけどどこかで昔の生活を思い出しながら生活していて……「私は自由と取引したんだ」「頑張ってる私を止めないで!」って揺れ動く気持ちを描いた曲です。
──中盤に「Don't stop me now!」と転調しながら繰り返し歌う部分がありますけど、そこに主人公が迷っている気持ちが集約されている気がして。
川田:ありがとうございます。嬉しいですね。そこは「引き返したいけど引き返せない」っていう気持ちを表現しました。この曲はちょっと可愛らしく歌っていて、ボーカルにエフェクトもかけてちょっと不思議な雰囲気になっているんですけど、いつものロックな姉ちゃんってイメージとは違う川田まみが表現できたんじゃないかなって思います。
──今回のアルバムでは特に井内さんの曲はアクセントになっていますよね。
川田:そうですね。舞ちゃんに楽曲をお願いするときに「私と舞ちゃんにしかできないような曲を作ろう。舞ちゃんが私をプロデュースするような気持ちで曲を作って欲しい」ってお願いをしたんですね。そういう気持ちが出たのかもしれないです。
●M-5『Clap!Clap!Clap!』
──『Clap!Clap!Clap!』は爽やかな曲ですよね。
川田:そうですね。作曲してくれた尾崎武士さんが作曲してくれているんですけど、作曲をしてもらうのは実は初めてで。彼自身まだたくさん作曲しているわけじゃないんですけど、最近作曲活動もしているのでぜひとのことで作ってもらったんですが想像以上に良かったですね。彼の作る曲ってライヴで歌っている感じが想像できるんです。
私の場合ライヴで盛り上がる曲って『JOINT』や『No buts!』なんですけど、それは楽曲自体のテンションが高いから盛り上がるんですよね。ライヴの映像がパッと見えてくる感じっていう曲はあまりなかったので、ライヴを意識した曲を作りたいなって前から思っていたんです。で、リリースが夏だったので夏らしい爽やかな曲にしたいなと。
今まで制作チームは「川田まみ像」と私の歌声のイメージで曲を作ってきたと思うんですけど、今回は私自身が目の前で歌っているような楽曲を作りたいって話をしたんですね。で尾崎さんは、私がライヴでギターをかき鳴らしているところをイメージしながら作ってくれて。クラップの音も入ってるし、ある意味ライヴで完成する曲なんじゃないかなと。
●M-6『Usual…』
川田:インストですね。今回インストを入れるか迷ったんですけど……今回のアルバムには『No buts!』『See visonS』『Serment』の3つのシングルが入っていて、この3つをどうやって入れるかすごく迷ったんですよ。特に『Serment』はすごく迷って……。で、前編・後編みたいな構成にしたいなと。頭がインストっていうのも正直飽きていましたし(笑)。
ベースは中沢さん、ギターを尾崎さんが入れてくれてるんですけど、後半は世界がゆがんでいく感じになっていくというか(笑)。異空間へ誘うような、うねりのあるインストになってるんですけど、このうねりこそが私たちの日常の心の動きなんじゃないかなって。だからこそこのタイトルにしたんですよね。実はこの曲、自分で決めて自分で録ったんですよ。インストとは言え、お気に入りの1曲になっています。
●M-7『See visonS』(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』新オープニングテーマ)
川田:これも舞子ちゃんの曲なんですけど、彼女の曲はキラりと前を向きたくなるような内容が多いんです。この曲を書いたときは、歌い手さんやレーベル・メイトに会うことが多かった時期で、たくさん刺激をもらっていたんですよね。「私も負けたくないからいくぞ!」みたいな前向きなパワーが出た曲になってると思います。『とある~』の世界観もしっかり出てるし、最終的にはみんなすごく気に入ってくれたから良かったかなって。
このアルバムを作るうえで必要な楽曲だったんじゃないかなって思います。
●M-8『live a lie』
川田:「ウソを生きる」って意味なんですけど……。私って自分のダメなところに目をそむけちゃんですよ。『live a lie』みたいなところが私はあるんです。でも今回のアルバムではそむけたくないし、私は「なんでそんな風になったんだろうって掘り下げよう!」って思ったんですね。それを全部書いちゃおうって。
で、詞の面でもチャレンジしたいなと思って、恋愛っぽい雰囲気の歌詞にしたんですね。でも恋愛の歌詞って自分のオリジナルで書いたことがないんです……。照れなのかもしれないんですけど、ピンとこないところがあって。だけど自分の未知の分野にも挑戦しようと思って書きました。
(作曲者の)C.G mixが書く曲は歌謡曲っぽい要素があったりするんですけど、今回はその要素もありつつ、ダンスっぽい曲にしてくれているので、ちょっと照れのある部分をタイトに見せてくれてるんじゃないかなって。だったら素直に書こうと。あと1stアルバムに入っている『IMMORAL』の路線を出せたらいいなとも思って歌いました。
●M-9『Midnight trip // memories of childhood』
──高瀬さんの曲ですね。つまり最後から2番目にできた曲という。
川田:そうですね。これは小さいころの思い出を語った曲で。『live a lie』では私の悪いクセを書いたんですけど私がもうひとつ引っかかっているのが、私のベースになっている家族のことなんです。
私はお父さんとお母さんに愛情を持って育てられてきたんですよ。弟とも仲が良いし、小さいころから何不自由なく育ってきたんですね。なのに、そこに不自由さを感じていたんです。……『TOY』の主人公って私なんですよね。
私は大人しいコだったんですけど、父親はすごく厳しいひとで、いつも親の顔色を見ていて、そこに窮屈さを感じていたんですね。でも結局何かをする勇気もなくて、そうやって生きてきたんですけど……夜、お父さんもお母さんも寝静まったときに、夜更かしをすることが最大の自由であり、悪いコトだったんですね。なにをするわけでもなく、ちょっと外を見たりとか、絵を描いたりするだけだったんですけど……自由を自分自身の手で動かしてるような感覚があって。
この曲を聴いたときに、星空が振っているイメージが沸いてきて、サビの終わりには子守唄みたいな雰囲気があるなって思ってたんですね。だから最初は子守唄みたいな路線の歌詞を書こうかなって思ったんですけど、だったら小さいとき夜中に感じていたワクワク感をストーリー仕立てで書いてみようかなって。守られてることに対する劣等感みたいなモノを曝け出すのも、私が裸になる部分での大切なポイントなのかなと。
親に対する感謝、逆らえない気持ちっていうのは今でも持っているんですよね。要は家族のことが大好きで守りたいんですよ。そういう意味でも、この曲は大切な1曲ですね。
●M-10『らせん階段』
──『Midnight trip // memories of childhood』から『らせん階段』の流れが良いですよね。
川田:実は最初はもっと違う曲順だったんですけど、この2曲を繋げたかったんですよ。後半に向けてドラマティックになっていく展開にしたくて。『Midnight trip // memories of childhood』では子供のころの気持ちを書いていますけど、『らせん階段』は大人になったいまの気持ちを表してます。
今回の取材で結構喋っていることなんですけど、この曲を書く前にテーブルをひっくり返したんですよ(苦笑)。これは6作目に手がけた曲なんですけど、この時期はすっごく煮詰まっていたんですね。で、いろいろな場所で作詞をしたんですよ。
自宅はもちろん、カフェやファースト・フードにも行ったり、事務所のボーカル・ブースで書いたりしていたんですけど、この『らせん階段』をレコーディングする予定の日の翌日が東京に仕事で行く予定で……そうなると、お昼に歌詞を完成させて夜にレコーディングしないと間に合わないっていうキュウキュウのスケジュールだったんですね。
ただ前日に録った『Going back to square one』(M-12)のレコーディングがすっごくうまくいったからめちゃくちゃテンションは高くて「私、1・2時間でもこの曲書ける気がする!」って感じだったんです。で、書いてたんですけど……スタッフに「まだ出来てないんだね」みたいなことを言われて、カチンときちゃってテーブルをひっくり返しちゃって(笑)。そんなこと人生初。最終的には罪悪感ばっかりでしたけど、その一瞬に我慢していたモノが爆発しちゃったんですね。
それで結局レコーディングを飛ばしてしまって……その間に反省しました。自分のことしか見れてなかったし、いっぱいいっぱいになっちゃってたんですよね。で、東京からの帰りの飛行機のなかで歌詞を書いて。2番はI'veのみんなや家族に……身近な人たちに対して書いている詞なんです。
10年くらいやらせてもらっていると、常に新鮮なことや新しいモノを見つけていくっていうのは結構大変で、アルバムの制作自体も煮詰まっていたんですね。人生ってまっすぐな道みたいだって例えられますけど、ホントはらせん階段みたいになってるんじゃないかなって。春夏秋冬同じおうちで毎朝「おはよう」って言いながら、どうやって少しずつ上に上がっていくかっていうのが人生なんじゃないのかなって……。だったら、そのらせん階段を明日は少しでも高くのぼって、今日よりも良い景色を見たいなって……。ごめんねって気持ちも込めた、前向きな楽曲になっています。
●M11『F』
川田:作曲者が中崎舞ってクレジットされているんですけど、これはユニット名なんですよ(笑)。中沢さん、尾崎さん、井内さんの名前が入ってるっていう。でも実は私も作曲に参加したんですよ。初の作曲です。ベースになっているコードだけは最初に作ってもらったんですけど、東京に仕事で来ているときにこのメロディーが浮かんで、ケータイのレコーダー機能を使って録って、メールで(I'veに)送って「これだったらいいだろう」と(笑)。
『F』ってタイトルはギターのコードのことなんですけど、最近ギターを弾いているので、そのなかで表現できたらいいなと。歌詞の内容はまんまですね。Fコードって難しいから挫折しがちじゃないですか。だけどその難しいことと今こそ向き合わなきゃいけないときなんじゃないかなって……未来に向かっていくためにっていうか。それをFコードに例えたって簡単なお話なんですけどね。周りのひとは「まみちゃんっぽい」って言ってくれますね。本来のわたしのイメージに合ってるみたいです。
──雨上がりの朝っぽいような、そんな幻想的な雰囲気が漂っている曲ですよね。
川田:そうですね。なんかボワーンとしている時間帯の楽曲っていうか……そういう時間帯に自分の気持ちをゴマかすことが多かったりするので。自分に対する戒めじゃないですけど、これからは自分で掴んでいくって強い気持ちも入っています。
●M-12『Going back to square one』
──アルバムのなかでも私がとくに好きな曲です。今までの川田さんと、新しい川田さんのイメージが重なり合ったかのような、洗練されたロックな楽曲ですよね。
川田:あ、嬉しい! 私もすごく気に入っているんですよ。振り出しに戻るって意味の曲で、これは4曲目に手がけた曲なんですけど、この曲を手がけた時期は『Borderland』の関係でよく東京を行き来していて、『らせん階段』を作詞した日とは違う日に、ラジオの収録で東京に行ってたんです。
そのときにすっごく反省する出来事があって……帰りの飛行機で「何やっているんだろう……」って追い詰めながら帰っていったんですね。そういうことは多々あるんですけど(苦笑)、昨日までうまくいってたような気がしていたのに、その手ごたえが一瞬にしてどっかにいってしまったんですよ。またイチからやり直しなのか、昨日までの良かった自分はどこに行ったの!? みたいな気持ちを全部ここに詰め込みました(笑)。そしたらすぐ書けたっていう(笑)。
だからこれは迷わず、殴り書きのように書いたら出来上がった曲なんですよ。ありそうでなかった曲ですよね。尾崎さんが単独で曲を書いてくれたことも大きかったのかもしれない。でもこういう曲のタイプって今までなかったのでレコーディングはちょっと大変でした。熱く歌いすぎないで、クールなところも出して……って考えながら歌っていったので、レコーディングが終わってからはすっごい充実感がありました。この曲が上がったおかげでラストの『Serment』にうまいこと繋げられたんじゃないかなと。
●M-13『Serment』(テレビアニメ『灼眼のシャナIII-Final-』2nd オープニングテーマ)
川田:『灼眼のシャナ』という作品に全てを捧げて書いた曲なので……シャナ作品に寄っているモノなんですけど、初心に返るような気持ちで書いた曲だったんですよね。『灼眼のシャナ』は最初から関わらせてもらっていた作品だったので、冷静にもう見れなかったというか……一緒に歩んできたイメージだったんですよね。
で、ちょうど作詞に入る前にある雑誌で、シャナがインタビューに答えていたんですよ。「メロンパンのどんなところが好き?」「サクサクでモフモフなところ」みたいな感じで、普通に答えていて(笑)。すっごく面白くて、買って読んだんですけど……質問に対して「それだけ」「あとはやるだけ」って答えていたんですよね。それを見て初心に返ったというか。あ、シャナってもともとこういうコだったなって。いろいろなことがあったけど、最後は凛としてスンとしたシャナに戻っていくっていうか……。
わたしもアルバムを作るにあたって「わたしってなにがやりたかったんだけ?」って思ったりもしたんですけど……自分自身もこの曲を歌ったことで戻るべき場所に戻してくれたというか。いつこの曲が冷静に聴けるかはまだ分からないんですけど、これしかないっていう形でアルバムを締めくくることができました。
●『Borderland』&『SQUARE THE CIRCLE』連動購入特典について
──5月30日(水)に発売されたシングル『Borderland』と『SQUARE THE CIRCLE』の連動購入特典CDは、『緋色の空』、『PSI-missing』、『No buts!』を豪華クリエイターがリアレンジという豪華な内容に仕上がっています。
川田:すごいんですよ! 「これはプレゼントするべきCDではないんじゃないの?」ってくらい(笑)。この企画が上がったとき、私自身が一番楽しみで。前まではいろいろな人たちと関わることで川田まみのイメージが壊れるんじゃないかって不安があって頑なにいつものメンバーで作らせてもらってきたんですけど、ある程度自分のイメージも出来上がってきたし、「どうぞ、自由に料理してください!」ってお願いしたんですよね。
──1曲目は藤田淳平さん(Elements Garden)が手がけた"『緋色の空』(テレビアニメ『灼眼のシャナ』オープニングテーマ)Re-arranged by Junpei Fujita(Elements Garden)"ですが、聴かれたときはどんな印象でしたか?
川田:Elements Gardenらしいといえばらしいんですけど、良い裏切りがあったというか。私がイメージしていたモノよりももっとジャジーで洗練されてたというか……。「あの『緋色の空』がこんな風になっちゃうの!? 」ってビックリしました。素晴らしいモノを作ってくれたなぁって。
──続くのは八木沼悟志さん(fripSide)による"『PSI-missing』(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録』オープニングテーマ)Re-arranged by Satoshi Yaginuma(fripSide)"なんですが、途中でfripSideの名曲『level 5-judgelight-』が入ってくるっていう(笑)。
川田:そうそう!(笑)。もうすっごい笑った、良い意味で。「きたよ、fripSideじゃん!」って。Elements さんの場合は良い意味での裏切りって感じだったんですけど、八木沼さんはど真ん中だったというか。最高の曲になったんじゃないかなって……あ~この曲を思い出しただけでニヤけちゃいますね(笑)。
今回の特典のジャケットがシャナとインデックスのコラボということで、その2つの作品からElementsさんと八木沼さんに選んでもらったんですけど「Elementsさんは『緋色の空』、八木沼さんは『PSI-missing』って言うんじゃないかな?」ってなんとなく予想していたんです(笑)。そしたらドンピシャで。ふたりとも素晴らしいモノを作ってくれて、本当にスペシャルな一枚になったんじゃないかなと。
──ラストは高瀬一矢さん&中沢伴行さんによる"『No buts!』(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』オープニングテーマ)Re-arranged by Kazuya Takase & Tomoyuki Nakazawa(I've sound)"です。
川田:この制作過程を見ていたんですけど、すっごく悩んでいましたね。もともとは中沢さんが作曲した曲なので、アレンジは高瀬さんがほとんど担当したんですけど、高瀬さんの持っているグルーブ感を大事にして欲しいって話をしたら「分かりました」ってかなり違った形のものを出してくれて、すごくお気に入りの曲になりました。いつかこのバージョンでライヴをやりたいですね。
●初回限定盤特典について
──初回限定特典には、Blu-ray封入 PV(緋色の空/seed/portamento)/MAKING OF SQUARE THE CIRCLE(制作ミーティング&レコーディング風景などを収録(32分))がつくということで。こちらも豪華な内容ですよね。
川田:PVは私が本当に大好きな曲を選びました。特に『緋色の空』は思い入れが強いんですよね。北海道で2日間かけて撮った曲で……今の私のイメージに通じるような曲にもなってると思います。『seed』はセットで撮ったのに海外に行ったかのようなスケール感のある映像になってるんです。
『portamento』はマイナス20度のなかで撮影したので顔がクッシャクシャで本来残したくない映像なんですけど(笑)、その過酷な撮影の厳しさみたいなモノがこの楽曲にすっごく詰まっているんです。楽曲のセレクトは偏っているかもしれないですが(笑)、ぜひ観てもらいたい。
メイキングには制作に入る前と制作が終わったあとの座談会の様子が入っていると思います。あとレコーディングや打ち合わせの風景も入っているので、アルバムが出来るまでの過程を楽しんでもらえればなと。
●『SQUARE THE CIRCLE』ジャケットについて
川田:せっかく『SQUARE THE CIRCLE』という言葉なので丸と四角をモチーフにしたジャケットにしたいなと思っていて。でも最終的にジャケットになった写真は、たまたま撮れたモノだったんです。
四角いハコと丸いモノ……ジャケットにも写っている電球などを用意してもらってその中で写真を撮っていったんですけど、四角と丸が一緒になったモノ──その場のノリで四角いハコのなかで私が丸くなってサークルを表現して撮ってみようかって話になって。そしたら「これで良いんじゃない?」ってアッサリ(笑)。
──(笑)。アルバムの内容はもちろん、アー写もジャケットもまみさんの素が出たような、すごく濃密なアルバムになりましたね。
川田:そうですね。より私というモノを投影できた作品になったんじゃないかなと。この7年はずっと川田まみ像と自分のギャップをいつも感じていたんです。「やっと追いつけたかな」「また離れたのかもしれない」って繰り返しをずっとしてきたんですけど、今回は何も考えず、スッと追い抜けた気がして。そもそも考えることではなかったんでしょうけど……。
いつも全曲好きなんですけど、なんだかんだいってお気に入りの曲があったりするんですよ。でもこのアルバムは全部が推し曲で、今回はもう分からないっていうか(笑)。ラジオでも「全部掛けて下さい!」っていう勢いなんですよね。ファンのかたに「しばらく良いや~」って言われちゃうんじゃないかなっていうくらい(笑)、おなかいっぱいの内容になっていると思います。いい形でできたので、あとはライヴに足を運んでいただければと思っています。
──では最後にライヴに向けてお一言いただければ……。
川田:近々、ライヴのイメージを変えようと思っているんですよ。「何かが変わった」っていうのは一目瞭然だと思うので、それはお楽しみにって感じなんですが……アニサマ(「アニメサマーライブ2012 -INFINTY ∞-」)からツアーに向けて変わってくるんじゃないかな。今言えるのはそれぐらいですね。
音の大きな変化はないですけど、川田まみの今後のイメージを想像して作ってもらった作品なので、それを具現化していきたいなって。今まさに札幌のみんなに頑張ってもらっているところです。ぜひ聴きこんで遊びにきてください。
――長時間ありがとうございました!
◆4th ALBUM『SQUARE THE CIRCLE』/川田まみ
発売日:2012年8月8日(水)
価格:
初回限定盤 3,800円(税込)
通常盤 3,000円(税込)
【初回限定盤特典】
・Blu-ray封入 PV(緋色の空/seed/portamento)
・MAKING OF SQUARE THE CIRCLE(制作ミーティング&レコーディング風景などを収録(32分))
【収録曲】
SQUARE THE CIRCLE
No buts!(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』OPニングテーマ)
my buddy
Don’t stop me now!
Clap!Clap!Clap!
Usual…
See visonS(テレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』新OPニングテーマ)
live a lie
Midnight trip // memories of childhood
らせん階段
F
Going back to square one
Serment(テレビアニメ『灼眼のシャナIII-Final-』2nd オープニングテーマ)
>>川田まみ Official Web Site
[インタビュー&文・逆井マリ]