新アニソン通信 FILE.06 霜月はるかさん(後編)
毎回、アニソンを歌うアーティストをクローズアップしていく『新アニソン通信』。今回はこれまで様々なアニメやゲーム、ファンタジー作品の歌を400曲以上担当し、いつも素敵な歌声を提供してくれる、霜月はるかさんの音楽のルーツと今を2回に渡ってお送りしています。
後編の今回は、魅惑のブルガリアンボイスの誕生秘話、そして8月29日にリリースするMF文庫J 10周年記念イメージソングコンピレーションアルバム『うたJ』で歌われている『星刻の竜騎士(ドラグナー)』のイメージソング『Astral Flow』と、このアルバムの聴きどころ、そして今後の目標についてお話しいただきました。
特長のブルガリアンボイスはカルチャースクール仕込?
――霜月さんと言えば、多重録音のコーラスやブルガリアンボイスで知られています。どんなきっかけでそれらの手法を自分の音楽に取り入れようと思ったんですか?
霜月はるかさん(以下、霜月):多重録音はガストさんの『イリスのアトリエ エターナルマナ』というゲームで、主題歌『白夜幻想譚』を歌わせていただいた時にこういう歌い方をやってみてくださいと言われたのが初めてで。民族的な歌い方で、いっぱい重ねて録るというやり方を要求されて、見よう見まねでやりました。
ただ当時の自分がやったことがなかったし、クセがある曲だから反応がすごい怖くて。それまではふわっとファンタジックな曲を歌っていて、土着的な音楽をやっていなかったからドキドキしたけど、結果的には気に入ってくださる方が多くて。そこで多重録音に目覚めて、その後も『イリスのアトリエ』シリーズや『アルトネリコ』などのガスト作品でやることが多かったですね。
そのタイミングでブルガリアンボイスに興味を持って、一度習いたいと思って、片霧烈火ちゃん達と池袋のカルチャースクールに習いに行きました。それで音楽の仕組みや歌唱法を教わって、おもしろいから取り入れようと。それで自分のオリジナル曲や『アルトネリコ』などで使って、それを聴いて依頼をくださった方からは「ちょっとブルガリアンっぽい感じでお願いします」と。習いに行ってよかったと思いました(笑)。
――霜月さんのルーツの中にあるものと思っていたので意外でした。
霜月:もちろんゲーム音楽やZABADAKの音楽など、聴いている曲には要素として含まれていたけど、特殊なものだと思っていたし、独学ではできないだろうと。自分の声でできるのかもわからないし。本場のものではないけど、楽曲制作の中のテイストの一つとして入れ込めるようになったことは大きいですね。
また多重録音は志方あきこさんや、みとせのりこさんもやられていますが声質によって重なり方が全然違うので、より声質の個性が出る分野だと思うんです。だから多重録音は私なりの個性になっているのかなという気がします。
様々な楽曲やディレクターとの出会いが生んだレインボーボイス
――声色の多さや表現方法の多彩さも素晴らしいですね。合唱部での経験が活きているのでしょうか?
霜月:昔はいろいろな歌い方ができるほど器用なタイプだと思ってなくて。合唱は人と合わせなきゃいけないから、基本的に個性を失くす方向で練習してきて。だからソロで歌うことになった時、自分らしく歌わなきゃいけないから悩みました。そういう意味でソロとコーラスはまったく違うもので。
ただ声質や歌い方の変化は練習していたので、できたし、合唱をやっていたことで、コーラスができることは私の武器になっています。あとはいろいろなジャンルの曲を歌わせていただいたことですね。
――オーダーされたディレクターさんは霜月さん自身が気付かない魅力や特性が見えていたのかも。
霜月:そうですね。『白夜幻想譚』のように、自分がやったこともなく、引き出しにもないと思っていたものを引き出してくれるディレクターがいて、自分なりにやっていく中で苦手意識があったものも回を重ねていくごとに「この間の曲と同じ感じでやればいいんだ」と思えるようになって。2003~2004年に歌った曲はどれも苦手意識があるものばかりで。最初はスピード感のある四つ打ち系の曲が苦手で。まあ3拍子の曲以外、苦手だったんですけど(笑)。
ポップな歌い方も苦手だったし、土着的な歌い方もできなかったので苦労したのを覚えてるけど、いつの間にか自分の中で吸収できて、オファーもいただくようになって。Sound Horizonでもいろいろな歌い方を求められるし、こだわりのあるディレクターとのお仕事はやりがいもあるし、勉強になります。だから今では歌に関しての苦手意識はなくなりました。それにレベルアップライブでも「霜月さんの歌い方がころころ変わっておもしろいです」と言われて(笑)。
――400曲以上歌っていれば、ライブではいろいろな面を見せたいと思いますよね。
霜月:思います! ボーカリストとしていろいろな楽曲を歌っているんだよと知ってもらうために、ユニットのステージや、『アルトネリコ』など多重音楽をやるコーナーを作ったり、バンドサウンドやバラードなどを様々なものを入れようと思うし、アルバムもいろいろな歌い方の曲を楽しんでもらいたいという気持ちもあります。
●MF文庫J 10周年を記念コンピレーションアルバム『うたJ』に参加!
――人気ライトノベル、MF文庫Jの10周年を記念した『うたJ』が8月29日にリリースされます。そちらに霜月さんも参加されていますが、まずどんなアルバムなのかご説明してください。
霜月:MF文庫Jで人気の5作品のイメージソングを収録したアルバムです。小説の世界を歌で表現するというのはおもしろい企画だなと思いました。私は瑞智士記先生の『星刻の竜騎士(ドラグナー)』のイメージソング『Astral Flow』を歌わせていただきました。レコーディング前に原作を読ませていただいて、実際に歌ってみると作品の世界やキャラ達が動くイメージが鮮明に広がって。原作ファンの方に楽しんでいただけるのではないでしょうか。
また、自分が担当した以外の収録曲も聴かせていただきましたが、個性的な歌い手さんによる曲もあれば、キャラソンの形になっているものもあり、しかもファンタジーからラブコメなどジャンルも幅広い。だから作品自体を知らないで聴いても作品世界の一端が感じられて、その原作への興味も湧いてきて。小説と音楽が融合した素晴らしい企画だなと思います。
制作担当:ありがとうございます。曲を作ってくださる作家さんに、文字を音楽に形を変えるとどんな可能性があるのかという企画趣旨をお伝えして、原作を実際に読んでいただいて。作品とクリエイターさん、歌い手さんのコラボレーションになっています。好きなマンガや小説を読むときに、それに合う好きなBGMを聴くときのようなノリで、プロの方に自由に作ってもらったらどうなるのかということをやってみました。
霜月:中学生くらいの時、小説のイメージアルバムが流行って、私もよく聴いていたので、その頃、楽しんでいたことを思い出して懐かしくて(笑)。そこから主題歌を歌っていた歌手の方に私も興味を持ったりしたので、音楽が入口となって作品に興味を持ってもらったり、作品のイメージがより膨らむお手伝いができればいいなと。
●『星刻の竜騎士(ドラグナー)』のイメージソング『Astral Flow』は原作の瑞智先生も作詞・作曲を担当!
――霜月さんの歌っている『Astral Flow』は瑞智先生ご自身が作詞・作曲に関われています。
霜月:原作者の方が詞を書かれているので、原作に寄り添っていて、どんな世界、どんなキャラで何を伝えたいのかがすぐにわかって、歌いやすかったし、ありがたかったです。先生と共作の形で作詞・作曲されている稲井ゆうさんのアレンジも含めて、世界観にピッタリで、キャラの気持ちも原作そのままで。私も表現する時、キャラの心情をつかみやすかったです。瑞智先生にも気に入っていただけたと聞いてうれしかったです。
――ところで瑞智先生は作詞だけでなく、作曲もされていますが、音楽をやられているんですか?
制作担当:執筆活動をされながらニコニコ動画にボカロ曲の投稿もされているそうです。今回のお話を持っていった時、「採用されなくていいからデモを出させてほしい」と言われて、ぜひとお願いしましたら、2曲も作ってくださったんです。歌詞も含めて1コーラス分あったので、それをお預かりして、稲井さんがデモのイメージを膨らませて、2コーラス分の編曲と2番の歌詞を作ってくれました。
霜月:私も自分原作のオリジナル作品の曲を作る感覚はわかるのでシンパシーを感じました(笑)。瑞智先生も自分の中にあるイメージを表現する方法が小説だけでない方なんですね。
●竜飼い・アッシュと竜の子・エーコが出会う前をドラマチックに描いた楽曲
――『星刻の竜騎士(ドラグナー)』を読んでみての感想は?
霜月:ファンタジー世界のお話で、竜飼いの主人公・アッシュとドラゴンの子でパートナーのエーコとの関係性がおもしろく、また他のキャラも魅力的かつ個性的だなと思いました。アッシュはかっこよく女の子たちもそれぞれの境遇や想いを抱えててすごく可愛いので、楽しませていただいています。
――『Astral Flow』はどんな曲ですか?
霜月:アッシュがエーコと出会う前、目覚める前からつながっていたんだよという内容です。
制作担当:レコーディングで「ここはまだ目覚めてなくて、後半で出会うから」と感情の流れを理解されていたので収録もやりやすかったです。
霜月:詞の流れがそうなっていたんです。最初のうちはアッシュとエーコはまわりの同じ立ち位置の人達よりも出会いが遅く、絶望感や無力感があって。でも“キミだけがボクを呼びさます キミだけが思い描く場所で 出会えること信じて”とあるように、深いつながりは感じていて、出会えることを確信しているという流れが詞と曲からできていたので、どう表現するかは意識しました。
またディレクターさんもイメージを持っていらして、「このサビの部分は勢いで前に出すよりは透明感や雰囲気を大切にしてほしい」とか「ただ攻めていくだけの曲ではなく、どんどん心情変化が起こっていくのでそっちを大事にしましょう」というお話がありました。あと「ここは宇宙を感じて」とか(笑)。
●曲の中で流れる感情の変化を楽しんでほしい
――確かにファンタジー作品らしく勢いがありながら、霜月さんのボーカルからは優しさも感じられました。
霜月:こういうタイプの曲はあまり歌ってきていない上に、メロディ的にも相当難しい曲で(笑)。でもディレクターさんと稲井さんと現場でディスカッションしながら固めていきながら作っていって。お二人共、私の『アルトネリコ』の曲を聴いてくださっていたので、そこもやりやすい部分ではありました。私も作り込みをさせていただいて、自分的にも気に入っている曲になりました。
――気に入っているフレーズと聴いてほしいポイントは?
霜月:流れを一番意識したのが2コーラス目のBメロの“生まれてくるよ…もうすぐ”です。エイコとの出会いが近づいて、希望に向かって広がっていく雰囲気を意識した部分で気に入ってます。空間的な広がりと感情の流れのある曲なので、感情の変化も楽しんでほしいです。あと1巻の内容そのままなので、原作から曲、曲から原作どちらからでも楽しいけど、私は読みながら聴くのが一番かなと。
●『うたJ』の豪華特典に霜月さんもビックリ!?
――5曲のイメージソング以外にも『うたJ』はお楽しみがいっぱいで。ジャケットは『変態王子と笑わない猫』のイラスト担当のカントクさんが描いていて。
制作担当:MF文庫Jを読んでいそうな、読書好きのかわいいオリジナルキャラを描いていただきました。MF文庫Jのレーベルカラーのグリーンもあしらったかわいい女の子が目印です。またMF文庫Jの人気作品のキャラ達が描かれたアナザージャケットも10枚ついていて、半分が描き下ろしです。収録作以外の作品やアニメ化された人気作品の原作イラストも入っていて、MF文庫Jの歴史がわかります。
霜月:すごい豪華ですね!
制作担当:しかも7月のMF文庫Jのイベントと、コミックマーケット82で発売した限定盤と、今回の通常盤はアナザージャケット10枚がそれぞれ違うので、限定盤を持っている方もいかがでしょうか?(笑)
霜月:(笑)。紙質もいいのがうれしいかも。あとブックレットにもイラストがあって。
制作担当:さらに「音楽」をテーマに小説も2ページずつ書き下ろしていただいています。キャラがカラオケに行ったお話やこのキャラは実はこんな楽器が得意、とか、このCDでしか読めないエピソードばかり。
霜月:すごく読みたくなりました! それぞれの原作ファンの人には追加エピソードはうれしいし、まだ読んだことがない人には雰囲気や世界観をつかむ絶好のチャンスですね。
制作担当:はい。収録曲5曲の中で『この部屋は帰宅しない部が占拠しました。』のイメージソングはゆすら役の下田麻美さん、『しゅらばら!』は真愛役の悠木碧さんが歌ってますし、歌い手さんお目当てで買ってくださった方も、ここからMF文庫Jの作品に興味を持ってもらえたらうれしいです。
●原作、音楽どちらを入口にしても楽しめる1枚
――でもお高いんでしょう?(笑)
霜月:なんで、いきなり通販番組ノリ?(笑)
制作担当:税込2,000円です。コミケで販売するのでお釣りが出ないように。あと読者の方が中高生が多いので、手に取りやすい価格にしたいと頑張りました!
――このアルバム全体の聴きどころをお願いします。
制作担当:このアルバムを聞いて、小説を読んでみたいなと思っていただけたら幸せです。さらには、この曲たちの「続き」も聞いてみたいな……となればうれしいです!
霜月:各歌い手さんのファンの方とのマッチングも絶妙ですね。私のファンの方も『星刻の竜騎士(ドラグナー)』は好きなタイプの作品だと思いました。この曲を私が歌ったことがきっかけで作品を知ったり、好きになったりとつながってくれたらこんなにうれしいことはありません。
●ファンタジックな音楽世界を追求しつつ、楽曲提供など新たな挑戦も続けたい
――アーティスト、クリエイターとしての今後の展望、目標をお聞かせください。
霜月:シンガーソングライターとしてのファンタジックな世界観、物語を音楽で表現していく活動はライフワークとして続けていくつもりです。また楽曲提供など、新しいことへチャレンジする意欲は一層強くなってきているので、留まることなく可能性を追求していきたいです。
音楽は単独でも楽しいけど、企画や物語とリンクする音楽も好きなので、今回の『うたJ』もそうですし、アニメやゲームの曲もそうですが、別メディアと絡む楽曲にずっと携わっていきたいので頑張ります!
――では最後にメッセージをお願いします。
霜月:まずMF文庫J、10周年おめでとうございます! 『うたJ』はフィーチャーされた作品を知らなくても、音楽を入口に作品の魅力に触れることができるアルバムだと思います。アナザージャケットや書き下ろし小説など特典も豪華で、聴いて、見て、読んで楽しんでください!
そして『ティンダーリアの奏』と『蝶ノ在リ処』は私がこれまでやってきた音楽&創作活動がわかるCDになっていますので、この記事をご覧になって興味を持ってくださった方は聴いてみてください。ショップ販売も8月22日から始まるのでぜひ! 秋以降もいろいろな予定があります。これからも私が作って、奏でる音楽を楽しんでいただければうれしいです。
My Favorite CD
以前、Revoさんと登場させていただいて『アニソン通信』の取材でもお話しましたが『聖剣伝説2』のサウンドトラックです。実は『アニソン通信』の記事を作曲家の菊田裕樹さんがご覧になってくださったそうで。それとkukui『ローゼンメイデン』のED曲「透明シェルター」を気に入ったことをブログに書いてくださって。その後お会いしてご挨拶する事もできたので、『アニソン通信』には感謝しています(笑)。
今でもフレーズをかなり覚えているレベルで。ゲーム自体もハマったけど、音楽もゲームの世界観にマッチしていて、毎晩聴いてゲームのシーンを思い出して(笑)。今、聴くとすごいプログレなんですよね。耳コピしようと解析しても難しい曲ばかりで。実は結構マニアックな事してたんだ(笑)と音楽を始めてから知って。
あと『ドラゴンクエスト』のサウンドトラックも大好きです。8BITのファミコンだと4音しかないのにこんなに壮大なのかと感じさせてくれるところはすぎやまこういちさんのすごさで。オーケストラの曲を書くつもりで作っているというお話を記事で読んで驚きました。ファミコンやスーパーファミコンの限られた音源の中で作っているからこそ、想像力をかきたてられたり、イメージが頭の中で広がって、そこにひかれます。
INFORMATION
イベント限定盤 通常盤 |
MF文庫J 10周年記念イメージソングコンピレーションアルバム『うたJ』 |