『吉田尚記がアニメで企んでる』、第9回放送のゲストは『009 RE:CYBORG』の神山健治監督
NOTTVで毎週火曜日、20時から生放送中の番組『吉田尚記がアニメで企んでる』(再放送は日曜12:00?12:58)。司会はアニメ好きとして知られるニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。この番組は毎回アニメクリエイターをゲストに招き、制作現場の裏側を紹介するバラエティートーク番組だ。
6月11日のゲストは、『攻殻機動隊 S.A.C.』や『東のエデン』、『009 RE:CYBORG』の監督として知られる神山健治監督。吉田アナが「アニメ監督のなかでダントツにオシャレ」とスタジオに神山監督を招き入れると、神山監督は照れながら「まさかそう来るとは思わなかった……」とコメントし、訪れた観覧者やスタッフを笑わせた。
約10年前に作った『攻殻機動隊 S.A.C.』がいまでもカッコイイ理由は?
神山監督が『攻殻機動隊 S.A.C.』を作ったのは約10年前。当時は携帯電話で短文のメールしか送れない時代だ。そんなころに作った作品がいまでも色あせずカッコイイと思えることを疑問に思った吉田アナは、神山監督に制作当時のころを質問した。すると神山監督は、「サイバーな世界観を難しく見せるのではなく、なるべくわかりやすく見てもらおうと思って制作した」と返答。しかも、脚本に取り掛かったのはさらに昔で、なんと携帯電話で写真も撮れないころだと言う。神山監督は当時を振り返り、「これからの未来、どんな時代が来るのかをスタッフたちと想像しながら作った」と制作現場の様子を紹介した。
『攻殻機動隊』の舞台は2030年。いまから10年前に、そんな未来の映像を作ることについて神山監督は、「僕らが住んでる世界からかけ離れ過ぎると絵空事に見えてしまう。現実と遜色ない舞台を描かなければならない」と言う。作品のジャンルがファンタジーやサイバーパンクの場合は、そこで生きている人間や風俗はリアルに近く描く必要があるそうだ。そもそもアニメはすべてが絵なので、映像としては偽物。そこにちょっと現実を入れると、世界観がリアルに感じられるというのが神山監督のセオリー。この手法を聞いた吉田アナはうなずき、「なるほど!」と感心していた。なお、この手法は神山監督が2007年に発表した『精霊の守り人』まで使っていたそうだ。
続いてのテーマは『攻殻機動隊 S.A.C.』のストーリーについて。神山監督は「希望のある未来が描きたかった」と語る。それまでSF作品と言えば比較的に暗い未来が描かれていたが、神山監督は「自分たちが作り出したテクノロジーが人類を幸せにしていく。なにかを失うけど、新しい希望があるような話を目指した」と言う。しかし脚本を書き始めたころは具体的なアイデアはなく、作りながら答えを見つける困難な作業だったようだ。
3DCG技術の研究をしながら制作した『009 RE:CYBORG』
3DCGで作られ話題となった映画『009 RE:CYBORG』。原作が大好きな神山監督は、「僕らの世代は石ノ森 先生のヒーローで育ってきた」と語る。しかし思いが強いだけに制作に取り掛かる前段階から苦労したようで、「レトロフューチャーになっていた『009』を改めて作るとしたらどうしたらいいか? ハイテクの未来を『009』に持ち込んだら世界観が壊れてしまう。どうやったらいいか?」と、頭を悩ませたそうだ。
苦労はそれだけではない。この作品は3DCGで作られた映画なので、それに伴う苦労がとても多かった。吉田アナは「2Dのアニメ監督のなかで、神山監督は間違いなくトップ。なのに3Dを取り入れたのか?」と疑問をぶつけると、神山監督は「サンジゲンという会社と出会えたのが大きい。3DCG作品として踏み切ることができた」と答えた。しかし、それでも当時は3Dアニメーターの数が少なく、アニメの制作と開発・研究を同時に行なわなければならなかったそうだ。制作をしながら3DCGの開発・研究を行なう行為は大きなチャレンジ。神山監督は「これが失敗したら日本の3Dアニメの将来が暗くなるので、失敗するわけにはいかなかったですね」と笑顔でコメントした。制作当時に苦労が大きかった分、いまではいい思い出なのかもしれない。
番組終了後に神山健治監督にインタビュー
──放送のなかで3DCGでアニメを制作する過程を、苦労されているはずなのに笑顔でコメントしていたのが印象的でした。
神山さん:あははは! そうですか?
──神山さんは3DCGアニメの第一人者ですが、苦労されたエピソードをいくつかお聞かせいただけますか?
神山さん:セルシェードの技術自体はありましたけど、それを量産していく体制はなかったですね。一番たいへんだったのは、立体視にしていくこと。番組中ではほとんど説明できなかったのですが、視点をちょっとずらしたまったく同じ絵を2個作るんですね。その際、片方の絵が少しでもおかしいと、立体で見たときになにかがモヤモヤして見えるんです。わかりやすいミスであれば修正箇所を見つけられるのですが、「なにがダメなのかわからないけど明らかに気持ちが悪い」というときは、その場所を探す作業がたいへんでした。
──それは明らかにアニメ監督の仕事ではないですね!
神山さん:そうですね。「オレの仕事じゃねぇなぁ」と思いながらやってました(笑)。それでも僕がトータルで「いい」と思える基準でステレオグラフ(立体視)を作りました。ある程度の数値化はしていましたが、でもやっぱり統一していくのは僕がやるしかなかった。ディレクターの鈴木大介さんとふたりで、1200カット近くある作品のチェックをすべて行ないました。
──1200カットもですか!?
神山さん:しかもリテイクなしで1発でオーケーだったカットは1割くらいだったと思います。すべてのカットでなにがミスしているのかを見つけ出し、それをどうやれば直せるかを解明していきました。視差の数値を見なおして、修正してもらう地道な作業です。
──それて再レンダリングするのですね。とんでもない時間がかかりそうです。
神山さん:1カットくらいならレンダリング自体はそれほどかからなかったです。あとはミスしているコマだけを直すこともありました。そもそも膨大な数のカットを修正すること自体が苦労しました。
──その次にタイヘンだったことは?
神山さん:モデリングかな? 1カットしか登場しない物体でも、3Dのモデルを作らないと登場しませんから。必要だけど作れなかったものはたくさんありましたね。
──それは監督として歯がゆかったのでは?
神山さん:歯がゆいんだけど、それを作るんだったら他のところに力を注ごうと、その判断をするのも僕の仕事でした。仕方ないものは欠番にするとか、本当は必要だけどなくても破綻しない見せ方を考えたりしました。モブキャラに関しても、本来は最低でも50体くらい作ろうとしていたのに、おそらく20体くらいしか作れなかったんじゃないかな? 10人くらいしかいないのに、頭をすげ替えたりして、バレないように自然に見せるにはどうしたらいいかを考えました。
──3DCGアニメならではの苦労ですね。
神山さん:そうですね。そして、その次の苦労がスケジュール。自分が演出したいものに限りなく近い映像にするにはどうしたらいいかを考える。だから本来の演出だけでなく、開発を含めた演出まで先回りして考えなければならないのでタイヘンでした。ですが、二度とやりたくないかといわれると、そうじゃないです。またチャンスがあれば、ぜひやってみたいです。
──せっかく得た技術ですから、再び活かして作品を作っていただきたいです。
神山さん:「答えを見つけていく」みたいな作業って、すごくおもしろいんですよ。答えは絶対にありますから、作品をおもしろくしていくのとは別に、作品作りのカタルシスみたいなものかな? 3DCGならではなのかもしれません。
──番組中に紹介されたシーンは「手描きでは作れない」とおっしゃっていましたが、絶対にムリですか? 経験豊富な神山さんがそう言うのは驚きました。
神山さん:う~ん、少しくらいは可能かもしれないけど、カメラが回り込みながらのスローシーンはムリですね。チカラ技でやればできないこともないですが、スタッフが疲弊します。
──3DCGがとてもたいへんなのはわかりましたが、神山監督が次に作りたい作品は、3Dですか? 2Dですか?
神山さん:もし機会をもらえるのであれば、3Dで作りたいです。
──その3Dもセルシェーディングで表現しますか? ツルツルの3DCGの可能性は?
神山さん:いまのままのセルシェードのほうがいいと思います。質感のあるCGでの表現はまったく別物になってしまいます。あれは人形が動いていて表現できるストーリーでなければならならいんです。僕が表現したいものとはちょっと違うかもしれませんね。
──神山さんが考えるアニメ監督として、もっとも大事なスキルは?
神山さん:「作りたい」という思いが強ければ、それだけでいいと思います。作りたいヤツが作ればいいんです。これはスポーツ選手と同じじゃないですか? 一番「メダルを取りたい!」と思ってる人間が取る。技術的なことは人それぞれ方法論が異なるので、一概になにが必要とはいえないと思いますね。
「吉田尚記がアニメで企んでる」
NOTTV 毎週火曜 20:00~20:58 生放送 (再放送:毎週日曜 12:00~12:58)
ニッポン放送 毎週日曜 25:30~26:00
今後のゲスト
7月9日「銀魂」の藤田陽一、樋口弘光
NOTTV100契約突破を記念して、7月14日(日)12:00~公開生放送が決定!
「吉田尚記が代アニで企んでる」~ハナガサキマクリ 惡の華 in よアニ~
ゲストは「惡の華」監督・長濵博史、原作・押見修造、春日高男役・植田慎一郎 他
観覧の応募方法等は番組サイト http://tv1.nottv.jp/anime/yoani/ をご覧ください。
<放送内容>
“今、自分がいちばん見たい番組を作る”というコンセプトのもとに吉田尚記が話題のアニメに仕掛けます!
アニメ界にその名を轟かすカリスマアナウンサー、ニッポン放送の吉田尚記(よしだひさのり)が“今、自分がいちばん見たい番組を作る”というコンセプトのもとに、ラジオだけではできない、テレビだけでもできない、NOTTVだからできる「企み」を話題のアニメ作品に仕掛けていきます。
作品作りにこだわりぬいたクリエイターの核心に迫るアニメファンのためのアニメ新番組。
<出演者>
吉田尚記
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