富野由悠季さん&細田守さんが『イデオン』を語る。ハイビジョン版『伝説巨神イデオン』テレビ初放送記念・対談レポート&インタビュー
2014年3月16日より、BSデジタル放送局「WOWOW」において、ハイビジョン版『伝説巨神イデオン』が、テレビで初めて一挙放送されることが決定した。
今回の放送では、1980年から1981年にかけて放送されたTV版(全39話)に加え、後に制作された劇場版『接触篇』および『発動篇』が一挙に放送される。
2月某日。そんな『イデオン』の放送に先立って、同作の総監督にして『機動戦士ガンダム』シリーズの生みの親としても知られる富野由悠季さんと、『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』を手がけた細田守さんによる対談の場が設けられた。本稿では両氏による対談の様子をお届けする。 記事の後半には、対談後に行われたインタビューの様子も掲載するので、そちらも合わせてチェックしてほしい。
■富野さん「(細田さんは)倒すべき敵」
収録が始まり、対談の口火を切ったのは富野さんの「(細田さんは)倒すべき敵です」というひと言。
「同時代、同時期にやっていた人と切磋琢磨していくというやり方もあるんですが、60くらいになってそれをやっていると、自分が老けるってことがハッキリと分かってくるんです。だから、若手が出てきてくれないと困る」と、発言の意図を語った。
それに対して細田さんは「親世代の方が、自分が子供の頃に作品を通して語りかけてくれる。その頃に仰ぎ見た方が、自分が作り手になっても作品を作り続けていてくれる。それが後進の自分としては、すごく嬉しいことだと感じています」と、ちょっと恐縮したような様子で言葉を返す。
その後も、富野さんが経験した初期から現代までにおけるアニメシーンの変化や、現代の「インターネット動画文化」を切り口とした映画制作論など、様々な要素に焦点をあてられた。もちろん、両氏が『イデオン』について語るシーンも。そんな対談の様子は、『「伝説巨神イデオン」WOWOW放送記念「富野監督×細田監督」対談』として、番組特設サイトで公開中。対談の内容が気になった人は、WOWOWホームページにアクセスしてほしい。
■ 収録後インタビュー:現代の社会に『イデオン』が与えるものとは
――まずは、収録を終えての感想をお聞かせ下さい。
細田さん:僕が『イデオン』をテレビで観たのは、まだ中学1年生で、劇場版は中学2年生の頃でした。その頃は、まさか富野監督と一緒に『イデオン』の話ができるだなんて、夢にも思っていなかったことなので、すごく光栄に思っています。
富野さん:WOWOWとかケーブルテレビ局がこれだけ日常的な物になっていれば、再放送されることは当たり前だろうとも思えるけど、そうじゃないんです。そんな状況の中で自分の作品が放送されることは、本当にありがたいことだなと思います。
今回の対談で、『イデオン』が今、アニメの監督をしている人が業界に入る足掛かりになっていることを知ることができました。だから、僕自身「よくやった」と思えるし、改めて「細田は倒すべき敵だ」と分かるから、そりゃ嬉しい。だって、こういう対談の機会がなければ、「嬉しい」っていう話もできないんですよね。
細田さん:そうですよ。この番組の対談が無かったら、僕もひとりWOWOWの放送で『イデオン』を観て「すげえ!」って言ってるだけですからね(笑)。
富野さん:そういう意味では、今回の対談は本当にありがたいし、「人生、頑張れるうちは頑張っておいたほうがいいよ」とファンの方には言いたいなぁ。
■ 『イデオン』がいまテレビ放送される理由、そして意義は?
――『イデオン』が地上波で放送されることに関しての感想などはありますか?
細田さん:TVシリーズを見返す機会って、なかなかありませんよね。ついショートカットして劇場版の『接触篇』と『発動篇』だけを観ちゃったり。今回は、その『イデオン』を1話から劇場版まで通して観る体験ができるわけですよ。VHSやDVDみたいな媒体に録画してある画質じゃなくて、ハイビジョンテレビに合わせた画質で観られる。これは、すごく良いチャンスなんですよ。
富野さん:『イデオン』という作品は、これまでそういう機会に恵まれなかった稀有なシリーズでもあるから、確かに、この機会は貴重です。
細田さん:なまじ『接触篇』があるもんだから、どうしてもショートカットしちゃいますよね。……できれば、『接触篇』を抜いて観ると良いかもしれません(笑)。
富野さん:そうだ! 『接触篇』はオンエアしちゃいけないんだ!
(スタッフ):オンエアは、させていただきます……。
一同:(笑)
――『イデオン』(1980年放送)から34年が経ちました。富野さんから見て、現代の社会はどう映りますか? また、34年という時間を経て『イデオン』が放送されることの意義について、お話いただければと思います。
富野さん:インテリジェンスの在り方という話になるんですけれど、この数年で政治経済はあらゆる面で劣化しているような気がしています。だから『イデオン』的な物語を今オンエアすることに関して、実は過去作の再放送だと思っていない部分があります。むしろ、今、『イデオン』を観て、大人たちの抱えている現状を再度考え直してほしいですね。
例えば自分たちが使っているパソコンって、パスワードを入れないと使えないですよね。パスワードを入れないと使えないって道具は変だとは思いません? だって、自分が現金という権利を行使して買ったのに、パスワードを入力しなくちゃいけない。もっと酷い例は、ソフトウェアを使ってると「ここをクリックしたらもっと使いやすくできますよ」といった指示が入ったりしますよね。これはもう「道具」じゃないと思います。でも、それに対してクレームを付けた人が今日現在誰かいますか?
この状態が進むと、自分で作ったものなのに、メーカーから「うちのソフトを使っているから、うちに著作権がある」と言われるかもしれません。もし、そう言われたらどうします?
現状を見直すと、個人の領分にまで手を出して、侵害しているのが現実です。こういう現実に対して、みんなが平気でいることは危険だなと思ってしまう。時代が進むにつれて物に対しての見方や、姿勢がすごく曖昧になっているとも言える。そう考えると、この20年間で人類の知的レベルは劣化していると言えますね。
――そういう意味で、『イデオン』という作品は現代の若者に訴えかけるものがあると。
富野さん:あると思っていますよ。
細田さん:常に世の中の変化の中で価値が変わっていく作品もあれば、変化しても変らない作品もあります。『イデオン』というのは、変らない作品だと思うので、今の人がどんな状況で、どんな文化的な積み上げがある人でも、同様に楽しめると思いますけどね。
■ 二人の巨匠がお互いの影響関係を語る
――細田さんは『イデオン』によって、どんな影響を受けましたか?
細田さん:『イデオン』くらい巨大なテーマを扱っている作品って、すべての映画やテレビを含めても、ほかにあるのかと思います。改めて映画史なぞって作品を色々と観ていくと『2001年宇宙の旅』(1968年公開)なんかが出てくるんですが、僕としては『イデオン』が先で『2001年宇宙の旅』を後から観ているんですよ。
アニメーションを観ることで、実写の映画史にもう1回出会える。先に『イデオン』を知っていることで、映画史への理解がより深くなるんです。こういった出会いが、今の映画を作る自分に繋がっているように感じます。
――富野さんは、細田さんの世代の作品から、どういった点を参考にしたいと感じますか?
富野さん:僕の作品を観て、後から『2001年宇宙の旅』を観たということは、当然「それがどういうことか」ということも考えたはずですよね。作り手の僕は『2001年宇宙の旅』を観て、映画の中に足りないものがあると感じ、どう補完するかを考えて、『イデオン』を作ったわけです。
作家論ではなくて、組み合わせ論ができる職人だったら、このもの作りはできます。僕の場合は、TVアニメと巨大ロボットというジャンルがあったおかげで、『2001年宇宙の旅』をベースにしてそういうことがやれました。でも、それができてしまったことで、そこから自分の劣化の歴史を経験するわけです。
また、『2001年宇宙の旅』の影響で『イデオン』が作られたように、「ああ、今のアニメはこういうやり方をしているんだ」と新たな影響を受け入れられたのが細田作品でした。だから、僕もムキになって「細田は敵だ」くらいに思っていないといけないんです。
――先駆者として、後進の人間に「敵と認めているぞ」とは、なかなか言いにくいようにも感じられるのですが。
富野さん:ひょっとしたら、僕にもそういう時期がありました。この歳になって、それが言える自分になれたという意味では、自分のことを偉いと思っています(笑)。同時に、そう言える人が身近に居てくれることは、本当にありがたいですね。
人を憎むと、その憎しみの気分というのは、ぜんぶ自分に帰ってくるんですよ。だから、人はみんなを愛さなきゃいけないんです。
細田さん:イデが根絶やしにしようとしたものは、その辺(憎しみの気持ち)ですよね。
富野さん:そうです。
■ 富野氏がいま語る『ガンダム』と『イデオン』
――富野さんの中で『イデオン』と『ガンダム』は、それぞれどんな位置づけの作品だと考えられていますか?
富野さん:『ガンダム』があったおかげで、今日までの暮らしが成立しているという部分もありますので、率直にありがたいと思っています。
一方で『イデオン』は、自分の中で「こんなものを作れた富野っていうのは凄い」というプライドを与えてくれた作品です。もし、『ガンダム』しか無かったら、番組の最初に言った「(細田は)倒すべき敵」は、「憎しみ」を込めたメッセージでしたね。いまのように「喜び」を込めたメッセージとして言うことはできませんでした。……すごい! うまく答えられた!(笑)
■ テレビ初「伝説巨神イデオン」ハイビジョン版一挙放送!
「機動戦士ガンダム」放送開始の翌年となる1980年からオンエアされたサンライズ制作、富野由悠季総監督による、伝説のSFロボットアニメの「伝説巨神イデオン」をテレビ初放送となるハイビジョン版でお届けする。
西暦2300年代の未来を舞台に、異なる文明を持つ異星人との文化の違いや誤解などにより生じた衝突を描く。主人公ユウキ・コスモは、未知のエネルギーとされる“イデ”を動力源とする巨大ロボット・イデオンに乗り込み、異星人と戦うことになる。全39話のテレビ版と、4月放送の劇場版『伝説巨神イデオン 接触篇』『伝説巨神イデオン 発動篇』(ともに’82)を一挙放送する。
<ストーリー>
人類が地球外の惑星へ移民し始めて50年を経た西暦2300年代、移民先のソロ星では“第六文明人”のものと思われる遺跡が見つかっていた。発掘現場の動きを不審に感じた地球連合軍の士官候補生・ベスが視察に向かい、16歳の少年・コスモと17歳の少女・カーシャも後を追う。一方、未知のエネルギー“イデ”を探索していた異星人バッフ・クランの宇宙船は、ソロ星を発見。宇宙軍総司令の娘・カララが独断で発掘現場に向かう。発掘現場付近で様子をうかがっていたカララだったが、彼女を追ってソロ星に降り立った兵士たちはカララを守るべく砲撃を開始。地球連合軍は突然の出来事に戸惑うも、これを迎撃する。そんな中、コスモとカーシャ、ベスらは、発掘現場で見つかったという3台の巨大なメカに乗り込む。コスモらが搭乗した3台は起動変形し、巨大な人型ロボット“イデオン”へと合体。コスモらは無我夢中でバッフ・クラン軍を撃退する。
<スタッフ・キャスト>
原作:矢立肇
原作:富野由悠季
キャラクター・デザイン:湖川友謙
メカニカル・デザイン:サブマリン
美術監督:中村光毅
アニメーション・ディレクター:湖川友謙
音楽:すぎやまこういち
総監督:富野由悠季
声の出演:
塩屋翼(コスモ)
田中秀幸(ベス)
白石冬美(カーシャ)
井上瑤(シェリル)
戸田恵子(カララ)
林一夫(ギジェ)
松田辰也(デク)
塩沢兼人(ジョリバ)
井上和彦(ハタリ)
佐々木秀樹(モエラ)
一龍斎春水(ハルル)
石森達幸(ドバ)
ナレーター:塩沢兼人
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