眉山さくら先生の『神獣王の花嫁』が発売! 試し読みもあり

<9月のダリア文庫新刊情報>眉山さくら先生の『神獣王の花嫁』が発売! 試し読みもあり

  乙女がときめくボーイズラブレーベル・ダリアより、9月に発売する文庫の新刊情報が到着! 試し読み合わせて要チェック!

■その刻印が、選ばれし神子――我が花嫁の証だ

タイトル:神獣王の花嫁
著者: 眉山さくら
イラスト:タカツキノボル
本体価格:630円+税
発売日:大好評発売中!


考古学者を志す芳人は、発掘に訪れた遺跡でマフィアのボス・ラウールに捕らわれ「つがいとなり子を孕んでもらう」と告げられて――!?


「神獣王の花嫁」(著:眉山さくら) (本文p54~61より抜粋)
 
  狂暴な気配を孕むラウールに本能的な恐怖に襲われ、芳人の身体は小刻みに震え出す。
 それでも―――屈したくはない。
『彼』に出会って以来、その存在はずっと心の拠り所だった。遠く離れて、時間が経つごとにその痕跡が薄れてしまいそうになった時、出会ったジャガー神の伝承は、芳人にとって自分と『彼』をつなぐ唯一、かけがえのない絆だった。
 その大切なジャガー神が住まうと言われる神聖なる神殿がマフィアに利用されるなど、それこそ芳人にとっての『聖域』を汚す行為であり、赦しがたいことだ。
 生死すら、この男に握られているのだとしても。尊い神殿を占領してマフィアのアジトにするような輩に屈服したくなかった。
 息を喘がせながらも、身をよじって精いっぱい抗おうともがく。
「可愛いな……震えながらも必死に足を踏ん張ってる姿も、泣きそうになりながら俺を睨み上げる目も。潤んだ瞳と目元のほくろが強調されて、いい感じだ」
 けれどそんな抵抗に低く笑うと、ラウールはそう言って、芳人の目尻にくちづける。
「ぁ……ッ」
 悔しさと怯えに込み上げた涙は、そのままラウールの肉厚な舌に舐め取られる。それが芳人の中にさらなる屈辱を生んだ。
 にじんだ涙でぼやける視界とは裏腹に、なぜかこの男に触れられるだけで肌が異常に過敏になって、彼の舌の感触を生々しく感じ取ってしまう。
 背筋に走る痺れに、目元を這う舌を拒もうと芳人が首を振ると、あごをつかまれ、強引に顔を彼の方へ向けられる。
 屈辱にキュッと引き結んだ芳人の唇を、彼はからかうようになぞる。
「俺はな…、お前が気に入ったんだよ、芳人。その無謀なほどに理想を追い求める心も、そのくせ少し触るだけで過敏に反応を返す身体も……。どうしても手に入れたくなった。芳人、お前を……」
 禍々しいほどに強い光を放つ双眸で見つめられ、低く響くやわらかな声で囁かれて……その一挙手一投足に、いくら逃げようとあがいても否応なく惹きつけられてしまう。
 彼に触れられている唇が、じわりと痺れを帯びる。
 立場を忘れて魅入られそうになる自分を戒めようと、芳人は歯を食いしばり、せめてもの抵抗にきついまなざしを向けた。
「その目……ゾクゾクするな」
 芳人の唇から指を伝わせ、目尻へとゆっくりなぞりあげると、ラウールは艶やかに微笑って、強靭な腕で強引に身体を引き寄せてきた。
 抵抗する暇すらも与えられず、ラウールの精悍な相貌が迫ってくる、と思った瞬間、
「んう……ッ!?」
 いきなり唇をふさがれ、芳人は驚愕に目を見開く。
 不意をつかれて硬直する芳人の唇に、ラウールはさらに深く唇を合わせてくる。
「ッ…、ふ、ぁ……っ」
 息苦しさに思わず唇を薄く開くと、ラウールの熱い舌が口腔へと入り込んできた。
 とたんになんともいえない濃密な匂いが鼻孔をくすぐって、思わず目が眩む。
 舌で粘膜をなぞられたとたん、ゾクリ…と寒気とも疼きともつかないものが芳人の背を走った。
 本能を揺さぶる官能的な匂い、触れたところから伝わるラウールの熱い舌の感触、そして与えられる痺れるような感覚に混乱し、芳人の頭が白くかすむ。
 合わせた唇から生まれる疼きが身体の奥にまでわだかまり、力が入らなくなる。
 くずおれそうになった芳人の腰を、ラウールは大きな手で力強く抱き寄せて支えてきた。
「い…、いったい、なんのつもり―――」
 彼の分厚い胸元に手を突っ張って顔を離し、濡れた唇を手のひらでぬぐいながら叫ぼうとした、その時。
 ラウールの耳からあご、そして首の側面にかけて、漆黒の斑紋や曲線が入れ墨のように浮かび上がる。それはまるで呪術的な儀式の時に描かれる紋様を思わせて―――目の当たりにした瞬間、ブワッと全身の毛穴が開き、鳥肌が立つ。
「ッ……あ、ぁ……」
 ただごとではないと本能的に察知し、頭の中に警報が鳴り響く。
 侵入者である自分への、呪いだろうか。
 いったい目の前でなにが起こっているのか分からず、混乱の中、そんな非現実的なことすら頭をよぎる。
「ああ……驚いたか。お前の匂いがあまりにそそるものだから、俺の中のもう一つの血が騒ぎはじめてしまったようだ。キスをした理由と同じさ」
 あまりのことに呆然と見つめることしかできない芳人に、ラウールはやわらかく頬をなぞり、なだめる口調で言った。
「要は、発情したということだ」
 クッと口許をつり上げて告げたラウールのその言葉に、目を丸くして硬直する。
 ―――発情……というのは、まさか、彼が自分に、ということなのか。
 目の前で起こった、不可思議な出来事。その上に、男として生まれてきて今まで感じたことのない恐怖がじわじわと侵食してきて、背筋が震えた。
「そんなに怯えた顔をするな……興奮するだろう」
「………ッ」
 抜け抜けと言うとラウールは、絶句する芳人のあごをつかんで強引に唇をこじ開けた。
 ラウールの顔が近づいてくる。
 今度は急いでよけようしたが果たせず、再び噛みつくように芳人の唇がふさがれた。
「んう…っ! んんぅ……ッ」
 さらに貪るように深くくちづけられ、口腔を激しくかきまわされる。
 からめとられた舌を吸い上げられ、その痛いほどの刺激に、芳人の身体はビクビクと震えた。
 逃げなければ。そう思うのに、肌に浮かび上がる妖しい紋様とともにラウールから発される濃密な匂いがますます強くなって、まるで麻薬のように身体を痺れさせ、思うように動くことができない。
 それでもなんとかかすみそうになる頭を振り、芳人は力を振り絞ってあらがう。
 ―――こんなのは、なにかの目の錯覚だ。特殊な入れ墨か……きっと、なにかのトリックに違いない。
 未知の出来事におののきながらも、惹き込まれてしまいそうになる。そんな自分に負けまいと、必死に言い聞かせるように胸の中で呟いて目の前の現実を否定しようとした。けれど、
「―――言っておくが、錯覚などではないし、トリックでもない」
 まるで心を読んだように真剣な声色で言い渡すラウールに、芳人は息を詰める。
「これから俺の言葉が真実だと証明してやろう。だが、納得した暁にはお前の持つすべて……身も、そして心も捧げると誓うんだ。この俺、ラウール・デル・オルティスにな」
 そう続けながら爛々と光る双眸で見つめられて、芳人は身じろぎすらできなくなる。
「んあ……ッ!」
 芳人の腰を支える彼の手が下がり、双丘をわしづかんできて。驚きに、芳人は悲鳴じみた声を漏らしてしまう。
「思っていたより肉付きがいいな。……いい触り心地だ」
 囁きながら、ラウールは柔肉の感触を楽しむようにして大きな手で芳人の双丘をさらに揉み込む。
「や、やめろ……っ」
 そのとたん走った痺れるような感覚に焦り、うわずった声を上げつつも、芳人はなんとかラウールの手から逃れようと身体をよじらせた。
「ずいぶん初心な反応だな。……男とセックスするのは初めてか?」
「な……ッ!?」
 ラウールの口から飛び出したどぎつい単語に度肝を抜かれ、芳人は瞳がこぼれそうなほど大きく目を見開く。
 ラウールは、驚愕のあまり呆然とする芳人の顔を見やると、
「どうやら初めてのようだな……それはいい。征服しがいがあるというものだ」
 そう言って、ニッと口元をつり上げて悪辣な笑みを浮かべた。
 ―――この男は、いったいなにを言っているんだ…?
 初めてもなにも、そんな経験をするなど考えたことすらなかったというのに。
「なんの、冗談……」
 かすれた声でなんとか否定しようとする。けれど、
「いたって本気だ。気の毒だがな」
 芳人のせめてもの抵抗を面白がるように、ラウールは笑みながら断言した。
 正気とは思えない。
 あまりのことに目眩に襲われて、その場にくずおれそうになった芳人をラウールが支える。そして、
「ディオ、セリオ。―――用意を」
 ラウールの命を受けて、傍に控えていた側近らしき青年二人がうやうやしく芳人の身体を両脇からかかえてきた。
「これから、儀式を執り行う。お前を俺のものにするための……な」
 気を失うことすらも赦されずに男たちの力強い腕に拘束されて告げられた恐ろしい宣告を、芳人は絶望的な思いで聞きながら、目の前の傲岸な相貌を睨みつけた。

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