この記事をかいた人
- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
不動の人気を誇る声優/アーティストの森久保祥太郎さんが2015年10月7日(水)、8ヶ月振りにニューシングルをリリース! また、発売に先駆けて9月から全国ツアー「心・裸・晩・唱〜PHASE5〜」を行っています。
シングルのタイトルを飾る『PHANTOM PAIN』は、お馴染みの井上日徳氏と制作。ソウルフルな歌声と熱く激しいロックサウンドで、「勢いをレックできた」「第二章が始まったイメージ」とご本人も相当な手ごたえを感じられている様子。
「自分が歌いたいことは何か」「自分にしかでいない表現は何か」を追及することはアーティストにとっての常だろうが、今作で、それをはっきりと掴んだと語る森久保さん。新境地を切り開いた前作『FOCUS』で<衝動が射すまだ先へ>とその決意を歌っていた彼が、いま「ここ」に辿りついた理由とは。インタビュー前編では、2014年の音楽活動を振り返ってもらいました。
■ 「自分がなんでこういう音楽をやって、どこに行きたいのか」
――前回の『FOCUS』から約8か月、どういう気持ちで新曲に向かっていったのでしょうか。
森久保祥太郎さん(以下、森久保):2014年は、自分の音楽活動の耕し直しみたいな時期だったんです。10年前の曲をセルフカバーしてみたり、自分の作ってない曲を井上さんとのアレンジで取り込んでやってみたりとか、今までやってきたことじゃないやり方で何ができるかってことを試した年でした。それの集大成的として、逆に全然違う環境でやってみようかっていうのが『FOCUS』ってシングルで。
――『FOCUS』ではR・O・Nさんとタッグを組んで、新境地を切り開きましたよね。
森久保:そうですね。前からR・O・N君とは「何かやりたいね」って話をしてて、ちょうどいいタイミングで一緒にできました。『PHANTOM PAIN』は、改めて自分のスタンスに戻ったときに、どういう化学変化が起きるかが試される初っ端のシングルなので、自分でも“どんなモンが出てくるかなぁ”って気持ちで挑みました。
――ところで、2014年に音楽活動を見つめ直した理由とは?
森久保:自分で曲を生み出していきたいってスタンスでずっとやってきているなかで……たとえば普通のアーティストだったらガッツリ休みを取って海外に行くとか、勉強をするとか、練習をするとかして、自分を耕していくと思うんですけど、生憎その時間がない。そういう環境のなかで、自分に何ができるんだろうかって考えたときに、(冒頭に話した)そういったものだった。自分に刺激を与える作業のためというか。
常に新鮮なものを提供したい、世に出していきたいって気持ちはあるんですけど、そうできるもんじゃなくて。インプットをし続けなければいけないし、積み上げていくなかで、根本も深くしていかないといかなきゃいけない。
そういうために必要な作業だと思って、“自分がやってきたものってなんなんだろう”って考えて。27歳のときに出したアルバム(『髄(Zui)』)から、もう10年は経ってたんで……40歳という年齢になってセルフカバーしたら、どんなもんかなと。
――ここで改めて地ならしを。実際試してみていかがですか?
森久保:20代のときに書いた歌詞だから、改めて歌いなおすと恥ずかしかったりするのかなって気持ちも一瞬よぎったんですけど、ライブでやってもそれは感じてこなかったし、同じ言葉でも解釈が変わるというか。当時は自分の主観で、眉間にしわを寄せて、世間に対して叫ぶような想いで歌っていたけど……俯瞰で見れてるというか、笑顔で歌えている自分に気づいたんですよね。 (歌詞について)“そういうこともあるよね”って思えるし、そこに対して余裕がある。そうすると、今度は表現に余裕が出てくる。周りを見ながら歌えるっていうか。そういうことに気づいたのが大きくて。
あと、当時、井上日徳さんとは“これじゃダメだ、面白くない”“刺さらない”ってケンカしながらやってきたんです。でもあの作業があって、その時だけの流行りやノリではなくて、普遍的な言葉を選んで書けてたんだって気づいた。自分がなんでこういう音楽をやって、どこに行きたいのかってことを再確認するために必要な時間でしたね。
――音楽と向き合ったことで、森久保さん自身にはどんな変化が生まれましたか?
森久保:……自信が出来たというか。継続してきて良かったなっていう。一曲一曲勝負だったし、難産が続いた時期もあったんですけど、めげずにギリギリまで曲と向かい合って“ちょっとでもいいものにしたい”って作業を続けてこられたことが、まず自信になってたなと。
あと、ランティスでリリースさせてもらうようになって、久々にツアーも出来るようになったんですけど、いわゆる商業的なベースにもなってて……そういうところをちゃんと考えなきゃなって思うことも少なからずあったんですけど、それは俺が考えることじゃないなと。そこにエネルギーを使うんだったら、自分と向き合って、自分のなかにどういうものがあるかを探して、20代のときの“とにかく作るんだ、俺のアルバム”みたいな気持ちだけでやっていけばいいんだって。
――それは信頼できるスタッフに恵まれたということも大きいですか。
森久保:それももちろん。当たり前なんですけど、大人になってくるといろいろなものが見えちゃうから、素直な気持ちでできないこと出てくるんですよ(苦笑)。でも、いまこのタイミングで気づけたことで“自分のサウンドはもうブレないな”と。
■ 「染みついている音は、今のこのサウンド」
――“自分のサウンド”を改めて言葉にすると?
森久保:僕がいつも歌っているテーマは、間違いなく自分のこと。社会がどう、政治がどう、ってひと様のことを歌っている場合じゃなくて、この世の中で自分がどう生きてるんだってところが、大きなテーマで。ダメなところ、悔しいところ、届かないものって、誰もがあるじゃないですか。でも大人になると、うまくごまかせていって、丸くなっていったりもする。
そこでガッと自分のお腹を引き裂いて、“どうなってるんだ、俺は。本当のお前は何を考えているんだ”ってところにいつも向き合って。そうすると、届かないもの、もどかしいもの、もがいているもの、嘆きが見つかるんですよね。それを認めたうえで次にどういくか。“ネガティブを吐いて、ポジティブを得る”っていうのは、森久保祥太郎としてやり始めてから変わらない。そういった想いを乗せるサウンドとなると、ヘヴィさと重さが欲しいなって。
僕のサウンド面のキャラクターを決定的に色づけてくれているのが、井上日徳さんの音色で。他にない音だなって思ってます。ずっとやってきてもらってて、ギターの音ひとつにしても、彼の音がある。ミックス、マスタリングも──誤解を恐れずいえば、流行りに流されず、こだわっているところがあるので。井上日徳さんは、いい意味でオタクで、サウンドに対する愛情がスゴイんです。会うたびに“こういう機会が今あって”“こういうプラグインソフトがあって”って話ばっかりしてるんです。
『FOCUS』をR・O・N君と一緒にやって、僕にとってすごく新鮮で、間違いなく刺激を受けて。でも染みついている音は、今のこのサウンド。そのなかでいつも進化をしてる。根っこは大事にしつつも、どうブラッシュアップされていくかっていうのは、自分でも楽しみです。
――なるほど。森久保さんが歌われているのは、エッジィな生き様そのもので、まさにそれこそがロックだと思うのですが──「大人になっていくと、ごまかせてしまう部分」を敢えて歌いたいと思うのは、なぜなんでしょう。
森久保:だって、カッコいいことって凄く簡単なんです。“お前頑張れよ”みたいなことって、いくらでも書けるし、そういう応援歌やラブソングは山ほどある。あ、でも総じて僕が歌っているのもラブソングだと思ってるんですけどね。愛のある歌で、サウンドには攻撃性がありますけど、何かを攻撃する歌ではないから。でも僕はひねくれものなので、そうでない、ニッチなところを歌いたいんですよ。あと、怒りや嘆きが、次の自分に向かわせるエネルギーになる。それが衝動というか。
褒められて伸びるか、叱られて伸びるか、と言ったら僕は叱られて伸びるほうなので(笑)、自分で自分を叱って、次に行く。僕にとってのいわゆるロックってそういうものなのかな。もちろんラブソングを歌っている人で好きな人もいるし、別のプロジェクトではやってるんですけど、自分のプロジェクトではそういう音にしたいんです。
【後編に続く】 10月8日(木)18:30掲載予定
[インタビュー:逆井マリ]
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
[INDEX]
1. PHANTOM PAIN
作詞:森久保祥太郎 作曲:森久保祥太郎・井上日徳 編曲:井上日徳
2. SHAKE!!
作詞:森久保祥太郎 作曲:森久保祥太郎・井上日徳 編曲:井上日徳
3. It's me
作詞・作曲:森久保祥太郎・井上日徳 編曲:井上日徳
<ライブ情報>
■森久保祥太郎 LIVE TOUR 2015「心・裸・晩・唱〜PHASE5〜」
10/11(日)Zepp Tokyo
OPEN 16:00 / START 17:00
(お問い合わせ先)ホットスタッフ・プロモーション:03-5720-9999(平日12:00~18:00)
チケット料金:[大阪・名古屋・東京]オールスタンディング 6,800円(税込)
※3歳以上有料※整理番号付 ※名古屋・東京公演ドリンク代別途必要
[福島]全席指定 ¥6,800(税込)
※3歳以上有料
>>森久保祥太郎 official home page
>> Lantis web site