声優 茅野愛衣インタビュー「”好き”をシゴトの中から見つけ、声優という枠を超えた可能性に挑んでいく」
人生の多くの時間を費やす「仕事」において、自分の「好き」を見つけ、その「好き」を行動に起こしていくことで、人生をより豊かなものにできるのだと思います。
その好きを見つける応援をするため、学生生活がもっと楽しくなるお役立ちマガジン「From Aしよ!!」では、さまざまな「働くヒト」に光を当て、その過去から今、そして未来について伺い、働く楽しさ、働く意義をお届けしていきます。
その第1回目を飾るのは、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のヒロインである本間芽衣子(めんま)役や『ちはやふる』の大江奏役、そして『ARIA The AVVENIRE』のアーニャ・ドストエフスカヤ役を務める、声優の茅野愛衣さんにお話を聞いていきます。
インタビューの前編では茅野さんの今のお仕事をメインに、後半では前編の続きと、バイト経験を中心に過去から現在に至るまでの歩みについてお話を伺いました。
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[取材・構成:長谷憲、織田上総介(アニメイトラボ) 撮影:山本哲也]
━━茅野愛衣さんは、普段どのようなお仕事をされているのか教えてください。
茅野愛衣(以下、茅野):私は声優という仕事をしています。声優といってもいろんな分野でやっている方がいて、今だと歌手と一緒にやっているような方や舞台を中心に声優をやっている方もいらっしゃいます。
そのなかで私は、アニメーションに声を当てるアフレコをメインでしていて、あとはたまにナレーションや映画の吹き替えをしている感じです。
アニメ作品に声優として関わらせていただくとおもしろいのが、そこからのスピンオフ展開としてラジオやキャラクターソング、イベント等などでのトークといったさまざまな形で人前に露出もしていきます。
━━最近の声優の働き方は多岐に渡っていますよね。
茅野:そうですね。今のお仕事をする前の私は、声優というものは「裏方仕事」だと思っていたんです。
声優さん自体、あまり顔を見たことがなかったですし、どういう風にお仕事されているかも全くわからなかったので、業界に入ってみたら想像以上に人前に立つことで、注目を浴びることが多い仕事ということに驚きました。
またマルチにできることを求められるため、イベント1つをとっても、ゲームや大喜利などに対してチャレンジしながら、スベることを恐れてはやっていけません(笑)。
さらにファンブックになると、「直筆でコメントイラストを描いて載せます」みたいなことをしたりするので、何か絵が描けたりすると良かったりなど……。
茅野:いろんなことに興味があるという方にとって、声優という仕事は幅広い可能性があるのですごくおもしろいと思います。
「ラジオDJもやりたい、でも歌手もやってみたいし、モデルもやりたい」みたいな感じの人にはすごく楽しいと思います。
■声優とは常に正解がないため、いかに柔軟に対応できるか
━━いま、日々活動されている声優について、もともとどういった形でお仕事を始められたのでしょうか?
茅野:まず養成所で1年間学んで、事務所に入ってからは様々な作品のオーディションを受けさせて頂いていました。
もちろん、始めは仕事なんて全然無いのでオーディションを受ける日々を過ごしていて……。オーディションは声優にとっていわば就活なので、チャンスをいただければ日々就活。そこで結果が出せたものに関してはうまく就職することができるのですが、作品が終わると……という感じでした(笑)。
━━オーディションではどういうことをするのですか?
茅野:オーディションは、決められたセリフを読んで録音したものを送る場合と、スタジオにて受ける場合の2種類があります。
後者は作品サイドからの指名で、そもそもオーディションが無いものもあります。
━━これまでさまざまなオーディションを受ける中で、自分の勝ちパターンが確立されたりするのでしょうか。
茅野:勝ちパターンについては正直、全く無いですね。そして仕事はご縁だと思っているので、あまり考えすぎないようにしつつ、むしろ「ご縁があれば……」くらいに思っているほうが上手くいくような気がしています。
セリフがその場で変わることもありますし、キャラクターの設定をその場で聞くこともあるので、自分自身でキャラクターを固め過ぎないほうが良いのかなと思っています。
自分で思い込むと「違うのでこうしてください」と言われたときに対応がしづらいので、そんなに決めこまないようにしていますね。
━━仕事において柔軟さを意識しながら取り組まれているのですね。
茅野:声優というものは、正解がない仕事なんですよね。監督さんや演出さんなど、いろんな方がいらっしゃって、その方たちの判断が作品をつくりあげていくので、そのイメージしているものを描くことができれば私は良いのかなと思います。
私自身はそれが声優だろうなと思っていますし、アドリブを入れることによって、キャラクターの魅力が増すことがあるので、柔軟にやることが1番かなと。アドリブがいらないと言われることもありますが(笑)。
■不安は気にせず、仕事を通してさまざまな挑戦をする
━━茅野さんのお話を伺っていると、本当に自然体でお仕事に取り組まれているのですね。お仕事に対してどういったところに楽しみを見出しているのでしょうか。
茅野:日々挑戦させていただけるので、どんなお仕事でも新鮮な気持ちで取り組めることですね。私自身、毎日同じことをするよりも、どんどん挑戦していくほうが性格的に向いているので、声優というお仕事は毎日いろんなことができるので楽しいです。
一方で大変なことは、オーディションを通して配役を勝ち取っていかなければならないので、不安定さはあります。「こういった役をやりたいな」と思っても、チャンスがない時もありますし、ご縁もないこともあるので。
ただ、そこでどうこう言っても仕方がないので、あまり気にしないようにしています。
あとは、普通に過ごしていたらどんどん年齢も上がっていき、自らに合った役も変わってくるので、柔軟な気持ちで対応していかないと疲れちゃうかなと思います。
━━デビューされてから5年ほど経っていると思うのですが、今もなお不安は抱えているのですか?
茅野:そうですね。声優という仕事柄、明日仕事があるかのか、来年仕事があるのかも全くわからないので、そういう面では誰しも不安は持っていると思います。しかも風邪をひいて声が出なくなったら全く仕事にならないので、常に健康面で気を使う必要もあります。
「日々、不安は全くないよ」という方はいらっしゃらないのではないかなと思います。
━━その不安をなるべく避けるためにやっている事はありますか?
茅野:人それぞれだとは思うのですけれども、考えすぎないことですね。
あとは今まで先輩に甘えていた私ですけれども、最近はどんどん後輩たちが増えてきたので、できるだけ皆にとって安心してもらえる存在でありたいと思っています。
新人からベテランの人には言えないことも、私くらいの立ち位置になら言えるという風になれたらと。それで作品の雰囲気とか現場の雰囲気が良くなるのなら、いいなと思って仕事をするようにしています。
■家族が喜んでくれることを仕事の糧とする
━━これまでの仕事の中で「こういうことが糧になった」というものはありますか?
茅野:家族が喜んでくれると嬉しいですよね。写真を撮られるのも照れくさいですし、歌を歌うのも照れくさかったですけれども、そういうのを見せると誰よりも家族が喜んでくれたので、親孝行をしている感じになれたのはすごく良かったと思います。
娘がフォトブックに出るなんて話はなかなかないと思いますし(笑)。
━━なるほど。声優という仕事の性質上、その不安定さから家族に反対されやすいということをよく聞くのですが、茅野さんの場合は反対されるということはありましたか?
茅野:なかったですね。母としては、芸事のほうに行くのではないかと思っていたようです。ただしお金だけは自分でなんとか頑張って稼ぎなさいといった感じでした。
親とは仲は良いですけれども、自分自身もその部分はしっかりとやらないといけないと思っていたので。
━━茅野さんは責任感が強い方だなと感じたのですが、それは自分自身で身に付いたものなのでしょうか? それとも誰かを参考にする人はいるのでしょうか?
茅野:影響力が強いのは、やはり母ですよね。母は仕事面でも非常に自立した人だったので。あとは趣味とかもすごく似ていますし。
━━どういった趣味はなのでしょうか。
茅野:お酒を飲むことですね(笑)。美味しいものを食べるのが大好きで、2人でよく飲みに行きます。気になるお店とかを見つけたらすぐ共有しますね。
また洋服の趣味もすごく似ていて、サイズも一緒なんです。なので衣装も一緒に買いに行ったり、私がなかなか時間をつくれないときは母が買ってきてくれたりするので、すごくありがたいです。
━━お母様がしっかりフォローしてくれるんですね。
茅野:そうですね。声優の仕事が忙しくなってからは、特に母はこちらのフォローに回ってくれています。それまで母はずっと美容の仕事をメインでやっていたんですけれども、基本的には私の手伝いをしてくれています。
仕事に集中をするのにも時間が必要ですし、自分の体のメンテナンスも含めた、リセットする時間をつくるのにも時間が足りないので、そういう面で母にフォローしてもらいながらやっています。
なのでいま、1人でこの都会に出てきてこの仕事をしている多くの人たちには本当に尊敬します。すぐ近くで話を聞いてくれる人とか、何かあったときとかにお願いできる人がいるだけで心の余裕が違うと思うので。
■妄想をいかにリアルに表現し、人々に伝えるか
━━最近、自分のお仕事の幅を広げるために参考にしている人はいますか?
茅野:最近は俳優の浅野忠信さんの絵にハマっていて、シュールな感じがすごく好きです(笑)。あと画家の方だと、ミヒャエル・ソーヴァさんですね。『アメリ』というフランス映画で注目されていて、いろんな絵を書いている人です。
そういった方々の絵を見ながらも、普通に美術館に行ったりもします。誰かわからないけれども、ぼーっとしながら「いいなぁ」と思い、見ていますね。
━━それがお仕事に活かされたりするのでしょうか。
茅野:声優という仕事は最終的には自分の妄想で、想像でお芝居をするのであり、ある意味絶対に起こらないようなことが起こったりする世界で、それをいかにリアルに表現するかということで役立っていると思います。
━━確かにいろんな経験をしないと自ら生み出すことは難しいですからね。
茅野:それはバイト1つにしても全てにつながってきますね。なので、好きなことを仕事の中で見つけて行けたら楽しいなと思っています。楽しいことを自分の仕事の中で見つけていければ苦にならないので、私はそれを大切にしています」
━━ちなみに最近何か楽しいことありましたか?
茅野:いろんな作品に出会うことが楽しいです。終わりもあるから寂しいこともあるんですけれども……。そこでしか会えない方もいらっしゃったりしますし、日々、どんな仕事と出会えるのかもわからないので、台本を見るのも楽しみです。次はどんな出会いがあるかなーっと。
━━次はどんな出会いを求めていますか。
茅野:やっぱりお酒のコラボですね! 日本中の酒蔵を巡りたいです! 好きなことを仕事にできるって、すごく幸せだなと思っていて(笑)。
声優さんにはあまりお酒のイメージは無いのですが、私は強く推していきたいと思います。歌をやっている方や舞台をやっている方はたくさんいると思うんですけれども、もっと違う面で私もやりたいと思っているのでお酒をつくりたいです(笑)。
最終的に本にして、いろんなお酒の紹介やお酒のお渡し会もやれると良いですね! 最後に決めるのは、マネージャー次第なんですけれども、今までやってなく、これからやってみたいことがたくさんあるので、興味を持てることは全部やってみたいです。
━━それは後輩に道を示してあげたいという意思もあったりするのですか?
茅野:そんな綺麗ごとではないです(笑)。歌で頑張っている人は「こうなりたい!」という思いがあって業界に入ってきていると思うので、道はそれぞれが見つけていけばいいと私は思います。
インタビューの後編では、声優のみならずラジオパーソナリティなど、さまざまなジャンルで働く茅野さんが、どのような経験を通して活躍するまでに至ったのか。また、バイト経験が今の茅野さんにどういった影響を与えたのかについて伺っていきます。
後編はこちら>>声優 茅野愛衣インタビュー「バイト漬けだった経験が、今の演技の糧に」