【レビュー】ドラスティックでドラマチック。分島花音の「Love your enemies」を聞き終えて
2016年2月10日、分島花音(わけしま かのん)さんの新譜「Love your enemies」がリリースされました。この曲は2016年2月13日に公開される『劇場版 selector destructed WIXOSS』のメインテーマとなっています。
テーマ曲がかかるのは1:13あたりから。分島さんはTVアニメで放送されたselectorシリーズの一期、二期のOPも担当されているので、selectorといえば分島サウンドと言っても過言ではないかもしれません。
そんな流れを携えての劇場版メインテーマソングですが、劇場版というスケールにそった、壮大な仕上がりになっています。というわけでさっそくレビューと参りましょう。
■「Love your enemies」
作詞、作曲:分島花音
編曲:千葉"naotyu-"直樹
クラシカルなストリングスで雰囲気を出してからの一転したロック調ドラム。ただごとではない感を予想させる入りですね。テンポアップしてからはややおどろおどろしい雰囲気で、ハーモニーもちょいと不気味っぽさがあります。スピーディなのにダークな雰囲気という感じです。
Aメロはイントロに比べて素直なフレージング。むしろイントロがかなり特徴的だったのでここは対照的に抑えのシーンになっているのだと思います。おかげで間奏部分に入るイントロのテーマが際立っていて、ダイナミクスも良い感じです。
そこから流れるようにBメロに突入、ストリングスが入ってきて流動的な曲調に変化します。が、歌詞で言うと「甘い言葉で」の部分からベース音がスケールを外れB♭になり、そこから半音ずつA♭まで下り最後はEに落ちます。この素直じゃない動き、聞き手からしたら「んん、どうなるんだ…?」的な気持ちにさせてくれますね。
不安な空気のあとに待ち受けているBメロラスト4小節は、まさにサビへの発射台。
攻め立てるような伴奏に「削られて剥いで失って」という韻を踏んだカッコいい歌詞。特にこの「もっと」の「と」の部分を無声音にして次の「give」に繋げる言い回しがめちゃカッコいい! 本曲で一番好きな部分かもしれない。
そして満を持してのサビへ。クローズ・オープンのドラムパターンからもわかるこの疾走感ですよ。ボーカルは音程こそ低い入りですがコーラスになってるので分厚さとゴージャスさを感じます。8小節するとまたベース音がB♭になりますが、まぁここはある程度読めるので自然な流れです。自然な不自然さとでもいいましょうか。
でもこのあとの展開、A→G→B♭→C→Fsus4は…なんというか、全く予想をしていませんでした。まさかFのメジャーをここでぶっこんでくるとは。
Fの部分ではボーカルは上の方で「ミ、ファ、ファ」と動いていて、これが次に展開するB♭→Aの和音にキレイに絡んでくるんですよ。
特に和音Aの時の3音ド♯がセクシーですねぇ。歌詞で言うと「指先」の「び」の部分です。セクシーさがある。
このあとのベースはGmスタートで一音ずつ登っていきますが、本来ならB♭であるべき部分がナチュラルになるしその次はいきなりEに跳ね上がるし、Eとくればやっぱり今度はAに帰ってくるしで大忙しです。しかしAに帰ってきてからはクロマチックな動きでやっと落ち着いた雰囲気。サビもここでようやく終わります。なんとサビだけで37秒! なっがい!
サビ後の展開はイントロテーマが入った後に分島さんによるチェロソロパート、Cメロを経てそして最後のサビとなります。ラスサビからアウトロへの繋ぎはストリングスが叙情的で切なさが尾を引きますね。終焉をイメージさせつつも希望的なエッセンスがあり、ラストはCでエンド。意外なことに最後はメジャーなんですよ。どことなくクラシック的です。
こうして振り返るとやっぱりサビがすごい曲ですね。短調かと思ったら長調だったりキメで終わるかと思ったらもう一回盛り上がったりと、一瞬にして表情をガラっと変えるドラスティックな曲です。なおかつベースはマイナーなのでIV→IIIのセツナ進行が所々に見受けられ、ドラマチックな印象も感じました。
総じて、ヘヴィにドラマチックでドラスティックな一曲です。メインテーマである『劇場版 selector destructed WIXOSS』のダークファンタジー成分を分島さん流に表現したらこうなったのかもしれませんね。分島さんはさらりと歌ってますがメロディーを覚えるのも一苦労な気がします。
■「killy killy JOKER(re-mix ver.)
■「world's end, girl's rond(re-mix ver.)」
2曲目、3曲目はアニメ版WIXOSS一期二期OPテーマのリミックスになっています。個人的には「killy killy JOKER」のリミックスはかなり好きですね。原曲のサビの跳ねるようなテイストやちょっとしたストリングス成分を残しつつブイブイしていて楽しいです。良リミ、良リミ。
シンガーソングライター、チェリスト、イラストレーター、そしてゴシックロリータ愛好家と、分島さんは多彩な肩書きを持っています(チェロリータという言葉には感服しました)。音楽的な面はもちろん、独自性に富んだキャラクターは今後も多くのファンを惹きつけることでしょう。
ちなみに、ライブの時はチェロの弓で客席を煽るそうですよ。そんなことするの2CELLOSか分島さんくらいなんじゃなかろうか。
[文=ヤマダユウス型]
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