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SHIROBAKO(シロバコ)から紐解く、エンジニアとして大事な考え方

『SHIROBAKO(シロバコ)』から紐解く、エンジニアとして大事な「前のめり」な考え方【連載:アニメ×働く人々】

日本アニメの歴史は古く、1950年代からスタートしたと言われています。それから60年以上が経ち、2012年以降は年間100本以上のアニメが制作される中で、あなたの心に深く残った作品やシーンはどんなものでしょうか。

例えば、キャラクターの心情の変化に思わず涙を流してしまった。キャラクターたちの生き様に感銘を受け、明日への活力につながった。

いくつになっても、クオリティの高いコンテンツからは元気を貰えるものです。

そんなアニメ作品に込められたメッセージを独自の解釈で紐解き、働く上で参考になる情報を届けるのが本連載。今回は、株式会社 奇兵隊のAndroidエンジニアを務めるKonifar氏に『SHIROBAKO(シロバコ)』について話を聞きました。

同氏は国内大手ERPパッケージベンダーに新卒で入社し、自身のキャリアを考えベンチャー企業である奇兵隊に転職した人物です。

また、2015年4月に始めた個人ブログ『Konifar's WIP』がスタートから1ヶ月間で25万PVを達成。2015年12月にはエンジニアの知人たちと共にSHIROBAKO Advent Calendar 2015を実施するなど、社内外で活発な活動を行っています。

そんな彼が『SHIROBAKO』から考えさせられた「働く中で大切なこと」とは何か。そこには職種に問わず働く上で大切な、「前のめりに取り組む」ことの大切さがありました。

 

クオリティを人質にするのかは、チームによって異なる

――まずは、Konifarさんと『SHIROBAKO』の出会いについてお聞かせください。

Konifar氏:アニメはそのクールに放送している作品を大体3話くらいまで嫁と一緒に見ているんです。基本的にそうした日々を送っているので、その中の1つというのが出会いでした。

正直、『SHIROBAKO』の1話を見ただけだと、「ちょっと分からないな」という感じだったのですが、#03の『総集編はもういやだ』から、これは本腰を入れて見る作品だと思いましたね。話の中で、劇中劇である『えくそだすっ!』の大事なシーンについて、登場人物たちが衝突する場面があるんです。

――キャラクターの表情を描き直すか?どうするか?という話ですね。

Konifar氏:結果的には、リテイクを希望した木下誠一監督の意向を汲み取り、描き直すわけなのですが、こういった状況って僕たちのエンジニアの仕事中にも多分に発生することなんです。

例えば、僕たちがリリースしているAndroidアプリの『Taptrip』の改善スケジュール。納期が決まっている中で、誰かが「クオリティをさらに高めたい」って言い出した時に、どんな反応をするのかって会社とかチームの雰囲気で全てが決まりますよね?

「いや、無理でしょ!」って言って断るのか。現実的にスケジュールを組み直すのか。みんなで「確かにそれはやるべきだからやろう!」ってなるのか。『SHIROBAKO』の場合は、チーム内から反対の声があったにも関わらず、最終的にはみんなが一致団結して作り上げたところはすごいなと思いました。

その結果、作中で描き直したカットは僕みたいな素人目に見ても良くなっていたんです。僕たちエンジニアに照らし合わせてみても、共感できる点がある。

これが、『SHIROBAKO』に興味を持ったキッカケでしたね。

  

アニメなので脚色されているのは前提だが、共感できる点は多い

――アニメ制作とエンジニアの開発現場が似ているという印象を受けたKonifarさんが、特に3つ印象に残った点を挙げるとすればいかがでしょう。

Konifar氏:当たり前の話ですが、アニメ作品なので脚色されていますよね。現実はそんなに上手くいかないものです。ですので、鵜呑みにするというよりも、共感したという点で以下の3つを挙げます。

 

【1】音響監督・稲浪 良和
「一方で、鈴木京子さんの経験の少なさが不安という意見も理解できます。 その時は、私達が育てればいいんですよ」#14「仁義なきオーディション会議!」

※劇中劇『第三飛行少女隊』の担当声優を選考しているシーン。

大人でかっこいいですよね。実際に演技指導をしているシーンもあり、有言実行してるところが最高です。チームのメンバーを抜擢するときに、こういった進言ができるって素晴らしいと思います。

 

【2】アニメーター・杉江 茂
「僕は僕より上手い人間がわずかな自意識過剰やつまらない遠慮のせいでチャンスを取りこぼしてきたのを何度も見た。惜しいと思うよ、未だにね」#22「ノアは下着です。」

※ヒロインの一人アニメーター・安原絵麻が悩んでいるシーン。

経験のある人からこういった話をしてもらえると、メンバーはとても勇気付けられると思うんです。仕事をしていると、いつも自分のできないことと直面するケースも多いので、緊張したりしますよね?特にすごい人たちの中に入り込んで一緒に仕事をするのには勇気がいる。こんな風に自然に背中を押せる人って素敵だと思います。

▲アニメーター・安原絵麻

 

【3】アニメーター・小笠原 綸子
「お酒を飲めば誰でも気分転換になると思わないでください。そういうことが苦手な方もいるのをお忘れなく」#16「ちゃぶだい返し」

※アニメーター・井口祐未が『第三飛行少女隊』のキャラクターデザインでリテイクが続き、苦難していることを見かねた小笠原 綸子が監督陣に進言するシーン。

何かを作る時ってチームワークが大事ですよね。思ったことをちゃんと伝えられるだけでなく、チームのメンバーがどんな思考性なのか理解するってとても大切だと思いました。親睦会を開くことことは手段であって、解決になっていない。現状を打開することに頭を使って欲しいってなかなか言えないですよね。

 

――ベテラン勢の名言が多いですね。

Konifar氏:僕はアニメだけでなく、映画でもセリフからそのキャラクターを好きになることが多くて、シニア勢とかベテラン勢の姿勢が表現されるシーンは印象に残りやすいです。

【2】の杉江さんの場合は、もともとすごい人という点がフォーカスされたので、より言葉に重みが増したと思っています。同じ言葉でも誰に言われるのか?によって、受ける印象が違ったりします。ただ良いことを言う人ではなく、実績がある上に人間性もできている。言葉に深みを増すための一つの方法だと改めて感じましたね。

――なるほど。

Konifar氏:僕はもともといわゆる大企業という会社にいました。ですが、前職とは異なり10名前後の今の会社の規模だと、自分のロールモデルとなるような「こういう風になりたい」っていう人物像を、自ら作らなければいけないなと思っていたんです。

アニメに限らず映画などの映像作品、外部の勉強会でお会いした方々。多くの人の良い点を吸収して、自分が目指す人物像を整理した中で、『SHIROBAKO』にはロールモデルのひとつになるような人が満載でした。

映像作品なので、盛られていると分かっていても共感できる点が『SHIROBAKO』には多いですね。

 

働く上で大切な謙虚さ

――Konifarさんが働く上で大切にしていることはありますか?

Konifar氏:「謙虚さ」ですかね。

――いつからその考え方を?

Konifar氏:社会人2年目、後輩ができたくらいからですかね。

でも、謙虚さについては、反論する人もいると思います。正しいことを言っていればそんな考え方は必要ないだろうと。

ただ、僕の社会人経験の中で仮に正しいことを言っていたとしても、誰かを嫌な気持ちにさせているシーンが数多くあったことも事実です。

正論を正論のまま言うと、どうしても先にいる人が傷付いてしまうんですね。その中で、謙虚さを持って、落ち着いて言葉を選ぶということが、仕事をする上で必要なんじゃないかと思っています。

例え話ですが、後輩が書いたコードをレビューする時に、微妙なモノが出てきたとします。そんな時に、「もうちょっと考えて準備してから来ようよ」って伝えてしまうシーンってあると思うんです。

でも、「もうちょっと考えて準備してから来ようよ」ってセリフは、相手に対して思いやりがないというか、その指摘だと次につながらないことが多いんです。後輩の視点では、考えているためですね。

先輩が期待する「考えていてる」と後輩の「考えている」に差異があるので、「考えてよ!」って言っても「考えてきたんだけどな……」で終わってしまう。なので伝え方ってすごく大切なんです。

微妙なモノが出てくると自分の時間が無駄になるので、少しイラッとして「もうちょっとちゃんとやろうよ」って言いがち。でも、いったん深呼吸して、「結論からいうとダメなんだけど、なんで微妙になったのか聞かせてほしい」みたいな伝え方をすると相手も受け取り方が変わりますよね。

――理由を聞かせて欲しいっていうのと、ただ「考えろ!」って言うのはかなり状況が違いますね。

Konifar氏:はい。失敗した後輩にフィードバックするときって、スタートの時からすごく暗い雰囲気のケースが多いですしね。以前、経験があるのですが、「何がダメだったと思う?」って後輩に聞くと、萎縮してしまって「あれもダメでした。コレでもダメでした、結論から言うと全部ダメです」みたいなことがありました。

相手にダメなポイントを聞くと、量がありすぎて、答えられない。仮に答えたとしても、自分がダメだダメだって押し付けられている空気になって、つらくなっちゃうんですよね。

そこで、聞き方をちょっと変えて、「今からタイムリープするとするじゃん。タイムリープして、今の記憶を持った状態でプロジェクトの最初に戻ったとしたら、何する?」って聞いてみたんです。

――今は失敗した世界線だけど成功した世界線、トゥルーエンドにするためには何をすればいいんだということですね。

Konifar氏:そうすると、結構ポジティブな意見が出るものなんです。言い訳じゃなくて、タラレバを言ってもいいっていう状態になれる。そうすると、「まず最初にこうしますね」とか。

本人がそれに気付くことが成長だと僕は思うんです。面談がポジティブに終わって、「次、頑張ろう!」って思えることが大事なのかなと。こうした経験から、働く上で、謙虚さを大切にしていますね。

 

身の丈に合わないことに挑戦する意味と価値

――最後に、『SHIROBAKO』を見た上で、Konifarさんが変わった点などはありましたか?

Konifar氏:「前のめりに攻めていこう」ということでしょうか。僕は個人的にヒロインの一人でアニメーターの安原絵麻に共感できる点が多いんです。年齢もキャラも性別も違いますが。

彼女って作品の進行に伴って、だんだん大きな仕事を任せてもらえるようになっていますよね?主役の宮森あおいはいきなり制作進行のデスクになったりして、急激に成長している感があるのですが、彼女は違うんです。

▲制作進行・宮森あおい

 

例えば、難しい猫の動きを描いたり、重要なシーンを担当したり。そうした積み重ねで、作画監督補佐になりました。ちょっとずつ自分でチャレンジしては技術を手に入れてるんですが、チャレンジをする時に、毎回毎回悩んでいるんですよね。

「自分でいいのかな」って。

その気持ちが僕の中にもあって。恥ずかしいというか、身の丈に合わないことをしているって気持ちになるんです。どうしても。

例えば、大きな発表が決まった!ってなるじゃないですか。でも、去年は自分が聴衆として発表を見ていた側ってことがあるんですね。

あんなすごい人たちと同じステージで、僕がやっていいのかなって思うことがあります。

実際、LT(ライトニングトーク)会やカンファレンスで発表をする時でもそうなんですよ。申し込むときは「よっしゃ!挑戦するぞ」って意気込むんですけど、前日はだいたい逃げたくなるんですよね。「やっぱり、やめとけばよかった」って。

僕は、2016年2月18日(木)~2月19日(金)に開催されるAndroidカンファレンスのDroidKaigi2016でも登壇が決定しているのですが、きっと同じ気持ちになると思います。

でも、これまで登壇が終わった後に、後悔したことはあまりないんですね。結局、その時勉強したことは実際に業務にも役立ちますし、そこで発表したから仲良くなれた人もいます。

ですので、「自分でいいのか」や「自分がこんなことを偉そうに話して恥ずかしい」って気持ちはありつつ、こうした活動を続けて行きたいなと思っています。

前日の辛い時には杉江さんの言葉や、(安原)絵麻ちゃんが頑張りを通じて、次につなげたことを思い出して、「よし、やるか」って気持ちを切り替える。そういった経験を重ねて僕も「杉江3日伝説」のような伝説を作れればいいですね。

――貴重なお話をありがとうございました!

Konifar氏が活躍する奇兵隊についてはこちらから
Konifar氏が登壇するDroidKaigi 2016はこちらから

[取材・文・撮影/川野優希]

 

 

パッケージ情報

SHIROBAKO Blu-ray プレミアム BOX vol.1 初回仕様版

≪収録内容≫
【 Disc-1 】 ( Blu-ray )
第01話 「 明日に向かって、えくそだすっ ! 」
第02話 「 あるぴんはいます ! 」
第03話 「 総集編はもういやだ 」
第04話 「 私ゃ失敗こいちまってさ 」
第05話 「 人のせいにしているようなヤツは辞めちまえ! 」
第06話 「 イデポン宮森 発動篇 」

【 Disc-2 】 ( Blu-ray )
第07話 「 ネコでリテイク 」
第08話 「 責めてるんじゃないからね 」
第09話 「 何を伝えたかったんだと思う ? 」
第10話 「 あと一杯だけね 」
第11話 「 原画売りの少女 」
第12話 「 えくそだす・クリスマス 」

【 Disc-3 】 ( Blu-ray )
『 えくそだすっ! 』 第1話

【 Disc-4 】 ( CD )
オリジナルサウンドトラック 1

【 Disc-5 】 ( CD )
武蔵野アニメーションアンサーフォンボイス集 1

【 Disc-6 】 ( CD )
『 えくそだすっ! 』 主題歌
♪. OP 『 あいむそーりーEXODUS 』
歌 : トレイシー [ あかね ( CV. 中原麻衣 ) &あや ( CV. 伊藤静 ) &あるぴん ( CV. 茅野愛衣 ) ]

♪. ED 『 Cメロから愛を込めて 』
歌 : あかね ( CV. 中原麻衣 )

 

SHIROBAKO Blu-ray プレミアム BOX vol.2 初回仕様版

≪収録内容≫
【 Disc-1 】 ( Blu-ray )
第13話 「 好きな雲って何ですか ? 」
第14話 「 仁義なきオーディション会議 ! 」
第15話 「 こんな絵でいいんですか ? 」
第16話 「 ちゃぶだい返し 」
第17話 「 私どこにいるんでしょうか… 」
第18話 「 俺をはめやがったな ! 」

【 Disc-2 】 ( Blu-ray )
第19話 「 釣れますか ? 」
第20話 「 がんばりマスタング ! 」
第21話 「 クオリティを人質にすんな 」
第22話 「 ノアは下着です。 」
第23話 「 続・ちゃぶだい返し 」
第24話 「 遠すぎた納品 」

【 Disc-3 】 ( Blu-ray )
『第三飛行少女隊』第 1 話

【 Disc-4 】 ( CD )
オリジナルサウンドトラック 2 + 「 SHIROBAKO 音頭 」

【 Disc-5 】 ( CD )
武蔵野アニメーションアンサーフォンボイス集 2

【 Disc-6 】 ( CD )
『 第三飛行少女隊 』 主題歌
♪. OP 『 アリス・イン・ブルー 』
歌 : Rita

♪. ED 『 Angel Fly 』
歌 : Rita
 

STAFF

原作=武蔵野アニメーション 監督=水島努 シリーズ構成=横手美智子 キャラクター原案=ぽんかん⑧ アニメーションキャラクターデ ザイン=関口可奈味 アニメーション制作=P.A.WORKS

CAST

宮森あおい : 木村珠莉 安原絵麻 : 佳村はるか 坂木しずか : 千菅春香 藤堂美沙 : 髙野麻美 今井みどり : 大和田仁美 本田豊 : 西地修哉 落合達也 : 松岡禎丞 矢野エリカ : 山岡ゆり 高梨太郎 : 吉野裕行 小笠原綸子 : 茅野愛衣 渡辺隼 : 松風雅也 興津由佳 : 中原麻衣 ほか

STORY

「第三飛行少女隊」の最終回完成に向けて、宮森あおいはスタッフのスケジュールの調整を行ないながら制作を続けていく

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