ピクサー作品のオファーを受け「青天の霹靂でした」 映画『ファインディング・ドリー』上川隆也さんインタビュー
アニメーション史上全米歴代No.1という、輝かしいオープニング記録を樹立した映画『ファインディング・ドリー』。『ファインディング・ニモ』の物語の1年後を描いた続編で、今回は「なんでもすぐに忘れちゃう」でおなじみ、ドリー(声:室井滋さん)が主人公。忘れかけていた“家族”の思い出を探しに、大冒険に出かけます。
そんな本作で新たに日本語版吹替キャストに加わったひとりが、上川隆也さん。自由自在に擬態する、7本足のタコ・ハンクを演じます。というわけで、本稿では上川さんにインタビュー。オファーが来たときの心境やハンクの演じ方などについて、お話をうかがいました。
……が、まず最初に。上川さんと言えばアニメ好きとしても有名で、『天元突破グレンラガン』では、アンチスパイラル役で出演もしています。なので、ご自身の好きなアニメについても少しだけ聞いてみました――。
■アニメの話にはじまり……本作のCG技術にもふれる
──早速ですが上川さんはアニメがお好きと聞いたので、好きなアニメ作品からうかがいたいなと思うのですが?
上川隆也さん(以下、上川):(笑)それをお話しするのならば、もう少しお時間を頂けないでしょうか(註:この日の取材時間はかなり限られていました)。
──確かに! この話題だけで終わってしまってはいけないので、じゃあ好きなジャンルだけでもぜひ。
上川:僕はストーリーは勿論ですが『気持ちよく動いてくれる』アニメーションが好きなんです。観ているだけで高揚する。トリガーさんの作品は好きです。『天元突破グレンラガン』に出演させて頂いたこともあり、やはり気になります。春は『キズナイーバー』、あと『宇宙パトロールルル子』も勿論観ていました。(註:『天元突破グレンラガン』、『キズナイーバー』、『宇宙パトロールルル子』共にトリガー制作。)他にも『文豪ストレイドッグス』や『僕のヒーローアカデミア』『クロムクロ』『ジョーカーゲーム』……
──すごい、本当に時間延長が必要になってしまいそうです(笑)。しかもアニメーターも目指していたそうですね。
上川:(笑)好きが高じてという、最もシンプルな理由で憧れていました。それに、仲間もまわりにいましたし。彼らと一緒に遊んでいた、その延長線上に、アニメーターという選択肢があった。そのときの仲間は何人かがプロになっていきましたが、僕には実力がなかったんです。
──では、そんな上川さんから見て『ファインディング・ドリー』の好きなシーンってどこですか?
上川:技術的に一番手間暇が掛かっているのはハンクのCG(註:)だとお聞きしているんですけれど、それ以外を改めて挙げるなら、映画の主な舞台になっている海の“水”でしょうか。普段は、ドリーたちと同じ目線でカメラが動いているので映ることは少ないんですけど、たまにカメラが引いた画になった時、スクリーンの上のほうに水面が見える、その海中から見た揺らめく水面が、本当に自然できれいなんです。
(註:ハンクのCGに関しては、こちらの監督対談をチェック!)
https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1467890495
――ゆらゆらゆれたり光を反射してキラキラと輝いたり。すごく繊細でしたね。
上川:ハンクは柔らかい無脊椎動物ですから、アニメーションで表現するのは難しかっただろうと思うんですけど、それは水も同じですよね。柔らかいものの表現ってCGではきっと難しい。その最たる物の一つが水だと思うんです。なのにあれだけ美しく描いているということは、どれほどの努力と研究と開発を繰り返したんだろうと。そう思うと、あの一瞬がすごく価値のあるものだと思えるんです。
――では、お気に入りのシーンもうかがってみたいです。
上川:ハンク以外のシーンですと、スタッフロールがすべて終わった後です。最後までちゃんとサービスを用意するスタッフの遊び心というか、作品愛がきちんと盛り込まれているところは、やはり観ていてうれしくなります。
一方、自分の演じたシーンで言うならば、ある難関を切り抜けてドリーとお互いの無事を喜び合う場面。そこに「こんなところに来たのはお前のせいだ。でもお前がいなけりゃここには来られなかった」というハンクの台詞があるんです。ハンクとドリーが大きく近づいた瞬間だと思えてとても好きな場面でしたし、演じていてもとても印象的なシーンでした。
■じっくりと向き合い感じ取ったハンクのキャラクター像
――そもそも、ハンク役をオファーをもらったときってどんなお気持ちでしたか?
上川:こんなことが起こるのかと思いました。最初はオーディションという形でしたけれど「僕にピクサー作品のオファーがくるなんて」と。もともとアニメーションは好きですし、ピクサーのCGアニメーションも数多く拝見してきましたけれど、僕はずっと“お客さん”なんだと思っていましたから、まさか出演する側にまわれるなんて思ってもいませんでした。だからこそ、ちょっとオーバーな表現にはなりますけど、“青天の霹靂”でした。
――実際に演じてみて、いかがでしたか?
上川:オリジナルのハンク役の俳優さんの声が、ハスキーでセクシーな声だったんです。なので当初、僕はそれがハンクのボイスイメージだと捉えていた。ところが収録をはじめたら、なかなかOKをいただけない。ぼくがオリジナルに引っ張られすぎて、声を不必要に作ってしまっていたみたいなんです。
――ほう。制作陣からするともっと別の声色を求めてたんですね。
上川:そこでいろいろ試していくうち、地声から大きく離れない方がOKをいただけることがわかった。「今求められているのは、原音に近づける作業ではないんだ」と気づけたんです。そこからはNGの回数もグッと減りましたが、意図を汲み取るまでに時間がかかったのが印象に残っています。
――そうして演じていく中で、ハンクともじっくり向き合ったかと思います。上川さんから見たハンクってどんなキャラクターでしたか?
上川:彼は、相当万能なんですよ。水中も陸上もいけますし、跳躍して天井裏を這うこともできれば、色を変えて姿を隠したり形を変えたり、あまつさえあれやこれやを操作したりもできる。でも、ドリーの“タグ”を執拗に欲しがるんです。決して海に帰ろうとはせず、水槽にとどまろうとする。自分の能力を駆使すれば、誰に頼ることもなく好きなところに行けるはずなのに、それはしようとしない。強い言い方になりますけど、ゆがんでいるんですよね。
――確かにそうなんですよね。
上川:ハンクは、タグというちゃんとした名目を得た上で、水槽の中におさまりたいと思っている。そこがちょっと不思議なんです。どうやら足を一本失った体験がコンプレックスになっている様なのですが……。そんな多面性があるキャラクターなんです。
――きっとその一つひとつに大きな理由があるんでしょうし。彼の闇は深そうです。
上川:ドリーと同様、ハンクも弱点を抱えています。大きな弱点を持っているからこそ、はじめて会ったドリーに居丈高に接してみせて、タグを奪おうとする。自分を粉飾しているような、複雑なキャラクターだと思っています。
――そんなハンクが、ドリーと接して変わっていく。
上川:一方ドリーは、なんのゆがみもなくまっすぐですから。ハンクの心の中の閉じていた何かを開いてくれた。ここに、ハンクの物語があると思います。
――それもあって、好きなシーンに「ドリーに大きく近づいた瞬間」を挙げたんですね。改めて、ハンクはとっても人間味のあるキャラクターだと感じました。
上川:タコだと思うとちょっと隔たりを感じますけど(笑)。心の傷をもった『厭世的な男』だと思うと、急に距離が縮まる感じはあります。演じている間もその様にとらえて、彼の気持ちを推し量りながらやっていました。
──とすると、完成版を観たときは相当感極まったのでは?
上川:正直な話、手放しではよろこべないです。
――意外なお答え! 一体なぜでしょう?
上川:僕以外の出演者の皆さんが演じられたシーンは、純粋に観客として観ていられるんですけど、どうも吹替られたハンクの場面になるといたたまれなくなる(笑)。いまだに自分の出演作品を観る事に慣れることができなくて、どうしても純粋には楽しめないんです。ですから、感極まるなんて余裕すらありませんでした(笑)。お客様に楽しんで頂けたら、その時に改めて、感じ入りたいと思います。
――なるほど。公開されてどんな反応が見られるかですね。
上川:ええ、それを待ちわびたいと思います(笑)
――――どんな反応があるのか、楽しみにしています。ありがとうございました!
[取材&文・松本まゆげ]
■作品情報
タイトル:『ファインディング・ドリー』
監督:アンドリュー・スタントン
共同監督:アンガス・マックレーン
製作総指揮:ジョン・ラセター
原題:Finding Dory
公開:全米/6月17日、日本/7月16日
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
>>ディズニー『ファインディング・ドリー』ページ
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