
なぜ、マフィア梶田は『シン・ゴジラ』に出演していたのか? 本人に聞いてみた!
シン・ゴジラが、如何にヤバイ存在だったのか
――撮影期間で一番印象深かったことはありましたか?
梶田:なにもかもが濃ゆい体験だったので、一番というと悩みますね。強いてあげるなら樋口監督との会話でしょうか。実は、樋口監督とは庵野監督より以前に知り合っていたんですよ。1度だけ、飲みの席で御一緒したことがありまして。
――どのような話をされたのでしょうか?
梶田:それも立川の災害対策本部予備施設でのことですね。あそこって冷戦時代に作られたかなり古い施設らしいのですが、それについて樋口監督に質問したら「ここは、本当に日本がどうしようもなくなったときに使う場所なんだよね。使うことになった時点で、ほとんど詰んでると考えた方がいい」と、教えてもらいまして。そこで初めて、今回のゴジラが如何にヤバイかという片鱗を感じることができました。あの施設って、言わば「バックアップのバックアップ」なんですよ。そこに頼らなければならないくらい、本作ではゴジラに追い詰められてしまうわけです。
――映画でもあそこで日本の存亡に関わる瞬間だったので、撮影の雰囲気とかもそこに出ているんでしょうね。
梶田:他の印象は……庵野監督に見惚れていましたね(笑)
一同:(笑)
梶田:とても穏やかな方なんですが、現場にいるとオーラがあるんですよ。やっぱり。カッコよかったです。
――クラインクイン前打ち合わせの映像でも「面白い日本映画を目指してやっていきたいと思います」と語っていたのが印象的でしたね。
梶田:事前情報をほとんど出しませんでしたよね。内容を徹底的に隠しながら公開までこぎつけているので、その戦略があってこそ初見の衝撃は凄いものになったんじゃないかと。
――当日までどんな話なのが見るまで全然わからない状態でしたもんね。
梶田:なんたって出演している自分ですら、分からないところだらけでしたから。撮影中、一度もゴジラの姿を見ていない(笑)。ゴジラの形態変化に関しては少しだけ聞いていましたが、あんな姿をしているとは予想外でした。
ヒットを確信した瞬間に「これはとんでもない作品になるぞ!」
――「この映画はヒットする」という確信はありましたか?
梶田:“ヒットする”という確信を抱いたのは、試写会のときでした。開幕から徹底的にこだわり抜かれたテンポ感で、撮影中はまったく完成形が見えなかった会議シーンを緊張感と風刺タップリに描いているところで「この映画は間違いなく面白い」と期待は最高潮。ゴジラが出現してからは、スクリーンに見入りっぱなしの口開けっぱなし。人間などまったく気にしていなかったゴジラが、初めて攻撃の意思を露わにするシーンなんか恐ろしくて美しくて、全身鳥肌で涙まで出そうになりました。「コイツは歴代最強のゴジラや!」と思わざるを得ないくらいのインパクトがありましたね。そして終盤、官民連携しての“日本そのもの”を武器としたゴジラへの反撃なんかもう……ゲロ吐くかと思うくらい興奮しました。庵野監督は“現実 対 虚構”という難しいテーマを完璧に描き切っちゃったんだなと。改めて、「一生ついて行こう」と心に決めましたね。
▲ポスターにも「現実(ニッポン) 対 虚構(ゴジラ)」と書かれている。
「新」たなゴジラであり「神」のゴジラ
――今回の映画で"ゴジラしてるな"と感じたシーンはどこでしょうか?
梶田:自衛隊の総攻撃を受けてもピンピンしているところ(笑)。銃撃や砲撃で傷ひとつ付かないところは、実にゴジラらしいですよね。
あと、劇中では自衛隊の攻撃がメチャクチャ正確だったじゃないですか。あれって、フィクションだからというわけでなく本当なんですよ。ミリタリーに詳しくない人から見れば命中精度があまりにも高すぎるように思えるかもですが、自衛隊の練度の高さって世界的にも有名なんです。多少、流れ弾で周囲の建物をぶっ壊すような描き方をした方が派手には見えるはずなのに、あえてそこもリアルに描いているのが本作のスゴいところですよ。
――今作は今までゴジラが作ってきたイメージを覆しているようにも感じました。
梶田:今回のゴジラって、神々しいんですよね。人類のことを気にしている素振りなんて無いし、目的もハッキリしないのに通り道がただただ破壊されていく。『シン・ゴジラ』はそこが怖い。
――作中で“完全生物”と表現されてましたね。
梶田:虚構と現実の境目が曖昧になったこの時代に、“恐ろしい怪獣”を描けたのは本当に凄いと思います。ハリウッド版との違いが明確ですし、海外の人々にも早く観て欲しいですね。「世界よ、これがゴジラだ」と(笑)。
――『シン・ゴジラ』は怪獣が主役してましたからね。
梶田:ハリウッド版では核を使いましたが、『シン・ゴジラ』では日本が核を「使わせなかった」というのも大きなポイントです。……断っておきますが決してハリウッド版をこき下ろしているわけではなく、そこの“違い”が本当に大きな意味を持っているんですよ。
――そもそも核でゴジラを倒せたと思いますか?
梶田:核の熱量だったら滅却できる可能性はあったかもしれないですね。あの段階で国連が打てる最適手がそれだったのは理解できるし、立場を変えて見れば納得もできるんですよ。日本を飛び出て、自国にやってきたらシャレにならないわけで。劇中でも赤坂さん(演:竹野内豊)が“ここがニューヨークでも同じことをする”と言っていますし、その辺りはアメリカを悪者にするでもなくひたすら現実的に描いている。