「僕は主役にこだわってやっていきたい」――『リゼロ』スバル役・小林裕介さんが語る、声優を目指したキッカケとは【連載第1回】
『アルスラーン戦記』のアルスラーン役では、少女と見紛う風貌ながら、高いカリスマ性で一軍を率いるリーダーを演じ、以降も線は細いが芯の強いリーダーキャラクターを好演。一方、『Re:ゼロから始める異世界生活』のナツキ・スバル役では主人公ながらヒロインに下種なセリフを浴びせ、卑屈な面を露わにし、果ては狂信者に憑依されて破滅。そんな作品の難しい要求に見事に応え、幅広い役柄を演じきり、改めて実力を示した注目の若手男性声優、小林裕介さん。
アルスラーン役などのイメージに反して、ご本人は空手の黒帯を持ち、殺陣やアクロバットの経験もあり、車やバイクも乗り回すという、むしろダリューンのような肉体派だ。『ウィッチクラフトワークス』で主役を演じてからは数々の主演作に恵まれるが、そこに至るまでは声優志望者の例に漏れず、苦難の時代があったという。
そんな小林さんの、声優としての心構えからプライベートまでを、アニメイトタイムズが直撃! 小林さんも初めてメディアで明かしたという数々の逸話も飛び出したぞ! 今回は声優への想いや、芝居への取り組み方について語っていただいた。これが「小林裕介ができるまで」だ!
▲小林裕介(こばやし ゆうすけ)
3月25日生まれ。東京都出身。主な出演作は『ウィッチクラフトワークス』多華宮仄役、『アルスラーン戦記』アルスラーン役、『コメット・ルシファー』ソウゴ・アマギ役、『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』奥間狸吉役、『ブブキ・ブランキ』一希東役、『Re:ゼロから始める異世界生活』ナツキ・スバル役、『この美術部には問題がある!』内巻すばる役、『モンスターストライク』焔レン役ほか。ゆーりんプロ所属。
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ここに至るまで
――声優を志すきっかけになった作品や出来事は?
小林裕介さん(以下、小林):最初のキッカケは『らんま1/2』で、この作品がキッカケで声優という職業の存在を知りました。そしてもう一つが『新世紀エヴァンゲリオン』です。僕が初めて行った声優さんのイベントが、緒方恵美さんのトークショーだったんですよ。その時に、暴走したエヴァを止めようとして、友達に重傷を負わせてしまったシンジ君が「うわあああっっ!!」と叫ぶシーンの、その叫びだけを緒方さんが演るのを観て、鳥肌が立ったんです。生の演技の凄さを思い知って、声優さんの事を今まで以上に意識するようになった時に、友達から「だったら声優を目指してみたら」と言われたのがきっかけでしたね。
――高校時代の自転車通学中に、アニメのセリフを叫びながら走っていたそうですが、これは何のセリフだったんですか?
小林:これは『らんま』でした。当時、家から学校まで自転車で30分の距離だったんですけど、ポータブルカセットプレーヤーに『らんま』の好きな話数をまるまる30分録音して、聴きながらセリフも復唱しつつ、通っていました。
――声優の素養に溢れるエピソードですね(笑)。
小林:ほかにも『幽☆遊☆白書』とか。必殺技を叫ぶのがかっこいいと思っていたので、霊丸(レイガン)を乱発するとか、『らんま』でも必殺技を絶叫する回ばかりを録音していましたね。
――声優業は2009年から始めて、当初はナレーション中心だったそうですが。
小林:ナレーションといっても半年に1回、2回あるかな、くらいで。キャラクターに声をアテるという仕事は3~4年くらいはほぼなかったです。
――その間に心が挫けることはなかったんですか?
小林:挫けました。もう辞めたほうがいいんじゃないかなと、結構なダークサイドに堕ちましたね。
――その頃は、前の仕事場も辞めていた?
小林:辞めていました。声優の専門学校に通っている最中に辞めて、専門学校から事務所に入り、3年目くらいにどん底まで堕ちて……。マネージャーと話し合ったり雑念を捨てて芝居に打ち込んだり、どうにかとうにか持ち直し始めた時期にいただいたオーディションが『ウィッチクラフトワークス』だったんです、そこで多華宮仄役に選んでいただけたことで、この道を続けられるようになりました。
――その間はアルバイトで凌いでいた感じですか?
小林:そうですね。当時は声の仕事以外に事務所の公演や外部の舞台に出て芝居の勉強をしながらバイトもしていました。アニメで役がもらえるようになってからもバイトは続けていて、辞めたのは『アルスラーン戦記』の収録が始まる直前でした。
その時も辞められるほどの余裕はなかったんですけど、とある方に「そう言ってるといつまでも辞められない。意外と辞めたほうが回ってくるものがあるよ」と言われて、若干意固地にもなりつつ辞めたんです。そうしたら、不思議と頂く役が増えたんですよ。
多分モチベーションが変わったのが大きかったのかもしれません。僕は夜勤をやっていたんですけど、きつい時などは夜勤が明けて、漫画喫茶でシャワーを浴びて、1時間仮眠を取って朝10時の現場に入るようなことがあったんです。そうなると、どうしてもパフォーマンスが落ちますから、そういうことがなくなったのも、いい結果につながったのかなと思います。
――最初に自分の自信になった作品は?
小林:最初は『アルスラーン戦記』でした。2クールの主人公ということもあり、やり遂げられたのは自分の中でも大きかったです。ですが一番の自信になったのは『Re:ゼロから始める異世界生活』なんです。『リゼロ』は、今まで培ってきたものを全部注ぎ込んだ作品だったんですよ。そこである意味客観的に、これまで積み重ねてきたものを見られた気がして。
それまではずっと「本当にこれでいいのかな……」という疑問がついていましたね。「このキャラはこういう方向性」というキャラ付けがしっかりされていた分、これまでの経験を活かせているのかが見えづらかったんです。あまり感情を爆発させないキャラや、控え目なキャラが多かったこともあるんですけど、『リゼロ』では持てる力を総動員して臨んだので、それが出せたというのは自信になりました。
――逆に、思い出すと悶えるような、トラウマ級の作品は?
小林:『ウィッチクラフトワークス』の第1話です。先行上映会があったんですけど、事前にいただいた完パケを観て、こんなお芝居が流されてしまうのかと思うとイベントに行くのが怖くなりましたね。
第1話はセリフ量が異常で、それまで2桁もセリフ数がない役ばかりだったのがいきなり10倍近いセリフ数になって。だからセリフをしっかり合わせることすら無理だったんです。早口過ぎて、芝居うんぬん以前にセリフを収める作業で手一杯でした。その時は台本をいただけたのが、本番の3日前くらいだったんですけど、前々日に5時間、行く前に5時間くらいVチェックをしました。もう気が気じゃなかったです。
前々日にVチェックをした時、どんなに早口で喋っても尺が足りないし、ましてやここに感情を入れるなんてとても無理で、「ダメだ、絶対できない!」ってテンパっていたんですよ。その翌日に、事務所の先輩が当時ヒロインをされていたゲームのイベントがあって、それを見に行く予定があったんです。とても行けるメンタルではなかったんですが、こういう時こそリフレッシュするべきなのかも?と意気消沈したままイベントへ行きました(苦笑)。そうしたらそこに下野紘さんがいらっしゃったんです。
僕、下野さんの主演デビュー作の『ラーゼフォン』を観ていて。そこでわがままを言って、下野さんに「初主演の時、どういうふうに乗り越えましたか!?」って聞きに行ったんです。急なお願いにも関わらず、下野さんは親身になって色んなアドバイスをしてくださって。そのおかげで肩の力も抜けて、とにかく思いっきりぶつかってみようという気持ちになりました。でも失敗して怒られる覚悟で臨んだ当日でしたが意外とあっさり終わってしまって(笑)
――収録はあっさり終わったけれど、出来上がりを観て悶絶したと?
小林:そうです(苦笑)。「なんでリテイクしてくれなかったんだろう!?」って。それが僕の中では一番きつい過去ですね。
小林裕介流の芝居
――役に対する取り組み方として、役を自分に寄せるタイプと、自分が役に寄るタイプがありますが、どちらのタイプですか?
小林:僕は寄せる派です。役を憑依させる感覚とかは、あまりわからないんですよ。自分なりに「このキャラはこうだろう」と考えつつ、「でも自分がやるんだったら、こういうふうにしたい」と思ってやってみるタイプですね。わりとファーストインプレッションで決めてしまうほうです。
――それはやはり、主役の考え方ですよ。自分を役に寄せていくタイプは、脇役を演じ分ける性格俳優的なイメージがあります。
小林:そう言われると、納得するかも。こういう、感覚でやってしまうタイプを、寄せていく派の方が囲んでくださるから、許されることなのかな。逆に、寄る感覚がわからないんですよ。寄り過ぎると役に入り込んだり、凝り固まってしまって掛け合いができなくなるんじゃないかと思うので、僕は感覚でやって少し余裕を作るようにしています。それこそ原作とかも、あまり読み込まないように。
僕のキャラって、先の展開を知らないことが多いんですよ。だから台本をいただいて、そのバックボーンを知るために原作を読むくらいですね。あまり前もっては読まず、その時に台本から受けたインスピレーションを元に役作りをして、後から原作を答え合わせのような感覚で読んでいる感じです。「あ、ここはちょっと違ったな」とか。
――声優から音響監督になったり、シナリオを書く側に回るなど、将来的にはこういう方面に進むかもしれないと考えていることはありますか?
小林:今はまだ、僕は主役にこだわってやっていきたいと思っています。専門学校にいた時から、主役で、ずっと第一線で活躍できる声優になりたいと言っていましたから。
――声優をめざす人へ、自分の体験談からアドバイスを送るなら?
小林:勝手に自分のライバルを作ること。まだアニメデビューできていない頃、とある人を勝手にライバル視して「この人には負けたくない! この人みたいになりたい!」と思っていました。だからこれから声優をめざす人には、そういうふうに明確に誰という目標を作ると、がんばれるんじゃないかなと思います。
――ライバルといえば、『リゼロ』のスバルとペテルギウスが強烈に印象に残っています。ラスボスのペテルギウスとスバルは、何度も死闘を繰り返すことになる因縁の相手にして、ようやく倒したペテルギウスの意識にスバルが乗っ取られ、自分が新たなペテルギウスになってしまうというバッドエンドもありました。その結果、松岡禎丞さんが怪演されたペテルギウス役のとんでもない芝居を、自分もやることになるという稀有な経験をされましたが、あれはいかがでしたか?
小林:プレッシャーでしたね。自分の中で「松岡さんのパワーに負けたくない!」という想いもありましたし、周りからどう見られるかも怖かったですし。ペテルギウスに関しては、取材の場で松岡さんが「こういう想いでやっている」というのを伺っていたんですよ。だから口調を真似るだけではなく、心情面をトレースしてちゃんとやりたいというこだわりはありました。
それが結果的にどうだったか、自分ではなんとも判断しにくいんですけど、スタッフさんや観てくださったみなさんからは「完全にトレースをしていた」と言っていただけたので、がんばった甲斐はあったかなと思います。
――最後にメッセージをお願いします。
小林:今まで受けた取材の中でも、こんなに芝居に関して聞き出されたことはなかったので、芝居に対する心構えとか、どういうふうに芝居をするという話はおそらく初めてかもしれません。今まで僕を知ってくださっていた方も、「こういうことを思ってやっていたのか」という新しい一面が見えるインタビューになったと思うので、僕もやっていて楽しかったです。
次回は「これを観てほしい」といった、個人的なこだわりのある作品についても語らせていただきます。最近僕を知った方には、過去の作品を観返していただけたら、今からは考えられない役をやっていた時期もありますし、当時まだ拙いながらも「面白いな、小林の芝居は」と思っていただける役をたくさんやってきたと自負しているので、これを機会にいろいろ観直して、またひとつ僕に興味を持っていただけたら嬉しいなと思います。
編集:柏村友哉、設楽英一
インタビュー&文:設楽英一
撮影:山本哲也
ヘアメイク:you
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