制服も、ダンス衣装も、モフモフバイオスーツも「ずっとかわいい!」 キャラクター原案・黒星紅白先生が語る映画『ポッピンQ』のヒロインたち
東映アニメーションが創立60年の節目におくる、オリジナル劇場作品『ポッピンQ』。全国約221の上映館にて、12月23日(金・祝)から公開されます。本作の主役は、中学卒業を間近に控えながら、心のなかに悩みをかかえ、前に進めずにいる5人の女の子たち。彼女らが異世界“時の谷”に迷い込み、ダンスで世界を救う物語となっています。
本作の魅力のひとつは、なんといってもかわいいキャラクターたち。小説『キノの旅』シリーズや、ゲーム『サモンナイト』シリーズ、TVアニメ『世界征服~謀略のズヴィズダー』などを手がけるイラストレーター・黒星紅白さんがキャラクター原案を担当しています。今回は、そんな黒星先生にインタビューを実施。5人のヒロインや、衣装のデザインなどについて語っていただきました。
――公開に先がけて行われた最速上映イベント(12月3日開催)には、黒星さんもいらしていたそうですね。間近でお客さんの反応をご覧になって、いかがでしたか?
黒星紅白さん(以下、黒星):いざお披露目となると、あまり現実感がなくて……どこかフワっとした感覚でした(笑)。喜んでいただけたみたいでホッとしています。自分としては、「ホラ見ろかわいいだろ!」と思いながら会場に紛れていました(笑)。
――(笑)。それでは最初に、キャラクター原案のオファーをいただいた経緯から聞かせていただけますか?
黒星:お声がけいただいたのは5年前です。僕はもともと東映アニメーション作品が大好きで、「プリキュア」に関してはイラストを描いたりしていました。それを宮原監督や金丸プロデューサーが見てくださっていたようで、直接会いに来てくださったんです。
――好きで描いたイラストがキッカケで公式からオファーがくる……というのは興味深いです。
黒星:怒られるかと思いました(笑)。そもそも、本当に東映アニメーションさんからのオファーなのか疑っていたんです。いくらなんでも話がおいしすぎるので、新手の詐欺なんじゃないかと。金丸プロデューサーから名刺をいただいたときも、「よくできた名刺だな……」としか思えませんでした(笑)。
――監督やプロデューサーから、「黒星さんの絵のこんなところが好きです」といったお話もいただきましたか?
黒星:宮原監督は、身体全体のデッサンの描き方と、線の(やわらかい)ニュアンスを気に入ってくださったみたいです。金丸プロデューサーからは、「ファンです! ずっとゲームやってます! 最新作も買いました!」と熱く語られました(笑)。
それぞれのキャラで意識したポイント
――最初に監督からいただいたオーダーはどのようなものでしたか?
黒星:ヒロイン5人&ポッピン族5体のラフと、それぞれの境遇や性格についてのテキストをいただき、「ラフを見て、一回忘れて、それから描いてください」、とお話いただきました。ラフのもつ要素を一度こちらでバラバラにして、自分なりに思ったことなどをプラスして描いています。宮原監督のラフは端的に各キャラの特徴を表せているものだったので、作業自体はものすごくやりやすかったですね。ほかの仕事でも、こういう資料がもらえたら良いのに……(笑)。
――黒星さんは福岡在住だそうですが、やりとりはどのようにされたのでしょう?
黒星:1キャラ描けるたび監督にスカイプで連絡して、リアルタイムで修正作業をしました。ただ、全体的にあまり修正はなかったです。
――まずは主人公の伊純からデザインを?
黒星:そうです。伊純が決まれば、彼女を中心にほかの4人を配置していけばよかったので。伊純の場合は「陸上をやっている」というのが一番大きい要素で、走っている場面が映えるように、髪型をポニーテールにしています。なびくものがあったほうが、やっぱりスピード感が出てかっこいいですよね。
――ほかの4人に関しては、特にどんなポイントを意識されたのでしょう?
黒星:蒼ちゃんは、「とっつきづらそうな子」という要素を押し出しています。監督のラフの時点ではショートでしたが、あまり運動しなさそうな堅苦しい雰囲気が出ると思って、僕が勝手にロングにしました。監督からは何度か「やっぱりショートにしてください」とお話いただいたんですけど、5人揃ったときのバランス的にもロングのほうが良いと思ったので、そこは押し切ってしまったんです。
逆に、小夏ちゃんはムードメーカー的な存在ということで、「接しやすい女の子」というのが軸でした。一番女の子らしい見た目になりましたね。
あさひは、伊純のように「何をやっている子なのか」がデザインの軸で、「格闘少女」っぽさを大事にしました。柔道と合気道をモチーフに、袴っぽい衣装にしています。ただ、それだと少しかわいさが足りなかったので、もっとスカートに寄せた「ミニ袴」になりました。かわいいものが好きだという設定もあったので。武道×かわいいで、大和撫子っぽくなりましたね。
沙紀ちゃんも蒼ちゃんと一緒で、とっつきにくいというか、「コミュニケーションの苦手な子」という意識で。前髪で隠れていた目を出したこと以外は、ほぼ監督ラフのままだと思います。その段階から充分かわいかったですね。
衣装デザインを活かしたダンス表現も
――作画されることを見越して気をつけたポイントは、どういったところでしょうか?
黒星:アニメーターではないので勘所がよくわからないのですが、ある程度やっぱり、線を少なめにしようとは意識しました。5人並んだときにゴチャゴチャしすぎないためにも、メインの衣装はこのくらいの衣装の密度に落ち着きました。本来はもう少しゴテっとしてもいいのかもしれませんが、今回はあくまで「ダンス衣装」であることを優先しています。監督のなかのイメージとしては、「変身」したように見せるけれど、彼女たちが「自分で着る衣装」という位置づけなんです。普通にファスナーがついていて、あくまで自分で着られる。そういった意味で、「コスプレ衣装に近い」ともおっしゃっていました。
――パイロットフィルムとして、オープニングソング『ティーンエイジ・ブルース』にのせてこの衣装を着て踊った映像が作られたそうですが、ご覧になっていかがでしたか?
黒星:「プリキュアダンスの技術で踊っとる!!」と……感動ですよ(笑)。衣装デザインありきの振り付けやカット割もあって、とにかくすごかったです。たとえば、伊純のマフラーがなびくのを前提としたターンとか。マフラーがきれいに画面に入ってきて、そこからの伊純、とか。そういった演出が本当にうまいと思いました。
――もうひとつの衣装であるモコモコしたバイオスーツも新鮮なデザインです。
黒星:あのシルエットは、ほぼラフのままなんです。変身するとキュッとしまったメインの衣装になるので、そのメリハリが際立つように意識しました。雰囲気としては「オリエンタル」というオーダーで、自分としては女子力を減らすような気持ちで描きました。
――女子力を減らすというのは、あまりないケースなのでは?
黒星:ちょっと新鮮でしたね。ただ、そもそもの5人がかわいいから、何を着ても大丈夫だろうと思いました(笑)。実際にあの衣装で下手くそなダンスをするシーンを見ても、やっぱりかわいい……。あんなにポヨンポヨン動くとは思っていませんでした。
――CGによるダンスを見越してデザインした要素などもあったのでしょうか?
黒星:ポッピン族に関してはありました。彼らもダンスをするので、指は5本ですし、腕や足もある程度長くする必要があったんです。ヒロインについては特にありませんでした。逆に、僕の絵をダンスさせるために「ここはこう動かしてくれ」といったオーダーが現場の方たちにあったそうで……ご苦労をおかけして本当に恐縮です。
――宮原監督のなかで、「黒星さん成分100%の絵を動かす」のが前提だったのかもしれないですね。
黒星:監督からも何度かそんなことをおっしゃっていただいて……本当にありがたいです。でもあんまり調子に乗ってもダメだし、リアクションに困ります(笑)。
――浦上貴之さんによるキャラクターデザインも、黒星さんらしさがそのまま再現されている印象です。
黒星:「さすがだな……」のひと言です。黒星紅白成分を徹底的に分析してアニメに落とし込んでくださっていることが、ものすごく伝わってきました。
特にヒロイン5人のサイズ感。伊純たち5人は中学生なので、全体的に華奢というか、小さいはずなんです。こちらの世界にいるシーンでは、伊純の両親やおじいちゃんとの対比でそれがわかるんですけど、時の谷だと勝手が違ってくる。でも浦上さんの絵だと、ポッピン族のような本当に小さいキャラクターに囲まれている場面でも、伊純たちの小ささがわかるんです。単純なサイズだけではなく、デザイン全体から「この子たちは小さいんだよ」ということが伝わるのが特にすごくて。キャラクター原案と作品の世界観とを、完璧につないでくださっていると思いました。
――黒星さんと浦上さんとで、やりとりすることもあったのでしょうか?
黒星:実はまだ、お会いしたこともないんです。基本的に宮原監督とのやりとりでした。
――完成した本編を、黒星さんはどうご覧になりましたか?
黒星:まず、ずっとかわいい! それから、まるで「青春」がそのまま映画になっているようだと思いました。自分の中学時代を思い出して、泣きそうになりましたね。僕の場合、ある意味……なんですけど。
――と、いいますと?
黒星:実はものすごく荒れた中学校に通っていて、とても学生生活という雰囲気ではなかったんです。シンナー吸ってフラフラの不良がトイレから出てくるし、先生たちは彼らに殴られて次々に辞めちゃうし。僕の中学時代に青春はなかった(笑)。とにかく早く卒業したい、としか思っていませんでした。そんなことも思い出して泣けてきて……。あれ? あんまり関係ないか(笑)。
伊純たちが出会って、頑張って前に向かっていくのを見ていると、「あぁ、これが青春なんだ」と。僕の知らない青春を感じました。もう一回、僕もこういう青春できるんじゃないか! まずは、ちょっと素直になってみよう! と思いました(笑)。
――「ほんの少し素直になる、それだけで世界は変わる――」ですね(笑)。
黒星:ちょっと茶化してしまいましたが……(笑)、映画の内容は本当に素晴らしいです。小さい子が見ても、かわいくって面白いし、未来に向かっていく力みたいなものが伝わると思います。僕は常々、子どもにそういうものを提供できる作品って素晴らしいなぁと思っていて。たとえば小さい女の子がプリキュアを見て笑っている――というのは、それだけで「宝」ですよね。劇場でミラクルライトを一生懸命振っている姿なんかも、すごく尊い。小さい子たちも『ポッピンQ』を見て笑ってくれたらうれしいです。僕ら大人も、中学生の女の子たちが頑張ったり、笑ってすごしている姿を見ると、いくらでも頑張れるものだと思います。『ポッピンQ』は、そんな元気と勇気をもらえる映画ですので、ぜひ見ていただけたらうれしいです。
ポッピンQついに本日公開!劇場で見ないともったいない!https://t.co/XEqc1Zxz6z #ポッピンQ pic.twitter.com/maKxbKPhu2
— 黒星紅白 (@kuroboshi) 2016年12月23日
[取材&文・小林真之輔]
『ポッピンQ』作品概要
12月23日(金・祝)全国拡大ロードショー
>>映画『ポッピンQ』公式サイト
>>映画『ポッピンQ』公式Twitter(@POPIN_Q_staff)
【ストーリー】
「別々の方向を見ていた、その時までは―。」5人の少女たちが過ごす、特別な時間の物語。
春、卒業を控えた中学3年生の伊純(いすみ)は悩んでいた。不本意な成績で終わってしまった陸上の県大会。あの時出せなかったパーソナル・ベストを出したい。このままでは東京へ転校なんてできない。伊純は、毎日放課後にタイムを測っていた。だが、そんな伊純の行動は、県大会で勝った同級生へのあてつけだと周囲には受け止められていた。
卒業式当日、ふらりと辿りついた海で“時のカケラ”を拾った伊純の前には、見たこともない風景が広がる。そしてポッピン族のポコンが現れる。ポコンは伊純と心が通じ合っている“同位体”だった。
伊純が迷い込んだ場所は“時の谷”。ポッピン族は、様々な世界の“時間”を司る一族。ところが、その“時間”がキグルミという謎の敵のせいで、危機に瀕しているという。
“時の谷”には、伊純と同じく“時のカケラ”をひろった少女たちがいた。勉強のためなら友達なんかいらないという蒼(あおい)。プレッシャーでピアノのコンクールから逃げだしてしまった小夏(こなつ)。父のすすめる柔道と母のすすめる合気道のどちらも選べないあさひ。みな悩みを抱えたまま“時の谷”へとやってきていた。そして伊純と同様、その傍らには“同位体”のポッピン族がいた。彼女たち“時のカケラ”の持ち主が、心をひとつにしてダンスを踊ることで“時の谷”を守ることができ、元の世界に戻ることもできる。だが5人目の少女、沙紀(CV:黒沢ともよ)はみんなと踊ることを拒絶する。「私は元の世界になんか戻りたくないから」。
その言葉に伊純の心はうずく。「私だって元の世界に戻って前にすすめる自信なんてない」──。
【スタッフ】
監督:宮原直樹
キャラクター原案:黒星紅白
企画・プロデュース:松井俊之
プロデューサー:金丸裕
原作:東堂いづみ
脚本:荒井修子
キャラクターデザイン・総作画監督:浦上貴之
CGディレクター:中沢大樹
色彩設計:永井留美子
美術設定:坂本信人
美術監督:大西穣
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音楽:水谷広実(Team-MAX)、片山修志(Team-MAX)
主題歌:「FANTASY」(Questy)
配給:東映
アニメーション制作:東映アニメーション
製作:「ポッピンQ」Partners
【キャスト】
瀬戸麻沙美、井澤詩織、種﨑敦美、小澤亜李、黒沢ともよ
田上真里奈、石原夏織、本渡 楓、M・A・O、新井里美
石塚運昇、山崎エリイ、田所あずさ、戸田めぐみ
内山昴輝、羽佐間道夫、小野大輔、島崎和歌子