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『ボトムズ』高橋良輔監督が、誕生の秘密を自ら語る

『ボトムズ』高橋良輔監督が、誕生の秘密を最新作からTVシリーズまで自ら語る

TVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)(以下、ボトムズ)。従来のロボットアニメとしては異例とも言える、ハードボイルドな登場人物、ミリタリー色の強い世界観、斬新なギミックにより当時のアニメファンに衝撃を与え、今もなお根強い支持を集めて続けている作品です。

2016年12月7日には、その『ボトムズ』シリーズの最新作にあたる書籍『装甲騎兵ボトムズ 戦場の哲学者』の発売を記念した、『ボトムズ』の生みの親とも言える高橋良輔監督(※1)のトークショウが行われましたが、イベントのタイミングで、高橋監督にインタビューするという大変貴重な機会をいただきました。

ここでは、新作『戦場の哲学者』から『ボトムズ』シリーズに至る気になる話題まで、さまざまなお話を聞くことができたインタビューの模様をお届けしていきます。

▲高橋良輔監督

▲高橋良輔監督

(*1)アニメーション監督、脚本・脚本家、プロデューサー。『ゼロテスター』(1973年)で監督デビューして以降、『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)を筆頭に、『太陽の牙ダグラム』(1981年)、『蒼き流星SPTレイズナー』(1985年)、『ガサラキ』(1998年)など代表作多数。徹底したリアリティ維持しつつ、従来のロボットアニメにはないギミックをいくつも生み出し、後のアニメーションに多大な影響を及ぼした。現在は大阪芸術大学でキャラクター造形学科教授も勤めている。

 

TVシリーズの後を描く『赫奕たる異端』は、高橋監督の想定外の作品
――『装甲騎兵ボトムズ』のTVシリーズが放送されてから30年以上の年月が経ちます。今も新作が制作され続けている現在の心境を教えてください。

高橋良輔監督(以下、高橋監督):ずっと続けているわけですから、毎回意外とは思っていないのですが(笑)、よく続いているよなと思います。作り手としてもこれだけ長くやっていると、「この話は前にやったよな」と気づくこともあり、産みの苦しみというのはあるのですが、どれだけ作っても、受け手の方に関心がなければ続けてこられないわけですから。何よりも応援し続けてくださっているファンの方々に感謝、といった思いですね。

――TVシリーズを作っていた頃からある程度長く続けることは想定されていたのでしょうか?

高橋監督:いえ、まったくなかったです。その前の『ダグラム』(※2)まではよかったのですが、『ボトムズ』はプラモデルが全然売れなかったんですよ。ただ、その流れは『ボトムズ』に限った話ではなく、当時作られていたロボットアニメ全般に言えることで、その後に自分がやった『ガリアン』(※3)や『レイズナー』(※4)も途中打ち切りですからね。自分の中では作品が悪いという感覚はなかったのですが、『ダグラム』の頃とは違う、時代の変化というものを感じていました。

 
――具体的に、ある程度長くやっていこうと切り替えたタイミングのようなものはあったのでしょうか?

高橋監督:それもないですね。正直な話をすると、私自身はTVシリーズの終わり方でいいと思っていてたので、OVAを作るなら、その間の話をやるという方針で続けていました。ところが営業の方から「ユーザーはその先が見たいんだ!」と言われて作ったのが『赫奕』(※5)なわけです。ただ、作ってから半分後悔しているところもあって……(苦笑)。その先をやってしまうとキリがなく、新しいメカに対するハードルも上がっていきますし、『ボトムズ』の場合は、作れば作るほど世界が広がっていくということもなかったので、苦しい思いはしていますね。

▲TVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)

▲TVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)

(*2)『太陽の牙ダグラム』。1981-1983年にかけて放送されていたTVアニメ。植民惑星デロイアの独立戦争をテーマに、骨太な政治ドラマや登場人物同士の戦略的駆け引きが描かれ、ロボットアニメでありながら戦争のリアリティが追求された作品。高橋良輔監督の代表作の1つとして、今もなお人気が高い。

(*3)『蒼き流星SPTレイズナー』。1985-1986年にかけて放送されていたTVアニメ。地球から遠く離れたグラドス星からやってきた、地球人のグラドス人のハーフである少年・エイジの戦いが描かれる。主人公機であるレイズナーに搭載された意思をもつコンピューター「レイ」は、後に多くのフォロワーを生み出した。

(*4)『機甲界ガリアン』。1984-1985年にかけて放送されていたTVアニメ。中世をベースとしながら、SFの要素も盛り込んだ独特の世界観が特徴。後に「ガリアンソード」と呼ばれることになる、蛇腹状に変形する剣のギミックは大きな衝撃を与えた。

(*5)『装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端』。1994年-1995年にかけてリリースされた、TVシリーズの続編にあたるOVA。コールドスリープについていたキリコとフィアナが目覚め、マーティアル教会を巡る陰謀に巻き込まれていく。それまでのOVAでは前日譚やTVシリーズの合間的なエピソードが描かれるのに留められていたが、初めてTVシリーズのその後が明らかになったことや衝撃的なラストシーンが大きな反響を呼んだ。

 
当初の構想から捨てきれなかった「バトリング」への思いも明らかに
――今回発売された『戦場の哲学者』で、どのような経緯で小説を書き下ろされることになったのでしょうか?

高橋監督:実のところは、細かい事情は自分でもよくは分かっていないんです(笑)。書きたいかどうかはともかく、僕が自分では小説を書けるとは思っていなくて、今回に関しても、「小説かこれは?」という思っているくらいで。ただ、『ボトムズ』ファンの方々の内、半分はメカニックが好きだと思っていて、そうした人たちが「こういうのもアリだよね」と想像を広げる材料みたいなのを提供できればなと。

――新しいATに絵コンテなど内容が盛りだくさんで、小説というよりも『ボトムズ』シリーズの完全新作、という印象を受けました。

高橋監督:少しひ弱な考えかもしれませんが、実際、周囲のスタッフや出版社がそのような形にしようとバックアップして盛り上げてくれたので、いろいろと助けられましたね。

――短編2つという構成ながら、主人公であるフィローがスコープドッグ(※6)系とベルゼルガ(※7)系の2つのAT(※8)に搭乗したり、バトリング(※9)を行うなど、一作品の中に『ボトムズ』の魅力がこれでもかと詰まった、美味しい所取りの作品になっていると感じられました。ああした要素は、ファンサービスとして意図して入れられたのでしょうか?

高橋監督:先ほどの話に繋がりますが、やっぱりそういう風に新しいメカを出さないと、本を出す意味合いが薄れてしまうと思うんですよね。それを喜んでもらえるという意味ではファンサービスというのかもしれませんが……「ファンサービスです」とは、自分からはなかなか言いにくいですよね(笑)。

▲ボジル・ドン・ハリバートン(フィロー)(紙面より)

▲ボジル・ドン・ハリバートン(フィロー)(紙面より)

――パイルバンカーを始めとして、高橋監督の手がけるロボットには斬新なギミックの武装が登場することが多いですが、本作でも「痛い聴診器」(※10)という印象的な武装が登場しています。

高橋監督:武器そのものはそこまで変わったものではないのですが、「痛い聴診器」という名前は僕らしいと思っています。性能としてはバトリングに特化したもので、とても実戦では使えない代物ですよね。元々、『ボトムズ』という作品は、バトリングで生計を立てていく選手が旅をする話になるかもしれなかったのですが、スタッフがあんまり乗ってこなかったんです(笑)。それでも僕の中ではバトリングという要素を最後まで捨てられなかった。実はTVシリーズで、僕が唯一脚本を書いたのが「バトリング」(TVシリーズ第4話)なんですよ。そのバトリングに特化した武装として、「痛い聴診器」のような武装をもった選手がいてもいいんじゃないかなと。

――初めてあの武器を目にした時は、こういう着眼点があったんだなと感心させられました。

高橋監督:実は、僕は自分の考えるメカに関してはそこまで自信をもっていないんです。最初に僕が出すアイディアというのはロボットらしくもないし、そこまでミリタリーっぽさもないんですけど、周囲のスタッフがうまくそれらしく仕上げてくれるんですね。僕が自信をもって描けるシーンというと、キャラクターが酒を飲んでいるところくらいでしょうか(笑)。

▲ATM-09-DTC BLOOD SETTER ブラッドセッター(紙面より)

▲ATM-09-DTC BLOOD SETTER ブラッドセッター(紙面より)

(*6)『ボトムズ』を代表するATで、主人公のキリコ・キュービィーがもっとも多く搭乗した機体。『ボトムズ』の世界の中でもっとも多く普及しているATであり、主人公機でありながら敵機としても多数登場する。独特のターゲットレンズの形状がタコの頭に見えることから、ファンからは「スコタコ」とも呼ばれ愛されている。

(*7)スコープドッグと並んで高い人気を誇るAT。現在のロボットアニメで広く使われている「パイルバンカー」とよばれる巨大な杭打ち機を武器として使用した元祖とも言える機体。外伝にあたる『青の騎士ベルゼルガ物語』では主人公機として抜擢されている

(*8)正式名称はアーマードトルーパー。『ボトムズ』シリーズに登場する、人型ロボットの総称。 パンチを火薬の爆発力で叩きつける「アームパンチ」や、足裏のホイールを使って走行を行う「ローラーダッシュ」など、従来のロボットアニメの常識を覆す斬新なギミックは当時の視聴者に衝撃を与えた。

(*9)ATを使って行われる模擬戦闘方式の賭け試合。軍からあぶれたAT乗りにとっては貴重な収入源となる。AT火器を使用しない「レギュラー」や実戦さながらの戦闘を行う「リアルバトル」など、さまざまなレギュレーションが存在する。

(*10)『装甲騎兵ボトムズ 戦場の哲学者』で、主人公であるフィローが搭乗するAT・ブラッドセッターが使用したバトリング用の装備。電磁吸着式パイルガンと呼ぶべき装備で、敵機に密着し武器本体を吸着させたところに、内蔵された杭を打ち込み行動不能にさせる。使い方はパイルバンカーに近いが、杭の先端が平坦になっており殺傷能力は低く、バトリングに命のやり取りを持ち込みたくないというフィローのポリシーによって作られた。

 
作品に体験した時代の匂いを入れることで、クリエイターの個性が醸し出る
――これまで高橋監督が関わられてきた『ボトムズ』シリーズの中で、とくに思い出深いという作品はありますか?

高橋監督:気に入っているのは、TVシリーズのウド編とクメン編です。少し話は変わりますが、普通、第1話の絵コンテは監督自身がすることが多いのですが、『ボトムズ』ではウド編もクメン編も、他の人に任せたんですよ。すると、案の定そっちの方がよかった(笑)。基本的には脚本も絵コンテも僕よりうまい人が必ずいるので、その人達にお任せするのが一番だと思っているのですが、最後の部分で頑固さを発揮するのが監督である僕なんです。
『ボトムズ』ではないのですが、以前に関わった『FLAG』(※11)という作品では、神の目である第3者視点は使わないと決めていたんです。もちろんアニメーターにとってはめちゃくちゃ大変なわけですから、現場からは「もう辞めにしましょう」という声がいくつも上がってくる。そういう時に最後の一線を守るのが僕の役割だと思っていて、「監督は作品の文体を作る人」という言葉を聞いた時には、うまいこと言うなと感心させられました。

話を戻すと、今までアニメーションを作ってきた中で自分らしさということを考えた時、僕の身体の中には第2次世界大戦の戦後(1945年以降)とベトナム戦争(1955-1975年)当時の、社会情勢や政治的な事情を含んだ空気感というのが入っていて、それを作品として仕立てているんです。ウド編とクメン編は、とくにそうした要素が色濃く出ているので、思い入れが深くなっていますね。

▲本作の絵コンテ(紙面より)

▲本作の絵コンテ(紙面より)

――たしかに、ウド編は第2次世界大戦の後、クメン編はベトナム戦争に雰囲気が近いですね。あれらには高橋監督自身の経験が反映されていると。

高橋監督:学生たちにもよく伝えているのですが、もし作り手に回りたいのなら、今の時代の空気感というのを身体の中に入れておきなさいと。もちろん、後から資料で調べることもできますが、実際自分が呼吸して生きた時代というのは特別なんです。
僕が小学生の頃はまだジープが走り回っていて、兵隊と兵器というものの雰囲気や大きさというのは分かっていましたし、ベトナム戦争の頃は僕が世の中のことを一番吸収できる年齢でした。『ダグラム』には安保闘争や学生運動の影響がありますし、全て身体の中に入っているものが出力された結果ですよね。

――『ボトムズ』では、ギルガメスとバララントという2つの大国の戦争ではなく、それが終わった後の物語がメインとなるのも独特ですよね。

高橋監督:おっしゃる通り、『ボトムズ』における戦争はほぼ絵の中の話で、あまり直接は描いていません。そういうリアルな戦争描写というのは『ダグラム』でやったので、こちらではエンターテインメントに特化させよう、という意図はありましたね。

――主人公が明確な専用機を持たない、というのは現在でもロボットアニメとしては非常に珍しいかと思います。

高橋監督:『ボトムズ』ではロボットそのものが一兵士という単位に過ぎないというのが特徴で、兵士というのは使い捨ての工業製品みたいなものじゃないですか。ATはそういう立場に貶められた、主人公の制服のようなものなんです。

これは大学の授業でも話していることなのですが、『ガンダム』(※12)が出てきて以降、これまでのロボットアニメの常識のようなものは通用しなくなった。その上で兵器としての巨大ロボットをどう描くかというのが難しくなっていて、富野さん(※13)が海軍と空軍出しちゃったので、陸軍しか残ってなかったんですよ(笑)。だからまず、飛ぶのはなしだなと。空軍や海軍の方が制服もカッコイイし華々しいけど、こちらはこちらで好きな人がいるだろうという方向性で作られた作品なんですね。

――それが結果的にローラーダッシュなどのギミックを生むことにも繋がるわけですよね。

高橋監督:ローラーダッシュは玩具っぽくなるかなと思って、採用するかをかなり迷ったんですよ。その分は「音」でなんとか切り抜けようと、かなりお金をかけて工夫してもらいました。音単体で聴いてみると、ガラスを引っ掻いた時のような、不快になりそうな音なんですけど、それが兵器としての凶暴さもうまく表現できたのかなと思います。

――個人的な興味として気になったのですが、キリコ(※14)は自分が搭乗したATに対して愛着をもっているのでしょうか?

高橋監督:うーん、そこまで考えたことはなかったんですけど、あまりないんじゃないでしょうか。私が考えているのは、キリコは戦うことも無口な性格も含め、あらゆる意味で自己肯定感の少ない奴だと思っているんです。ATに乗っているのも好んでというわけではありませんから、愛着が沸くということもないのかなと。

(*11)2006年にバンダイチャンネルで配信されていたWebアニメ。カメラマンである主人公・白州冴子の視点から、小国ウディヤーナの内戦を描く。第3者視点を一切使わず、登場人物の主観視点のみで物語が進行するという実験的な試みが行われた。

(*12)『機動戦士ガンダム』 1979-1980年にかけて放送されたテレビアニメ。ロボットを「モビルスーツ」と呼ばれる兵器として扱い、子供向けという従来のロボットアニメの常識を打ち破り、社会現象も巻き起こした。

(*13)富野由悠季監督。『機動戦士ガンダム』を筆頭に、『伝説巨人イデオン』『聖戦士ダンバイン』など、現在もなお名作として評価の高い、数多くのロボットアニメを手がけた。

(*14)キリコ・キュービィー。『装甲騎兵ボトムズ』シリーズを象徴するキャラクターであり、数多くの作品で主人公を務める。“異能生存体”とよばれる、絶対に殺すことができない異能の力をもつ存在で、TVシリーズの後は恋人であるフィアナと共にコールドスリープ状態で眠りについていた。だが『赫奕たる異端』で目覚めたことで、『ボトムズ』ワールドに新たなキリコの物語が刻まれていくことになった。

 

数々の実験的な作品を制作できた裏側には、高橋監督独自のポジションに秘密が……?
――近年、日本のロボットアニメがやや厳しい状況に置かれつつある一方、海外では日本のロボットアニメに影響を受けた作品が複数作られているという、逆転現象のようなものが起きつつあります。こうした現状に対してどのような認識を持たれているでしょうか?

高橋監督:僕自身として思うことがあるわけではないのですが、世界の中でアニメーションの役割というのはだいたい決まっていて、まずアート系のアニメーションというのはいろいろな国であります。次に来るのがファミリー・子供向けですが、その間の作品というのは意外とないんですね。一方で日本のTVアニメというのは『鉄腕アトム』(※15)から出発して、そのアトムの中には子供向けとは思えないテーマやモチーフがふんだんに入っているんです。
それにはきちんと原因があって、『鉄腕アトム』193話の内、手塚先生(※16)の原作の話が100本くらい、残りの100本近くのエピソードはアニメオリジナルなのですが、当時の脚本家には子供向けの作品を手がけてきた人はいなかった。そういう人たちが作った作品というのは、表向きは子供向けの括りになっているのだけど、分解してみると大人向けのテーマがいくつも入っていて、それを手本として日本のアニメは成長してきたわけです。

――日本のアニメーションのポジションは、世界の中でも非常に独特だと。

高橋監督:そうですね。少し論点は変わりますが、京都アニメーション(※17)が手がけているような作品は、日本以外には作れないと思うんです。普通の女の子達のちょっとした日常が、エンターテインメントとしてあれほど魅力的になるなんて、現状ではなかなか考えられないでしょう。他にも海外では『攻殻機動隊』(※18)が大ヒットしましたが、当時はあんな作品を作ろうという発想がまずなかったと思いますよ。
いずれは海外でも日本のアニメに近いものが作られていくと思いますが、ロボットアニメに関する話もこれと同じです。日本は先に作っていたというだけで、そうした作品が海外でも作られるようになるのはごく自然な流れだと思いますね。

日本の現状について話すなら、ロボットアニメはもういろいろとやり尽くしていますから。僕らのやっていることは、究極的には刺激物だと思っているので、これだけやってしまうと次の新しい刺激を生み出すというのは、本当に難しくなってきていると思います。

――『ボトムズ』といえば、近年では『スーパーロボット大戦』(※19)への参戦や、タカラトミーの『ガガンガン』(※20)へのコラボも行われていましたが、新たなファン層がついて来ているような実感はありますか?

高橋監督:教えている学生達から、ちらほらと「両親が(高橋監督の作品が)好きでした」と声を掛けられることはあります。彼らの年齢的に、両親が40~50歳くらいで、リアルタイムで作品を見ていたという世代が多いのもあるでしょう。僕がよくいく飲み屋のマスターもその世代なんです。ただ、若い世代のファンが増えてきた、という実感は正直あまりないですね(笑)。

――高橋監督といえば、インターネットでのアニメ配信がそこまで盛んではなかった頃から配信用の作品を制作されていたり、『ペールゼン・ファイルズ』(※21)で3DCGを導入したり、新しい試みに対して積極的な印象を受けます。

高橋監督:いえ、むしろその反対で、僕は技術に関してはかなり慎重な方です。早い好きな人はいますが、3Dを使えばこんなことができると言われても、それは技術を見せたいだけじゃないかと思うことが多くて。ただ『ペールゼン・ファイルズ』の場合は、手書きで大量のATを同時に動かすのは無理でしたから、まずやりたいことが先にあって、ただそれを実現するために3DCGを使ったというだけなんです。ただ、あくまで“できる”というだけで、あれもあれで手間が凄く掛かるんですよ。

インターネット配信に関してはまた別の話で、僕って意外と傷つかないポジションにいるんです。というのも、プロデューサーは「どうしても失敗できない」となったら絶対に僕とはやらない(笑)。僕に話が来るのは、大抵「とりあえずやって様子を見よう」という場合で……そうじゃなかったらインターネット配信という新しい分野で、あんなややこしアニメは作れないですよ。周囲からあまり期待されないからこそ、自由に作れるんです(笑)。

▲OVA『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』より

▲OVA『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』より

(*15)『鉄腕アトム』。ここでは1963-1966にかけて放送された、手塚治虫氏原作の同名漫画を原作としたTVアニメを指す。1話30分という放送枠、著作権など日本におけるTVアニメの基礎を作り、石黒昇氏、石ノ森章太郎氏、富野由悠季氏など後にアニメ・漫画業界に大きな影響を与える人材を多数輩出した。

(*16)手塚治虫氏。『マアチャンの日記帳』でデビューして以降、『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『ブラック・ジャック』と幅広いジャンルで数々のヒット作を生み出し、「マンガの神様」と評された。

(*17)『涼宮ハルヒの憂鬱』『CLANNAD』『けいおん!!』など作品を生み出したアニメスタジオ。キャラクター達の細かな仕草にこだわった繊細な作画・演出により2000年代後半からその知名度を伸ばし、多くのアニメファンから支持されている。

(*18)士郎正宗氏によるSFコミックで、ここでは押井守監督によるアニメ映画版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を指す。脳でのネット接続やサイボーグ化など、科学技術が飛躍的に高度化した未来の日本を舞台とした作品。アメリカではビルボード誌のビデオ週間売上げ1位となるなど、海外で爆発的なヒットを巻き起こした。

(*19)バンダイナムコエンターテインメントより発売されているシミュレーションRPG。『マジンガーZ』や『機動戦士ガンダム』などのロボットアニメが複数参戦し、夢の共演を果たす。『装甲騎兵ボトムズ』も、『第2次スーパーロボット大戦Z』にて待望の参戦を果たした。

(*20)『超速銃撃ロボット ガガンガン』。タカラトミーより2015年6月から発売されたロボットホビー。赤外線を使ってロボットを走行させ、銃撃によるバトルで対戦することができる。『装甲騎兵ボトムズ』でのローラーダッシュを使った挙動に近いことから、コラボレーションとして大河原邦男氏による新デザインのスコープドッグモデルが発売され、大きな反響を呼んだ。

(*21)『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』。2007-2008年にかけてOVA、2009年には劇場版も制作された。TVシリーズの前日譚として、“異能生存体”と呼ばれることになるキリコ・キュービィーの過去が描かれ、シリーズとしては初めてATの作画に3DCG技術が用いられている。当時は3DCGに対して拒否反応を示すロボットアニメファンも少なくなかったが、工業製品としての側面が強いATとは相性が良く、本作では概ね好評を得ていた。

――最後に、シリーズ最新作となる『戦場の哲学者』の見所をお願いします。

高橋監督:今回初めて一緒に仕事をさせていだいた、シラユキーさんに参加していただけたのも嬉しかったですし、大河原さんとの付き合いも長いですからね。新しいATを見て、一見「どこが変わってるの?」と思われるかもしれないですが、あの細かい部分に大河原さんのプロとしての技術とセンスが込められています。小説の方は大したことないので、そうしたイラスト部分が一番の見所になると思います(笑)。

――ありがとうございました。

[取材・文/米澤崇史]

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