劇場版『黒執事』声優・小野大輔さんがセバスチャンから得たモノとは/映画公開記念インタビュー
2017年1月21日(土)、劇場版アニメ『黒執事 Book of the Atlantic』がついに全国の映画館にて公開! ファン待望の豪華客船編アニメ化について、主演声優の小野大輔さん(セバスチャン・ミカエリス役)にインタビューを行いました。
『黒執事』は、枢やな氏が月刊「Gファンタジー」(スクウェア・エニックス)で連載中の大人気漫画。悪魔であるセバスチャン・ミカエリス(CV:小野大輔)と契約者である少年 シエル・ファントムハイヴ(CV:坂本真綾)を描いた物語です。
初のアニメ化は約8年前の2008年10月から全24話で放送されたTVアニメ『黒執事』。その後、完全オリジナルストーリーのTVアニメ『黒執事Ⅱ』、原作準拠のTVアニメ『黒執事 Book of Circus』、OVA『黒執事 Book of Murder』が制作され、本作『黒執事 Book of the Atlantic』が初の劇場版アニメになります。
2015年10月の劇場版決定から1年余り、満を持しての公開となった本作について、セバスチャン・ミカエリスを演じる小野大輔さんに思いの丈を語っていただきました。以下、多少ネタバレを含みますのでご注意ください。
――原作でも特に人気の高い「豪華客船編」のアニメ化ですが、劇場版制作決定の話を聞いた時はどんなお気持ちでしたか。
小野大輔さん(以下、小野):『黒執事』のストーリーの中でも、ファンのみなさんが(アニメ化を)本当に待ち望んでくれていたエピソードだと思います。
その「豪華客船編」という名のとおり、とてもスケールが大きくて。ホラー、アクション、コメディ……それら『黒執事』の要素をすべて詰めこんだような、「この1本を見れば『黒執事』の魅力が全部わかる」と言っても過言ではない"全部盛り"なストーリーになっています。その「豪華客船編」を満を持して劇場版として公開できることを、一演者としても、一作品ファンとしても、とても嬉しく思っています。
――今回は、少し人間臭いといいますか、余裕なく必死な形相で戦うセバスチャンが見られる、とても貴重な作品ではないかと思います。初期の役作りでは感情をわざと置いてくるような引き算の演技を考えたと聞き及んでおりますが、今回はどのように演じられたのでしょうか。
小野:アフレコに臨むにあたって、音響監督も兼任されている阿部(記之)監督から「これまで極力感情表現をしないように演じていただきましたけれども、今回はその部分を存分に、熱量を乗せていただいてかまいません」とのお言葉をいただきまして。
それは、阿部監督の思いでもあり、枢先生からも「今回は葬儀屋(アンダーテイカー)という非常に強大な敵が現れて、これまでとはまったく違った戦いになります。この戦いにおいてはセバスチャンもピンチに陥ったり、息が上がったり、感情を露わにしたりという部分がたくさん出てきます」と。
これまで8年間演じてきた中で、ずっと抑え、抑制してきた部分を「逆に出してください」「熱量を乗せてください」とお願いされました。
実はそれが、僕にとっては"ご褒美"のような感覚で。これまでずっと、演者として乗せたくなる部分(感情)を乗せていませんでしたから。こうして積み上げてきた結果に、今、「出していいよ」と。これまでに築かれてきた絆や作品の重みを土台にしながら、「(感情を)乗せていいよ」と言ってもらえたので……もう本当、重ね重ねになりますが、本当に嬉しかったです。もう嬉しいしかないですよね(笑)。
「一生モノの役をもらったな」 セバスチャンから得たもの
――約8年前、最初のアニメ『黒執事』を見返してみると、時を重ねる毎に、セバスチャンの声が一層の深みを増してきているように感じました。昔と今とで変わったことはありますか?
小野:技術的な面でいうと、セバスチャンのおかげで低音がとても安定して出せるようになりましたね。本当、技術的な部分なんですけど。
最初に第1期を演じた時には、とにかく低く、抑揚を抑えて、感情を出さずに演じてくださいと再三言われていました。今だから言えるんですけれど、それが本当に苦しくて。正直、痛みを感じている部分でもあったんですよね。「(セバスチャンは)このまま自分が乗せたい表現をできない役なのかな」と思って、実はすごく悩んだキャラクターなんです。この役を演じることで、"引き算"をする勇気も持てました。
で、以降にいただいた役には、それら(『黒執事』での経験)がどんどん反映されていって、それまで以上に役の幅がすごく広がったなと思います。昔だったらできなかったような、例えば、すごく年齢を重ねた役であったりだとか、ものすごくタフな役であったりだとか。セバスチャンを演じたことによって……声の幅が広がったことによって演じられるようになった役柄がたくさんあるので、本当に「一生モノの役をもらったな」と、今あらためて感じています。
魅力を増したエリザベスと"純粋悪"のアンダーテイカー
――今作では、もちろんセバスチャンも大活躍しますが、シリーズの中でも人気のエリザベス(CV:田村ゆかり)と葬儀屋(CV:諏訪部順一)も、また違った側面が見られる内容になっています。エリザベスと葬儀屋についてはどう感じられましたか。
小野:まずはリジー(エリザベスの愛称)もとい、エリザベスなんですけど、初期の頃は本当に純粋に"可愛い"存在で、それ以上でもなければそれ以下でもなく、ある種マスコットキャラクターのような存在だったと思うんです。
でも、そのエリザベスにもちゃんとバックボーンがあって……家族がいて、その家族とシエルとの関係ももちろんあって、エリザベスを取り巻く環境が、シエルに影響を与えている。シエルを"男"にするためには、このエリザベスという存在が必要不可欠なんですよね。
エリザベスは、自分が"強い"という部分を誇りに思いながらも良しとしていません。(だからシエルの前で剣を振るう前には)「可愛いままでいたかった」って泣くんですよね。そこが「女の子だなぁ」って思いますし、自分のバックボーンをシエルに教えられないのは、シエルを本当に大事に思っている、本当に愛しているからだとも思うんです。"強い"からこそ、エリザベスがより女性として魅力的に見えるし、凛とした美しさも感じられる。ここにきて、ものすごく魅力を増したキャラクターだと思います。
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※エリザベス・ミッドフォード(愛称:リジー)
シエルのいとこであり許嫁。英国騎士団団長である父アレクシス(CV:中田譲治)とその父に勝るフェンシングの腕を持つ母フランシス(CV:田中敦子)を持ち、天才と謳われる剣の使い手。幼少期シエルが「強い女の人は怖い」と話すのを聞いて可愛い婚約者であろうと努めてきたが、本作『黒執事 Book of the Atlantic』で動く死体に囲まれた時、「女王の番犬の妻」としてシエルの前で剣を振るうことを決意した。
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小野:葬儀屋は、(これまでの)存在としてはコメディリリーフ的な存在であって、ただただ不気味な、謎の存在だったと思うんです。僕も正直、この葬儀屋というキャラクターがストーリーにどんな影響を与えてくる存在なのかまったくわかりませんでした。それがここにきて、「純粋悪だ」と。
すでにアニメとして描かれている部分の原作を追っていくと、"純粋悪"っていなかったと思うんですよ。死神という存在は悪だと思われがちですけど、彼らは(死神派遣)協会から言われて職務として魂を回収しに来ていて、実は職務に忠実なすごく真面目な奴らかもしれない。生きる目的が、仕事をすることにある。「あれ? 死神って、もしかして悪じゃなくないか?」って。むしろこっちが悪魔ですから。
一同:(笑)
小野:セバスチャンとシエルの方が、この世界では淀んだ存在なのかもしれないとすら思うんです。サーカス編で出てきたキャラクターたちも、純粋に生きていくためにもがくわけで、単純に悪いことをしたくてしている人って、いなかったと思うんです。
でも、この葬儀屋に関しては、本当に反吐が出るほどの純粋悪なんですよね。ただただ自分の知識欲のために死者を蘇生させて実験をしている。シネマティックレコードに、人の記憶に、嘘の記憶を塗り重ねて遊んでいるんですよ。だから本当に反吐が出るなと思いましたね(笑)。でも、ここまで突き抜けた悪だと清々しいですよね。
今回「豪華客船編」で葬儀屋の正体が明らかになったということは、この作品において有意義だったように思います。僕らが、セバスチャンとシエルが、倒すべき相手というか、本当の意味で立ち向かうべき相手が現れたなと。
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※葬儀屋(アンダーテイカー)
シエルに度々情報を提供してきた葬儀屋の男。裏社会の死体処理や死体の情報を提供してきた。本作『黒執事 Book of the Atlantic』では、実は死神であり、動く死体を作り出した黒幕であることが判明。セバスチャンだけでなく、同じ事件を追っていた死神のグレル・サトクリフ(CV:福山潤)、ロナルド・ノックス(CV:KENN)の3人と同時に戦うが、余裕を見せるほどの強さを見せた。
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――エリザベスも葬儀屋も、かなり強いキャラクターであることが明かされました。葬儀屋とは実際にセバスチャンも対峙したわけですが、バトルシーンはいかがでしたか。
小野:枢先生に「本当に強大な敵なので熱量存分に出してください」とメッセージをいただいていたので、今回はアクションシーンにアドリブをたくさん乗せていますね。これまでに類を見ないくらい。
死神のグレルやロナルドはもともと躍動的なキャラクターなので、(セバスチャンに熱量がある分)、よりアクションに熱量が乗っているんですよ。で、さらに強い葬儀屋がいて。
だから、これまでに出したことのない声をあてたり、熱量を乗せていると思います。「あ、セバスチャンって本気で戦う時にはこんな息が出るんだな」って、自分でも演ってみてあらためて発見しました。
――今作は、ホラーであったりアクションであったりと『黒執事』の魅力が"全部盛り"だということですが、登場キャラクターもかなり"全部盛り"になっていると思います。かなりの数の登場人物になったのではないかと思いますが、特に心に残っているシーンやセリフ、思い入れのあるキャラクターなどはありますか?
小野:そうですね……たくさんあるんですが、主要キャラクターがほぼほぼ出てくるというところが、まず魅力として挙げられると思うんですよね。一人に絞れないくらいに印象的です。Wチャールズ(※)まで出てきましたもんね。たしか、原作の「豪華客船編」にはいないキャラクターなのに。そういう意味でも、全キャラクターにしっかりと見せ場がある、どこをどう切っても、どこからどう見ても、『黒執事』だなぁと思っています。
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※チャールズ・グレイ(CV:木村良平)
チャールズ・フィップス(CV:前野智昭)
女王陛下を守護する秘書武官兼執事。原作とアニメでは多少出番や物語における役割が異なっている。
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小野:もうひとつは、これまでのキャラクターがみんな出ているというお祭り感の裏側にある原点回帰……出会ってすぐの頃、悪魔と契約したシエルと、まだ執事としては機能していない時期のセバスチャンの回想シーンです。
その回想シーンで、シエルが「おまえはセバスチャンだ」って名付けるシーンがあるんですけど、そこが僕はすごく好きなんですよね。「前任の執事の名前ですか」「いや、犬の名前だ」「(内心で)とんでもなく性悪なガキに仕えることになってしまった」って、その一連の流れが、「ああ、すごくセバスチャンとシエルだな」ってあらためて感じられて。ここから始まったんだと思うと「8年間積み重ねてきて良かったな」ってあらためて思いました。
"らしさ"がそこにすごく凝縮されているんですよ。『黒執事』の持つ、様式美の美しさと、その裏側にあるシニカルな部分、ちょっとしたコメディ要素、それなのに、人間の魂のすごく気高い部分を描いたり……この作品って、裏腹な部分を表裏一体で描いているところがあって、そういうところがこの回想シーンで垣間見えるんです。
この完璧に見える執事が、実は最初は貴族社会のことを何も知らなくてシエルから教えてもらっている。で、(セバスチャンは)悪魔の力でなせることをシエルに与えていく。その、二人でひとつになっている、表裏一体の最初のスタート地点を演じられたこと、そしてそれを見られたことは、演者としても作品の一ファンとしてもすごく……ごめんなさい、また言っちゃいますけど、嬉しかったです(笑)。演じていて楽しかったですね、ずっと。
小野大輔さんからの熱いメッセージ
――これから劇場版『黒執事 Book of the Atlantic』を観る・観たファンの皆様にメッセージをお願いします。
小野:コミックが10年、アニメが8年という月日を積み重ねて、ついに、満を持して、こうしてみなさまに『黒執事 Book of the Atlantic』をお届けできる運びとなりました。長い間みなさんが応援してくれた黒執事愛の積み重ねの集大成であると、僕らスタッフ、キャスト一同も思っております。この豪華客船編を劇場でみなさんにお披露目することができて、本当に嬉しいです。
これまで応援してくださったみなさんに、必ず満足していただけるような、『黒執事』の魅力を全部詰め込んだ作品になっていると思います。これを見ていただければ黒執事のすべてが知れる、感じられる作品になっておりますので、まだ黒執事を知らないという方もぜひ一緒に劇場に足を運んでいただきたい。これからまた、例えば次の10年、これからもずっと『黒執事』という作品がみなさんに色褪せることなく愛されていって欲しいと思っていますので、ぜひいろいろな方に、『黒執事』の魅力を堪能していただきたいです。よろしくお願いいたします。
『黒執事』の魅力が"全部盛り"の劇場版『黒執事 Book of the Atlantic』。黒執事ファンのみなさんも、まだ見たことがない方も、ぜひ劇場でお楽しみください。
[取材・文/笈川 采女]
劇場版アニメ『黒執事 Book of the Atlantic』公開情報
2017年1月21日(土)全国ロードショー
【Story】
19世紀英国――名門貴族ファントムハイヴ家の執事セバスチャン・ミカエリスは、13歳の主人シエル・ファントムハイヴとともに、"女王の番犬"として裏社会の汚れ仕事を請け負う日々。ある日、まことしやかにささやかれる「死者蘇生」の噂を耳にしたシエルとセバスチャンは調査のため、豪華客船『カンパニア号』へと乗り込む。果たして、そこで彼らを待ち受けるものとは――。
【CAST】
セバスチャン・ミカエリス:小野大輔
シエル・ファントムハイヴ:坂本真綾
エリザベス・ミッドフォード:田村ゆかり
葬儀屋:諏訪部順一
グレル・サトクリフ:福山潤
ロナルド・ノックス:KENN
ウィリアム・T・スピアーズ:杉山紀彰
スネーク:寺島拓篤
バルドロイ:東地宏樹
フィニアン:梶裕貴
メイリン:加藤英美里
チャールズ・グレイ:木村良平
チャールズ・フィップス:前野智昭
エドワード・ミッドフォード:山下誠一郎
フランシス・ミッドフォード:田中敦子
アレクシス・ミッドフォード:中田譲治
ドルイット子爵:鈴木達央
リアン・ストーカー:石川界人 他
【スタッフ】
原作:枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニクス刊)
監督:阿部記之
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン・総作画監督:芝美奈子
サブキャラクターデザイン:川口千里
プロップデザイン:福世真奈美
美術監督:渡辺幸浩
美術設定:森岡賢一
色彩設計:ホカリカナコ
撮影監督:増元由紀大
CG監督:茶谷崇裕
編集:後藤正浩
音楽:光田康典
制作:A-1 Pictures
製作:Project Atlantic
主題歌:シド「硝子の瞳」(キューンミュージック)
【配給】アニプレックス
(C)枢やな/スクウェアエニックス・黒執事Project・MBS