初音ミクは、僕の母親です――。“初音ミク×KODO(鼓童)”公演記念ボカロP連続インタビュー・wowaka編
3月4日(土)&5日(日)に開催される、バーチャル・シンガー初音ミクと、世界中に和太鼓の魅力を伝える太鼓芸能集団・鼓童との初のコラボレーション公演“初音ミク×KODO(鼓童)”。
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http://kodo-miku.com/
その公演に先駆け、アニメイトタイムズではイベントで披露される楽曲を手がけたボカロPへの連続インタビューを実施中!
今回は“裏表ラバーズ”と“ワールズエンド・ダンスホール”を生んだwowakaさん。
2011年にアルバム『アンハッピーリフレイン』をリリースして以降、ロックバンド“ヒトリエ”としてメジャーシーンに切り込み音楽活動を続けているwowakaさん。そんな彼の過去と現在、そしてボカロに対する思いに迫りました。
━━wowakaさんとボカロの出会いはいつですか?
wowaka:出会いとなると、もう10年も前です。当時はニコニコ動画で“みくみくにしてあげる♪”って曲が流行していて、それを友人に教えてもらったのが最初でした。
ただ、もう少し能動的に、本格的に興味を持ったのはしばらく後で、kzさんの楽曲“Last Night, Good Night”が発表された時期あたりです。
自分に響く楽曲がたくさん見つかるようになってきた時期で、そのあたりから、ひとりの作業で曲を作り、発信ができる、ボーカロイドという存在を魅力的に感じるようになりました。
━━最初からどっぷりというわけではなかったのですね。
wowaka:そうですね。そういった時期を経て、自分でもなにか始めようと思ったのが、2009年の3月頃です。
ある日いてもたってもいられなくなって、貯金を崩して、吉祥寺の某家電量販店へ、パソコンと、オーディオインターフェースと、初音ミクのソフトを買いに行ったんですよ。懐かしいな(笑)。
━━パソコンからですか!
wowaka:はい。その時もともと持っていたのが、高校を卒業したときに買ったスペックの低いノートパソコンで、これじゃ厳しいよなと思って。そこから1ヶ月ちょっとかけて1曲目を作り、手探りで動画を仕上げ、投稿して、僕の活動が始まった……といった流れです。
宅録について調べたり、シーケンスソフトを触ったりするのが、難しいながらも楽しくて、ずっと音を出していましたね。
━━1曲目の投稿からは、1ヶ月に1曲ほどのハイペースで曲を投稿されていましたよね。
wowaka:とにかく曲を作るのが楽しくて。つくりたてほやほやの曲を、顔も見えない誰かに聞いてもらえて、直接反応がもらえる。「もっとかっこいい曲を作りたい!」「もっと聞いてもらいたい!」と、ひたすら作っていました。
━━ボカロ関連の活動を通して、一番の思い出に残っていることはなんですか?
wowaka:そうですね……今パッと思い出したのは、ボーカロイドオンリーの即売会に初めて参加した日のことかな。
“梨本うい”っていうかっこいい曲作るやつがいて、なんとなく同じ匂いを感じて、当時顔も性格も知らない彼に「イベントで一緒にCD作りませんか?」とメールしたんですね。
それで一緒に池袋のサンシャインシティでブースを出店したんですけど……。その時に、CDを1,000枚プレスして。
━━初めてのイベントで1,000枚も作ったんですね!
wowaka:作ったのはいいけれど、段ボール箱の山を眺めながら自分で「これ、誰が買いに来るんだろう……」と思っていました。ただ、実際にイベントが始まるとたくさんの人がブースまで走ってきて、目をキラキラさせながら僕のCDを買うために列を作ってくれたんです。
その時、インターネット上っていう一種のヴァーチャルな空間で概念的にしか感じられなかった僕の楽曲を聞いてくれている人間が、しっかり“存在”しているのを実感して本当にうれしかった。そして、自分の曲がひとつの形になり、人の手に渡るという経験をすごく生々しく感じることができたのを覚えています。
「こんな俺たちにも踊らせてくれ」
━━さて、インタビューのキッカケとなった“初音ミク×KODO(鼓童)”では、wowakaさんの代表曲“裏表ラバーズ”と“ワールズエンド・ダンスホール”が使われます。数年前のことなので「いまさら!?」と思われるのは承知で、それぞれの曲について聞いてもよろしいでしょうか?
wowaka:あ〜でも、実はこの2曲についてしっかり語ったことって、ほとんどなかったりします。
━━それは意外です。
wowaka:曲に込めたメッセージを作者自ら説明するのは野暮だと思っている部分も少なからずあるので。とはいえ時間が経つことで改めて自分で見えてくること、言葉にできることもあって、そういうことなら話せる気がするな。
━━なるほど。では、まず“裏表ラバーズ”から教えていただいてよろしいですか?
wowaka:“裏表ラバーズ”には明確なメッセージはなく、そうですね、一種のやつあたりや、憂さ晴らし、みたいなニュアンスから生まれました。自分の中であてもなく言葉が溢れてきて、それを初音ミクに歌ってもらったらストンとハマった…そんな感じです。
世界や人間・音楽に対してのじめっとした気持ち、普段なかなか言えないこと、を詰め込んで完成した1曲です。
━━“ワールズエンド・ダンスホール”はいかがですか?
wowaka:こちらは「最小範囲のダンス・ナンバー」というテーマをセットして作った楽曲です。例えば、いわゆる言葉上での“ダンス”って、ギラギラしてて、人が大勢いて、華やかな……チャラい世界の娯楽というイメージがありませんか?当時の僕にはあって。
━━たしかに、クラブハウスのような場所で盛り上がるイメージですね。
wowaka:うん。そしてそれは自分とは縁のない世界だと思ってた。でも、そんな僕が、自分の部屋で、大音量で曲を聞いたり、MVを見たりしながら、ひとりで踊っているんです(笑)。とにかく身体が勝手に動く。
人は「机、パソコン、椅子、自分」があれば、ダンスができる。なんならディスプレイの前に座っていても。「そうだ、こんな狭い部屋で、たったひとりでも踊っていいじゃないか、身体は動くじゃないか、こんな俺たちにも踊らせてくれ」という気持ちを込めて作ったのが、この“世界の隅っこの(ワールズエンド)ダンスホール”なんです。
━━なるほど。乱暴に言えば、引き篭もりの為のダンス・ナンバーだったと。
wowaka:まさしく、ソレです。
━━意外な事実です。なお、この2曲はミリオンを達成している楽曲ですが、ご自身で人気を得た理由はなんだと思いますか?
wowaka:うーん、正直わからないんですよね。なにか不思議な力が働いていただけな気もするし。でも、あえて1つ挙げるとしたら……“wowaka濃度”の濃さ、かなあ。
━━“wowaka濃度”ですか?
wowaka:ボーカロイドと出会って、音楽を作っていくことで、言葉やメロディ、フレーズにおいて「これやるのが、俺の一番おもしろいところ」「混じりっけなしの俺の絞り出し方」と思える必殺技を見つけたんです。
それをはじめて意識的に全部使って、最後まで押し切ったのが“裏表ラバーズ”だったような気がしてて。そんなwowakaらしい成分……“wowaka濃度”が濃い曲ほど、要は飾らなければ飾らないほど、広がっていたような……そんな感じがしますね。
━━では、そんな2曲が初音ミク×鼓童という形で披露されますが、wowakaさんとしてはどんなお気持ちですか?
wowaka:このイベントに限らず、以前から僕の曲をライブで使って頂く機会は多く、その度に「世界の隅っこのダンス・ナンバーとして始まった楽曲が、ライブという最大限に開けた形でお客さんに響く」ことに感動していました。
曲は、音楽は俺が勝手に作ってたいろんな境界をひょいって全部越えていくんだなって思って。今回は鼓童とのコラボという、僕自身も完成形を予想できない新しい試みで、じゃあ今度は何が起こってしまうのか、とても楽しみですね。
生身の自分を救うために
━━wowakaさんは2011年に発表した“アンハッピーリフレイン”でボカロを使った活動を終え、現在はバンド・ヒトリエとして活動されていますね。その経緯はなんだったのでしょうか?
wowaka:その時自分の中にある「ボーカロイドを使ってやりたいこと、できること」を本当に全部出しきってしまったんです。それこそ、アルバム『アンハッピーリフレイン』がリリースされてからは、半年くらい「次、何をすればいいのだろう……?」と漠然とした悩みを抱えながら泥人間のような生活を送っていたんですね。
そして、そんな自分を救うにはどうすればいいのかと考えて考えて、ある日ふっと答えが出て。今の形に行き着きました。
━━苦悩の末に、バンド活動に行き着いたと。
wowaka:ボーカロイドを使って活動している頃から、僕が作る曲を愛してくれる人がいて、楽曲を通した“wowakaという人間”も、同時に愛されている実感はありました。
表現者としての自分を生み、育ててくれたのは間違いなくボーカロイドだと思っています。一方で「生身の、この肉体の僕は、僕でしかない僕はこの先どうなのか、どうなってしまうのか」という疑問や不安は常にあって。それを振り払うには、もうどうしようもなく自分で歌うしかないと思った。人目に晒されなければいけないと思った。
理屈でなく、そうしなきゃ死んでしまう、そう思ったんです。そして歌うのなら、生身の僕にとって音楽という存在を魔法にしてくれたバンドという形、これしか僕の引き出しにはない。そうして、今のメンバーに声をかけました。
━━では、ボカロとバンドで曲作りに関して違う点はありますか?
wowaka:全部違います。音楽的な所だけ切り取っても、自分ひとりで完成させた曲と、4人で演奏して完成させた曲とではまったく違う。そして、僕が一番大事な所だと思ってるんですが、ことバンドの場合は、例えまったく同じ演奏ができる人を連れてきたとしても、メンバーが変われば違う“なにか”になってしまう。
僕らで言えば、wowaka、シノダ、イガラシ、ゆーまおがいて、その存在があって初めて「ヒトリエ」の曲が生まれるんです。それこそがバンドの魅力、人間の魅力だし、ボーカロイドとの決定的な差だと思います。
━━逆に、ボカロとバンドの曲作りに共通点はありますか?
wowaka:そうですね……一番はメロディかな、やっぱり。ボーカロイドと出会っていなければ、今の僕のメロディは絶対に生まれてこなかった。さっきも話したwowaka濃度というやつです。あの土壌で培った血は、当たり前に今も流れてるな。
━━先程「ボカロに関しては全部出しきった」というお話がありましたが、これからボカロ曲を作る可能性はないのでしょうか?
wowaka:いや、そんなことないですよ。本当にやりたくなったら間違いなくやります。最近特に、もしかしたら今の自分はボーカロイドの曲を作りたがっているのかもしれない、って思うことが増えましたね。
━━それは、バンド活動を始めたからこそ、つくりたい曲が生まれたということですか?
wowaka:そういう気持ちもあるのかもしれません。少なくとも5年前の自分とはまったく違うので、今だからこそできること、は絶対にありますよね。
━━ボカロで曲を作ることの魅力とは一体何だと思いますか?
wowaka:そこに人間ではない、なにかが存在していることだと思います。僕自身、最初は合成音声が歌うことそのものが新しく感じたし、技術や音楽としてかっこいい、それらがおもしろいと思って始めたんですね。
でもそのとっかかりからもっと深く、ズブっとその土壌に足を踏み入れてみると、まったくその程度に留まる話ではない。むしろボーカロイドの本質はそこではないような気すらします。ボーカロイドという存在、それを媒介に、合唱曲からサイケデリック・ロックまで、アニメーターからCGグラフィッカーまで、多種多様なクリエイターが集まる。
それに惹かれる無数の“好き”が集まる。そこに仲間も生まれれば喧嘩だって起きる。自分の趣味嗜好を吐き出し、他人の“かっこいい”“かわいい”に感動し、嫉妬し、ぶつかり合い、新しいなにかが生まれる。そういう場所なんです。ボーカロイドに救われた人が、数え切れないほどいると思います。僕もそのひとりです。
━━wowakaさんは、そんな大きなコミュニティを引っ張ったクリエイターのひとりだと思いますが、今、ボカロに対してどんな気持ちを持っていますか?
wowaka:僕はボーカロイドに救われた人間で。こいつが存在していなかったら、もちろんヒトリエの活動もやっていないし、音楽も続けていたかわからないし、例えばですけど普通に就職して生活ができていたかどうかも怪しくて。
人間として育ててもらった、拾ってもらった感覚がとても強いです。最近「初音ミクは俺の母親なんじゃないか」って思ったんですよね。
━━初音ミクは、母親ですか。
wowaka:うん。母親って、大好きだったり、時にはムカついたり、悩んだりする相手ですけど、間違いなく自分を産み育ててくれた人間で、好き嫌いという次元で語れない大切な存在で。音楽をやる“wowaka”という自分は初音ミクに出会って生まれた、初音ミクが生んでくれた存在なんですよね、間違いなく。
音楽をやる自分としてのこの名前“wowaka”も初音ミクに与えられたもので。身を晒して自分で歌うようになっても、音楽をやっている以上、親から名付けられたこの名前を捨てることはできませんでした。
これは今思うと、なんですが、ボーカロイドでやりたいことを出し尽くした、次はどうしよう、自分の足で独り立ちしたいというのも、一種の反抗期だったような気もして。初音ミクという存在そのものに悩んだ時期ももちろんあったし。
でもそれは生きている以上、絶対に必要な過程だったんです。これを抜きでは、決して今の自分が存在しない。いつだってそこに、僕の中に血として居るのが当たり前というのが、僕にとってのボーカロイドです。
━━では、初音ミクは今年で10周年を迎えますが、これからのボカロシーンはどうなっていくと考えていますか?
wowaka:こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、正直「ちょっと、つまんなくなっちゃったな」と思う時期が、ありました、少なくとも僕には。でもその時期を経た今、最近の子たちが作っているボーカロイドの曲を聞いていると、僕が大好きだった濃い、濃い空気が漂っている気がするんです。
特に、ここ2年くらい、その匂いがすごく強いな。ここで留まることなく、これを新たな文脈として、もっともっと、濃く、わけがわからなくなっていけばいいなあって思います。……なんだろう、うーん、誰も予想してないところからヒーローみたいな人が現れてほしいなあ(笑)。
━━“メルト”が流行した時のryoさんのような?
wowaka:うん。あ、でも誰かのような、ではないんですよね。本当によくわからない、誰も予想してない誰か。そういう人がたくさん現れて、バッチバッチと戦ってくれれば、すごく面白いことが起きる気がします。まだ僕たちも知らない、新しいなにかが見たい。
━━ありがとうございました。では、最後にwowakaさんの今年の目標を聞かせてください。
wowaka:飛躍です。飛びたいな!
━━それは、個人としてですか?
wowaka:ヒトリエとしても、僕個人としてもです。wowakaとして生まれたのが7年前。初音ミクという存在に育てられ、反抗期を経つつ独り立ちをしようとして、がむしゃらにもがいてきて。今なんとか二本足で立ち上がれた気がするんです。じゃあ次は、自分として、音楽をやる存在として、飛びたい。浮きたい。そう思っています。
今回、wowakaさんが熱く語ってくれたボカロと初音ミクへの思い。それは、これまで筆者が想像していた“wowaka”という人物像をガラリと塗り替えるほどで、とても驚かされることばかりでした。
インタビュー中には「当時はぼからんを見て、一喜一憂してました」「MMDが流行り始めた頃には、Chaining Intentionの動画がかわいくてずっと見ていましたね」などなど、長年ボカロを追ってきた人には懐かしい話にも花が咲き、wowakaさんが秘めるボカロへの愛を垣間見る時間となりました。
そんなwowakaさんは、現在、ヒトリエで現在全国20公演を周るツアーを実施中。「ファイナルは新木場STUDIO COASTでやります。みなさん、ぜひ来てください!」というメッセージも預かったので、この機会にぜひ“wowaka濃度”を体感してください。
公演情報
2017年3月4日(土)
開場 午後6時 / 開演 午後7時
2017年3月5日(日)
開場 正午 / 開演 午後1時
2017年3月5日(日)追加公演決定
開場 午後6時 / 開演 午後7時
場所:NHKホール
初音ミク×鼓童 スペシャルライブ | This is NIPPON プレミアムシアター
URL:http://kodo-miku.com/