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すごーい!の連続、『けものフレンズ』チームに3万字インタビュー

話題沸騰中の『けものフレンズ』、プロジェクトチームに初インタビュー! 誕生秘話からブーム到来までの歴史など「すごーい!」の連続3万字の大ボリューム

ブレイクの兆しはいつ? アニメ化決定から放送開始までを振り返る

――アニメ発表から放送までを振り返って、印象に残っていることはありますか?
梶井:アニメの発表をしたのは2016年3~4月くらいでした。ちょうどゲームの無料開放と同時に、「映像化する」と発表しました。



――2017年1月の放送から考えたら、かなり早い段階の告知ですね。
梶井:そして2016年7月に「テレビアニメ化」を発表し、それと同時にファンの方に楽しんでいただこうと「けもフレショップ」と「コラボカフェ」を秋葉原で開催しました。そこで発売されたのが、初めての公式グッズでした。



――「けもフレショップ」の反響はいかがでしたか?
梶井:熱心なファンの方が地方から買いに来てくださったりして、本当にありがたかったです。『けものフレンズ』ファンのコミュニティーって、とても温かくて優しいんです。彼らが根強く支えてくださったおかげで、いままで続けてこられました。「ドジ運営」「サーバルだからしょうがないよ」とか言われつつ(笑)。

――題材が動物だから、みなさん優しいのかもしれませんね。
梶井:そして「けもフレショップ」を2ヵ月後に再開したり、ペンギンをお披露目したり、常に新しい要素を少しずつ出していきました。こう言うと、わざわざ情報を小出しにしているように聞こえるかもしれませんが、本当は少しずつしか出せないんです。携わっている人が少ないから。そもそも、僕の仕事はコレがメインじゃないですからね。

――それはそうです。編集長がそんなに暇なわけがありません(笑)。
梶井:でも個人的に『けものフレンズ』が好きなので、少しずつですけど続けてきました。新規のキャラクターを出すことで、コンテンツが続いているのをアピールしてきたんです。そして2016年11月にPV公開、11月末にキャスト発表をしました。あのときは「ゲームとキャストが違うじゃないか」と批判の声も上がりましたが、キャスト選びには先ほどのような理由があったので、粛々と受け止めながらも前に進みました。

――アニメ放送に向けて、準備がタイヘンな時期だと思います。さまざまな情報が出揃って、世間の反響はいかがでしたか?
梶井:それでもTwitterのフォロワー数は、5000~6000を行ったり来たりでした。ゲームをやってたころから、そんなに増えていなかったんじゃないかな。そして2016年12月になると、「ゲームが終わるのにアニメが始まるヘンな作品」として、ネガティブな取り上げ方をされて注目されました。

福原:一般のイメージは、ゲームを売るためにアニメを販促として放送するイメージだと思うんです。我々が「この作品はそうじゃないから」といくら説明しても、世間のイメージは変わりません。しかも、アニメの先行試写会が行われた12月14日に、ゲームが終了したんです。合わせたツモリはなくて、本当に偶然だったんですけどね。

梶井:そう! 偶然なのに、それを深掘りする方もいましたね。

――試写会を行った結果はいかがでしたか?
梶井:先行試写会で流したのは第1話の修正前のバージョンだったので、見た人もよくわからなかったと思います。でも、会場は満員でした。客席を遥かに上回る応募があったのも覚えています。

福原:内田彩さんとか佐々木未来さんが出演してくださいましたから、キャストのファンのみなさんが来てくださったからだと思います。

――声優さんを抜きにして、純粋にアニメ作品としての反響はいかがでしたか?
福原:「どっちともとれない!」という意見が多かったです。

一同:(爆笑)

福原:でもそれは、僕らも自覚してるんです。ニコニコ動画でも、初めの評価は高くなかったです。第2話が放送されて、エンディングを含めて話題になりました。「気になるから3話も見てみよう……」という方々が出てきてから、世間のイメージが変わってきたんだと思います。

梶井:そんな出だしだったので、アニメが始まってもTwitterのフォロワー数はそんなに増えていませんでした。今期のアニメはいろいろありますが、僕は他の公式アカウントを見ながら「フォロワーさんがいっぱいでうらやましいなぁ~」って思ってましたよ。だって公式がつぶやくたびに、たくさんリツイートされるんですよ。

――それだけ情報が広まりやすいですからね……。
梶井:でも「人気がない作品」と思われるのはいやだったので、一生懸命に宣伝をしました。冬コミに出展したり、りんかい線にポスターを貼ったりね。その結果、コミケのグッズはおかげさまで3日間とも売り切れました。「けもフレショップ」のグッズも好評だったから、僕は「底力があるコンテンツ」だと信じていたんです。それと同時に、「なかなか広まらないのはどうしてなんだろう?」と悩んだこともありますね。いろいろ悩んだ末に、地上波でアニメが放送されてから、どうなるかなと期待するしかなかったんです。
▲アルパカ・スリ(CV:藤井ゆきよ)/右

▲アルパカ・スリ(CV:藤井ゆきよ)/右

 

ヒットの要因のひとつは、運営が動物を愛する気持ちがファンに伝わったから!?

――そして2017年1月になって、第1話が放送されました。
梶井:放送されたんですが、第1話はそんなに話題にならなかった。今期の人気ランキングを見たら、下から数えた方が早い……。

――人気に火が着いたと実感したのは、いつごろでしょうか?
梶井:SNSに「考察班」と呼ばれる方々が出てきてから、状況が変わってきたと思います。いつくらいだっけ?

福原:たぶん第2話のエンディングだと思いますね。

梶井:実は第2話(1/18)が放送されるちょっと前に、福原さんと別件で打ち合わせをしたんです。そのとき「第2話のエンディングが話題になるといいね」なんて雑談してたんです。そんな雑談をした直後に、我々が望んでいた話題をしてくれる方が現れたんです。あれは嬉しかったですねぇ。



――SNS時代ならではの現象ですね。
梶井:彼らは「考察班」と呼ばれるようになって、僕たちが言語化しにくいものをコトバにして広めてくれました。さらにそれを読んだアニメファンたちが、「なるほど」と理解してくれたところから、徐々に注目されるようになってきました。公式アカウントのフォロワー数が増えてきたのも、同じタイミングです。

――フォロワー数の推移はどれくらいでしょうか?
梶井:第2話で話題にしてもらって、第3話から火種が大きくなり、さらに第4話で爆発しました。それまで5000~6000人だったフォロワー数が、毎日1000人くらいずつ増えていきました。

――あえて名セリフを使わせてください。「すごーい!」
梶井:爆発してから、フォロワーさんが一週間で1万人も増えたんです。しかもそれにとどまらず、1万人から2万人に到達するまでもあっという間でした。

福原:いまは2万4000人くらいですよね?
▲2017年3月3日現在の公式Twitter

▲2017年3月3日現在の公式Twitter

梶井:僕はあんまり詳しくないんですが、たいていのアニメの公式アカウントは放送開始直前がピークらしいんです。放送されてからは、だんだん減っていくのが普通らしいんです。でも『けものフレンズ』はどんどん上がっています。これはニコニコ動画の視聴者数も同じなんです。いろんなところで、見慣れないカーブを描いているんです。

福原:委員会の会議で、参加者がいろいろなデータを持ち寄って報告してくれるんですが、みなさん「表の動きが前例のないものばかり」と言ってました(笑)。

梶井:自分たちはいままで、自分たちが「いい」と思ったものを信じて作ってきました。でも、今回の体験を経て、実際に視聴していただくのはタイヘンなことなんだなとわかりました。こちらから一方的に情報を流すだけじゃ効果は出ない。

――梶井さんの言葉が、ものすごく重く感じます。
梶井:この1年、非常に気を使ってTwitterをやってきたつもりです。出せる情報が少ないなか、アニメ放送が始まるまでファンの方に飽きられないようにしないといけないですから。定期的に情報を出せるよう、ない知恵と材料をしぼりました。公式Twitterの運営は、ものすごく難しいです。

福原:そうだと思います。『けものフレンズ』の公式アカウントは、日本各地の動物に関する話題でフォロワーの方に知ってほしい情報があれば、RTします。ファンのみなさんには、こういう姿勢も高く評価してくださってるんだと思います。

梶井:原作である動物のことを考えて作品を作っているので、例えば「タスマニアデビルの遺伝子が進化した」なんて情報をRTしたり、多摩動物公園を取材したときに撮影した動物の写真をアップしたり、動物が好きなファンの方々に喜んでいただけるような、有益な情報を発信するようにこころがけています。公式アカウントをフォローしたのに、延々とグッズやイベント、アニメの情報が流れてくるだけだったら広がりがないしおもしろくないじゃないですか? キャラクターやアニメをきっかけにあるモノに興味を持って、さらにその人の世界が広がってくれたら、モノ作りをしている人間にとってこの上ない喜びですよ。



福原:温かいファンのみなさんの反応を見ると、我々が伝えたいことは「ちゃんと伝わっているな」という感触はあります。昔から応援してくださってるファンの方はもちろん、アニメから『けもフレ』を好きになってくださった方々には本当に感謝です。

――「動物」のおもしろさを伝えたかったというコンセプトは、一貫して変わらないんですね。
福原:分析していないのでわかりませんが、最近のアニメファンの方って、運営が作品のことをどれだけ愛情を持って作っているかを探っているような気がします。なのでTwitterでちょっとした打ち間違えが誤解を招いたり、深読みして読んだらネガティブに解釈できてしまったり、なかなか難しい時代です。

――直接話せばわかるけど、文字にすると伝わりにくいコトって多いと思います。
福原:深読みする楽しみ方があるのも事実なので、あまり否定するツモリはありませんが、あまりアニメの本筋と離れたところで盛り上がっちゃっても、なんか不思議な気持ちになりますね。
例えばお客さんに豆腐を食べてもらいたくて「はい。これが冷奴です」と出したとき、「この豆腐の白は、現代の不安を象徴してますね」とか言われても、僕らは「そうですかねぇ?」としか言えません。こっちとすれば、ただ豆腐を食べてほしかっただけなんです。でも、喜んでいただけるなら「そういうことにしとこうかな?」と思うわけですよ。

――絶妙な例えですね(笑)。
梶井:だけど考察班のみなさんは、しっかり作品の隅々まで見ていただいて、自分たちの解釈で情報を発信してくださっています。彼らのお陰で『けものフレンズ』の見方が広がったのは、とてもありがたかったです。細部まで見てくださって、さらに楽しんでもらえてるのがわかりました。一方で、なんで「うれしー!」とか「たのしー!」が流行っているのかは、いまだに謎ですねぇ。

――それも伺いたいです。Twitterで大勢のファンが「うれしー!」とか「たのしー!」とつぶやいてます。あれは狙って作ったセリフではないのですか?
梶井:いや、わかりません。それは監督に聞いてください。もう何を狙って何が狙ってなかったのかわからなくなってると思いますが(笑)。

福原:吉崎先生からのオーダーは「子供でも見られる作品」だったんです。放送枠も決まってなかったから、もしかしたら夕方に放送される可能性もゼロではありませんでした。なので、僕はたつき君と話したとき、動物園のように癒される作品にしようと決めました。なにも考えずに、ただ「たのしいなー」と思って30分を過ごせる作品。それが思わぬ方向でキャッチアップされて、とても嬉しいです。

――望んでいたとおり、いまファンの方々は「たのしー!」と視聴しています。
福原:サーバルちゃんは全肯定してくれるキャラクターだけど、あれはサーバルちゃん自身が本当にそう思ってて、クチに出してるだけなんです。純粋に「えー、文字読めるなんてすごーい!」と思ってますから。それがいまのアニメファンに受け入れられた現象を考えると……みんな疲れてるのかなぁ? と思いますね。

梶井:サーバルには文字という認識すらなかったですけどね。

一同:(笑)

梶井:そもそもだけど、あの「すごーい」とか「たのしー」って言葉が話題になったのは、どこが最初なの?

福原:やっぱりニコ生じゃないですか? 『アイカツ!』も「うんうん、それもまたアイカツだね」みたいな流行語があるじゃないですか。ちょっと前だったら『エルシャダイ』の「そんな装備で大丈夫か」とか。
それらの言葉を使っているからって、『アイカツ!』を見てたり『エルシャダイ』をプレイしてるとは限らないと思うんです。なんか盛り上がってるから使ってる人もたくさんいます。『けものフレンズ』もそれと一緒で、人ががたくさん集まってきて、みんなで楽しんでくれてるのではないでしょうか?

梶井:「すごーい」って言ってる人たちの何割がアニメを見てくれているのか、気になりますね。

――まだ見ていない人にも、見てほしいですよね!
福原:もちろん見てほしいです。でも、あの言葉を知ってから、それをきっかけに見てくださった方も多いので、楽しんでいただければなんでもいいです。

――では、ここまでのおふたりの意見をまとめると、「すごーい」や「たのしー」の言葉が流行った理由は、まだ分析できていないと?
梶井:分析したくてもできないですよ(笑)。

一同:(爆笑)
▲アメリカビーバー(CV:下地紫野)/左、オグロプレーリードッグ(CV:大空直美)/右

▲アメリカビーバー(CV:下地紫野)/左、オグロプレーリードッグ(CV:大空直美)/右

 

大人から子供まで楽しめる作品にしたかった――(福原氏)

――「すごーい!」の流行をお聞きしたかったのは、ネットの声で「あれはステマに違いない」と否定的な意見も見受けられるからです。
梶井:こっちはなにもしてませんよ(笑)。マジメに映像を作っているだけで手一杯ですから。

福原:そうです。僕らはステマじゃなくて、ビジネス的に完璧なステルスです。さっきも梶井さんが言ってましたが、ほとんどビジネスを考えないで進めてきちゃった作品ですからね。ちゃんとマーケティングしろよってね(笑)。

――ありがとうございます。よく考えたら、そんなステマをする暇があったら、グッズを発売したり、動物園に立て看板のひとつでも飾りますよね(笑)。
福原:最初の段階では、委員会のみなさんもコンテンツがどうなるかを見守っている感じがしていました。前例のない制作に、みなさん想像がつかなかったんじゃないですか?

梶井:他のアニメと違って、方程式のない作品なので、どう意見をしていいのかわからないんじゃないかと思うんです。

――「アイドルもの」とか「スポーツもの」とかなら、なんとなくわかりますが、これは「動物もの」ですからね。
福原:『けものフレンズ』が夕方の子供向け作品だったら、誰もが納得すると思うんですよ。なのに、これを深夜に流すんです。会議に参加したみなさんが「???」と思うわけです。

梶井:気持ちの上では日曜日の朝にやりたかったんですけど、ニチアサの枠はハードルが高すぎました。それで深夜に流すことになったんですが、運がいいことに深夜アニメファンのみなさんに刺さってくれました。予想していないことばかり起こっています。

福原:僕は放送前から希望していたのは、「アイカツおじさん」みたいな存在です。『アイカツ!』は子供向けなので4クールとか長い期間放送します。物語が進んでも、誰かが急に殺されたりしない。ひどいことも起こらない。ずーっと平和な世界が続いてるんです。視聴者は娘を見守っているかのような、ほんわかした感じになれる作品です。

――ニチアサにそんな衝撃的なストーリはありえませんね。
福原:あの感じを出せたら、大人も子供も楽しめるアニメになれるんだろうなと感じたんです。そこに、たつき君がお話のチカラをくっつけて、吉崎先生から預かった「サンドスター」や「セルリアン」といった要素を入れました。それが謎解きのように機能して、受けたんじゃないかなって思います。
▲ライオン(CV:本多真梨子)

▲ライオン(CV:本多真梨子)

▲ヘラジカ(CV:國府田マリ子)/左

▲ヘラジカ(CV:國府田マリ子)/左

 

次ページでは「静止画で構成され話題となったエンディングのアイデアの源は?」
(C)けものフレンズプロジェクト
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