声優
速水奨インタビュー〜声優人生から養成所設立まで〜

速水奨スペシャルインタビュー〜最前線で走り続ける声優人生と、声優養成所設立に込めた“速水奨ism伝承”への想い〜


正統派から三枚目、さらには同人界発のBLブームの先駆者に!


——「勇者シリーズ」の『勇者エクスカイザー』では正義のロボット、その後『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』で実力者のナイト・シューマッハを演じたかと思えば、『南国少年パプワくん』のマジック総帥役で息子を溺愛する父親を怪演するというように、イメージをどんどん変えるような役を立て続けにやられているのも面白いです。

速水:『ダンバイン』の後に『エルガイム』があって、そこのギャップをどうすればいいのか苦悩しながらやっていましたし、『オーガス』でももっと軽妙にするにはどうしたらいいんだろうと考えていました。そして30代になってから『エクスカイザー』と同時に『デビルマン』(OVA『デビルマン 妖鳥死麗濡編』不動明役)もやったりして、正統派でやる作品と『無責任艦長タイラー』みたいな作品とのギャップにもようやく対応できるようになってきたのかなと思いますね。

——それだけ余裕が出来てきたのでしょうか?

速水:正統派を突き詰めることで、そこはちゃんと出来るようになったと思うんですよ。そして自分の中に正統派が出来たことで、それをほんの少しチェンジしていけば三枚目も出来るという自信が持てたということですね。

——最初に変化球を意識したのは『エルガイム』のギャブレーなんですか?

速水:ギャブレーですね。ただ、カーブがまだ曲がらないんですよね。フォークが落ちないんですよ(笑)。今聴いても、浮いている部分をすごく感じます。ただ、富野(由悠季)さんがキャスティングしてくださった中に、若さゆえの、今ならもっと計算してやるところが計算できていない拙さを買っていただいた部分もあったのかなと思うんですね。

——ギャブレー自身が青二才のキャラクターですから、そこがリアルだったのかもしれませんね。ちなみに二枚目役と三枚目役をそれぞれ確立できたと思えたキャラクターは何になりますか?

速水:二枚目はやはりエクスカイザーだと思うんです。三枚目は『無責任艦長タイラー』のマコト・ヤマモト辺りだと思うんですよ。

——確かに、なさけないキャラのヤマモトの声が速水さんだったのは、放送当時も衝撃的でした。

速水:振り切れたと思うんですよ(笑)。「こう演じなければいけない」という計算と、「それ以上やったら恥ずかしい」というリミッターが人にはかかっているんですね。それが外れたのが『タイラー』や『パプワくん』辺りだと思うんです。

——『パプワくん』でのマジック総帥のシンタローへの溺愛ぶりは、子供向けのアニメで初めてBL成分を匂わせた気がします。

速水:もう完全に同人の世界ですよね。

——そこに女性ファンが飛びつき、イベントで声優の方たちがファンの熱烈な声に応えていったことで、アニメイベントの在り方自体が変わっていったような感じがありました。

速水:その頃、ものすごい葛藤がありまして。当時のアニメイベントは、OVAの予約をした人だけが参加できるもので、さらに1000円払うと握手権が付くようなシステムだったんですよ。入場チケット制ではないので、会場も舞台用の照明すらないようなところでやるものだったんです。そこにCLAMPさんなどが出てきて、有料イベントが始まるようになって、会場などは少しずつ改善されていったんですね。

でもお客様は有料になったのに、僕らが何もサービスできていないじゃないかと制作側と喧々諤々しながら作っていったのが、今のアニメイベントの最初だったんです。

——金丸淳一さんもバスツアーを企画されていたじゃないですか。声優のみなさんが手探りしながら、アニメファンを引っ張ってくださっていたわけですね。

速水:コミケもそうですよ。僕が知った頃は川崎の小さな会場でやっていたのが、晴海に行って、今やビッグサイトですよね。「えっ、コミケってこんなことになっていくんだ!」と年を追うごとに驚きましたし、同人の人たちもものすごいパワーを持ってメジャーにどんどん来たわけですよ。尾崎南さんもそうですけど。

そこに僕らが使われ始めて(尾崎南『絶愛-1989-』のOVAで南条晃司役)、同人を愛していた人たちが僕たちのことも支持してくれて、一気にパイが広がったんですよ。

——やはり速水さんといえば二枚目役のイメージがあるのですが、業界的にも早い段階から二枚目役を期待されていたのでしょうか?

速水:期待というか、「あいつ、それしか出来ないから」ということじゃないですかね(笑)。

——それは『エクスカイザー』辺りまで?

速水:僕の中では、演じることとナレーションをすることが同列なんですよ。ナレーションも、今は番組ナレーションなどもありますが、当時はテレビコマーシャルのナレーションとか企業のナレーションですよね。そういうものも僕は巧くなりたいし、そちらでも勝負したいと思って一所懸命練習していた時期なんです。

テレビCMのナレーションは、特に車などの場合はどうしても正統派の「かっこいい声」みたいな要求をされますから、そういうものと連動したのか、演じるほうもそういう路線になっていったんですね。そこには事務所の意向もあったと思うんですよ。だからそれ以外の仕事はあまり来なかったんです。

——そこにいきなり『タイラー』が来た感じだったんですか?

速水:いきなり、ではないですね。『タイラー』の前に、『ジリオン』でおふざけ系があったり——。

——ドラマCDの『赤い光弾ジリオン お洒落倶楽部』ですね。脚本があかほりさとるさんで、それまでは真面目な音声ドラマだったカセットブックやドラマCDに、アニメ本編のパロディドラマを持ち込んだんですよね。あの中で速水さんのバロン・リックスが「JJ、愛してるぞ」と言ったのは、当時衝撃的でした。

速水:あの辺は多分、アドリブだったと思うんですけどね(笑)。本編と別でやるものなので、振り幅を大きくするために面白いエピソードをどんどん入れていったんです。『サイバー』もそうですよね。そういうものを要求されるようになって、意外と自分はそっちも嫌いじゃないんだなということに気付いたんですよ。

——つまり、アニメでは正統派や美形悪役をされていて、ドラマCDという「遊んでいい」場所で崩していたら、今度はそちらも評判になって、ついにアニメでも声がかかるようになったわけですね。

速水:そうです。ドラマCDも、当時は相当売れていますからね。

——実際、聴いていて面白かったですから。

速水:『サイバー』なんてドラマCDをものすごくたくさん出したし、歌もかなり出しましたね。

——『サイバー』で速水さんが歌われた「都会の影」なんて、作品を知らないで聴いても通じる名曲ですよね。

速水:僕もずっとライブで歌っていましたから。

——まだ明るいうちにライブ会場に入り、アンコールの定番曲となっていた「都会の影」を聴いて会場を出ると、まさに都会の影を感じるような夜の東京になっているんですよ。いつもライブの後は余韻に浸りながら、夜の表参道を歩いていました。

速水:ラフォーレ原宿でやっていましたからね。

今や、かっこいい声が笑いの要素になるまでに浸透!


——二枚目や三枚目に留まらず、近年は『日常』の学者のような、謎のカテゴリーの役もされています。変わり者の役をやるようになった流れも教えてください。

速水:変わり者ですか。これを言うと「そうかな?」と思われる方がいらっしゃると思うんですけど、『横山光輝 三国志』の諸葛亮孔明などは変わり者だと思うんですよ。かなり変わっている気がします。諸葛亮孔明はいろんな方が演じていますけれど、自分が演じる時には、何か人を超越している部分とか、知識の外にある裏付けされたものが垣間見えるようなものを演じたいという想いがあったんです。

あとは最近増えているんですけど、たとえば『銀魂』で星海坊主というつるつる頭の役をやった時に、スタッフから「でも声はかっこいいんです!」って言われるんですよ。『FAIRY TAIL』の一夜(一夜=ヴァンダレイ=寿)というのも、「声がかっこいいキャラなのでお願いします!」って。とあるゲームをやった時も、魚の醤油さしのキャラクターなんだけれど「声がかっこいいんです!」って、よくわからないことになっていますね(笑)。

そこまで言われる「かっこよさ」ってなんだろうと考えたら、日常じゃないんですよ。冷血どころか、血液が流れていないような、身体がベルベットで出来ているみたいな。歯が痛いとか、風邪をひくような肉体の差し障りも一切感じさせない超生命体みたいな存在なんだけれど、僕が喋ることによって「そのキャラクターがキャラクターとして生まれる」ということを考えて、演じるようにしてきたんですね。

『日常』の学者もそうですし、マッドな医者とかだと『闇の末裔』(邑輝一貴役。医者で事件の黒幕)もそう。『炎の蜃気楼』(直江信綱役。怨霊)もそうかなと思うんです。「昨日は何を食べた」というようなキャラクターの日常を感じさせないものを演じることが、自分の命題でもあるし、求められている一番のところかなと思います。

——確かに「芸風・かっこいい」みたいなものを速水さんに求めたキャスティングが多くなった印象はあります。

速水:先程の醤油さしのように、今や「かっこいい声を笑われるところまで来たのか」というのが、僕としては面白いですね。

——『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』もそうでしたね。

速水:ナレーションだったんですけど、結局最後は全身パンツの変態(底辺の黒)の役でしたからね(笑)。

——それまでは作品があってのキャスティングだったのが、作品と並んで声優をファンが求めるようになり、声優の影響力がアニメ業界を変えていったような印象があります。声優を取り巻く状況が変わってきたなと感じたのは、いつ頃からでしたか?

速水:『はなきんデータランド』(テレビ朝日系列の情報バラエティ番組。1990年から1994年まで「アニメ大賞」ランキングを発表)の頃ですよ。声優部門で草尾毅君が1位、佐々木望君が2位。翌年は望のファンが盛り返して、ひとりで100枚とか200枚とかハガキを書いてランキングで競っていたじゃないですか。あの辺からテレビ朝日がアニメのことをピックアップするようになって、それと連動していろんなジャンルが広がっていって、ネット社会になって確立されたと思うんですよね。

僕はそれよりも、ちょっと先に生まれた人間なんですよ。まだ何もない、すべてがアナログの時代じゃないですか。お客さんが喜ぶことを、自分の肌で感じて、次はこうしようというやり取りしかないんです。ファンレターを読んで「あっ、こういうことがウケるんだ。じゃあ次はこれを活かそう」みたいな、渡して受けての時代だったんですよ。今はファンレターを出す人自体、相当少ないんじゃないですかね。

——圧倒的にツイッターとかですよね。先程お話に出た諸葛亮孔明もそうですが、歴史上の人物のキャラクターもたくさん演じられています。その中で、明智光秀を『戦国BASARA』と『ドリフターズ』で演じられたことで、明智光秀役といえば速水さんというイメージが出来つつあります。明智光秀はどのように作っていったのでしょうか?

速水:『戦国BASARA』は時代考証もキャラ設定も、非常にユニークじゃないですか。最初は僕も「こんなの有り得ないよな!」と思っていたんですけど、それをみんなが大真面目に作っていくわけです。あの足軽ダンス(TVアニメ『戦国BASARA』OPにて、CGの足軽ダンサーズがストリートダンスを披露し、戦国時代とのギャップで話題となった)だけだって凄いと思うんですね。そうすることで、完全に“『戦国BASARA』のリアリティ”が生まれたと思うんですよ。僕らが学んだ歴史とは違うけれど、物語世界の中の歴史としてしっかり構築されてきて、ならばそこに委ねてみようと思ったんです。

そもそもはゲームから始まっていますが、最初の『戦国BASARA』では小林(裕幸)プロデューサーが「明智光秀は狂気の笑いをしてくれ」ということで、低い声を一切封印されたんですよ。全部高いところだけで喋るんですけど、それが非常につらかったので、『2』の時はさすがに低い声も使わせてもらって、その後にアニメの第1期だったんです。だから演じ方を試行錯誤する中で、光秀像も徐々に変わっているんですよ。ただ、共通するのは狂気なんです。

一方、『ドリフターズ』は光秀を演じたといっても、1期の最終回で一言だけしか出ていないので、僕の中では透明な感じですね。どちらに転んでいくか、まだわからないので。『戦国BASARA』の光秀とは、まったく違う演じ方をしようとは思っていました。

——観ている側の印象だと、速水さんが演じられたことで、どちらの作品の光秀も信長のストーカーに見えるんですよ。速水さんの艶のある声と存在感によって、まるで信長を愛するがゆえに光秀がストーカーと化したように思えるんです。もちろん恋愛感情なんてあるわけがないのに、視聴者側にそういう妄想を抱かせるのは「速水奨の功績」ではないかと。

速水:そうか、僕はストーキングキャラなんだ(笑)。でも追いかけるキャラって、『炎の蜃気楼』もそうでしたね。『闇の末裔』もそうだな。

ゲームが変えた声優の芝居、時代で変わっていく声優の音楽活動


——ゲームで音声が使えるようになったことで、声優にとっても新たな活躍の場が生まれたと思います。その中で『アンジェリーク』という女性向けの恋愛シミュレーションゲームが発売され、現在の乙女ゲームの隆盛につながりました。こちらでも光の守護聖ジュリアス様として、作品人気を牽引するキャラクターになりましたが、『アンジェリーク』の頃はどんな感じだったのでしょうか?

速水:9人の守護聖のキャスティングを見たら、当時一番売れている人たちじゃないですか。そこで「えっ、僕がトップですか!?」という申し訳なさもあったんですけど、そういうコンテンツが始まって、自分たちがこれから新しい流れを作っていくんだなという手応えはすごく感じました。

最初にスーパーファミコンで発売された時は、まだ音声が出せなかったので、ドラマCDを作ったんですよ。画面に合わせてCDを流すと、絵と音声が同期するというものだったんです。そのうちにゲーム本体から音声が出るようになったんですけど、プレイするためにはゲーム機としてPC-FXを買ってもらう必要があったんですね。PC-FXは当時で3万とかしましたから(メーカー希望小売価格 49,800円)、初期のアンジェリークファンの女性たちは、ものすごくがんばって投資してくださったんですよね。そこから広がった世界なんです。

ファンレターをいただいても、「『アンジェリーク』をプレイしています。こんなに新しい世界が広がってドキドキしています」と興奮気味に書かれていて、「あっ、ここで本当に恋愛ができるんだ」というのを知ったし、僕たちはそれを裏切らない守護聖を作っていかなきゃなっていうことで、1人1人の意識が変わっていった時代だったんですね。

——それまではアニメで観るだけだったのが、ゲームでは世界の中に入れましたからね。あんな経験は初めてでしたから、熱中度も今よりずっと高かったと思います。

速水:昔はビデオがあるお家も少なくて、アニメも録画はあまりできなかったじゃないですか。だから自分が出演した作品を、録画して観るということもほとんどなかったし、一過性のものだったんですよ。それがゲームになったら何度でも聴けるので、今までよりももっとニュアンスを大事にしないと「ここの言い方がおかしい」と指摘されるわけです。演じる責任感は増しましたね。

あとは距離感が変わりました。ゲームになってようやく、普通に人と喋る距離になったんです。TVアニメの場合は、相手が近くにいても、もっと声を張っていたんですよ。マイクの性能も良くないので、雑音を拾わないようにリミッターをかけるんですね。だからみんな、バーンと声を出さないと画に乗らないからと、怒鳴り合うまでは行かないにしても、すごい距離感で喋っていましたね。

——だからこそ、ヘッドフォンで聴くとたまらない距離感になっていたんですね。

速水:その後にダミーヘッドマイクとかも出てきて、愛のささやきとかが始まったんですよ。

——その辺りから声優ファンがさらに過熱していった感じがあります。耳元で自分に向けて愛をささやかれたら、そりゃ惚れるよなと。声優雑誌でのグラビアなども始まっていましたから、声優自身に入れ込むファンが増えたのも当然でしょうね。

またキャラクターソングという形で声優が歌う機会も増えていき、速水さんもその最初期から携わっておられますが、中でも南條晃司役として歌った「BRONZE 殉教」などは、声優が歌う意義のひとつの答えだと思うんです。あの曲は速水さんの声と存在感がないと、成り立たないと思うんですよ。ひたすら低音でささやくように歌うというのは、歌唱力がどうこうの話ではないですから。それを、「ただもうこの声に埋もれていたい」と思わせる。それは劇中の南條晃司の歌そのものである。これこそが声優が歌う意義なのではないか、と。


速水:そうかもしれませんね。『絶愛』のレコーディングは、ものすごい時間をかけて、贅沢に録らせていただいたんですよ。僕はロックは歌えない。だけど、南條晃司を演じる限りにおいては、自分の演技のテイストが歌に投影されないと嫌だということもあって、キーも相当細かく打ち合わせをさせていただいて。詞も全部、尾崎先生が書かれましたから、それだけ強い言葉が出てきていると思うんですよね。

——声優の音楽活動に対しては、どのように考えておいでですか?

速水:僕らの時代と違って、今の人たちはまず必須なんですよ。絶対に歌えないといけないし、必要によっては踊りも出来ないといけない。僕らは「えっ、歌うんですか!? じゃあ、がんばりますから何とかしてください」というような状態だったわけです。すべてが初めてのことばかりだから、誰も完成形を想像できないまま、みんなで汗をかいて、泥臭いくらいの試行錯誤をしながら作っていったんですよ。そういう意味では、つらいけど楽しい時期にいたんだなとは思います。

今は本当にいろんなジャンルの歌を歌う機会がありますよね。僕も歌っていますけれど、「アクターズ」というボーカロイドの曲を声優が歌うCDがあって、大変だけど楽しんでいます。

——速水さんはオリジナルのアルバムもかなり出されています。こちらは最初はどのような経緯だったのでしょうか?

速水:アニメ関係のプロデューサーから、歌と語りを融合させて、ポエムを僕が読むような形のアルバムを出しませんかと提案されたんです。語りがあるならということで引き受けたんですけど。

——それで歌にも目覚めたような感じに?

速水:いや、目覚めたとまでは行かなくてですね。自分の中でうまく消化できていないところがあって、その後に原田真二さんと組んで、歌だけのアルバムを作ったんです。その頃に初めてライブにも挑戦して、もう冷や汗しかなかったんですけど、リベンジしたいなと思いまして。次のライブを大阪でやった時に、意外と楽しいなと思ったんです。そこから始まった感じですね。

——ライブ活動を続ける中で、やがて自ら原作・脚本を手掛ける『S.S.D.S.シリーズ(Dr.HAYAMI)』が生まれ、オリジナルドラマCDにもなりました。それだけ発信したいという気持ちが高まっていったのでしょうか?

速水:Dr.HAYAMIというのはそもそも、先程も言いました大阪でのライブの時に、マネージャーが白衣と聴診器を持ってきたんですよ。「ライブだけだと胃がもたれるかもしれないから、お客さんに息抜きの時間をあげてください」って。白衣と聴診器を着けて、何かフリートークでやってという、実にざっくりとした指示で(笑)。せっかくだから、お客さんからお悩み相談の手紙をもらって、Dr.HAYAMIが答えるみたいにすればいいじゃないと思ってやったら、ことのほかウケたんです。そのうちにDr.HAYAMIのお悩み相談だけのイベントもやったりして、それはそれで楽しんで終わったんですよ。

そうしたら今度は僕のライブにもよく来ていた森川(智之)君が「Dr.HAYAMIの大ファンなので、ぜひお願いします!」というので、「おまえらのためだろ!」(ファンクラブ主催イベント)に1回だけの復活として出たんです。それがまたウケたので、もうちょっとやってみるかということでランティスと話をして、ドラマCDを出すことになったんですよ。ところがその世界観を描くシナリオライターがいない。それで仕方ないから僕が書き始めたんです。最初から自分で書きたかったわけじゃなく、僕がやらざるを得ないからやっただけで、それがどんどん続く流れに……。

——そのように、徐々に作る側に回っていったことが延長して、事務所の設立につながる流れになっていったのでしょうか?

速水:そうですね。色々作ることは10年以上前からやっていますけれど、逆に「演じる」ことにも、もっと貪欲になってきたんです。ただ、個人で考えるレベルと事務所で考えるレベルは違うじゃないですか。僕個人だったら「この仕事は受けたい。でも前にやった仕事との兼ね合いがあるから、そこは事前に話をして許可をいただく」ということも出来ますが、事務所の所属タレントだとなかなか窮屈なところもあるんです。

それで個人になって事務所を作ったら、いろんな仕事があることに気付いたんですよ。やってみると面白いことがたくさんあったんです。


<次ページ:養成所の設立と、声優への想い>
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