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神山健治監督が目指した世界とは?『ひるね姫』インタビュー

夢、格差、近未来……。SFでもハイ・ファンタジーでもない神山健治監督が目指した世界とは?『ひるね姫』インタビュー

 神山健治監督の最新作『ひるね姫』が公開中です。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』をはじめ、『精霊の守り人』や『東のエデン』など、重厚な世界観と設定を背景にした物語で多くのファンを楽しませてきた神山作品ですが、今回初となるオリジナル長篇映画『ひるね姫』では、その印象が一変。キービジュアルからも、これまでとは違ったイメージが漂っています。

 現実と夢が巧妙に交差していく物語をはじめとして新たなフィールドに、なぜ足を踏み入れたのか? その真相を神山監督に伺うべく、インタビューを実施。インタビューを通して神山監督のビジョンや挑戦が垣間見られることとなりました。

◆『ひるね姫』ストーリー
2020年、東京オリンピックを3日後に控えた夏の日。私の家族に、事件が起きた。「なんでこんなに1日中、眠てえんじゃろ?」
岡山に父親と二人で暮らす女子高生の森川ココネは、所かまわず昼寝をしては怒られる。そんな彼女はある時、最近いつも同じ夢を見ていることに気づく。窮屈で、でもどこか温かいその夢は、彼女の知らない家族の秘密に繋がっていたのだった。

夢と現実が交わる面白さと驚き
──今作は「夢」をテーマにしていますが、神山監督が見た夢も反映されているのでしょうか?

神山:直接は関係ありませんが、僕の子供が小さかった頃、寝かしつけるのに「桃太郎」などの絵本のお話をしていて、ストーリーを徐々に創作していって、エスカレートさせた物語を聞かせていたことがあって。それを子供が喜んで聞いてくれていたんです。たまたまその話を企画会議の中で、比喩のつもりで話した。すると、そこから話が発展していきました。

僕も子供の頃に特撮やアニメを見ていて、怪獣の中に人間が入っているのを子供なりになんとなく知っているのに、怪獣や宇宙人が出てくる怖い夢を見たり、作品と現実がごっちゃになっていました。そんな曖昧な時期が僕自身にもあったので、子供にとって夢が現実に変わっていく飛躍というか、『不思議の国のアリス』とは逆に「夢が自分の現実に侵食してくるようなそんなファンタジーだったらどうだろう」と考えたんです。それが作品の根幹になっています。

──寝かしつける時にしたお話は、お子さんのリアクションをみながら創作を?

神山:今の子供たちからすると、昔からある童話よりも日頃テレビなどで見ている作品の方が過激ですよね。同じ海賊が出てくる話でも、火薬の量が多かったり、アクションが多かったり。子供に話すときも、そんなところを盛って話したりしていましたね。

これは今の終わりのないドラマなどの影響なのかもしれませんが、子供に話していた物語も結末がなくなってしまうんです。「次にどうなるんだろう?」という振りをして「つづく」と言ってみたりして。

寝かそうと思って話していたのに、その目的からは外れて子供も興味が出てきて寝なかったり、自分の方が疲れてきちゃって「続きは明日」になることもありましたね。そんなファンタジーの仕掛けを映画としてどうやるのかアイデアを出している時に比喩として説明していたものが、そのまま本作で使われている部分もあります。


──先程の特撮番組の話にもつながりますが、現実にある風景の中で撮影をしていたからこそ、子供にとって現実との境界線が薄くなっていたのかもしれませんね。

神山:僕自身、その影響を強く受けていていると思います。『ウルトラセブン』(1967年)でメトロン星人が登場する回(※1)を観た後、日常的な景色の中に非日常的なものが入ってくる不思議さを感じるのと同時に、リアリティも感じたんです。自分の家の襖にメトロン星人が立っている夢を見たのを今でも覚えています。

そういったものは、自分の作品の中でも意識的に演出として使っています。なるべく見たことがある場所に見たことがないものを入れる。特撮もそうですが、アニメはより一層背景を現実にしておくことで親近感が湧くんです。その落差で驚きを作れる。僕は最初に手がけた作品のころから、現実にあるものをあえて入れていくようにしています。

※1:『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」。主人公のモロボシ・ダンとメトロン星人が夕日の差し込む部屋でちゃぶ台を囲んで会話するシーン。放送当時、ちゃぶ台はリビング(当時の言い方であれば「お茶の間」)の中心であり、そんな日常のなかで繰り広げられる会話劇に視聴者は驚かされた。『ウルトラマン』シリーズの中でも人気の高い名シーンとなっている。

夢の国には自動車のパーツが!?
──本作では夢のシーンと現実のシーンのバランスがじつに匠だと思いました。そこは苦労されたのではないでしょうか?

神山:最初は良いアイデアだと思っていましたが、脚本を書き始めて早々に「これはちょっと大変だぞ」と思いました。というのも、どちらもひとつの映画ができるくらいに設定が多くて、夢の世界の説明をしているだけでも時間がかかるんです。

現実のシーンの時間軸の方が進みが早いので、夢の説明はさっさと終わらせて次に行きたいのに、でも夢のシーンも重要なのでそっちも書かないわけにはいかない。一番良いアイデアだと思っていたものに、そこを書いているだけでどんどん尺が取られてしまい面白くならない。いっその事、いらないんじゃないかと思った時もあります。

最初の取っ掛かりとしてフックになった良いアイデアが物語の邪魔をすることって意外とあるんです。ピクサーのジョン・ラセター(※2)だったかが「一番良いアイデアがネックになって物語が走らないことがある。それは捨ててしまえ」と言っていたのはこれかと。そこで、「もっと直感的なものがいいんじゃないか」と夢の設定を苦労しながら変えていきました。

例えば、夢を見ているのはココネ(主人公・森川ココネ)なので、夢の世界のビジュアルは彼女が思っていることを反映させています。現実世界でお父さんいつも着ていたジャケットの背中にドクロが描いてあったから、夢の中のお父さんは海賊になっているんです。他にも、ココネは地元の遊園地しか行ったことがないから、お城のイメージが曖昧で、自宅の自動車工場にあったパーツをお城に見立てていたりとか。

「桃太郎」をベースにしたのも、舞台が岡山だからです。

そういうコンセプトを作っていって、全部の設定はわからなくても映画を観ている時間の中でなるべく直感で伝わるような、すぐに分からなくても考えられる余地を残した設定にしていきました。

※2:『トイ・ストーリー』、『カーズ』の監督。また、『アナと雪の女王』や『ベイマックス』などのエグゼクティブプロデューサーも務める。ジブリ映画の大ファンであり、宮崎駿監督とも交友関係を持っている。

「終わらない日常」がファンタジーになった今、作られた作品
──ハードSF、ハイ・ファンタジー(異世界もの)に限らず、これまでの神山作品では現在とは違うものの積み重ねで作品世界を構築していました。しかし、今作ではそれは感じませんでした。また、これまでのヒーロー的な主人公でもありません。そこには理由があるのでしょうか?

神山:これまでSFやハイ・ファンタジーを軸に、世界を救うヒーローを描いてきましたが、それは僕たちが「終わらない日常」を生活していたからできたことでもある。日本は、80年代からずっと、世界から見たら幸せなんだけど、日本人ひとりひとりに聞いてみるとあまり幸せを感じてはいないという時期が長く続いていました。80年代当時もヒーロー不在と言われてはいましたが、なんとか問題を解決していくことを描くことができていました。


それが震災後(東日本大震災)、作り手も観客も意識がガラッと変わったと思うんです。格差だったり、若者の貧困や未来にたいして希望を抱けなくなっていることが顕在化してきた。それは「終わらない日常」つまり「永遠に続く平和」が一番のファンタジーになってしまったということです。その気分の変革が起きている中で、作品を作っていくアプローチも変えていかないといけないんじゃないかと、感じました。

とはいえ、そこでディストピア(ユートピア(理想郷)とは反対の世界)を書いてもダメだし、閉塞した世界をなんとかしようとするヒーローを書いてもリアリティーがない。なんとか今の気分にフィットするもの、共感できるものを作ろうと思った時に出てきたのがこの作品です。みなさんに共感してもらうための、僕が思うひとつの結論でした。


──舞台が東京でないこともそのひとつでしょうか?

神山:東京で起きていることが日本の中心のような気がするけど、それは日本全体からするとじつはローカルで、今は地方都市や田舎で起きていることの方がポピュラーな出来事なのではと思うんです。やはり東京にいると地方が見えないんですよね。僕も田舎に帰ると高齢化や少子化、過疎化が進んでいることを身に沁みて感じます。だから敢えて牧歌的な田舎を舞台にすることで、今の日本の現実が見えるかもしれない、「あの日常が続いたら……?」というファンタジーにも見えるんじゃないかなと。

──時代は2020年。舞台となった倉敷の景色からはノスタルジーも感じますが、未来はどの程度進歩していると考えましたか?

神山:今作でも、『東のエデン』(※3)で描いた「格差や世代の断絶への解決作はないのか」というテーマが多少残っています。そのミニマムケースが家族で、モチーフとしてテクノロジーを使用しています。

日本は20世紀に成功をおさめた為、21世紀ではその成功体験が様々なところで邪魔をして、世界との格差が生まれてしまった。この企画を書いているとき、海外の人と打ち合わせで「日本人だけが未だにシステム手帳を使っている」と言われたんです。「海外だと、ラップトップ(ノートパソコン)を使ってその場でテキストを作り、その場で全員に共有して、次の仕事へ入る。なのに、日本人だけがわざわざ帰って議事録を打ちなおしている」と。それは、上司がラップトップを使わなかったりメールで議事録を送ることを良しとしないために、若い人はそれが無駄だと思っていても許してもらえないことが要因の一つです。

僕自身、そのことはずっとひっかかっていた部分で、もしかしたら世代感の断絶や家族のストーリーを描くことにも使えるんじゃないかなと思ったんです。当初は現代でお話を作ろうとしていたんですが、ちょうど東京オリンピックが決まり、誰もが分かりやすいターニングポイントになったので、舞台がちょっと先の未来になっています。

本作では自動車の自動運転がキーになっていますが、ちょっと先の未来なら自動運転が実現しているかもしれない。現在でも僕が考えている以上に技術が進歩しています。問題は法整備などでの行き詰まり。これもまた世代の問題なのかなと思うんですけどね。

思い切って「変えてしまえ」という人と、自分がやっている間は「変えたくない」という人がいたら、そこで行き詰まっちゃう。そういうところも物語に盛り込むことで、世代や族にスポットを当てられるんじゃないかなと思いました。

※3:神山さんが監督を務めた、2009年放送のTVアニメ。劇場版も3作品制作された。テロをテーマにするなど、時代を映す作風が評価され、多数の賞を受賞した。

『ひるね姫』は神山作品の延長にある、新作!
──主人公のココネ以外、女性がほぼ出てこないのはどうしてなんでしょうか?

神山:僕の作品って、いつも女性があまり出てこないんです。アフレコをしてみると主人公以外は男性ばかりで、アフレコの現場も「華やかじゃない」と良く言われます(笑)。なぜなんでしょう? 確かに、どちらかといえば「男燃え」が好きなのはありますが。映画や音楽にしても、好きな作品はだいたい男性的なモノなんです。


──では、なぜ御自分の作品だと主人公が女性の場合が多いのでしょうか?

神山:毎回、主人公は女性だし、しかも強い女性が真ん中にひとり。不思議ですよね。たまたまいつもそうなっちゃうというか。どちらかというと、モモタローみたいな人を描きたいんです。僕の中では彼が主人公でもいいぐらい。

時代のめぐり合わせもありますが、やはり宮崎(駿)監督の『風の谷のナウシカ』(※4)以降、主人公が女性の方が男女どちらの視聴者も作品を観られるという一挙両得になっているのを求められうからですかね。無意識の中でついついそうしちゃっているのかもしれません(笑)。

※4:月刊アニメージュで漫画が連載され、1984年に劇場アニメ化。主人公のナウシカ(CV:島本須美さん)は、月刊アニメージュのユーザー投票によるキャラクター人気投票で約4年もの間、1位に君臨していたほどの人気があった。


──最後になりますが、神山監督の最新作を待っている方へメッセージをお願いします。

神山:新しい作品が出来上がりました。出来上がってみると今までの僕の作品の延長にある作品だなと思うし、でも、凄くチャーミングな映画が出来上がったと思うので、是非大勢の人に観ていただけたらいいなと思っています。エンディングにもこだわったので、エンドロールが終わるまで楽しんでください。

特報映像が解禁!
 今回解禁する映像は、ココネの父親が逮捕された事件をきっかけにココネが幼なじみの大学生モリオを連れて東京を目指すその道中、高松でサイドカーのなかで仮眠をとったはずのふたりが、起きたらいつのまにか大阪の道頓堀にいたという謎から始まる。驚いたモリオがカーナビを確認すると寝ているうちに自動運転装置で大阪まで移動していたことが判明する。

「みんながバカにしとったモモおじさんの改造車って、実はでえれぇ発明品なんかもしれん」と推理するモリオ。

 ハーツのサイドカーに搭載された自動運転のこの機能は、目的地を入力すれば交通法規にのっとって移動してくれるというもの。モモタローが長年改造し続けた努力の結晶は、カーナビと連動し、目的地への最短距離を割り出したあとは、何もしなくても運転してくれる。どうやらモモタローは、この技術をめぐる陰謀に巻き込まれたようなのだ。

 モモタローが残した“自動運転技術”と、ココネの夢の中に出てくる“魔法”。神山監督が語ったアーサー・C・クラークの「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」という言葉をヒントとすれば、この二つには非常に重要な関係があることに気付く。

 夢と現実の関係性に気付いたココネは、父親を助けるために、眠り、夢を見るのだった。



作品情報

【ストーリー】
すべてを知るために、私は眠る。

 岡山県倉敷市で父親と二人暮らしをしている森川ココネ。何の取り得も無い平凡な女子高生の彼女は最近、不思議なことに同じ夢ばかり見るようになる。進路のこと、友達のこと、家族のこと……考えなければいけないことがたくさんある彼女は寝てばかりもいられない。無口で無愛想なココネの父親は、そんな彼女の様子を知ってか知らずか、自動車の改造にばかり明け暮れている。

 2020年、東京オリンピックの3日前。突然父親が警察に逮捕され東京に連行された。ココネは次々と浮かび上がる謎を解決しようと、幼馴じみの大学生モリオを連れて東京に向かう決意をする。その途上、彼女はいつも自分が見ている夢にこそ、事態を解決する鍵があることに気づく。

 たったひとつの得意技である「昼寝」を武器に、ココネは夢とリアルをまたいだ不思議な旅に出る。
【原作・脚本・監督】神山健治
【公開日】3月18日
【音楽】下村陽子
【キャラクター原案】森川聡子
【作画監督】佐々木敦子・黄瀬和哉
【声優】
高畑充希
満島真之介
古田新太
釘宮理恵
高木渉
前野朋哉
清水美沙
高橋英樹
江口洋介ほか

【演出】堀元宣、河野利幸
【制作】シグナル・エムディ
【配給】ワーナー・ブラザース映画

公式LINE:シグナル・エムディ
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(C)2017 ひるね姫製作委員会
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