この記事をかいた人
- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
京都を舞台にした、ちょっと不思議な青春恋愛小説『夜は短し歩けよ乙女』。2017年4月7日には待望の劇場アニメがロードショーとなります。世界を同じくする『四畳半神話大系』がTVアニメとして2010年に放送され、原作者の森見登美彦先生と湯浅政明監督が描き出した独自の世界観は未だにファンの間でも語り草になっています。
そして、『夜は短し歩けよ乙女』で特に注目なのがヒロインの“黒髪の乙女”。読者を不思議な京都の街へ案内してくれた彼女は、映画ではどんな活躍を見せてくれるのでしょうか? 今回、“黒髪の乙女”を演じる花澤香菜さんにインタビューを実施。“黒髪の乙女”の意外なキャラクター性についてもお聞きしました!
──役が決まったときはどう感じましたか?
花澤香菜さん(以下、花澤):アニメ化決定の話と、“黒髪の乙女”役が決まったということを同時に聞いたので、すごく驚きました。もともと原作を読んでいたので「この作品に関われる! しかも“黒髪の乙女”を演じることができる!」ってうれしかったです。でも、それと同時にすごく責任重大だな、とも思いました。
──責任重大ですか?
花澤:ファンの多い作品ですし、私の中で“黒髪の乙女”のイメージが、何も気負わずにズンズン歩いていく感じというか、天真爛漫な素敵な女の子っていうイメージだったので「私にできるかな!?」って思ったんです。
──では、演じていて難しく感じることもあったのでしょうか?
花澤:普段は無垢な女の子を演じることが多いので、「役に当てはまれるかな〜?」と不安に思っていたのですが、演じてみると大丈夫でしたね。
──本作は早口で独特な言いまわしのセリフが魅力の作品ですが、苦労されたことはありますか?
花澤:『四畳半神話大系』のような語り口調になるのかは、アフレコを行うまではわからない状況でした。でも、現場に行ってみるとやっぱり、抑揚をあまり付けずにダダーッと早口でしゃべっていく感じで、「あ、これは前作の要素を活かしているんだな」と思いましたね。ただ、“黒髪の乙女”でその演技をするとどうなるのか、あまり想像が付かないままアフレコを始めたので、演技が固まるまでに時間がかかりました。
“黒髪の乙女”のキャラクター付けには、かなり時間をかけていただいたんですけれども、私の中で彼女は、天真爛漫というイメージが強かったので、最初はホンワカした感じで演じていました。でも、武士道を叩き込まれて育ってきたことや、肝が据わった感じをメインに押し出していった方がいいんじゃないかということになり、もうちょっと落ち着いたトーンになりましたね。
──武士道とは驚きです!
花澤:そうですね、“黒髪の乙女”はところどころ武士なんですよ! 受け答えが特に。だから「あ、この子は武士だったんだな」と思いましたね(笑)。日常会話でも、なんか男らしいというか……。
──確かにそうですね(笑)。ちなみに、花澤さんご自身と“黒髪の乙女”で似ている思うところはありますか?
花澤:お酒が好きというところです。飲む量は全然違いますけど(笑)。あとは私、結構“オモチロイ”ことに出会える自信があるというか。お仕事に関して言うと、とても面白いことに巡り合えているなと思います! ただあの“詭弁踊り”を見ると、「あそこまで振りきれないな〜」というのはちょっとありますね(笑)。
──逆に、「ここは違う」と思うところはどこでしょうか。
花澤:“黒髪の乙女”のものおじしないところはやっぱり素晴らしいと思います。私は何にでも緊張しちゃうので……。急遽お芝居に出るシーンがあるんですが、ちょっとセリフを読んだだけですぐ「行けます!」って言えるのはすごいですよね。
──“黒髪の乙女”でとくに見てほしいシーンはありますか?
花澤:劇中はずっと武士っぽい感じのままだった彼女が、最後にちょっと変わるんですよ! そこをぜひ見てほしいですね。とっても表情がかわいらしいんです。
──今回は、互いにファンだと公言している星野源さんとの共演ですが、アフレコはいっしょにされたのでしょうか?
花澤:それが別々だったんですよ! しかも私は一番最初に収録をさせてもらったので、誰の声も入っていなかったんです。
──星野さんを始め、声優が本職ではない方も出演されていますが、印象をお聞かせください。
花澤:キャスティングを聞いたときに「あ! ピッタリ!!」って思いましたし、実際に見てもすごく楽しめましたね。
──星野さんは普段から“先輩”っぽいところがありますよね。
花澤:本を書かれていますからね。星野さんの作品を読んでいると、朗らかでありながらも、いろいろなことを考えながら毎日過ごされているんだなと感じます。原作の“先輩”は「この人、こんなに考えていたら生きづらくないのかな……?」と思ってしまうようなキャラクターなので、星野さんの声はピッタリだなと思いました。
──実際に声を聞かれたときの印象はどうでしたか?
花澤:私の個人的な見方としては、より愛らしさが増したように思います。私は大学では文学部だったので、こういう男子がいっぱいいたんですよ(笑)。だから“先輩”のこともすごく身近に感じていたんですけど、アニメのセリフでは感情が伝わりやすい分「このセリフは本気で言っているんだな」というのがわかって、かわいらしいなと。
──続いて、花澤さんご自身が気に入っているシーンを教えてください。
花澤:私が好きなのは、パンツ総番長の演劇のシーンです。パンツ総番長はロバートの秋山竜次さんが演じていらっしゃるんですけど、「あのシーンを秋山さんがやるんだ」と思いながら見ていたら面白くなっちゃって(笑)。ミュージカルのシーンは皆さんビックリすると思いますよ。「何が始まったんだろう!?」って。
──原作ではそれほど描写されていなかった部分ですからね。
花澤:そうですね。私もセリフは棒読みだけど歌はノリノリで歌っちゃうっていう、ギャップを見せる感じでお芝居しました。歌のところでは、みんなでイメージしながらやっていましたね。
──原作ファンとして映画『夜は短し歩けよ乙女』をどう思いますか?
花澤:森見先生の描く京都と、湯浅監督の描く京都って全然違うと思うんですよ。私の中で、森見先生の描く人物や、場所は、なんだか身近にいそう、ありそうな感じですけど、湯浅監督の描くものは「実際にいたら面白い!」と思ってしまうような世界なんです。キャラクターや街に対して「これ何なの!?」と思っているうちに終わってしまうんですよ。だから、何回でも見たくなるような魅力があります。どちらの作品も『夜は短し歩けよ乙女』なんですけど、それぞれ違った面白さがあるので合わせて楽しんでほしいですね。
──花澤さんが森見先生の作品でお好きなところはどこでしょうか?
花澤:語り口ですかね。すぐに「森見先生の作品だな」とわかるような、森見先生にしか書けない語り口なので、作品の世界に入り込みやすいんです。あとはユーモアですね。自虐ネタが多いので自分と重ねて笑っちゃいますし、読みやすいですよね。私は『恋文の技術』という作品が好きなんですけど、森見先生の描く恋愛模様はとっても愛おしいなと思います。
──最後に映画を楽しみにしている皆さんに向けてひとことお願いします。
花澤:私が演じているからなのかもしれませんが、“黒髪の乙女”の体感時間がすごく長い描かれ方をしているんです。それは、彼女が面白いことに興味を持ち、そこに向かって突っ走って、積極的に時間を使っているからじゃないかなと思います。「昨日何してた?」って聞かれたとき「あぁ、何もしてなかったなぁ」と思うことってありますよね? そんな日があってもいいとは思うんですけど、“黒髪の乙女”みたいにいろいろなことに興味を持って「これからどういう風に歩いていこうかな」と、前向きに考えさせられるような素敵な物語になっています。安心して見に来ていただけたらと思います!
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
■スタッフ
原作:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫刊)
監督:湯浅政明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高
作画監督:濱田高行、霜山朋久
フラッシュアニメーション:ホアンマヌエル・ラグナ、アベル・ゴンゴラ
色彩設計:ルシル・ブリアン
美術監督:上原伸一、大野広司
撮影監督:バティスト・ペロン
音響監督:木村絵理子
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
「荒野を歩け」(キューンミュージック)
制作:サイエンス SARU
製作:ナカメの会
配給:東宝映像事業部
■キャスト
星野源
花澤香菜
神谷浩史
秋山竜次(ロバート)
中井和哉
甲斐田裕子
吉野裕行
新妻聖子
諏訪部順一
悠木碧
檜山修之
山路和弘
麦人