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生田鷹司×浅沼晋太郎対談  声優・演劇、それぞれに大切なこと

逃げるならルパンのようにカッコよく!? 生田鷹司×浅沼晋太郎対談インタビュー PENGUIN RESEARCHフルアルバム「敗者復活戦自由形」リリース記念企画!

PENGUIN RESEARCHが、2017年3月8日(水)にメジャーデビュー後初となるフルアルバム「敗者復活戦自由形」をリリースしました。

今回のリリースを記念し、ボーカルであり声優の生田鷹司さんが、様々な方に疑問と情熱をぶつけていく連載型の対談インタビューがスタート!

前回は『バンドやろうぜ!』のキャラクターデザインや、「ペルソナ3」、「ペルソナ4」のコミカライズで知られる、漫画家の曽我部修司さんと、表現者としての共通項の話などで盛り上がりました。

第2回目となる今回の対談は、生田さんの声優としての師匠である浅沼晋太郎さんをお招きし、お二人の声優についての考え方や仕事に対する姿勢などをお伺いしていきます。

浅沼さんだからこそ知ってる生田さんの姿や、生田さんから見た浅沼さんの意外な一面も…?

浅沼さんが教えてくれたこと

生田鷹司さん(以下、生田):僕が上京して間もない頃、『バンドやろうぜ!』というアプリゲームで僕が初めて声優をやるという話になったんですが、そのときに浅沼さんにお越し頂いていろんなノウハウを教えていただいたという経緯がありました。

実は僕が上京して、表現の場で活躍されている方で初めて出会ったのが浅沼さんなんです。

その時浅沼さんに教えていただいたことは、いまだにいろんな現場で活きています。そういった意味でも僕が最初に出会った表現者であり、恩人だと感じている方なのでぜひお話をお伺いしたいなと。

浅沼晋太郎さん(以下、浅沼):ありがとうございます。

講師の経験は今まで何度かあったんですけど、それは舞台や映像の演技を教えたりワークショップだったりといったものだったので、声の演技についてではなかったんですよ。

で、今回生田君とマンツーマン、というのを受けさせていただいた時に思ったのは「怖い人だったらどうしよう」と…(笑)。

こう、音楽をやっている人の中には、トンがってる人もいるじゃないですか。教えていく過程で「ガチンコファイトクラブ」みたいになったらどうしようかと思ってたんですけど、生田君はとにかく素直で柔らかい人でした。教えると自分の身になるってよく言ったりしますけど、まさにそれが経験できたなって思います。

生田:そうだったんですね! 僕は浅沼さんがどういう方なのかは、インターネットやニコ生で知っていたんですよ。なので、教えていただくというお話を聞く前は、浅沼さんを一人のステキな声優として見ていたんです。

浅沼さんはトークも上手いし、イケメンだなーって画面を通して眺めている時に、ちょうど浅沼さんに直接教えていただけるお話が飛び込んできて、もう「マジか!」ってびっくりしました。(笑)

会ってみたら実際にすごく素敵な人だったし、すごく丁寧に教えていただきました。僕は理解力がそんなに高くないので、言われたことをひとつひとつ噛みしめながらメモっていったんですけど、僕が自分で理解できる時間もちゃんとくださって、僕のペースに合わせて僕を見て教えて下さったのがとても助かりました。

浅沼:とはいえ僕自身ちゃんと声優のノウハウを学んできたわけではなくて、デビュー作でマイクワークも知らないままいきなりスタートした人なので、その中で得た経験や、舞台で培ってきた経験を伝えていったんです。

例えば舞台だと、それが初舞台の人もいて、その中で「この人のクセはこういうクセだな」っていうのが見えるときがあるんです。

それを良い方にもっていくのか消した方が良いのかを見極めるのが、もしかしたら声の仕事でも必要になる部分なんじゃないかな、と思いながらやってきたところはあります。

なので、教える時はもしかしたら別の先生や養成所だと通用しにくい方法論かもしれないし、あるいは全く逆のことを言われる可能性もあるよ、と伝えるようにしてますね。

生田:いわゆる基礎的なことや、養成所で教わるようなことではなくて、実際に現場で感じたことを言って下さるのは、まだ現場を体験したことがない僕にとってはすごく貴重でしたね。

当時は「なるほど、そうなんだぁ」って聞いていたことが、アニメの現場とかに出させてもらうようになって「これ浅沼さんが言ってたやつだッ!」みたいになることも多くて。

例えばアフレコの現場だと、耳を引っ張ったり片耳を押さえたりすることがあるんですけど、なんであれをやるのかわからなかったんです。でもいざ自分が現場にいって同じようにやってみると、自分の声が聞きやすくなったり、自分の声と録ってる声の差が少なくなったりして、当時言ってくれたことが実際に自分が体験して改めてわかるというのがたくさんあったんです。

そういうのは基礎的なレクチャーだけだったらわからなかったことなんだろうなぁと思います。

やりたいことの見つけ方

生田:当時の話をしていて、ふと思ったのですが、浅沼さんが今のお仕事を目指そうと思ったきっかけってあるんですか?

浅沼:実は僕、目指した仕事にひとつもついてないんですよね。

役者に関してだと、小さい頃から日本舞踊をやっていたので、人前に出ることに「抵抗が無かった」だけで、目標だったわけでもなく、大学で映画を作っているときも「この役は走ってる自転車から転がり落ちないといけないから、危ないから僕がやるよ」とか、そういう感じで出演してました。

あとは学生時代にキャラクターショーの中の人をやってたので、体を動かすアクションや人に見られる仕事に抵抗はなかったというのはあったんですけど、好きだったかと言われると、どうなんだろうって感じだったんです。

それから座付き作家として先輩の劇団に入ったんですけど、その第1回目公演の時に、役者が僕のことを友達に「脚本家の浅沼です」と紹介してくれたんですよ。そしたら「え…脚本家っていうことは、セリフとかも全部書いているんですか?」って(笑)。どうやら、脚本家は流れだけ書いてあとは役者たちが自由にアドリブで演技をしてるって思われてたらしく…、ちょっと悲しい気持ちになりましたね(笑)。

よく「幕が開いたら舞台は役者のもんだ」って言いますけど、もうちょっと俺のもんでもよくないか? って。そう思って、2回目公演から僕も出してもらうようにお願いしたんです(笑)。

生田:そんな動機があったんですね…。

浅沼:自分のところでは主演はやったことないんですけど、セリフの少ないチョイ役とか、脇役で出るようにしてます。なので、舞台に出ることもその脚本や演出をすることも、自分で目指したっていうわけではないんですね。声優も同じです。

声優については、僕が主宰をしていた劇団にラジオやテレビCMのナレーションに使える声を探してるキャスティング会社の人が来て、ボイスサンプルを録らせてくれと言われたんです。

そんな風にして1年に1回か半年に1回ぐらいの頻度でナレーションのお仕事が入ってきてたんですが、ある日、アニメのオーディションも受けてみないかと言われたんです。こっちは受かると思ってないんで、「受けられるものはやります」と答えたんですよね。そこで7回目くらいのオーディションの時に受かったのが『ゼーガペイン』というロボットアニメの主人公だったんです。

今でこそ音響制作会社がたくさんあるのは知ってるんですが、当時は音響会社の存在なんて全然知らなくて。今改めて振り返ると、7回のオーディションが全て同じ音響制作会社だったんですよ。

のちほど音響監督さんに聞いたら、1回目のオーディションを受けたときに「なんかコイツ面白い」と思ってもらえたみたいで、僕ともう一人で競ったらしいんです。そこで僕が落ちたんですけど、でも面白かったから次も呼んでみようというところからオーディションの話が続いてたみたいなんですね。

でも「ゼーガペイン」に受かってなかったら、僕はお芝居とか全部やめて実家に帰ろうとしてたタイミングだったんです。

生田:え、そうなんですか。

浅沼:ちょうど劇団も解散して、地元の盛岡に帰って仕事を探そうと思ってたタイミングだったんです。だから今まで何かを目指すといったことはなく、ひょんなことからの連続なんですよね。

よくやりたいことが見つからないっていう若い人がいるじゃないですか。そんな子たちには「大丈夫だよ」って言いたいです。ものすごくやりたいとは思ってないけど、やってもいいかな、というものが来る時がある。それをやりながらも、何か譲れないものが見つかったり見つけたりするのかなって思ってます。

去年初めて、大石昌良さんのMVで監督をやらせていただいたんですけど、齢40にしてやっと映画監督への道が開いたかもっていうこともあるので。

生田:僕自身も音楽や声優の道をずーっと目指していたわけじゃないんですよ。どっちかというと僕は夢が無い人間だったんです。

保育士という仕事をずっと続けるんだろうなって思ってたんですけど、地元の友達が夢を追いかけて県外に出るって話を聞いて、初めて夢を追って外に行くっていうのを身近で実感したんです。

そこで自分を見つめ直した時に、趣味でやってた音楽を「人生一度なら挑戦してみたい」っていう気持ちが出てきたんです。

そこから上京をして、その時はメジャーデビューしたいとか、何かになりたいっていう気持ちはなくて、ひょんなことからPENGUIN RESEARCHというバンドとの出会いがあり、メジャーにいって、さらに声優のお話もいただいて、そこで初めて声優に興味をもったんです。

声優さんってイベントとか結構されるじゃないですか、そういう映像を見ていて「あぁなんだか楽しそうな職業だな」と思っていたところから始まって、いざ自分が表現をしてみるとやっぱり楽しい。

僕はその楽しいっていう気持ちの上に「ひょんなことから」がたくさんくっついて今に至るという感じなので、「どうやったらそんな風になれますか?」って聞かれることもあるんですけど、「人生何があるか分かんないから、やりたいことがあるのならそれを続けるに越したことはないと思うよ」って僕は伝えてますね。

浅沼:なんていうんでしたっけ、デパートとかにあるこう、横にある通路。

生田:連絡通路?

浅沼:そう、連絡通路。僕の中ではそういうイメージです。あっちの道行きたかったのに違うビルに入ってしまった。でもある程度まで上がれば連絡通路で繋がってるというか。

僕も音楽に憧れはあるけれど、どうしても「僕なんかの歌をお金を払って聞いていただくなんて…」という気持ちが強かったんです。「このライブハウスは、音楽を目指してた人がずっと立ちたかった場所なのに、僕なんかが作品の力を借りて立って良いものか」とか。

でもそれも、最近は少しずつ「ありがたい。お邪魔させていただきます」って思うようにしているんです。さっきのMVの話もそうで、この仕事をしていたから、大石さんと出会って、大石さんが舞台を見に来てくれて、「MVを作ってもらったらどうなるんだろう」と思ってもらえたというのがあるので。

だから、もし自分の目指してるものとは違うところに行ってしまっても、それが嫌じゃなければ、連絡通路が見つかるまで続けてみるのもいいかなって思います。

演技は音が大事

生田:僕の演技指導をしている時のエピソードで何か思い出深いものとかあります? こう…珍プレー好プレーみたいな。

浅沼:珍プレーって(笑)。

生田:例えば…僕が演じる台本があって、「これはどうやって演じたらいいんだろう」ってずっと悩んでいると、その答えをあっさり出してくれたんですよ。浅沼さんが「俺だったらこうするよ」って言いながらサラサラっと読んだのを聞いて、「これ、大和だ…ッ!」って。

「オレが徹平(『バンドやろうぜ!』のキャラクター、白雪徹平)を連れてきた」っていうセリフがあって、その「連れてきた」っていう部分がどうしても上手く言えなかったんです。

その「連れてきた」の部分や他のセリフとかも、試しに浅沼さんが読んで下さるものが一発で「はいそれー!」みたいな正解を出して下さるんですよね。

で、「連れてきた」の部分だけ何回も何回もやったので、逆に本番でめちゃめちゃ緊張しちゃって逆に噛むっていう(笑)。

浅沼:例えば「うん」っていう二文字であっても、普通に言うのか語尾をあげて疑問系にするのかでも気持ちの伝わり方が変わってきますよね。

そういうのは僕のやってきた方法論で、音楽をやってる人にはスっと入るんじゃないかなって思ってます。

僕の中で、音楽をやっている人は耳が良いっていうのがあるんですよ。一時期テレビドラマにもボーカリストが多く出演していた時期があったんです。それって俳優さんとは違う表現力の面白さももちろんですけど、耳が良いから演技に関してもすぐアウトプットできるだろう、と考えられていたからでは、と思ってるんです。

小手先って言われちゃうかもしれないですけど、音として教えていくっていうのは心がけてましたし、生田君にも合うんじゃないかなって思ってました。

絵を描く時、自分も苦しい顔になってるときがあるじゃないですか。それと似たような感じで、「そう聞こえる音」を出していくと、表情や気持ちが自然とついてくる時があるんですよ。「音先行」みたいなものですね。

生田:僕、今でも台本に顔描いてます。そのセリフにスっと入れない時は顔を描いて「多分こういう表情なんだろうな」っていうのを確認してます。他にも音程の話だと、僕が全くわからない表現の時は、実際にそれっぽい表現をされているアニメとかを見て、その音の流れ、イントネーションを覚えるようにしています。

「このキャラクターだったらこういう時はこういう困り方をするな」とか、キャラクターによって表情が違うので自分が出したいニュアンスに近い人をセレクトして、その方のニュアンスを取ってくるっていうのは、今結構やってますね。

それも結局アウトプットするのは自分の喉なので、最初はモノマネになってしまってもいいから、今活躍されている方のクセとかを盗んで、最終的に自分のものにしちゃおうって思うようになりました。

浅沼アニメとかだと現場が大変なものも多いですし、表情が全然描かれてない絵コンテに声を入れる時とかもあるんです。

後日、オンエアを見ると「あー…こんなに口開いてたかぁ、もうちょっと叫べば良かったな」っていう反省することもありますね。なので、表情を想像するのは絵があろうが無かろうが大切なことです。

特にゲームやドラマCDとかは絵に合わせてしゃべるものではないですし、一人で録る、というのもけっこうキツいんです。

例えばケンカのシーンを録っていて アニメだと会話する人がマイクの横に立っているので、相手のテンションに合わせて、こちらのテンションも調整できるんですけど、ゲームだとものすごくテンション上げて怒ったら、向こうはそうでもなかったみたいなことが、往々にしてあり得るんですよ。なので想像力ってすごく大事だなって思いますね、この仕事は。

そういったことでいうと、表現を気持ち先行でやる、っていうのは僕はあんまりやらないんですけど、読み取ったり想像したりする時には気持ちというものは大事だなって思いますね。

生田:本当にそうだと思います。

『バンドやろうぜ!』を初めて録った時も自分のセリフだけ読んでいて、自分じゃない他のキャラクターがしゃべってるところも見ておかなきゃダメだよって教えて下さってたんですけど、やっぱり自分だけで必死になっちゃって、「このキャラはどう言うんだろ」っていう風に悩んだ結果なかなかうまくいきませんでした。

それがしばらく経って、ようやくゲームの現場などで読ませてもらう時は前後のキャラクターのセリフを見て「多分コイツだったらこう言うだろうな」っていうのを想像しながら言えるようになってきたので、いまだに昔言って下さったことを現場で思い出します。

浅沼:舞台の演出などをしていて、一番必要なんじゃないかなと思ってるものがあるんです。それは、今自分の出した音やセリフが正解か不正解かどうかは最悪わからなくてもいいけれど、一つ前にやったことと次やったこととの違いがわかるかどうか。

要は「客観視した上で、それを記憶していられるか」っていうことです。芝居に限らず文章もそうだと思うんですけど、なにかしら表現をする仕事は特に、客観視すること、それを覚えていることがとても大事だなって思ってます。

それができていたんですよね、生田君は。

役者の中にも、「それって自分で違う音出てるってわかる?」って聞いたら、あんまりピンときてない方がいるんです。指摘した時に、その人が自分で「あーまたやっちゃったな」って自覚してるのか、「あれ、僕またやってました?」って気づいていないか。この違いってかなり大きいんです。

生田:それは僕ありますね、「あーすいませんまたやっちゃいました」って、よく中断しちゃいます。

浅沼:そう。だから自分を客観視する目がちゃんとあるんだと思いますよ。

生田:少し前にライブで、バンドvsダンスユニットでイベントすることがあって、僕はバンド側で出演して、ダンスユニットと一緒に軽い劇みたいなのをしたことがあったんですよ。

その時に初めてステージ上で体をつかって何かを表現するというのをやったんです。もちろん舞台はやったことがなかったんですけど、すごく難しいと思いました。

例えば声優としてマイクに声をあててる時に「わ!」って言った時に手の軽い動きや表情が入るくらいじゃないですか。

実際にステージで同じような動きをすると、もう本当にこじんまりとしちゃって何も伝わらないんですよ。あと、自分が喋っていない合間は、喋っていなくてもキャラクターは舞台にいて何かしら動いているんですよね。

表現という場で見ると舞台も声も同じなんですけど、やっぱり全く違うなって思いました。

浅沼:一口に舞台と言っても場合によって全然変わります。例えば、小さい劇場で大劇場向けの演技をするととても仰々しく、うるさく見えてしまう。

アニメだとジャンルや絵によって声の抑揚や話し方を変えたりするけど、それと同じように、劇場に合わせて芝居の質や演じ方を変えてもらうのが、僕の演出スタイルだったりします。

生田:それって同じ劇でも劇場や公演場所によって、声色やキャラクター性を変えたりするんですか?

浅沼:声色というか表現の仕方ですね。少し前、比較的客席数の少ない劇場でガッチガチのホラーをやったんです。

僕は普段はコメディを書いてるんですけど、ある制作会社から「とにかく救いのないホラーを書いて欲しい」というオファーがあって。普段そんなホラーはやらないし、面白そうですねってことでやることになったんです。

その時、お客さんがまるで「うわ、見ちゃった!」って思うような、監視カメラの映像を覗き見たような、そんな感覚にしたいなと思って、とにかくリアルさを突き詰めたんです。結果、舞台演技における「常套手段」をどんどん削っていくことにしたんですよ。

お客さんの方に体を向けなきゃいけないとか、喋ってる時はちゃんと相手の方を向くとか。でもそういうのって、普段の生活じゃやらないことも多いじゃないですか。よく知る仲であれば、背中を向けたままだって会話する。あと、よく舞台であるのが、「○○さんいないね」って言うと「あ、今トイレ行ってます」って言いながら、こう指を指す(親指で背後を示すようなアクション)。この動き、普段の会話ではやらないくせに、舞台だとやっちゃう人多いんです。

生田:あ、確かに!

浅沼:僕もたまにやりますけど、それはどちらかというと「観客にトイレがどの方向にあるのかを前もって教えたい」という理由がある時ぐらいです。役者って舞台だと、なにか動かなきゃいけないっていう思い込みがどうしても働いちゃうんですよね。

リアルさを追求するために脚本で意識したところもあって。例えば普段の会話だと「あーごめん!アレ忘れてきた!明日持ってくるわ」って誰かが誰かに話してても、そこで第三者が「え、何忘れたの?」なんてわざわざ聞かないんですよ。

何か借りていたものや約束していたものがあって、それを忘れたんだろうなっていう納得で終わる。

でもこれが舞台だと、ほとんどが「え、何忘れたんですか?」「あー、実はこいつにCD借りててさ」「あー」なんて会話が続いて、ちゃんと完結させるんです。でも、それをあえてやらずに、彼が何を忘れてきたんだかわからないままにする。

そうやって普段している会話の仕方や動きを取り入れることで、舞台特有の非現実感が薄まって、観ている側がやがて、目の前で行われていることが演技なのか演技じゃないのか曖昧に感じてくる。

その物語はラジオ局でのお話だったんですけど、上演中にパーソナリティ役が読むニュースも、その日に実際にあったニュースを読んでたんです。1ステージごと、まったく違うニュースを。

するとお客さんは、「これは今現実に起きてることなんだ」と錯覚しやすくなる。その流れで目の前で怖いことが起こると「見ちゃった!」っていう感覚に陥る。

結局その舞台は1ステージ中に3人くらい途中退席者が出るような怖いものになりました。ちなみに僕の知っている中で最速で退出したのが、まさかの下田麻美っていう(笑)。

生田:なんという…!

浅沼:長くなっちゃいましたけど、舞台だから体を大きく使わなきゃいけないとか、声優だから抑揚をつけた喋り方をしなきゃいけない、いわゆるアニメ声じゃなきゃいけないっていうのが、案外思い込みだったり先入観だったりするんじゃないかなぁって。

僕はオンリーワンな声を持っていないので、30歳から声優デビューした僕には、「あ、これもこの人なんだ」っていうトリッキーな戦い方しかできないなって思ってきたんです。つまり、いかに自分を消すか。

そこには、作品を見てもらってる時には浅沼晋太郎っていうのをあんまり感じて欲しくない、という僕の思いもあるし、エンドロールで初めて「浅沼晋太郎がやってたんだ」って知ってもらうのがサプライズにもなるんじゃないかなと思ってて。そういったところから、なるべくトリッキーで臨機応変な演じ方ができればいいなと思ってます。

生田君がこれからどういう戦い方をしていくのかはわからないですけど、客観視する目がきちんとあるので、見てる人にどう映っているか、どう思ってもらいたいかっていうのが汲みとれる人だとと思うんです。

だからこれからが楽しみですよね。

声優の大変なところ、舞台の大変なところ

生田:浅沼さんの中で舞台と声優現場での演技で意識してる『違い』ってありますか?

浅沼:やっぱり声優って専門職だと思うんです。昔は舞台をやっている方の副業として存在していたと聞きましたが、最近のメディアへの出かたやお仕事の発展の仕方を見ていると、声優という仕事自体が進化してきているんだろうな、と思います。

舞台でする演技と声だけの演技でいうと、もちろん動きのあるなしも大きく違うところなんですけど、生田君に説明した声優だけの文化の話だと、「リアクション」とか「息」って呼ばれるものがあってですね。

生田:あ、覚えてます覚えてます。

浅沼:舞台だと振り返る時に「!(ハッとした時に出る喉の音のような、何か重要なものに気付いた時に出る感嘆のような声)」って言わないんですよね。でもアニメだとこれをまったく入れないと違和感を感じることがある。しかもこれを入れるのはおそらく日本のアニメだけなんです。

アメコミから生まれた映画やアニメだと、振り返りの動きだけで表現してますよね。何かに気付いた時とかに「!」って音で入れるのは日本独自の文化なんだと思うんです。

あと、舞台でもマイクを使うことがあるんですけど、じゃあそれと、マイクの前で声優が演じるのとでは何が違うか。普通はマイクが目の前にあると、顔とマイクの距離間でセリフを出しちゃうんですよ。

でも実際は、相手が崖の上にいたりする。そうすると、声を出す対象は目の前にあるマイクなのに、「おぉーい!」っていう風に、崖の上にいる人に話すテンションと音量で叫ばないといけない。

かと思えば、実際は耳元で寄り添って話しているセリフを、さっき崖の上の相手に話した時と同じマイクの距離感でやらないといけない。マイクを前にして、距離を想像しないといけないんです。これが舞台の演技と違うところだと思います。

もちろん演目やシーン、演出方法によって一概には言えませんけど、舞台だとセリフを伝える対象が実寸の距離で存在しているので、声の出し方、音量をそこまで想像しなくていいんですよね。ところがアフレコとなると、絵だったり、あるいは文字だけだったりするので、自分が喋りかける対象とどのくらいの距離にいるのかをイチから想像しなきゃいけない。

生田:その想像力ってとても大事だなと思っていて、実際にマイクを前に演技するときって、このマイクとの距離で表現しちゃうんです。

感情の起伏なんかもこの距離で表現してしまうので、例えば怒った演技をしてもこの枠組みを出ないというか、もっと怒りたいけど中途半端な距離で終わってしまったり、マイクと自分だけの戦いみたいになっちゃって。

浅沼: 舞台だと、椅子から立ち上がりながら話すセリフはこうやって「…っそういえば(実際に椅子から立ち上がりながら)」って実際に動きながら言えるんですけど、声の演技だと、マイク前から動かずに「…っそういえば」って表現をしなくちゃいけない。

他にも、寝転がって星を見上げながら「あぁ…綺麗だな」っていうセリフも、マイク前で立ったまま、寝転がった状態で声を出したような表現をしなくちゃいけない。それって、そのまま動いちゃえばいい舞台演技に比べてよりテクニカルだと思うんです。

生田:実際に動きながら出る声は自然に出るものですしね。

浅沼:でも、「俳優と声優のどっちがすごい」なんてものはないんです。例えばダンスのシーン。アニメならダンスは絵がやってくれるけど、舞台俳優はそのために本当に体をしぼったり、難しいステップやムーブを習得しなくちゃならない。メイクではどうにもならないレベルでの年齢差、体格差のあるキャラクターは演じることが難しい舞台に対して、アニメなら性別や年齢、体格、身体能力を問わず演じることが出来る。これってやっぱり、似て非なる職業なんだと思います。

趣味が仕事で? 仕事が趣味で?

生田:いろいろな経験をした浅沼さんに、今までの人生の中で感じた大きな壁はあったんですか?

浅沼:んー、「何足かのわらじの両立」かなぁ。

やっぱり自分の好きなことだし、楽しいんですけど、二足のわらじの片方が、もう片方を盛大に引っ張る時も少なくないんです。例えばスケジュールの面。声の仕事ってかなりスケジュールにシビアなので、そのしわ寄せが来てしまう時は壁を感じますね。

生田:そうした複数のわらじを履くことは、最初から決めていたわけではないんですか?

浅沼全然!

生田:じゃあいつごろから、マルチにやっていこうと決めたんですか?

浅沼:いや、マルチにやっていこうなんていまもまったく考えてない(笑)。気がついたらわらじをいくつか引きずってたみたいな(笑)、どのタイミングでどれを置いていこうかなって、ずっとそんな感じです。

生田:例えばあんまり履かないわらじはもう置いていこう、みたいなことは考えたりしないのですか?

浅沼:それはもうしょっちゅう考えます。でも置いていこうと思ったわらじを求められることがあったり、片方のわらじが忙しい時はもう片方のわらじが息抜きになったりすることがあるんですよね。

生田:どこか一方向に進んでいる時に、違う方向から何かがきたらそれが息抜きに、みたいな感じですね。

浅沼:僕はこれといった趣味も無くて、趣味を作ったらそれが絶対に仕事に入りこんできちゃうんです。

生田:あー、わかります、なりそうです。

浅沼:自分が興味を持って調べたことが、そのまま舞台の脚本に…みたいに、全部仕事に直結しちゃうんですよ。なので、自分をゼロにできる趣味を見つけたいなとは思っています。それも壁といえば壁かな。

生田:僕も元々趣味だった音楽が仕事になってるんですけど、好きなゲームをやってる時なんかは自分をからっぽにできますね。でももしそれが、仕事の延長線上とかになってくると、浅沼さんみたいになってくるのかなって思いますね。

浅沼:だから、作っておいた方が良いかもしれないね。自分のリラックススポットみたいなのを。

生田:例えば…カフェ巡りとか?

浅沼:そしたら「カフェ巡りしてるとこ取材させてもらって良いですか?」ってくるよ(笑)。

生田:あーなるほどそっかー(笑)。

浅沼:さらにエプロン姿でラテアートしてるところをグラビアで!みたいな。

生田:ありそうですね(笑)。

カッコよく逃げろ!

浅沼:好きなことを仕事にしてるってうらやましがられたりするけれど、それはそれで弊害もあるんですよね。好きなものこそ仕事にしちゃいけないなんて言葉もあるし。仕事にした結果、それを嫌いになっちゃう人も多いから。

まずは自分が今やっていることを嫌いにならないことが大事ですよね。この仕事って、水商売と言われるくらい、3ヶ月先のこともわからないシビアな世界。神谷浩史さんが「3ヶ月に1回リストラされそうになる仕事なんてそうそうねぇよな」っておっしゃったのがすごく印象に残ってます。

でもそこにいる以上は好きでありたいし、そこを目指してくれる人たちのためにもそうありたい。だから、嫌いにならないこと、楽しいとか好きだとか、そういうポジティブな思いを持ち続けていられるかどうかも、ある意味ひとつの大きな壁なのかなとは思います。

生田:僕は今のところ声のお仕事の方ではそういうのはなくて、現場現場でいろんな発見があって楽しいです。

でも、バンドの最初の頃は歌が嫌いになりかけましたね…。思い通りにいかないことや、「もうダメかもしれない、歌や音楽が嫌いになりそう」っていうのもあったんですけど、そこはわりと根性論で乗り切ったというか…(笑)。

僕は今までいろんなことから逃げてきて、保育士を辞めて上京したのも一種の逃げだったかもしれないって思っていたんです。でも夢を目指してたどりついた先がバンドや音楽であって、ここではどんだけ辛くても逃げたくないって思ったんです。

それを続けてきた結果、「もう俺はダメかもしれない」っていうところから、それでもライブは楽しいし歌うことも楽しいし、やっぱり俺はこれだって思えるようにはなりました。

浅沼:でもね、僕は最近「逃げても良い」って思うんです。つらいことがあった時に、「逃げちゃダメだ」って思うことが美徳とされているけど、僕は「逃げなきゃヤバイと思ったら大いに逃げろ。ただし、カッコよくね」って思うんです。

カッコよければどんだけ逃げても良いと思うんですよ。つまりはルパンです。カッコ悪くなきゃ逃げても良い。例えば学校とか会社とか、友人関係、あるいは結婚生活。みんな何かしらあるかもしれないじゃないですか、この先。

そういう時に、「ここから逃げちゃいけないよな」っていう思い込みが、自分を追いつめて潰れちゃうことって少なくないと思うんです。「逃げるなんて根性がない」と言われてきた僕らの時代とは、社会のシステムも人と人との関係性も、何もかもが変わってるんですもん。だったら、カッコよく逃げれば良いんじゃないのって、年取ってから思います(笑)。

生田:僕の場合はカッコ悪い逃げ方かもしれないんですけど、例えば何か新しいことに挑戦するじゃないですか。

で、わーってひとしきり楽しんで、最初の壁みたいなのにぶつかって自分の成長がダメだなってなったときはすぐに見切りをつける感じで、離れてたんです。

浅沼:妥協って悪いイメージで使われることがあるけど、妥協は思いやりだなって最近よく思いますね。

脚本を書いていても、自分が一番面白いと思ってるものはココなんだけど、きっと伝わりづらいからこう変えようとか、今自分が面白いと思っているコレは深夜向けだから、コレをゴールデンまで引き上げてもっと多くの人が笑えるようにした方が良いな…とか。こういう妥協は思いやりなんだろうなって。

この仕事していると自分を曲げなくちゃいけない場面もいっぱいあるんですよね。こうした表現に関わる仕事は一人じゃやれないし、舞台もアニメも一人では作れないわけですから、その中で、いかに自分を後回しにして周りを思いやれるかって、けっこう大事だなって思います。

でもその思いやりの使い方、自分を曲げるタイミングでこの仕事が嫌いになっちゃ意味がないし…常にそこと闘っていく感じ。…大変だね(笑)。

生田:今、ライターさんがそのカッコよく逃げるというスタイル「浅沼式逃亡法」と名付けたので広めていきましょう。そろそろお時間ですが…あっという間と思うくらい楽しかったです。こんなにお話したのも久しぶりです。ぜひ共演したいです!

浅沼:そう、共演してみたいよね。

生田:僕も現場にいくたびに浅沼さんの名前を探すんですけど、あぁ今日もいないかーって。何かしら接点を探すんですけどなかなか見つからないですね…。

浅沼:そういう場はね、僕らが探してもなかなかアレなので。(偉い人の方を向いて)作ってくださーい!(笑)

インタビューを終えて

生田:昔マンツーマンで教えて頂いていた時は本当に緊張しっぱなしだったんですけど、今日はすごく楽しくいろんなことをきかせていただきました。

僕自信も、あんまり考えが凝り固まらないようにしようって思ってはいるんですけど、きっと僕だけじゃなくて読んで下さってる方も何かしら悩んでいる部分があるとは思うんです。

そんな時に、「こういう考えもあるんだよ」っていう浅沼さんの寛容さや発想の転換を、今日はすごくたくさん教えてもらったなと思います。ぜひ読者の皆さんも、人生に役立てて、そしてカッコよく逃げられるように…。

浅沼:でもまぁ出来るなら、「カッコよく立ち向かう」が一番いいんだけどね(笑)。

生田:じゃあカッコよく立ち向かって下さい(笑)! で、無理なら逃げましょう!

浅沼:では最後に。生田君もいっぱいもらうと思うんですけど、よくお手紙とかに「陰ながら応援してます」とか「ひっそりと応援してます」とか、そういう言葉を書かれる方が多いんです。

そこはね、そんなこと言わずに、それはもう堂々と応援してください。

生田:あ、それ僕も思ってます。「陰ながら応援してます」って言ってくれる人には、陰ながらとは言わず陽から、「遠くから応援してます」というときは近くから!

浅沼:僕たちは表現するという立場にいる以上、どう思われても良いと本人が思っていてもそれは難しく、評価という声はどうしたってついて回るものなんです。

そんな中、僕らが反省材料にするどころか、ただただへこんでしまう評価や声が往々にしてある。今ってそういった声が、本当の数は10であっても、まるで100にも200にもあるように見える時代なんですよね。

マイナスの力って強いじゃないですか。かのアナキン・スカイウォーカーもダークサイドに引っ張られたくらいですもん(笑)。だから、好きだったり応援したいと思う人が押しつぶされちゃう前に、陰ながらではなく、堂々とエールを送ってほしいです。

これは生田君や僕、アニメや声優に限ったことではなくて、みなさんが好きなすべてのものに対してです。好きなものを大きな声で好きって言える世の中が良いですよね。よろしくお願いします。

生田:ありがとうございました!

【PenguinResearch ワンマンライブ情報】
■日時:2017年8月20日(日) open 16:15 / start 17:00
■会場:赤坂BLITZ
■主催:DISK GARAGE
■企画・制作:SACRA MUSIC

オフィシャルサイト先行1次
4/14(金) 19:00 ~ 4/26(水) 23:59 (抽選受付)
※詳細はオフィシャルサイトで


>>PENGUIN RESEARCH オフィシャルサイト
>>PenguinResearch 公式Twitter
>>生田鷹司 Twitter

[文=ヤマダユウス型 編集=長谷憲]

【PENGUIN RESEARCHオリジナル・フルアルバム「敗者復活戦自由形」商品概要】
発売中

■初回生産限定盤(CD+DVD)
品番:SECL-2122^3 / 価格:3,241円+税
[CD収録曲]
1.敗者復活戦自由形
2.噓まみれの街で
3.スーパースター
4.Alternative(PGR Ver.)
5.ジョーカーに宜しく
6.シニバショダンス
7.SUPERCHARGER
8.冀望
9.スポットライト
10.ひとこと
11.ボタン
12.愛すべき悩みたちへ

[DVD収録内容]
1.SUPERCHARGER
2.ジョーカーに宜しく
3.敗北の少年
4.boyhood
5.スポットライト
6.ボタン
7.敗者復活戦自由形
8.BLAST / Alternative performed by PENGUIN RESEARCH

■通常盤(CD) ※CD共通
品番:SECL-2124 / 価格:2,870円+税

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