声優
井上喜久子インタビュー「井上ほの花へのメッセージ」【連載第1回】

「母として、声優として~井上ほの花へのメッセージ~」井上喜久子さんインタビュー【井上喜久子&ほの花連載第1回】

 17才教の教祖さまこと井上喜久子さんの娘が18才になり、歳が追い抜かれたという「おいおい」な話題が巷を駆け抜けてから、気がつけばもう1年以上。
 その娘・井上ほの花さんはデビュー1年にして、ゲームの主題歌やヒロイン役を次々に射止め、ファーストアルバム『ファースト・フライト』も発売するなど、歌手・声優として確実に活躍し始めています。

 プライベートでは音楽大学に進学し、キャンパスライフを満喫しているほの花さん。歌手・声優という仕事も始めたことで、とりあえず喜久子さんの「子育て」も一区切りついた感があります。

 そこで今回は井上喜久子さんに、母としての視点と、声優の先輩としての視点から井上ほの花さんについて語っていただきつつ、子育て奮闘記からベテラン声優の貴重な演技アドバイス、声優の心得までを指南! 数々のイベントでみんなを笑顔にしてきた声優・井上喜久子さんは、母としてもなにより笑顔を大切にする人でした。

 井上母娘にお互いへの想いなどを語っていただく連載企画。第1回目は井上喜久子さんから井上ほの花さんへのメッセージです。

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●井上喜久子(いのうえ きくこ)
9月25日生まれ。神奈川県出身。主な出演作は『らんま1/2』天道かすみ役、『ああっ女神さまっ』ベルダンディー役、『しましまとらのしまじろう』しまじろうのおかあさん役、『ふしぎの海のナディア』エレクトラ役、『おねがい☆ティーチャー』風見みずほ役、『サクラ大戦3』ロベリア・カルリーニ役、『魔法少女育成計画』カラミティ・メアリ役、『METAL GEAR SOLID』ザ・ボス、ローズマリー役ほか。オフィスアネモネ所属。

声優・井上ほの花のデビュー1年目を振り返って
――歌手および声優の活動を始めて丸1年が経った井上ほの花さんですが、現状はかなり順調ではないかと思います。まずは事務所の声優先輩として、ほの花さんの活躍はいかがですか?

 営業的なこともまだ始めていないんですよ。「もうちょっと勉強したら、みなさんにご挨拶に行かなきゃね」なんて言っている間に、ありがたいことに「こういうお仕事はどうですか?」とか、「ボイスサンプル聴きました」とか、いろんな形でお声をかけていただけたんです。生まれたばかりのひよっこちゃんなのに、こんなに恵まれ過ぎて、正直うれしい気持ち半分と、大丈夫かしらという不安と半々ですね。

――今のところ仕事ぶりを見ていて、危いなと感じた時はありましたか?

 娘がやる仕事はどうしても気になって、おうちで見たり、いっしょに練習したりしてしまうんですけど、妙に度胸がいいんですよね。あと、声が大きい。わりとはっきり表現をするし、変なクセがついていないから、「そこはもっと気持ち的にこうじゃない?」ってひとつアドバイスをすると、すぐ変えてくるんですね。

 よく新人さんにアドバイスをするときにあるんですけど。新人さんが新人さんなりに突き詰めて、すごく練習をし過ぎると、「もっとこうじゃない?」って言っても「わかりました!」とは言うものの、表現ってなかなか変わらないんですよ。ところが、娘の場合はまっさらというか、生まれたままの原石みたいな状態なので、言うことも素直に聞いてくれるし、ウワーッて早口でしゃべるセリフなんて「くやしい、私よりうまくしゃべれてる!」みたいなときがたまにあって(笑)。

 私はどっちかというと、本来は滑舌とかもしどろもどろなタイプなんですよ。お友達と話しているときは本当に舌足らずで、「よくきっこが声優になれたよね。信じられない」って昔からのお友達には言われているくらいなんです。ただ、お仕事のときにはスイッチが入るっていう感じで。ちゃんとプロとしてのしゃべりをしなきゃと思って、台本にもいっぱい書き込んで、たとえば1行のセリフの中にいろんなマークを付けて、セリフを整えるときがあるんです。でも娘はどちらかというと、変な小細工をしないというか、ハートの芯のところで捉えてバーンと表現して、「……いいかもしれない」みたいな(笑)。

 もちろんダメなところもいっぱいあるし、心配になるところもあるけど、本番前には「うん、大丈夫! いってらっしゃい!」って送り出せるところまで行けてるかな。

――それは天性なんですか?

 いやぁそれはまだわからなくて。もしかしたら、まだ怖いもの知らずみたいなところかも。たとえば新人さんが最初に経験する、信じられないくらいの緊張感。右も左もわからない、知っている人は誰もいない、自分のことは誰も知らない、緊張してしゃべれるものもしゃべれない、みたいな中でひと言ふた言しゃべるのを、「ああ、井上さんとこの娘さん」みたいな、ちょっとあったかいところでやらせていただけているだけであって、天性のものかどうかは……。

 あっ、ひとつ天性だなと思うのは、声量があるんですね。いっしょにカラオケに行くと、同じ音量のマイクで「ライオン」とかを歌っていても、ぜんっぜん声の大きさが違うんです。そうすると私が途中で「ほっちゃんマイク換えて!」って(笑)。マイクのせいだと思いたいわけですよ。でもやっぱり娘のほうが声が大きいから、「うぅ~、ちょっとくやしい!」みたいなことがありますね(笑)。

――声優がなりたての頃に、必ずやってしまう失敗談みたいなものはあるんですか?

 さっき言ったことに近いんですけど、ひとつのセリフを練習し過ぎると、「ここの語尾を変えてください」とか「“は”を“が”に変えてください」とか指示を出されたときに、もう口が記憶しているからなかなか直らなくて、しゃべれなくなっちゃうことがあるんですよ。「ああ、かわいそうに。きっと練習し過ぎちゃったんだな」って私なんかはわかるけど、ディレクターさんに「困ったなぁ」みたいに言われちゃったりとか。

 だから真面目すぎるのも良くない場合があるんですよ。私はセリフは8割くらいで作って、2割くらいは余白を残しておくんです。相手がどう来るかによってもセリフの表現って違ってくるから、「自分はこうしゃべろう」って完璧に決めちゃうと、がんじがらめになって変えられなくなるんですよ。なのでその辺は娘にも注意しています。「完璧にし過ぎると、逆に自由な表現ができないよ」って。

――喜久子さんも、セリフを言えない状態にハマってしまったことはありますか?

 声優になって10年目くらいかな。だいぶ慣れだした頃に、トチりやすくなったんです。おうちでは言えて、テストでも言えるのに、本番でトチるっていう時期があったんですよ。緊張すればするほど、「またトチるんじゃないか」と思ってトチるっていう暗黒の時代に、半年か1年くらいハマってしまって、どうやって乗り越えればいいのかもわからなくなってしまったんです。

 でもあるときに「これって精神的なものだ」と思って、自分でメンタルトレーニングというか、「きっと大丈夫!」って自分を信じるようにしたんですよ。それまでは、しゃべっている途中で「私、もうそろそろトチるんじゃないか」っていう感情が出てきて、そうすると必ずトチっていたんです。そのことに気づいて、「テストでしゃべれなくても、なぜか私は本番でうまく行く!」っていう考え方をするようになってから、本当にそうなりました。

 ときどきスタジオで「俺ってテストが一番いいんだよね」って言ってる人がいるんですよ。その人は「テストが一番いい自分」にしちゃってるんですよね。だから私は「なぜか本番で一番いい表現ができる」って思うようにしています。

――それを踏まえて、ほの花さんへのアドバイスはありますか?

 やっぱり素直でいることかな。どのお仕事でもそうだと思うんですけど、アドバイスを本当に受け留められる人と、「あっ、わかりました!」って口では言っても話半分で聞いてしまう人がいるわけですよ。素直って簡単なようで、なかなかできない人もいるんですね。

 つまづいたって転んだって、間違えたって失敗したって、それを糧に成長すればいいんだから。うまく行かないときには先輩からのアドバイスとか、ディレクターさんから言っていただくこととかあると思うけど、それを素直に受け留めて、少しずつでいいから成長できればいいんじゃないかなと思います。

 
娘・ほの花の19年を振り返って
――元々は、ほの花さんには将来、何になってほしいというような要望はあったのでしょうか?

 いや、特にないんですよ。どんな生き方をしてもいいから、とにかくいつも笑顔でいてくれたらいいなっていうだけで。私はたまたま声優というお仕事に就いて、こうして笑顔で人生を送れることがしあわせだなって思うけど、自分がやりたいと思うことをやれたらいいんじゃないかなって。特にこうっていうのはなかったかな。

――芸能の道に進みたいと言われた時は、いかがでしたか?

 娘が幼いときは、どちらかというと文系ではなくて、理数系に強かったんですよ。私は算数なんて、九九の七の段が未だに苦手っていうくらいダメで、小学生のころの将来の夢は総理大臣になって算数をなくしたいと思っていたくらいだから、娘に関しては全然違うなと思ったの。ところが年令が上がっていくに従って、似てきたというか、文系な感じになってきたんですよ。

 私は声優って、本を読んで理解して表現するお仕事だから、どちらかといえば文系が得意なほうが向いてるんじゃないかなっていう思い込みがあって。もちろん理系も文系もできるみたいな人もいっぱいいますけど、自分が文系だったから、娘はこの世界とは違うところに行くのかなってなんとなく思っていたんですよ。でも、やっぱりいつの間にかこっちに来ちゃいましたね(笑)。

 最初に声優になりたいって言われたときは正直、「ひゃ~っ、どうしよう!?」って思いました。こっちの世界に来そうな予感も、ずーっとなかったんですよ。高校1年くらいまではなかったかな。ただ、とにかく歌うのが好きで、朝起きたらまず歌って、夜眠るまで歌ってるくらいなんですよ。ボイストレーニングしたいっていうのも、「高校入学できたらしようね」って約束して、実際に高校入学してからボイトレに通い始めたんです。

 歌の仕事に関しては、私が歌のアルバムを何枚も出させていただいて、自分で作詞作曲もしていたから、娘も作詞作曲をして歌が歌えたら、それは素敵なんじゃないかなって思っていたんですよ。ただ声優に関しては、今の時代は私が声優になった頃とは比べ物にならないくらいたくさんの人がなりたいと思っていて、それでもなかなかチャンスがない現状を見てるから、「大変な世界だけど大丈夫かな……」っていう心配はものすごーっくありました。

 でも、歌をやりたい、声優になりたいっていう気持ちがふくらんでいくのは止められなかったし、止めるものでもないし。人生一度きりなんだから、やるなら応援してあげたいなって思いました。

――ほの花さんは本当に素直に育ったと思いますが、これまで困らされたことはあるのでしょうか?

 びっくりするほど毎日毎日、学校であったことを私にしゃべってくれるんですよ。それも1時間どころじゃないんです。最初は楽しいんだけど、聞いてるうちにくたくたになって、ちょっとつらいって(笑)。仕事でボロボロのときも延々としゃべってくれるから、ちょっと困ったなって思うときがあるけど、困ったっていってもやっぱりうれしいんですよ。なんでも話してくれることがね。

 でも一番困ったのが、お友達どうしの悩みとかなんですよ。「なんとかちゃんとなんとかちゃんがケンカしてて、間にはさまれた私はどうしたらいいの!?」みたいな話をされても、解決できないじゃないですか。「ママだったらその状況は……ああっどうしよう、わかんない!」みたいになっちゃって。

 若いときには越えられない悩みでも、年令を重ねていくと解決法が増えてきて、乗り越える術をいっぱい持てるようになるから、どんどんしあわせになっていくっていうのが持論なんですけど、いくつになってもアドバイスのできない悩みってあるよねっていうのを娘の話から痛感させられました。

――育て方を間違ったかなと思ったことは?

 あははっ! 自分としては本当に親馬鹿だと思うんですけど、もうかわいくてしょうがないから、ちょっとだけ過保護というか。たとえば宿題で作文が書けないとかいうと、「ママが考えてあげる!」とかいって書いたりとかをときどきやっていたんですよ(笑)。どうしても突き放すのが苦手で、でもそうやっていると、いつの間にか自分の力でできるようになってくるのが不思議でしたね。

 正しい子育てをしているお母さんみたいには、私は立派に育てられていないっていうのは自覚しているんですよ。お仕事を理由にしてはいけないんですけど、本当にいっぱいいっぱいだったから。だから、きっとどこかに間違ってたことがあるんでしょうね。ただ、とてもありがたいことに、私の義母と母がおばあちゃんとして娘のことをとても良く面倒見てくれて……。そのことが娘にとっては良かったことなんじゃないかな?

――最後に、母としてここまで育ってくれた娘にひと言と、声優としてこれから育っていく後輩にひと言をお願いします。

 育ってくれた娘に関しては、元気にこの年令まで育ってくれたことが本当にうれしいんですよ。「もう、ほっちゃん!」って困らされるときがあったとしても、元気だったらもうそれだけで、ありがとうって思うんです。

 後輩にひと言は、これはいつも言っていることなんですけど、周りのみなさんに感謝しながら努力を怠らないで、笑顔でがんばってねって言いたいですね。

[インタビュー・文/設楽英一 撮影/Re-Zi]

>>井上喜久子 オフィシャルサイト @manbow
>>オフィスアネモネ

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