映画
アニメ『SAO』伊藤監督&足立氏の授業から知るアニメ制作の現場

アニメ『ソードアート・オンライン』シリーズの中心人物!監督・伊藤智彦さん&キャラクターデザイン・足立慎吾さんの授業から知るアニメ制作の現場とは!?

 ソニーミュージックが実践的なアニメづくりを学べる場として主催した、【アニセミ: anisemi】。この企画は、今もアニメ業界の最前線を行く制作スタッフを講師としてお招きし、将来アニメに関わる仕事をしたいと考えている人のための授業を行うもの。

 先日、2017年5月20日(土)とその翌週である27日(土)の二週にわたって開催され、講師として『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』ほかアニメ『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』。原作/川原 礫(電撃文庫刊))シリーズの中心人物である伊藤智彦監督と、キャラクターデザイン・総作画監督足立慎吾氏が授業を行いました。

 アニメイトタイムズでは第2回目の授業にお邪魔することができたので、その模様をお届けします。実際に現場で使われた資料を用いての授業だけあり、将来アニメを仕事にしたい人だけでなく、『SAO』のファンだという人も必見の授業内容となっていました!!

絵コンテを書く上での考え方
 午前中は伊藤監督の「アニメ監督の仕事術」の授業。まずは、前回の授業の宿題である『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の冒頭シーンの脚本を読んで、実際に絵コンテを書く課題の講評からスタートしました。提出した人全員の絵コンテを伊藤監督が添削したそうで、授業は伊藤監督が特に気になった二名の絵コンテを使いつつ進行していきました。

 なかにはアスナ(CV:戸松遥)の視点で進行するため、アスナが画面上に登場しないという挑戦的な試みをしているものもありました。こういった生徒さんたちの考え方を踏まえて監督自身の書いた絵コンテを紹介する一幕では、伊藤監督がどのような意図をもって映画冒頭のキャラクターたちを見せようとしていたのかを語ってくれました。絵コンテはアニメの設計図と言えるものなので、プロの視点でキャラクターたちの見せ方を教えてもらえるというのは、大変貴重な体験です。

 この後は、伊藤監督がどうやってアニメの監督になったのかが明らかに! 後に『時をかける少女』や『サマーウォーズ』で助監督を務めることになるマッドハウスで、制作進行(※)からキャリアをスタートさせた伊藤監督は、その後浦沢直樹さんの漫画を原作とするアニメ『MONSTER』で、演出としての仕事を始めたそうです。

 現在、監督として仕事をするにあたって、制作進行を経験したことは糧になっているそうで、進行をやったからこそアニメ制作における各部署の工程がわかると述べていました。

(※)アニメの制作をスムーズに進行させるための役職。ほぼすべての工程に関わるので過酷だと言われている。

スタッフロールを見るだけではわからない、各部署の作業内容が明らかに!
『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のスタッフロールで各工程を解説していく場面では、普通にアニメを見ているだけでは知ることのできない各工程の作業が判明!

 アニメ『SAO』に登場するゲーム作品のアイコンや、デジタル上のツールを担当する2Dワークス。背景の上手い人たちが集まったレイアウト監修などなど、各スタッフさんたちがどのようなお仕事をしているのかを通して、アニメにもいろいろな関わり方があることが明らかになりました。音響スタッフ陣との打ち合わせの話題では、ユナ(CV:神田沙也加)の楽曲についての裏話も。

 続いての「OKカットをリテイクカットに」のセクションでは、劇場で流れたOKカットとリテイクを重ねたカットを比較し、どこが変わったのかを生徒さんたちに答えてもらうクイズコーナーも!

 オーディナル・スケールでのアスナの衣装に入っているラインの色が違う、喫茶店でのアイスコーヒーの透明度が変わったなどの一目でわかるものから、言われなくてはわからないものまで、スタッフさんたちのこだわりが隅々まで行き届いていることがわかるセクションでした。

 最後の「これからのために」というセクションで、監督が趣味で撮影した写真が作品のために生かされているという話が出てきました。なんでもこういった自分の体験を作品に取り入れているそうで、映画や本など他人がいいと思ったものを何も考えずに一度やってみることも大切になってくるのだとか。

足立氏のスタート地点を、当時の体験を併せてお届け!
 午後の部では、足立氏のプロフィール紹介から幕を開けました。氏と言えば『SAO』以外にも、ファミレスバイトコメディの『WORKING!!』のキャラクターデザインでもお馴染み。ただ、キャリアはそれよりも前の『機動戦艦ナデシコ』(※1)や『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』(※2)の動画(※3)からスタートしたのだとか。

 その後は制作当時のエピソードを交えつつ、2006年放送のTVアニメ『流星のロックマン』(※4)で作画監督(※5)としてデビューしたことを明かすと、それ以前にどうやってアニメーターという仕事に就いたのかという話題へ移ります。

(※1)1996年放送のロボットアニメ。民間企業であるネルガル重工の開発した戦艦・ナデシコのクルーたちによるラブコメや、SF要素を多分に含んだ作品。
(※2)かつて男の子たちの間で一世を風靡したホビー・ミニ四駆を題材としたアニメ作品で、1996年から1998年にかけて放送された。
(※3)アニメーションの原画と原画の間に入る動きの部分の絵を描く役職。中割のこと。
(※4)カプコンより発売されたゲームソフトを原作とするTVアニメ。日本国内で映像ソフト化されておらず、現在視聴することが難しい状況。
(※5)アニメ制作において、自身が担当する話数の絵柄を統一する役職。

 なんでも中学3年生の頃から絵を描き始め、大阪芸術大学に進学。在学中に学園祭で描いたイラストを見た先輩の家に連れていかれた際に、様々なアニメを見せてもらったことがアニメーターを意識するキッカケになったそうです。

 前提となる情報の開示が終わると、次はキャラクターデザインの仕事が一体どういうものなのかを明かしていきました。足立氏は『SAO』のようにアニメとは別の媒体に原作がある作品においては、キャラクターの衣装や体型など、キャラクターを描く上での設計図になるものを作る役割だと話りました。

 原作イラストレーター・abecさんの原案と、それを受けて足立氏自身がデザインしたユナの設定画を比較しつつ進んだ場面は、実際に比べて見られるだけあって、どこが変わったのかが一目瞭然!

 TVシリーズ時の設定画を出しつつ、≪アインクラッド≫編や≪フェアリィ・ダンス≫編などの区切りのいい章ごとにデザインを切り替えていたことが話題に上ると、私服デザインなども足立氏が主に行っていることがわかりました。なかでも、≪アルヴヘイム・オンライン≫時のアスナのデザインが一番苦労したのだとか。

キービジュアルにはある秘密が……!?
 続いてキービジュアルの重要性の話に入ると、ティザービジュアルや劇場でも見覚えのあるアスナが大きく描かれた第4弾ビジュアルが、現実とARの対比をコンセプトとしていたことがわかりました。

 前回の課題となっていた“重いものを持っている人物”のイラスト講評では、足立氏がひとりひとりの課題にその場で修正を加えていき、イラストは瞬く間に真っ赤に! 生徒さんたちに共通してのアドバイスになっていたのは、地面と人物の接地面を考えることと、力の入っている位置と背骨の感覚を意識することで、氏の修正を見るとその点が反映されていることが伺えました。

 ラストの「僕が考えるアニメーターという仕事の真実」のセクションでは、他人から要求された絵を描くことが増えるにしたがって、「描きたくなくても描かなくてはいけないことを最初に覚えることになる」など、ためになる話がいくつも飛び出します。

 また、アニメの仕事は絵を描く人にとっては汎用性の高い仕事だそうで、道場みたいなモノだとも。アニメ業界を上手に使って仕事にしていくことが重要になりそうです。

 貴重な体験ができる今回の試みですが、今後もこういった機会があることかと思います。ぜひその際には、みなさんも参加してみてはいかがでしょうか?

[取材・文・写真/胃の上心臓]

>>【アニセミ: anisemi】公式ツイッター(@ani_semi)



拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ガンダムシリーズをはじめとするロボットアニメやTYPE-MOONを主に追いかけている。そして、10代からゲームセンター通いを続ける「機動戦士ガンダム vs.シリーズ」おじ勢。 ライトノベル原作や美少女ゲーム、格闘ゲームなども大好物。最近だと『ダイの大冒険』、『うたわれるもの』、劇場版『G-レコ』、劇場版『ピンドラ』がイチオシです。

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胃の上心臓
拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ロボットアニメ作品やTYPE-MOONの作品を主に追いかけている。

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