三次審査直前豊洲ダイスケと中野タツヤの出会いとは？――ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第13回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

前回から引き続き、劇団アルタイルオーディションの様子をお届けします。今回は三次審査の直前に起きた、豊洲ダイスケと中野タツヤの出会いを中心に描きます。

劇団アルタイル『未来への一歩』
【あらすじ】
家族に応援されて、劇団アルタイルのオーディションに臨んだ豊洲ダイスケ。そんな彼が三次審査で出会ったのは、不思議な雰囲気をまとうマイペース少年・中野タツヤだった。

【ストーリー】
「ここまで見送りありがとう。それじゃ、行ってきます」
　はしゃぐ妹たちに笑顔でちいさく手を振り、豊洲ダイスケは駅の改札を出た。

　お兄ちゃんなら絶対受かるよ、とツキプロファンの妹に背中を押されて応募した劇団アルタイルのオーディションも、早いもので三次選考だ。
　最初のうちこそ、記念受験のような気分もあった。けれど、自分のことのように喜ぶ妹の顔を見ていたら、どんどんと欲が出てきた。
（タレントになって、たくさんの人を元気にしたい）
　誰かを支える仕事がしたい——漠然としていた夢の輪郭が、急にくっきりとした。
　なにより、家族みんなが「ダイスケならできる」と、オーディションを応援してくれている。それが、本当に嬉しい。
（ここまで来たんだ、絶対に受かりたいな）

　足取りも軽く、ツキノ芸能プロダクションまで辿り着いた。オーディションまでは、まだ時間に余裕がある。
「ええと、オーディションの会場は……」
　三次選考の概要が書かれた紙を見ながら、ロビーを見回した。そのときだった。
「うわっ……とと！」
　足許になにかが当たり、つまづいた。危うく転びそうになるのをどうにか堪えて、後ろを振り返ると——。
「……足？」
　廊下の角から、長い足が突き出ている。どうやら、あの足につまづいたらしい。
（でも、なんであんなところから、足……？）
　そこまで考えて、ハッとする。
（人が……倒れてる！？）
　慌てて駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか！？」
　声をかけると、廊下の隅に座り込んでいた人が、気怠げに顔を上げた。
（あ……）
　目が、合った。
　あおのいて、こちらをじっと見つめている。色素の淡い目。すっと通った目鼻立ち、しなやかな体つき。
（猫みたいだ）
　そう思って、しゃがんだ。
　目線が同じ高さになるように。
「怪我はない？」
　すると、しばらく黙ってこちらを見ていた彼が、突然まばたいて、
「あー……うん」
　見た目から想像したよりずっと柔らかな声でそう言い、わずかに首を傾げてから、続けた。
「そっちも、ごめん」
「？　えっと……？」
「俺の足。邪魔で」
「ああ、全然。俺は大丈夫だよ」
　ぽつぽつと漏れる短い言葉が、こちらを気遣ってくれているものだとわかって、思わず笑みがこぼれた。
「ここでなにをしてたの？」
「座ってた」
　真面目な顔でそう言って黙り込み、二、三度まばたいたあと、
「立ってるの、疲れたから」
　真面目な顔のまま、そう続けた。
「そっか。向こうにソファあったけど、ここのほうが好き？」
「うん。固いし、冷たいしね」
　神妙な顔で頷く。
（なんていうか……すごく変わった人だな）
　テンポは独特だけど、こちらの聞いたことに、ちゃんと答えようとしてくれているので、悪い人間ではないと思う。

「あっ……タツヤくん！」
　駆け寄る足音がして、頭の上から慌てた声が降ってきた。
「よ、よかった〜……急にいなくなっちゃうから、心配したよ〜。そろそろオーディション会場へ行かないと」
　すると、彼は「イツキくん」と呟いて、頷いた。
（あ……そうか）
　目が離せない、独特の雰囲気。彼もオーディションを受けに来たひとりなのだ。
（しかも、イツキって……永田イツキさん）
　劇団アルタイルに所属しているタレント——先輩になるかもしれない人だ。
「あの、すみません。俺が、彼の足につまづいてしまって。余計な時間を取らせてしまいました」
　慌てて立ち上がると、イツキさんは「わ……背が高いんですね！」と目をまん丸くした。
「もしかして、オーディションに来た方ですか？」
「はい。豊洲ダイスケといいます」
　そう答えてタツヤを見ると、また、目が合う。
「よかったら俺と一緒に会場まで行こう。タツヤ」
　思い切って、手を差し出してみた。
　けれど、タツヤは手を取らず、ひとりでふわりと立ち上がる。
（いきなり懐いてはくれないか）
　苦笑いしていると、急に軽く袖を掴まれた。
「イツキくん。俺、行くね。ダイスケと一緒に、オーディション」
　ハッキリとそう言い、タツヤは俺の袖を掴んだまま、歩き出す。
「え、タツヤ——」
「会場、こっち」
　引っ張られるまま、肩越しに振り返ると「ふたりとも、がんばって！」とイツキさんの声援と笑顔が飛んできた。
　未来の先輩と未来の同期生が、目の前にいる。
　手を伸ばして、掴んで、引き寄せられる場所に。
（——よし）
　もう、ちっとも、夢なんかじゃない。