アメコミ界の巨匠・ライアン・ベンジャミン氏にインタビュー! 『ワンダーウーマン』『バットマン』を描く自身のルーツを語る!
日本テレビにて開催されている「超汐留パラダイス-2017」内に、2017年8月25日公開の映画『ワンダーウーマン』の特設ブースが出展中です!
『ワンダーウーマン』とは、DCコミックスが生んだ女性ヒーロー作品です。女性しかいない島でプリンセスとして育った主人公・ダイアナは、ある日不時着した男性から外の世界の話を聞きます。そして、外の世界と男性という存在を知ったダイアナは、自分の力で世界を救うことを決意し、生まれ育った故郷を飛び出すという物語です。
8月16日、そんな『ワンダーウーマン』の特設ブースに、DCコミックで数々の人気タイトルを描き、映画『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン像にも影響を与えたアメコミ界の巨匠・ライアン・ベンジャミン(Ryan Benjamin)さんが登場! ブース内でライブペインティングを行いました!
本稿では、そのイベントの模様と、ライアン・ベンジャミン氏のインタビューをお届けします!
1994年、アメコミ界の巨匠ジム・リー主宰のワイルドストームスタジオよりデビュー。
2010年には人気カートゥーン「バットマン ビヨンド」のコミカライズ作品に参加し、コミックファンからだけでなくテレビシリーズのファンを含む多くの反響を得ることとなった。
近年ではDCコミックスでのプロジェクトはマーチャンダイズ用のキャラクターアートの提供が主な担当となった。
ライアンさんがスタッフと共に登場すると、彼のファンだけでなく、通りかかった人たちまで「なんだ、なんだ?」と言った様子でブース前に集まってきます。
今回行われるイベントはライブペインティング。
観客が見つめる中、ライアンさんが白紙の状態から『ワンダーウーマン』のイラストを描くという企画です。
プロがイラストを描く姿というものは、なかなか見れるものではありません。
集まったギャラリーからは、早くも期待が高まっているのを感じます。
早速ライアンさんは真っ白な紙にペンを走らせます。
まず赤いペンを使って描き始めたのは、顔の芯や輪郭となる部分。
まだこの段階では、ワンダーウーマンの勇ましく美しい表情は見えてきません。
ある程度の輪郭を描き終えると、続いてライアンさんが取り出したのはペン……ではなく、なんとティッシュペーパー!
そのティッシュペーパーに墨を付けると、少しずつ白い部分を灰色に彩っていきます。
この以外な手法に、彼の作業を初めて見るギャラリーは驚きを隠せません。
ティッシュを使って緩やかな髪の毛を演出すると、次は自身の指を使って色を伸ばしながら、徐々に紙の上で明暗を表現していきます。
髪の毛が描かれ始めると、徐々にワンダーウーマンの面影が見えてきました。
ワンダーウーマンの特徴である、美しい瞳、真っ直ぐな剣、神々しい冠が、次々にイラストに加えられていきます。
ここでも、紙の切れ端を使って細い線を描くという、ライアンさんの常識に囚われないテクニックが際立ちます。
輪郭がはっきりしてくると、そこには強さと美しさを兼ね備えたワンダーウーマンの姿が!
ついに完成です!
序盤にティッシュペーパーを使った髪の毛の部分が、奥行きと躍動感を上手く表現しており、約1時間で書き終えたとは思えない深みのある作品に仕上がりました。
ライアン・ベンジャミン氏、漫画家としてのルーツを語る!
ライブペインティング終了後、ライアンさんにインタビューを実施! 自身のコミック・ブック・アーティストとしてのルーツや、イベントで行った独特な描き方について語ってくれました。
――今回のライブペインティングの感想をお聞かせください。
ライアン・ベンジャミンさん(以下、ライアン):とても楽しかったよ。でも、僕は完璧主義者なところがあるので、もう1時間半〜2時間くらいは作業時間が欲しいのが本音だね。
だいたい作業を続けたら5分くらい休憩して、また作業するのが僕のやり方なんだけど、それができなかったのが心残り。
でも、そのやり方は大きなものを作るときであって、小さいものであれば目隠しをしても描けるよ。
――白いキャンバスに絵を描かれる場合は、最初から完成形がイメージされているんでしょうか?
ライアン:もちろん、それは頭で見えているよ。
真っ白なキャンバスを見たら、そこには既に完成形が存在していて、後はそれを引き出す作業をする感じだね。
――ということは、毎回絵を描くときにテーマが見えていて、そこに近づけていくということでしょうか?
ライアン:そうだね。白と黒、光と闇、そういったものからテーマが見えてくる感じだよ。場合によっては、色彩も考えたりすることもあるね。
――ライブペインティングを見て驚きましたが、ペン以外にもティッシュ、手など、様々なモノを使うんですね。
ライアン:描くときには何でも使えるからね。これは僕が高校生のとき、美術の先生から教えてもらったやり方だよ。
先生からは色々なことを教わったんだけど、その中の1つが“周りのものを使ってクリエイティブに作業する”ということなんだ。
――ライアンさん描く人体は構造がすごい綺麗ですが、それも先生の影響なんでしょうか?
ライアン:それはどちらかと言うと、姉妹かな。僕は、姉から人体の構造について教わったんだ。
あとは『HE-MAN(ヒーマン)』(註1)という作品があって、そのフィギュアを見て学んだりもしたね。
小さい頃からおもちゃを描こうと思って、絵を学んでいたんだ。コミックを描き始めてからは、漫画家のジム・リー氏が、よりコミックススタイルに寄せる方法を見せてくれたよ。
(註1)アメリカで大ヒットしたフィギュア系の玩具シリーズ。大ヒットし、後にコミック化、アニメ化、実写映画化もされた。同時期、日本では『機動戦士ガンダム』が大きなムーブメントを起こしていた。
――ライアンさんの絵を描くスピードにも驚かされました。
ライアン:絵について尋ねられたとき、みんなに良く言うのは「あんまり考えすぎないこと」だね。感じることが大切なんだ。
その感覚を説明するならば、アートに対する真摯な愛情、人体構造への理解、完成作品がどのようなものになるのかというヴィジョンとか。
それらから来る感覚を意識して線を引いているんだよ。
――Twitterなどでは常に絵を描いている印象がありますが、その原動力となっているのは何でしょうか?
ライアン:それはいっぱいあるね。1つ挙げるなら、アートに対する純粋な愛情かな。
もし僕がアメリカの大統領なったとしても、ミーティング中に絵を描いたりすると思うよ(笑)。あとは、人の役に立ちたいから。
絵を描いているときは、色々なスタイルを作り上げたり、1つの技として磨き上げたり、それを引き継いでもらえるようなものを目指しているよ。
僕は純粋にクリエイションが大好きだからね。多分90歳になったとしても常に絵を描いていると思うよ。
ベンジャミン氏から見える、日本と日本人
――ライアンさんに影響を与えた日本のアーティストはいるのでしょうか?
ライアン:最近だと、箕輪豊さん(註2)。彼は優れたアーティストだし、彼の作品はよく研究しているよ。
日本のアニメに最初に触れたのは『AKIRA』だね。そこから『吸血鬼ハンターD』。それから『BLOOD THE LAST VAMPIRE(ブラッド ザ ラスト ヴァンパイア)』『Robotech(ロボテック)シリーズ(註3)』『ストレンヂア 無皇刃譚』を見たとき「日本のアーティストってすごいことやっているんだな」と思ったよ。
註2:アニメーター。現在放送中のアメコミ作品『フューチャーアベンジャーズ』にも参加。
註3:日本製アニメの『超時空要塞マクロス』、『超時空騎団サザンクロス』、『機甲創世記モスピーダ』を、ひとつの作品として、再編集した海外向けアニメ。
――今回のジャパンツアーで東京、名古屋、大阪を訪れてみて、日本のファンの反応はどうでしたか?
ライアン:アメリカでもファンの方にお会いしているけど、あちらではすごく感情を素直に表現してくれるんだ。でも、日本の場合はちょっと違うんだよね。
日本のファンはすごい紳士で、アメリカよりも深い愛を持っているんだ。だから、初めて日本のファンと会ったときは、どうしていいのかわからなかったよ。
――そういったところでも日本と海外の違いが現れるんですね。
ライアン:でも、4年くらいそれを経験している中で、日本のファンに会えるのが嬉しく思うようになったんだ。
日本に来るたびに新しいファンに会って、応援してますと言ってもらえるのは最高なことだと思うから、これからもファンとの交流を続けていきたいと思うよ。
――今回のジャパンツアーで、約50万人が訪れるコミケ(コミックマーケット)に参加したことは、特別な体験になったのではないかと思います。
ライアン:コミケに初めて経験したのは数年前だったんだ。
それまでは7万〜9万5000人の人が訪れるサンディエゴのコミコン(コミック コンベンション)を知って「超デカい!」と思っていたけど、コミケはそれと比較にならないくらい大きくて驚いたよ!(註4)
註4:コミックマーケット92では、初日16万人、2日目15万人、3日目19万人。のべ人数50万人が来場。公式Twitterよりコミックマーケット92 撮影:鈴木心 #C92 pic.twitter.com/oNCECqcUxa
— コミックマーケット準備会 (@comiketofficial) 2017年8月13日
――やはり海外から見ても、日本人のアニメ・コミックに対する愛情は濃いものなんですね。
ライアン:そうだね。その理由は、日本人がアニメやアートに対して、より興味を持っているからだと思うよ。
街を歩いていると、期間限定のイベントだけじゃなくても、常にそういったものに日本は囲まれているんだ。
それはアメリカでは見ないものだから、そういった部分が日本の特徴だね。
――コミケやジャパンツアーで様々なイラストを描いたと思いますが、中でもどのキャラクターが一番描く機会が多かったのでしょうか?
ライアン:ヴェノムかな。バットマン、ハーレイ・クインも多かったね。
あとは、デッドプールも人気があったよ。日本ってデッドプールファンって多いんだなって思ったね。
――日本でアメコミが人気になったのは、「デッドプール」と「ロキ」の影響が大きいですね。この2キャラが邦訳本にも登場したことで、女性ファンも増えていった印象です。
ライアン:確かに日本は女性ファンが多いなと思ったよ。
どこにいっても女性のファンが居てくれたね。やっぱり多様性を持って、年齢・性別に関わらず作品を受け止めてもらえるのは嬉しいよ。
――『ワンダーウーマン』のお話もお伺いしたいと思います。主人公・ダイアナ役のガル・ガドットさんのビジュアルを見たときの感想はどうでしたか?
ライアン:初めてビジュアルを見たときはすごいなと思ったよ。
実は、映画のデザインにも僕が関わっているんだよね。だから、他の人よりも1年前くらいから衣装デザインを見せてもらってたんだ。
ずっと早くみんなに見せたいと思っていたよ。
先に映画を見た人からは、これまでのDCの映画の中で一番いい出来という話を聞くし、自分でもすごい楽しみだよ!
――それは楽しみです。これほど『ワンダーウーマン』が男性にも女性にも人気なのは一体何故なんでしょうか?
ライアン:『ワンダーウーマン』は、男性からすれば彼女はセクシーに見えるはずだし、正義のために戦っている姿はとても印象的なんじゃないかな。
女性にとっても、同じ女性が他人のために戦うリーダー的な姿は魅力だと思うよ。
――最後の質問になりますが、日本のファンに向けて一言お願いします。
日本のファンから感じる気持ちってすごく真摯なもので、それに対してすごく感謝しているよ。これからもみんなに素晴らしいアートを届けすることを約束するよ。
今は、アニメ、ビデオゲームなど、様々な方面に携わっていているから、ファンの方々にはもう少し待ってもらいたいね。必ず何かを届けできるよ。
あとは、今プロデュースしている新作コミック『Brothers Bond(ブラザーズボンド)』をWebで公開する予定なんだ。リリースは10月から1年半の期間を考えていて、それ用のゲームも開発しているんだ。
あとは『吸血鬼ハンターD』の仕事もしている。ただ、それ以上のことは話せないから、来年の中盤辺りにはお届けできるとだけ伝えておくよ。
――ありがとうございました。
取材後にも制作は続き、そして完成へ
取材後にも、ベンジャミン氏の制作は続きます。そして、完成したのがこちら。
映画『ワンダーウーマン』は2017年8月25日公開です。また、ワンダーウーマンも活躍するジャスティス・リーグは 11月23日公開です。ぜひ劇場でご覧ください!
[インタビュー:岩﨑航太/取材・文:はら]
『ワンダーウーマン』
公開表記:8月25日(金) 全国ロードショー 3D/2D/IMAX
配給表記:ワーナー・ブラザース映画
著作表記:(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
AND RATPAC-DUNEENTERTAINMENT LLC
>> 映画『ワンダーウーマン』オフィシャルサイト
『ジャスティス・リーグ』
公開表記:11月23日(木・祝)全国ロードショー
配給表記:ワーナー・ブラザース映画
著作表記:(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC