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『ソードアート・オンライン』作者・川原礫氏がVRの未来を語る「CEDEC2017」をレポート

「ひと足先の未来を常にお見せできる作家になれればと思います」『SAO』作者・川原礫氏がVRの未来を語る「CEDEC 2017」をレポート

2017年8月30日、ゲーム開発者向けの講演会「CEDEC 2017」がパシフィコ横浜で開催。

「『ソードアート・オンライン』 仮想から現実へ。 小説とゲーム技術のお話。 ~ソードアート・オンラインが現実になる日まで。~」と題し、『SAO』の舞台でもあるMMORPG(複数のプレイヤーが広大な世界を舞台に冒険するRPG)の世界やVR(仮想現実)・AR(拡張現実)・AI(人工知能)など最新技術の話題を中心に、対談を実施。

本イベントには、『ソードアート・オンライン』(以下『SAO』)の作者・川原礫氏、バンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー・原田勝弘氏、二見鷹介氏が登壇されました。

講演中は『SAO』の誕生にまつわるお話や、テクノロジーと作品の関係性について、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』に関する制作秘話についても語られ、会場は大いに盛り上がりました。そんな『SAO』ファンにとってはたまらない内容となった講演の模様について、レポートをお届けします!

▲『SAO』作者・川原礫氏

▲『SAO』作者・川原礫氏

▲『鉄拳』シリーズや『サマーレッスン』のプロデューサー・原田勝弘氏

▲『鉄拳』シリーズや『サマーレッスン』のプロデューサー・原田勝弘氏

▲ゲーム『SAO』シリーズのプロデューサー・二見鷹介氏。

▲ゲーム『SAO』シリーズのプロデューサー・二見鷹介氏。

 

世界的な大ヒットを超えて、VRの代名詞となった『SAO』
2017年2月に公開され、興行収入は25億を突破した『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(以下、劇場版SAO)。原作小説の世界累計部数は2000万部、ゲームの販売本数が300万本を超えるほどの人気作です。

本作が与えた影響として原田氏は「海外でVRについて講演を行う時、例えとして『マトリックス』(1999年)を挙げても受講者には通じない。でも『SAO』なら理解してくれるんです」と、本作がVRを題材にした代表的な作品となっていると語ります。

ここまで本作の人気が高まった理由として、二見氏はオンラインゲームが人気が高まり、若い世代がやるようになったからだと分析しました。

『SAO』誕生秘話が語られる
川原氏は『SAO』のシナリオを構想するきっかけとして、イギリスのSF作家ジェイムズ・P・ホーガン(※註)の『仮想空間計画』(1999年)という作品を例に出します。物語の中で、主人公は自覚の無いまま仮想空間の中に閉じ込められてしまうのですが、主人公の行動にシステムの処理が追い付かず、解像度が落ちる(要するに、処理落ち)といったシーンを目にするという。それを見た主人公が、初めて自分の境遇に気が付くといった描写があり、かなりの衝撃を受けたと当時を振り返りました。

他に刺激を受けたVRMMO的な世界観の作品として、岡嶋二人氏の『クラインの壺』(1989年)や高畑京一郎氏の『クリス・クロス 混沌の魔王』(1994年)を挙げていました。


次に『SAO』を書き始めた理由として「『ウルティマ オンライン』や『ラグナロクオンライン』など、ゲームに費やした膨大な時間の元を取りたかった」と語る川原氏。「せめてゲームの経験を小説にして、(みんなに)読んでもらうしかない」と書き始めたのが本作だったと明かします。「MMOに費やしていた頃の自分を肯定できるようになったのが、すごく嬉しいです」と感慨深げに語りました。

また、物語に「デスゲーム」という要素を付けたそうとした時に、プレーヤーを拘束する必要があり、VRのヘッドマウントディスプレイ(頭から被るようにして装着する)である“ナーヴギア”というアイテムが誕生したという。

さらに川原氏は、人間の魂を仮想空間に送り込み、死ぬとその魂は消えてしまうといった設定があったことを明かします。ゲームに関する小説を書きたかったのに、この設定ではSFに偏りすぎてしまうという理由から、現在の設定に落ち着いたというエピソードも披露してくれました。

川原氏が抱く、ゲーム業界に対する“願い”とは
川原氏は「VRの表現において三大難しいもの」として髪の毛・液体・食べ物を挙げ、「ゲームキャラクターの髪の毛は、1本1本を作っているわけではない。将来的にはVRの世界で、髪の毛はどう表現して、綺麗に見せるようになるのでしょうか?」と疑問を投げかけます。

原田氏はこれに対し「今後より情報密度が上がっていけば、本物の髪の毛に触っているような表現も可能になっていく」と回答。

全ての解像度を上げるのは現状難しいとして、川原氏は作中において物を近くで見たときだけ解像度が増す“ディテールフォーカシングシステム”という設定を作ったと話します。「作家はひたすら想像するのが仕事なので、こんな世界があったらどうなるのかなっていうのをひたすら想像して書きます。それをぜひゲーム業界の皆さん現実にして、さらには上回って行って欲しいというお願いがあるんです」と原田さんと二見さんを含め、会場全体に呼びかけました。

VRゲームに早くも立ちふさがった2つの“壁”の存在
原田氏といえば『サマーレッスン』のVRゲームが有名ですが、VRゲームは早くも“壁”があると言い、二つの問題点を提示しました。1つ目は、頭にVRヘッドマウントディスプレイを装着すると汗ばむなどして、長時間のプレイに向かない点。2つ目は、ある程度プレイに慣れてしまうと、どんなVR体験ができるのか予測できるようになってしまい、飽きてしまうといった点です。



その解決策として川原さんは「スクリーンがコンタクトレンズになれば、装着までのハードルが低くなる」と提案。原田氏はデバイスがメガネほどのサイズになり、網膜に映像を直接投射する技術について紹介しました。

また、将来的には『SAO』や『アクセル・ワールド』のように、脳に直接インプット・アウトプットも可能にするような技術が生まれる可能性や、『マトリックス』や『攻殻機動隊』のような世界も大いにあり得ると続けました。VRの向上にはもっと手軽に装着できるデバイスが登場するような、“テクノロジー待ち”というのが現状のようです。

劇場版SAOは2番目のシナリオだった
『劇場版SAO』では、AR型情報端末“オーグマー(Augma)”が登場。現実世界をフィールドとして駆け巡り、モンスター討伐やアイテムの収集などでプレイヤーのランクを上げることが目的となります。

実は映画のシナリオを書いていた当初は、VR上の仮想現実としての東京を舞台にする予定だったという川原氏。「ゲームの中に再現された現実の町っていうのが好きで、『女神転生』シリーズや『グランツーリスモ』で東京を走ったりするのが憧れていた」という。

しかし仮想の東京で戦っているとき、生身のプレイヤーは自宅のベッドで寝ているといった現実との差がどうしても気になってしまい、シナリオを変更したそうです。

ここで原田氏は、「ARのような外に出て体力を使うゲームになると、体力勝負になるのではないか」という疑問を投げかけます。それに対して川原氏は、大きなアクションをせず、最小限の動きで勝てるような戦法を編み出すようになると返答しました。

映画を放映するタイミングでちょうど『ポケモンGO』が社会現象になるほどのヒット作となり、作品にとっては幸運だったと語る川原さん。CMで流れている『ポケモンGO』のレイドバトルを見て、「あれこそ自分がやりたかった表現だった」と感じたそうです。



また、作中には「トップダウン型」と「ボトムアップ型」といった、2種類のAIが登場。トップダウン型のAIは会話の内容を理解しているかどうか分からないが、対応はできるというもの。一方、本作の最新シリーズにも登場するボトムアップ型は、内容を理解したうえで会話ができるというもの。ボトムアップ型について、原田氏は将来必ずこのレベルまで発展するだろうと太鼓判を押しました。

来場者の方々にメッセージ
講演の最後には原田氏と川原氏から、来場者の方々へメッセージが送られました。

■原田氏
「本当にVR仮想現実は面白いテーマで、仮想現実をやればやるほど、現実世界・現実社会から分かってくるものがあります。その研究は面白いので、VRMMOというもの自体がどれくらい再現できるかが、どれだけ先になるかわかんないですけど、限りなく新しい世界と価値観と新しい生命が生まれようとしているスタート地点にいると思うので、今後の研究に顔を出せたらと」

■川原氏
「これからは本当にこういうAIの小説を書くときは、現実と想像力の競争というかせめぎ合いになっていくと思います。そこで現実に追いつかれない様に、一足先の未来を常にお見せできる作家になれればと思います」

【アニメイトオンライン】【小説】ソードアート・オンライン(20) ムーン・クレイドル

(C)川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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