『ブレードランナー ブラックアウト 2022』へのこだわりを、渡辺信一郎監督が語る!
10月27日公開の映画『ブレードランナー 2049』と1982年に公開された前作『ブレードランナー』の空白の30年間を描くショート・アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト 2022』。監督には、『カウボーイビバップ(1998年)』や『坂道のアポロン(2012年)』の渡辺信一郎監督が担当する。
劇場映画『ブレードランナー2049』プロモーションとして、すでに公開済みの 『ブレードランナー ブラックアウト 2022』ですが、渡辺監督のキャスティング理由や、映像のこだわり。そして、『ブレードランナー』という作品が、監督やアニメ産業に落とした強い影響などをうかがってきました。
──まずは『ブレードランナー ブラックアウト 2022』(以下、『2022』)の製作に至るまでについてお聞かせください。
渡辺:オファーが来たのは(『ブレードランナー2049』の製作を担当する)アルコン・エンターテインメントからなんですが、それが去年(2016年)の秋ぐらいかな。
実は10年ぐらい前から、何度も『ブレードランナー』をアニメでやるという企画はあったそうで、実現にいたらずで。続編の作られる今回のタイミングでやっと実現したという事らしいです。
──ということは、今回の『2022』は〝満を持して〟という感もあったということでしょうか?
渡辺:というか、実現のハードルも高かったんでしょう。なにせ世界中に熱狂的なファンを持つ、伝説的な作品ですからね。ヘタなもん作るとメチャメチャ叩かれそうだし(笑)。もちろん自分も大ファンのひとりですから、その怖さも分かっていて。でも「やってみたい」という気持ちがプレッシャーより強かった…ということで、今回勇気を出してやりました(笑)。
何かハリウッドの豊富な予算と時間を使ってぜいたくに作ったと思われてるようですが、全然そんな事はなくて(笑)、時間も予算も足りない感じでした。でも、ブレードランナーをやる以上、そこそこのものじゃダメだろうと事で、情熱と知恵と勇気でなんとか乗りきりました(笑)。
※こちらの『ブレードランナー ブラックアウト 2022』を、一度視聴されると、インタビューがより楽しめます。
──ちなみに1982年公開の『ブレードランナー』は渡辺監督にとっても重要な作品かと思いますが、当時はどのような思いで観られたのでしょうか?
渡辺:自分に限らず、当時のアニメ界の人たちに絶大な影響を与えたんです。ブレードランナー以前と以後で時代が変わるというぐらいのエポックメイキングな作品でした。
自分個人としても、あの未来のビジョンも、魅力的なキャラクターたちも、哲学的テーマも、すべてが好きでした。『スター・ウォーズ』よりも断然、『ブレードランナー』派でしたね。
──ただ、かつて渡辺監督が手がけられた『カウボーイビバップ(1998年)』や『スペース☆ダンディ(2014年)』などを見る限り、もしかしたらうがった見方なのかもしれませんが、むしろ『ブレードランナー』的なものからなるべく離れようとしていたのでは……とも思えるのですが?
渡辺:そうですか? まあ表面的に似てるってのはただのパクリになっちゃうんで(笑)。自分なりに咀嚼した上で作品に反映されてるとは思います。
ちなみに余談ですけど、『マクロスプラス(1994年)』をやったときに、河森(正治)さんとふたりで世界観について話して、「どうやったら『ブレードランナー』っぽくならないだろう?」っていうのがスタートでしたね。
つまり放っとくと自然にブレードランナーぽくなってしまうから、どうやって避けようという話で(笑)。その結果『マクロスプラス』は、「いつもカラッと晴れてて、緑とか自然が多い世界にしよう」ということになったんです。
【アニメイトオンライン】マクロスプラス MOVIE EDITION
──なんと、そんな理由だったんですね!
渡辺:なので、「一見似てない作品にもじつは影響がある」という事ですね。『ブレードランナー』自体が、常にリファレンス(基準となるもの)として意識されてるということなんで。
……とは言え、我々がいくら『ブレードランナー』の影響を語ったところで、若い世代にはピンときていない部分もあるようなんです。「観てない」とか「タイトルは聞いたことあるけど」という人もけっこういるんです。
話になりませんね(笑)。興味あろうとなかろうと、SF好きだろうと嫌いだろうと関係なく人類が必ず見るべき作品が『ブレードランナー』だと思いますけどね(笑)。
『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の見逃せないポイント
──『2022』の話に戻りますが、オファーがあった時点で、プロットやストーリーなどについてオーダーのようなものはあったのでしょうか?
渡辺:最初に『ブレードランナー』のスピンオフと聞いて自分が思ったのは、とにかく前作の(レプリカントのリーダー格の)ルトガー・ハウアー演じるロイ・バッティが好きだったので、彼に関するエピソードをやりたいなと。
でも今回は前作と新作の『ブレードランナー 2049』(以下、『2049』)を繋ぐストーリーにしたいというオーダーだったんで、ロイは前作で死んでますし、全然『2049』には繋がりませんから速攻で却下されました(笑)。
それでアメリカ側と協議した結果、『2049』の中で「ブラックアウト(大停電)」という出来事があったというセリフがあるんですが、その詳細は作中で語られてないんで、そこを描くことになりました。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にも会ったんですが、彼も「ブラックアウト」の説明が足りないな〜と思ってたそうで、「ぜひそこを描いてほしい」とプッシュもありました。
──今回の『2022』自体の予告(下部のムービー)で、渡辺監督は「原典の『ブレードランナー』に最大限のリスペクト(敬意を表す)すること」と「イミテーション(模倣)にはならないようにする」ことを心がけたとおっしゃられてましたが。
▲渡辺信一郎監督 ブラックアウト 2022 予告
渡辺:こういう場合の「落とし穴」として、あまりにも好きすぎる人間が作ると一種のファンムービー、二次創作みたいになってしまう可能性があると思うんです。
だから、これはこれでひとつの作品として成立させるように、むしろ前作に戦いを挑むぐらいの気持ちで作るように意識しました。だから、テーマ的な部分からして前作をなぞるんじゃなくて、一歩進んだものにしたつもりです。
そういった意図もあって、最初と最後は原典にあえて忠実な映像を挟みつつ、その間のパートについては独自の要素を強めた構成となっています。
──「リスペクト」に関しては、他にも画面の端々から感じることができますが、たとえば今作のヒロインであるトリクシー(レプリカント)の動きは『ブレードランナー』のプリス(レプリカント)のアクションを彷彿とさせるものがありますね。
渡辺:そこは、動きを自在にコントロールできるというアニメーションの特質を活かして、プリス以上の動きになるよう心がけました。
──あと渡辺監督ならではの持ち味として、音楽へのこだわりも感じられましたが。
渡辺:音楽は、最初からフライング・ロータスがいいなと思ってました。もちろん前作(『ブレードランナー』)のヴァンゲリスも良かったんだけど、いま再び未来のロサンゼルスを描くなら、彼が最もふさわしいんじゃないかなと。
オファーしてみたら、彼もこちらのアニメを前から観てくれていて、話が早かったですね。「スペースダンディ最高」とか言ってて、「分かってるな、コイツ」という感じで(笑)。
──その他に、すでに『2022』を観た人でも、もしかしたら気がついていないかも? というポイントがあればピックアップをお願いしたいのですが。
渡辺:前作でデッカードの相棒だったガフってキャラが出てますが、あの声はエドワード・ジェームズ・オルモス本人が演じてます。キャラクターの絵も本人がチェックして了承済みです。
あと誰も知らない裏設定としては、タンクローリーに「OKAZAKI OIL CORPORATION」と書いてあるんです。実は前作の「ふたつで充分ですよ」っていう人がボブ・オカザキっていうんですが、彼は実は石油会社の社長で、趣味でうどん屋台をやってるという設定を勝手に作ったんです。でも、そんなの見ても分かんないか(笑)。
あと、この作品は英語版がオリジナルで、日本語はその吹替版という形なんですが、絵が同じでも言語が変わるとすごく違って見えるんです。日本語がつくと「日本のアニメ」に見えるんだけど、英語版だと急に「アメリカ映画」になっちゃう。日本語字幕付きの英語版ももうすぐAbema TVで配信されるそうなんで、ぜひ見比べてみてほしいですね。
あとは、トリクシーの声だけは、最初から日本語版のトリクシー役の声優をお願いした青葉市子さんのイメージだったんです。アテ書きというやつですね。そもそも彼女は声優じゃなくてミュージシャンなんだけど、独特の空気感があってよかったですね。トリクシーだけは日本語版がオリジナルという感じです(笑)。
※英語版『BLADE RUNNER Black Out 2022』
──それも渡辺監督ならではのキャスティングですね。
渡辺:普段はあまりアニメ見ないような、音楽好きの人とかにも届くといいなと。