デッカードはレプリカントなのか? 『ブレードランナー』のあの論争がついに決着!? 映画『ブレードランナー2049』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督インタビュー
いよいよ2017年10月27日に公開となる映画『ブレードランナー 2049』。9月26日には短編アニメ『ブレードランナー ブラックアウト 2022』がYouTube上で配信されるなど、本作は公開前から大きな盛り上がりを見せていました。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は本作に対し、どのような意図やメッセージを込めているのでしょうか。インタビューでは本作の魅力について、大いに語って頂きました。
そして、『ブレードランナー』(註1)から35年経った今でも続いている、「デッカードは、レプリカントなのか?」の論争についても、監督にコメントを頂いています。
1998年に監督デビューし、『プリズナーズ』(2013)でハリウッド映画監督デビューをしている。『メッセージ』(2016)では、世界的な大ヒットを記録している。
(註1)『ブレードランナー』:1982年に公開された、リドリー・スコット監督のSF映画。SFとフィルム・ノワールを融合し、新しい時代を切り開いた作品。日本のアニメにも多数の影響を与えている。原作は、フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』。『ブレードランナー 2049』は、前作の30年後を映画いている。また、『2049』の関連作品である短編アニメ『ブレードランナー ブラックアウト 2022』は、渡辺信一郎監督(代表作『カウボーイビバップ』(1998年)、『坂道のアポロン』(2012年)など)が担当している
――今作は予告編などが少なく、ストーリーの情報をほとんど流さないというプロモーションが行われたのですが、その意図は一体どのようなものだったのでしょうか?
ドゥニ・ヴィルヌーヴ(以下、ヴィルヌーヴ)::本作は多くの人がストーリーを知りたがるという状況がありました。『メッセージ』(2016)(註2)を制作している時は誰も聞きに来てくれなかったんですけど(笑)。
やっぱり監督というのは、サスペンスや緊張感・驚きっていうのを生み出さないといけない。だから、できるだけ観客にストーリーが知られない方が、私としてはありがたかったんです。スタジオからもできるだけ情報が漏れないよう、制限していました。
そのせいで、やりにくさを感じた人もいたと思います。何せCIAかと思うくらい機密を守っていたので(笑)。映画が公開されてホッとしたのは何かと言うと、こうやって今お話しができることでしょうね
(註2)『メッセージ』(2016):ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品で、2017年のアカデミー賞8部門にノミネートされた。原作は、テッド・チャンのSF短篇の傑作『あなたの人生の物語』。
――今作のオファーを受けた時に、真っ先に行ったことは何でしょう?
ヴィルヌーヴ:ロジャー・ディーキンスさん(註3)の家を訪ねました(笑)。
(註3)『ブレードランナー2049』の撮影監督。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』(2013)、『ボーダーライン』(2015)に参加してい
――(笑)。前作の『ブレードランナー』(1982)を引き継ぐということでお聞きしたいのですが、前作からの要素で一番重要だと思ったことは何でしょうか? また、監督自身の作品とするために特に意識したことは?
ヴィルヌーヴ::1作目が持っていた美しさと切なさといった、フィルムノワール的(註4)な要素ですね。さらに重要だと考えたのは音響です。そのため音楽は、できるだけ1作目に近いものにしてほしいとオーダーし、似てるものを選びました。とにかく1作目の音響が強烈だったと思うんですね。ですから私としては、第1作目の遺伝子を音と音楽にたくすという気持ちがあったんです。
(註4)フィルム・ノワール(film noir)は、フランス語で「暗黒映画」の意味。第二次大戦後に多く見られた映画のジャンルで、リアルな手法で描く、アメリカの犯罪映画やハードボイルド映画を指す。
そして今作を私のものとするためにしたことを言えば、できるだけ自分の感性に近づけるようにと、冬の要素を入れたことです。私の出身であるカナダは冬が長いことでも知られており、雪との関係が密なんですね。
ですから私がよく知っているものを入れることによって、自分らしい世界を作りました。ロジャー・ディーキンスさんも私が望んでいることを、よく理解してくれましたね。
本作を制作する上で、リドリー監督の協力が必須だった
――オファーを受ける条件が、リドリー・スコット監督(註5)の了解を受けることだったと伺ってるんですが、リドリー監督とはどのようなお話をされましたか?
ヴィルヌーヴ:話をしたのは、主に1作目についてです。彼がインスピレーションを受けたものや、参考にしたもの、あるいは決断の方法などについて、しっかりと話し合いを行いました。
私はリドリーとはまったくタイプの違う映画監督だと考えていました。その要因のひとつは、私はフレンチカナディアン(フランス系カナダ人)であり、ヨーロッパ圏の影響を強く受けてることです。
しかし彼と『ブレードランナー』の起源について話し合ったことで、そのインスピレーションの源の多くが、ヨーロッパのアーティストとやデザインにあることが分かり、自分の感性と似ていることが良く分かったんです。それはすごく安心できましたね。
(註5)『ブレードランナー』(1982)の映画監督であり、『ブレードランナー 2049』の製作総指揮。イギリス出身。映画界を代表する最も名高い映画製作者のひとり。
『ブレードランナー』以外にも、『エイリアン』(1979)や『ブラック・レイン』(1989)、『テルマ&ルイーズ』(1991)、『グラディエーター』 (2000)、『オデッセイ』(2015)など多数の作品で監督を務める。『グラディエーター』では、アカデミー作品賞を受賞している。
デッカードはレプリカントなのか? 35年間続いたある論争が、ついに決着!?
――この35年でファンの間で議論になっている一つとして、ハリソン・フォードが演じるリック・デッカードはレプリカント(註6)ではないか、ということがあるんですけれども。
今回の映画に関して、「デッカードがレプリカントかどうか?」(註7)という答えを監督の中にお持ちなのでしょうか?
(註6)レプリカントとは、『ブレードランナー』の作中で描かれる人造人間のこと。人と見分けがつかない姿をしており、過酷環境の労働力として製造される。見分ける方法はブレードランナー(レプリカント解任の命を受けた専任捜査官)による心理テストであり、外見からは判断が難しい。
(註7)リック・デッカードとは、ハリソン・フォード演じる『ブレードランナー』の主人公。『ブレードランナー』は、公開後にさまざまなバージョンが制作され、デッカードがレプリカントであると示唆するような場面も追加されている。そのため、ファンの間では「デッカードは、レプリカントか、否か」という解釈の違いが今だに続いている
ヴィルヌーヴ:それについては、リドリー・スコットにとっては完全に「デッカードはレプリカント」なんです。だから、その質問を彼にしてはいけない(笑)。
しかし、演じたハリソン・フォードは「デッカードは人間だ」と言って譲らない(笑)。だから彼もその質問を絶対に受け付けないでしょう。
いわばデッカードの〝生みの親〟である彼らの間ですらそのように意見が一致しないので、この議論には終わりがありません。
そんな中で、私は一体どうしたらいいんだろうと(笑)。そう悩んでいたところ、その答えとなりそうな一節を、原作であるフィリップ・K・ディックの小説に見つけることができました。要約すると「ブレードランナーたちは常に人造人間を追っているので、もしかしたら自分もそうじゃないかっていう疑問を持ち始める」というくだりがあって、それが大きなヒントとなりました。
私は『ブレードランナー』の中で、デッカードが自分のアイデンティティに対して疑いを抱くシーンがすごく好きなんです。つまり、彼自身も、自分の存在が何者なのか分かっていないんです。
そのため、私は今作でみなさんに「答えを明確にする」というよりは、「あらためて疑問を投げかけたい」と考えています。
『ブレードランナー 2049』
10月27日(金) 全国ロードショー
製作総指揮:リドリー・スコット/監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、ロヒ゛ン・ライト、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、
カーラ・ジュリ、マッケンジー・デイヴィス、バーカッド・アフ゛ディ、デイヴ・バウティスタ
そして、2049年――。
ロサンゼルス市警の“ブレードランナー”K は、違法レプリカント“処分”の任務にあたる最中、レプリカント開発に力を注ぐウォレスのを知る。そして、その陰謀を暴く重要な鍵を握るのは 30 年間行方不明だったブレードランナー“デッカード”だった。彼が命をかけて守り続けて きた〈秘密〉とはいったい何なのか?
デッカードがこつ然と姿を消してから30年、キャッチコピーである“知る覚悟はあるか――”という言葉が物語るように、本作では知られざるが明かされることになる。今なお色あせることなく、映画界と世界中のカルチャーを魅了し続けている「ブレードランナー」。『ブレードランナー 2049』で描かれる30年後の世界は、その圧倒的な映像美をよりパワフルに引き継ぎ、ベールに包まれ多くの謎を抱えながらも、新たな映画新時代の幕開けを感じずにはいられない。