中学校時代の同級生に偶然再会したリンタロウは……。「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第27回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、元マネージャー志望で“一般人代表”とも言われる市ヶ谷リンタロウを中心とした物語。地に足のついた生き方をしていたリンタロウが、劇団アルタイルに入ってどんなふうに変わりつつあるのか……そんな彼の成長が垣間見えるストーリーにご注目ください！

劇団アルタイル『紙飛行機』
【あらすじ】
中学校時代の同級生に、偶然再会したリンタロウ。懐かしさを覚えると同時に、お互いの変化を目の当たりにする。友人との間にできた距離感に戸惑うリンタロウだが、友人からは意外な言葉が出て……？

【ストーリー】
「いっちーじゃん！」
雑踏の中、懐かしい呼びかけが聞こえて、リンタロウは振り返った。
「あ、児島」
「うっわー偶然！」
中学校時代の友だちが、笑って手を振りながら駆け寄ってきた。
「ビックリしたー。こんなとこで会えると思わなかった」
「俺も俺も。たまには部活帰りに寄り道して帰るの、アリだなー。……って、あれ？　もしかして、会うの久しぶりじゃね？」
「言われてみればそうかも」
連絡は取りあっているから、ちっとも久しぶりな気がしないのだけれど。
「児島。もしかして背、伸びた？」
「伸びた伸びた。あと、地味に筋トレ続けてたら、けっこー筋肉ついた！」
そう言って、児島は力こぶを作ってみせる。
「あ、ホントだ。すごい」
「だろ？　基礎体力も上がってきたから、あんま怪我しなくなったぞー」
にしし、と歯を見せて笑う。背が伸び、顔つきも男らしくなった気がするけれど、表情はちっとも変わっていなくて、なんだかホッとする。
「そっかあ。がんばってるなあ」
「なに言ってんだよ。おまえこそめちゃくちゃがんばってるだろ。昨日も、テレビでアル劇見たぞー。Rigelが歌って踊ってるやつ！」
「え、嬉しい。ありがとう！」
「え！　じゃねーよ。出るときは連絡しろって！　見るから！」
「あはは……ごめん」
ふくれっ面の児島に、リンタロウははにかんだ。
（言いたいけど……ちょっとだけ、照れくさいんだよね）
中学三年間、野球部で泥だらけになりながら――と言っても、自分はマネージャーだったのだけど――一緒に過ごした児島は、クラスメイトよりあともう一歩、親しい。友だちと家族のちょうど真ん中辺りにいる相手だ。
グラウンドではなんでもさらけ出せたのに、芸能人として活動する姿はよそ行きの姿を見られるようで、どこか気恥ずかしい。
「けど、なんかちょっと、距離開いちゃったよなあ」
「え……？」
「だってさ。歌ってるおまえ、すっごいキラキラしてんだもん。テレビにまで出ちゃってさ。
そういう俺は、地味に筋トレじゃん？　置いてかれたなあって、若干凹むわ」
「え、いや、そんなこと」
まだ、全然。
足りてないし、手が届かないし、失敗だってたくさんするし、ついていくだけでやっとのこともあって――だから。
まとまらない言葉がワッと膨れあがった。喉の奥に詰まってしまって、うまく出てこない。
「……あ、ごめんごめん」
途切れた言葉に気づいて、児島が笑う。
「言い方悪かったわ。いまの、全然悪い意味じゃなくてさ。俺、言ったじゃん？　中学のとき。ずっと裏方でいーのか？　って。覚えてる？」
「……うん」
「もちろんおまえは誰かのサポートすんの好きで、やり甲斐もあったんだろうけどさ。運動は得意じゃないし、野球は下手だし……って、どっか諦めてたとこあったから」
「あ……」
どきりとした。

（確かにそうかも……）
裏でみんなを支えたい。その気持ちにウソはなかった。ひとの良いところを見つけるのが得意で、結果が出れば自分のことみたいに嬉しかった。
でも、無意識に自分の可能性を閉ざしていたかもしれない。
自分のことを、自分が一番信じていなかったのかもしれない。
（だって、すごく勇気がいるから）
鳥だって、初めて飛ぶときはきっと怖いんじゃないかと思う。うまく翼を動かせるかどうかわからない。失敗したら落っこちちゃうし、飛べたとしても他のみんなより遅かったら置いていかれる。
最初の一歩は、誰でもきっと、すごく怖い。
（でも、俺は運がよかったんだ）
おまえならきっとできる、と言ってくれたひとたちがいた。背中を押してもらえた。
そしたら、ビックリするほど勇気が出た。
思ってもみない新しい場所に行けた。

「きっかけは偶然だったのかもしれないけど、やってみよう！　って決心して、ちゃんとがんばれてるじゃん？　いまのおまえ、やっぱかっこいいよ。……あーっ！！」
児島が突然叫んで、拳を握った両腕を空に向かって突き出した。
「くっそー！　めっちゃくちゃ悔しー！　俺もぜってー追いつくからなー！　プロ入りして、テレビ出てやるー！」

不安で怖いのはみんな一緒だ。
だから、笑顔で伝えよう。
「児島ならできるよ」
自分がもらったたくさんの勇気を、隣の友だちに、曲に乗せて大勢のひとへ、繋いで伝えていこう。

今回登場した人物をご紹介！
◆市ヶ谷リンタロウ（CV：井上雄貴）
マネージャー職を希望していた、素直で明るく人懐こい、常識的な考え＆視点を持つ一般人代表。