周囲とのギャップや軋轢を感じる大崎イズモにメンバーは……。「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第28回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、口も態度も悪いものの、実は世話焼きなしっかり者・大崎イズモを中心とした物語です。子役出身でプロ意識が高いからこそ、周囲とのギャップや軋轢を感じることも少なくないイズモ。そんな彼に対して、アル劇のメンバーは……？　イズモの繊細さと強さを表現したソロ曲と一緒にお楽しみください！

劇団アルタイル『ガラスの花』
【あらすじ】
プロ意識が高く、常に最高のパフォーマンスを求めるイズモ。しかし、それが原因でメンバーと意見を衝突させてしまう。チームメイトといえど、まったく同じものを目指すことはできないと、諦めかけるイズモだが……？

【ストーリー】
「あー、やめやめ！　ストップ！」
　反射的に言って、イズモはCDのストップボタンを押した。明るい『僕らはSummer』のメロディがふつりと途切れ、しんとなったレッスン室に荒い息づかいがいくつもあふれる。
「オイ、さっき何回も言ったろ。いまンとこ、反応遅せぇ」
「す、すみません……」
　ジュンペイが、弾む息を整えながら頭を下げた。
「もう一回お願いします、イズモさん」
　アゴに幾筋も伝う汗を拭い、カズキも顔を上げる。だが、
「ていうか、これは、キツイって！」
　タイキが悲鳴をあげるように言って、その場にしゃがみこんだ。
「タ、タイキくん」
「こないだ、ようやく初公演が終わったばっかなのに、いきなりハードル高すぎだってば」
「タイキさん、がんばろう」
「あのね、カズキくん。山登りしたことないひとに、いきなりエベレスト登れって言っても無理に決まってるの。わかる？」
「ダンスと登山を一緒にすんな、アホ」
　イズモはそう言って、いいからさっさと立て、と続けようとした。が、タイキが文句を言うほうが早かった。
「気持ち的にはそんくらい無理なの！　それに、僕らが根性論でいくら粘ったって、体がついていかないんだから意味ないでしょ」
「タイキくん……！」
　レッスン室がしんとする。全員が、その先の言葉を見失ってしまった。
「……わかった」
　ややあってから、重たい沈黙を破ってイズモは口を開いた。
「今日はここまで。明日、同じ時間にもっかい集まれ」

　自分の部屋に戻るなり、イズモは服を脱ぎ散らかしつつシャワールームへ直行した。シャワーのコックをひねって頭から水を被る。
「あー……くっそ」
　タイキのセリフに「うるせえ、四の五の言うな」と言いかけた。でも、それではダメなことぐらい、わかってる。
（タイキのやつ、「無理」とか、俺が大っ嫌いなワード正面からぶちかましやがって。……けど、影でコソコソ言わねぇだけマシか）

　『できるやつはいいよな』――いままで、何度言われたかわからない。
（アホか。俺だって、最初からなんでもできるほど器用じゃねえよ）
　やればできる。できないならもっとやれ。一番上を目指せ。音を上げるな。
　それは観客に最高のパフォーマンスを届けるため、ずっと自分に言いきかせてきた言葉だ。揺るがない正義、信念だ。
（……けど、他人は俺じゃねぇからな）
　モチベーションも、限界も、“最高”の尺度も、それぞれ違う。その違いを物足りなく思うのは、自分の傲慢なのだ……たぶん。
「俺だってわかってんだよ、頭では」
　あの言い方で他人はついてこない。かと言って、黙って見て見ぬふりもできない。好きにしろ、と言えば、他人を突き放してしまう。
（そう……わかってんだよ。全員が全員、同じようにできて、同じものを目指せるわけじゃない。それに、俺の目指すものが、他人にとっての正解とも限らない。だから……割り切ることも必要なんだ）
　そう結論づけると同時に、物足りなさとかすかな寂しさが胸を塞ぐのも自覚していた――。

　音を上げた三人がほかのメンバーに愚痴のひとつでもこぼし、タツヒコあたりが「練習はどうだ？」なんて探りを入れてくるところまで想像したが、特になにもないまま翌日になった。
（最悪、今日は誰も来ねえかもな）
　半ば覚悟しながら、レッスン室のドアを開けた。とたん、
「あ、イズモくん、思ったより遅かったねっ！」
　弾む息に混じったタイキの声と、聞き慣れた『僕らはSummer』のメロディが正面からぶつかってきた。
　タイキだけじゃない。カズキとジュンペイも、それこそ頭から水を被ったように汗びっしょりの有様で、荒い息の下から切れ切れに「お疲れさまです」と声を絞り出す。
「お前ら……」
「なんなのその顔。なにやってんだとか聞いたら怒るよ！」
「なにやってんだ」
「怒るって言ってんのに聞く！？」
　いつもの調子で頬を膨らませ、タイキは汗で頬に張りついた髪の毛を払う。
「ほんと、イズモくんは優しくないんだから……」
　ポカンとしているイズモに、ジュンペイが笑いかける。
「イズモくんより先にスタジオで練習しようって言い出したの、タイキくんなんだよ」
「あーっ！　ちょっと！　ジュンペイくん！！」
「悔しいから、見返してやろうと誘われました」
「ふたりしてなんで全部バラすし！？　あーもーさいあく！！」
　くしゃくしゃと髪をかき回して、それから、タイキがイズモの前に立った。
「昨日は、絶対に無理だったの！　どう考えても詰め込みすぎでオーバーワークだったし！　けど、諦めるとは言ってないからね！！」
「……おう」
「ちょっと。なに、さっきから鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔してんの」
「ビックリしたからじゃね？」
「冷静に自己分析しないでよ。熱血くんのくせに」
「……は？　俺が？　熱血？　どこが？」
「どっからどう見てもイズモくんはバリバリ体育会系でしょ！　一応忠告しとくけど我慢とか根性とか、イマドキ流行らないからね、そーゆーの！」
　でもさ、とちいさく言って、タイキが続けた。
「イズモくんのダンス格好いいんだもん。ライブでそれ完璧に踊ったら、ステージでめっちゃ目立つし」
　タイキの言葉に笑いながら、ジュンペイとカズキも進み出る。
「タイキくん、こんなこと言ってるけど、本当はイズモくんに触発されたんだよ。同じチームに負けられない存在がいるのって、すごくいいことだよね」
「俺もそう思います。影響し合える、引っ張り合っていける相手は大事だ」
「引っ張り合っていける相手……」
　昨日、諦めかけていたものが目の前にある。イズモの胸がどきりと疼いた。
「ちょっと二人とも、なに第三者みたいな顔して語ってんの！　僕とイズモくんだけで熱血ごっこなんてやだよ。君らも引きずっていくからね！」
　そう言って、笑う。三人が、三人とも。
（……こいつらを舐めてた、俺がバカだった）
　思わずひとつ吹き出して、イズモは「よーし、それじゃやってみろ！」と勢いよくハッパをかけた。

今回登場した人物をご紹介！
◆大崎イズモ（CV：古畑恵介）
子役出身で芸歴が長く、目立つことが大好き。口も態度も悪いが、実は面倒見がいいという噂も…？