森川智之&朴璐美『ムーミン』で複数役に挑戦 「台本の誤植かと思った」と語る衝撃の裏側をインタビュー!
2017年12月2日(土)より、丸の内TOEIほか、全国で公開となるパペットアニメ『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』。本作では、初めてクリスマスを体験するムーミンの冒険と喜びの物語が描かれます。
ムーミントロールを宮沢りえさんが演じるほか、ナレーションに神田沙也加さんが出演。さらに、声優の森川智之さん、朴璐美さんが、それぞれ複数のキャラクターに挑戦し、素晴らしい演技を披露しています。森川さんは、なんと5キャラ。朴さんに関しては13キャラを熱演。ちょっとスゴい数ですよね。
そこで今回は、森川さんと朴さんに、制作の裏側や見どころについてお話をうかがいました。
――『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』がいよいよ公開ですね。まずは、おふたりの本作を観た感想を教えていただけますか。
森川:「僕はなんてバカだったんだろう」って思いました。
なぜかっていうと、小さい頃はただ「わー、(ムーミン)おもしろいなー」って観ちゃってたから。子どもだったからそれはそれでいいんだけど、いま観ると「深いなぁ」、「素敵なセリフがいっぱいあるなぁ」って思って。
スナフキンがいいことを言っていたり、ムーミンパパが面白いだけじゃないんだってわかったり。観終わったあとに、子どもはもちろん、大人にも観てもらいたいなって思いましたね。
朴:絵が持つ力が凄すぎる、というのが第一印象でした。そして、一瞬故障か?と思うような無音から始まりますよね? 無意識に「自分の記憶の中にあるムーミンを見る」という感覚をいきなりリセットさせられ、一気にウィンターワールドの世界に引き込まれてしまいました。五感を弄られ、観る側に想像させられました。アニメというよりも、ひとつの芸術作品に携わらせていただいたという感覚が強いですね。
いまの世の中って説明できちゃうことが多いじゃないですか。言葉中心でメッセージ主導の世界。でもムーミンの物語は、説明できないことを感じる大切さがいっぱい詰まった作品だと思うんです。自分の感覚が動いたことが正解の世界。
だから、お子さんに観ていただきたいし、お父さんお母さんも、おじいちゃんおばあちゃんも、みんなで一緒に観て欲しいです。大切な人と一緒に観て、改めてムーミンが大切にしている核だったり、約40年前のフィルム(註)とは思えない芸術性を感じていただけたらって思います。
(註)本作は1978〜1982年にポーランドで制作されたオリジナルシリーズをデジタルリマスター化している。
――お二人とも大絶賛ですね。作中で、好きなシーンとか好きなセリフはありますか?
森川:ムーミンパパの「この世には不思議なことがいっぱいあるんだよ」ってセリフ。好きなシーンは郵便配達のオジサン。良いクオリティだな、この声、老けてんなって(笑)。
一瞬、誰かに差し替えられたのかなって思ったけど、「ああ、俺だ」って(笑)。声優として参加している自分としても、好きなシーンですね。
朴:私は、おしゃまさんのセリフと言いたいところなんですけど、いちばんビビッときたのがリトルミイの「だって私がプレゼントよ」的なセリフですね。ムーミンの世界って、哲学的な世界を語っていたりするんですけど、そのなかですごく人間らしい。逆に、その部分にほっこりしちゃって。
好きなシーンとしては、先程も話した通り、最初の無音で始まるシーンですね。なんだろう?これ?っと、画面に集中させられる。お芝居でも「聞かせたいセリフほど小さく喋る。そうするとお客さんが聞き取ろうと一生懸命聞いてくれる」と言われているのですが、こういうことかって思わされたシーンでした。
複数のキャラを演じる時に大切にしている、ベテラン声優の心構えとは?
――本作では複数のキャラクターを演じられていますが、演じてみていかがでしたか?
森川:オファーをいただいたときに、複数やってもらいますって……。
朴:え、聞いてたの? 台本をもらったのはアフレコの3~4日前くらいでしょ?
森川:その前から知ってた。でも、どのキャラを演じるのかは全く知らなくて、台本を受け取るまでは、どの役なのか、何役なのか、どんなストーリーなのかも知らなかったんですよ。
それで、男性役は全部するっていうのを聞いて「これは大変だなぁ」と。すごくプレッシャーを感じました。
ムーミンを観て育った人たちがいっぱいいて、ほとんどの人がムーミンのことを知っていて、みなさんのなかにすでにイメージがある状態なので、1つの役をやるだけでも大変なのに、いろんなメジャーなキャラクターを1人で演じるというのは、「なかなか大胆なことをするなぁ」と思いました。
朴:私は3〜4日前に台本をいただいて読んでいたら、役のところに「朴璐美、朴璐美、朴璐美」ってあったから、おかしいでしょと思って……。誤植かなって思ったんですけど、どうやら違うらしい。これを全部やるらしいってことで……戦慄しました(笑)。
最初にムーミンって聞いたときに、演劇集団円(朴さん自身は、2017年11月15日に退団を発表)の大先輩である岸田今日子さん(ムーミントロール役)や高木均さん(ムーミンパパ役)が演じられていたので、緊張やプレッシャーを感じると同時に、そんな素敵な作品に携われる、大先輩が演じてきたものを受け継がせていただけるって気持ちだったんです。
ですが、台本を見てからは「考えてられないな、そんなこと」っていうくらいテンパりました(笑)。考えている間がなかったですね。
――お二人ともスゴい数演じてますよね。複数のキャラクターを演じ分ける時に、お二人が注意したことはありますか?
森川:こんだけあるから……声色を変えても無理だなって(笑)。とりあえず、お芝居は成立させないとダメなので。
でもそもそも、限られた人数で全部演じなくちゃいけないということが(宣伝で)全面に出ているから、そこはみなさんがそのつもりで観て楽しんでくれると思うので、「ちゃんと作品の演出意図が伝わればいいかな」と思って演じました。
朴:13役っておかしくないですか(笑)。私も初体験だったので……。でも、そのうちの2役は、森川さんが担当するかもしれないということをうかがっていたので、わりと高をくくって「8役くらいになるかな」と思ってスタジオに向かったんですけど、「やっぱり全部朴さんで」ってお話だったので、もうあんまり考えないで演じようと。
ここがああだこうだって考えてしまったら結局がんじがらめになってしまいそうだったので。「どのキャラからいきますか」、「まずこのキャラ」、「このキャラがこうだったから次はどうしようか」みたいな感じで進めていきましたね。出たとこ勝負で演じていきました。
――お2人が複数のキャラクターを演じ分けていることに対してすごいなと感じるのですが、声優にとって、声色を変えて演じ分けることと、同じ声質で演技の深みを持つこと、どちらが重要になるのでしょうか?
森川:声優にとって声色を変えて演じ分けるというのは簡単なことで、それよりもひとつのキャラクターを組み立てて演じ分ける作業のほうが大変なんです。演じ方が決まれば、声色はあとからついてくるものかなと思います。
ただ、見た目が違うので、こういう声かなっていうイメージは持っていますね。
――めそめそ役を演じられているときは、普段の森川さんの声のイメージからは想像できなかったです。
森川:めそめそしてたんですね。
朴:なにそれ(笑)。
森川:後ろ向きな感じだったんでしょうね。自分にできるのかなぁって(笑)。
――朴さんが演じるリトルミイも「リトルミイだ」と感じました。
朴:性質が似てるんですかね。こう、ひねくれたところが(笑)。
宮沢りえさんの演技は、二人にとってどんな風にみえた?
――声優の目線からみて、ムーミントロール役の宮沢りえさんの演技はいかがでしたか?
森川:すごくストレートに聞ける、透明感のある声でした。「男の子できるんだ」って思いましたね。一緒に演じてみたかった。掛け合いしてみたかった。別録りだったので。
朴:私もすっごく思いました。一緒に演じてみたかったって。
森川:家族3人でね。(森川さんはムーミンパパを、朴さんはムーミンママを演じています)
――宮沢さんの声は先に録ってあったんですか?
朴:いえ、私たちが先に録ってから、宮沢さんだったと思います。だから、どんなムーミンでくるのかまったくわからなかったので、一緒に録りたかったなって。
森川さんが言った通り、透明感があってピュアで……だけど、ムーミンが持つ「不思議なものに触れてみたい」という冒険心もあって。とても聞き心地のいいお芝居だなと感じました。
――役者が声優の仕事をすることに対して、お2人はどう感じますか?
森川:刺激になりますね。大きな作品でメインに役者の方が入ってくると、自分が想像しているものと違う演技をされたりするので面白いです。どういう風にアプローチしているのかなって知りたくなっちゃいます。
朴:マイク前に慣れていない分、自分なりに感性を使うって方がたくさんいらっしゃるなって思うんですよね。私たちにも初めてのマイク前っていう経験があるわけで、そのとき教わっていない分、自分なりに感性をたくさん使ったと思うんです。だから、自分が初めてマイク前に立った時の気持ちを常に思い出させてくれる感覚がありますね。初々しいというか、それが新鮮だと感じます。
――最後に、お2人とも声優を目指す方への指導もされているということで、お2人みたいな声優になるためになにをすればいいか、アドバイスをお願いします。
森川:いまアニメ声優になりたいという人がたくさんいると思うし、指導している子たちのなかにもそういうところで活躍したいって思っている子が多いと思うんですけど、アニメに特化することなく、いろんな作品を観て育ったほうがいいなって思います。
アニメやゲームだけではなく、小説を読んだり。基本的には台本を読んで演じるので、文字に慣れること、文章を読む力っていうのが大切。だから、本を読んだり、一流の芸術作品に触れたり、いろんなものを見たり触れたり経験したりするといいのかなって思います。
朴さんを真似たり、僕を真似たりして上手になろうっていうやり方ではないほうが近道かなって思いますね。
朴:(指導している人には)アフレコをゲーム感覚で捉えている子や、正解を求める子が多いいんです……。でもお芝居は正解がないもの。だから私は「声優になりたいんだったら、声優になりたいって思うな」と言っています。
技術や手法ばかりを考えがちで、「自分自身は何を表現したいのか?」、「自分はどんな表現体を目指すのか?」という事を、忘れる人が多くなっちゃっているように思いますね。
森川:それはあるかもね。声優って言葉が踊り過ぎちゃった。
朴:声の表現のほうが体を使うよりも大変なお仕事だと思うんです。だからこそ、いろんな文化や芸術に触れ、自分の体を使ってハートを動かすような何かをするほうが、声優、表現者になれるんじゃないかな、と思います。
[取材:編集部/文:春夏冬つかさ]
作品情報
『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』(原題:『MOOMINS AND THE WINTER WONDERLAND』)
【監督】 ヤコブ・ブロンスキ、イーラ・カーペラン
【エグゼクティブ・プロデューサー】 トム・カーペラン
【声の出演】 宮沢りえ、森川智之、朴璐美
【ナレーション】 神田沙也加
【主題歌】 サラ・オレイン「ウィンターワンダーランド」(ユニバーサル ミュージック)
【配給】 東映
【上映時間】 86分
(C)Filmkompaniet / Animoon
Moomin Characters ™
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