音楽番組のソロ出演が決まったマキ。嬉しい半面、どうして自分が選ばれたのか疑問で……。『アル劇』ショートストーリー連載第31回

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、真面目でストイック、ちょっぴり不器用な辰巳マキを中心としたストーリーです。音楽番組のソロ出演が決まったマキ。彼自身は、嬉しいと思うと同時に、なぜ自分が選ばれたのか疑問で……？

劇団アルタイル『Shiny Stars』
【あらすじ】
ソロで音楽番組に出演することになったマキ。番組側からの指名だと言われるが、マキのなかでは『なぜ自分が？』という疑問がぬぐえない。だが、本番直前に知らされた指名の理由は、マキの背中を押すには充分なものだった。

【ストーリー】
「劇団アルタイル、辰巳マキです。本日はよろしくお願いします」
緊張しつつ挨拶をすると、現場のあちこちから「よろしくお願いしまーす」とラフな声が上がる。
（いつもと同じだ）
そう言いきかせて、深呼吸する。
やることは変わらない。最良の結果を出せるよう、精いっぱい歌うこと。それだけだ。なのに。
（……こんなに緊張すると思わなかった）
たったひとりでステージに立つということが、こんなにも心細いなんて知らなかった。

「音楽番組に出演……俺ひとりで、ですか？」
つい、普段よりも大きな声が出た。けれど、タツヒコは落ち着いたいつもの調子で頷く。
「番組側から、ぜひマキをと指名があったらしい。ソロ曲のリリースと時期も合うし、販促になる。やれるな？」
「はい」
即答した。イエスかノーか問われれば、もちろんイエスだ。
「……でも、なんで俺なんだろう」
いまの劇団アルタイルは総勢19人。個性的、経験豊富、歌が得意――自分は、どれにも当てはまらない気がした。
「別に自分を卑下してるわけじゃないです。やる気もあります。でも、敢えて選ぶなら、他に適任がいるんじゃないかって気もする」
「お前は良くも悪くも正直で、冷静だな」
タツヒコが苦笑した。ひねているわけでも腐っているわけでもないことがきちんと伝わって、少しホッとする。
「確かにうちのメンバーはいろんなタイプがいて、得意不得意もばらつきがあるからな。その点、マキはどこを取っても安定してる。ここのところ、特に」
そう。我ながら、どこかが尖っている気はしない。
最初のうちは、未経験からの参加で右も左もわからなかったことが、一番のプレッシャーだった。もちろん、経験の差を感じることはいまも多々ある。けれど、結成時に比べたら自分の実力と、アルタイル内でのポジションがわかってきたし、仲間への信頼も強固になった。だから、前のように「なにから手をつけていいかわからない」という不安はずいぶん薄れた。
いい意味で割り切れたのだと思う。他人は他人、自分は自分。その上で、チームとしての思いはひとつ。あとは、上っていくことだけを考えればいい。コツコツ積み上げるのはわりと得意だ。手ごたえもある。
「いいんじゃないか」
ふいに共有ルームのソファから声が上がった。ヒジリだ。
「マキ指名の理由、俺はわかる気がする」
そう言いながら、辺りに散らかしていた書類をひとまとめにし、ブリーフケースに入れて立ち上がる。
「ヒジリ、それって……」
「打ち合わせに行ってくる」
素っ気なく言って、ヒジリは共有ルームを出て行った。
「なんだよ、あいつ」
そんなこともわからないのか、と言いたげな素振りに、ほんの少しカチンとした。
ヒジリはいつだってああいう言い方をする。キャリアがあって実力もあるから、こっちはうまく言い返すことも難しくて――。
（……ん？　でも、いまの）
ヒジリは、指名の理由がわかると言った。
（俺が選ばれても別に不自然じゃない、ってことか？）
いつもとは角度の違う嫌みなんだろうか、と首をひねっていると、目の前のタツヒコが軽く吹き出した。
「タツヒコさん？」
「いや、悪い。嬉しくて、つい」
「？　なにがです？」
「いままでいろいろあったが、おまえたち、ずいぶん仲がよくなったな」
「どこがですか！？」
わからなくて問い返したけれど、タツヒコは笑うばかりで、それ以上答えてはくれなかった。

「辰巳さん、スタンバイお願いします」
スタッフのひとりに声をかけられて、我に返った。
「あ、はい。わかりました」
「もしかして緊張してらっしゃいます？　今日、初のソロですもんね」
「たぶん、そうだと思います」
曖昧な相づちを打つと、スタッフは「大丈夫ですよ」と笑う。
「実は僕、うちのプロデューサーとアル劇さんのマネージャーさんが話してるとこ、ちらっと聞いちゃったんですけどね。
いつも辰巳さんて、どっちかっていうと自分が目立つことより、グループ内での立ち回り重視じゃないですか。だから、敢えてソロのポテンシャルが見たいって、オーダーだったみたいですよ。もっといけるのに、もったいないって」
――もっと、いける。
（どこへ？）
そんなの、決まってる。

「では、本番行きまーす！　５秒前、４、３……」
張り詰めてしんとした空気の中、アクションのキューが出る。
行くべき場所は決まっいる。
ふと、オーディションのページに書かれた『きみも、輝く一番星に』というキャッチフレーズを思い出した。
もっと、輝ける。
先へ、もっと上へ。
そう信じて、自分を見てくれるひとたちがいる――。

「それでは、聞いてください――Shiny Stars」

今回登場した人物をご紹介！
◆辰巳マキ（CV：徳武竜也）
クールで真面目。まっすぐな性格で、自分にも他人にも嘘がつけない不器用なタイプ。そのため、他人と衝突を起こしがちでもある。