天才と天才、まったく新しい『デビルマン』を再起動! そこに込めている思いとは?――永井豪先生 ✕ 湯浅政明監督『DEVILMAN crybaby』対談
『デビルマン』といえば、永井豪先生によるマンガ史&アニメ史に残る不朽の名作。物語こそ知らなくても、作品名を知らない人の方が少ないでしょう。そんな『デビルマン』が、『四畳半神話大系』(2010年)や、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)、『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)で監督を担当した湯浅政明監督にて復活します。湯浅政明監督といえば、作家性の強い監督であり多数の賞を受賞している実力派。
天才・永井豪先生が作った原作を、天才・湯浅政明監督がアニメーションにする。しかも、Netflix(ネットフリックス)という新しい表現メディアでの公開ということもあって、期待は高まるばかりです。
今回は、そんなふたりの天才の対談をお届けします。「永井先生からのオーダーは?」「湯浅監督は物語をどう考えアレンジしたのか?」など、貴重なお話ばかりです。
――今回の『DEVILMAN crybaby』は、第一印象として原作の絵とはかなり違うアプローチなわけですが。
湯浅:狙いとしては、少し大人めの方にも観ていただけるようにということで、今風な絵にさせていただきました。
永井:細部のキャラクターや設定はだいぶいじられているんですけれど、それでも『デビルマン』の芯の部分は最後まできちんと捉えていただいていますし、現代風にアレンジすることによって、今の若い世代の人たちにも「自分たちの時代」の物語として感じていただけるものに完全になっているのではないかなと。そこが嬉しいですね。
湯浅:風采的なところで言うと、街の不良たちが「番長」から「ラッパー」になっていることなどが挙げられますが、単に見た目を今風にしたいというわけではなく、原作のキャラの様に自分たちの思ったことをわりとストレートに言うのが、現在はラッパーの方達だろうという判断です。ただヤンチャなだけでなく、彼らがある意味律儀で、且つ、ちゃんとしたメッセージを持っているのが、最終的に美樹たちと想いを共にするという流れを作るうえでも合っていると思いました。ラップで、わざと説明的なセリフを歌詞にしてしまうこともやってますね。
――オープニングに電気グルーヴを起用されていることも含めて、クラブミュージックやラップが随所で効果的に使われていますね。
湯浅:ひとつは明と了の「バディもの」の雰囲気でスタートしたかったので、軽快な感じを狙ってノリをよくしているんですが、とにかく音楽の牛尾(憲輔)さんという方が、こちらからお願いしたわけでもない曲まで「なんかこういうのできたんですけど」って持ってきてくれるんですよ(笑)。それで、そこから「この曲ならこういう使い方ができるな」って思いつくこともあったりして、音楽から演出が広がることもありました。今回はテレビと違って、配信はある程度なら話数によって尺が変わっても構わなかったので、エンディングに向けての間の取り方が自由にやりやすかったことも幸いでした。
――悪魔を呼び出す「サバト(悪魔崇拝の集会)」とクラブカルチャーが融合しているのも、非常に印象的でした。
湯浅:45年前に原作に描かれているサバトも当時のアングラ的なカルチャーと結びつけて描かれていましたが、現代はクラブだけでなく、ドラッグなども現実的なものとして認識されていますので、それらが「悪魔を呼び出す」という行為をよりわかりやすくしている面もあるかもしれないですね。
陸上競技をテーマに含めた湯浅監督狙いとは?
――美樹たちが陸上競技に挑むアスリートとなっているのも今作の特徴的なアレンジだと思うのですが、そこにはどういった意図があるのでしょうか?
湯浅:悪魔と人間の力の差を、はっきり絵として出したいなというのがまずありました。
不動明や、他の何人かのもともとそれほど突出していなかった選手が、デーモン化することで極端に走るのが速くなるのが顕著ですが、どんなに人間ががんばってもデーモンにはかなわない力の差があるわけですね。そもそも、走ることでは人間は犬猫にすら負けますから(笑)。
しかしそのうえで「なぜ走ろうとするのか」に共通するテーマが美樹たち人間の拠り所になっていて、それが飛鳥了が最後に気がつく、合理的な「力の世界」だけでは割り切れない「大事な何か」へとつながっていくストーリーを描くために陸上競技を選びました。
特にリレー競技の「バトン」は、クライマックスにおいて誰かが死んでもその想いを次に伝えることの象徴として出しています。
――デーモン化した明の走り方などはアニメーションの表現としてもインパクト抜群でしたが、そういった点で特に意識されたことは?
湯浅:特に意図したのはデビルマンのワイルドさです。不動明の姿のときも、性的な欲求であったり、あるいはものを食べるといった欲望に関するところは大胆に描いていますし、デビルマンとして敵を倒すときも、パンチやキックではなく「引き裂く」アクションを強調して残虐さが伝わるように狙っています。
永井先生から湯浅監督へのオーダーは「自由!」
――ちなみに、永井先生のほうからオーダーされたことはありましたか?
永井:いえ、もう、どんな風にやっていただいても構いませんとお伝えしました(笑)。
湯浅:非常に信頼していただいているというようなことを言ってくださるので、こちらとしては『デビルマン』以外の作品も含めた原作を読み込みまして、「もし今、永井さんが描かれるのであればこうしたいんじゃなかろうかな」ということも考えながら作っていきました。
――非常に大胆なアレンジをされている一方で、逆に「ここだけは変えない」と決めていたことはありますか?
湯浅:美樹ちゃんの身に降りかかることやラストシーンはもちろんそうなんですけど、ジンメンやシレーヌとの戦いも、場所やシチュエーションは違うものになっていますが、やっていること自体はあえて変えていません。それを上手く成立させるために、周りの状況を整えていく作り方をしています。
――今回はアルマゲドン(最終戦争)まで含めてアニメ化されることが事前にアナウンスされていたのも話題となりましたが。
永井:それを聞いて、大変だろうなとは思いましたね。以前に挫折された方もいらっしゃいましたし(笑)。
――連載当時は、あのクライマックスはどのような境地で描かれていたのですか?
永井:いやぁもう「勢い」ですね。
一同:(笑)。
永井:自分でもどうなるかわからないで描いていて、それがああなっちゃったっていう。
――そうした一種のライブ感のようなものも含まれた衝撃的な結末を、あらためてアニメーションとして形にするのは苦心されたかと思いますが。
湯浅:世界中で起きていることを、そのまま正面から見せるようなやり方は難しいだろうなと思いました。
なので、そこはある意味無理と割りきって、あちこちで天変地異も起って火山も爆発しまくり、灰が立ちこめて何が起きているのかはよく見えない状況を作っています。見えているのはここだけだけど、他でも様々なことが起きているんだろうなぁというのは、見せるより、想像してもらった方がいいのかなと。
永井:僕としては『デビルマン』がようやく最後までアニメとして見られるというのが、とにかく嬉しいことですね。最後まで拝見しましたけど、本当によくやっていただいたと感激しております。
ふたりの天才から、みなさんへのメッセージ
――それでは最後に、これから『DEVILMAN crybaby』を見るファンのみなさんに向けてのメッセージをお願いします。
永井:最初にも言った通り、今回はなんといっても若い人にも楽しんでいただけるものに仕上がっていますので、今まで以上に幅広い世代の方に見ていただきたいですね。そして原作を読んだことがない人もいると思いますけど、これをきっかけに様々な『デビルマン』の世界に触れていただければ嬉しく思います。
湯浅:僕としては手がけることに緊張感もあり、非常にハードルの高い仕事となりましたが(笑)、色彩や音楽、そして声のほうなど、関わっていただいたスタッフやキャスト全員の頑張りによって、とてもいいものが形になったと思っています。なにせ永井豪先生の『デビルマン』が原作ということで、非常に多くの方たちに見ていただけるでしょうし、どのような反応が返ってくるのか僕も楽しみにしています。
――ありがとうございました。
[取材・文章:大黒秀一]
作品基本情報
【配信情報】
2018年1月5日(金)Netflixにて全世界独占配信
【キャスト】
不動明:内山昂輝
飛鳥了:村瀬歩
牧村美樹:潘めぐみ
ミーコ:小清水亜美
シレーヌ:田中敦子
カイム:小山力也
長崎:津田健次郎
ワム:KEN THE 390
ガビ:木村昴
ククン:YOUNG DAIS
バボ:般若
ヒエ:AFRA
【スタッフ】
原作:永井豪「デビルマン」
監督:湯浅政明
脚本:大河内一楼
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:倉島亜由美・押山清高
色彩設計:橋本 賢
美術監督:河野 羚
撮影監督:久野利和
編集:齋藤朱里
音響監督:木村絵理子
アニメーション制作:サイエンスSARU
Produced by Aniplex Inc. / Dynamic Planning Inc.
In Association with Netflix
【物語】
主人公、不動明はある日親友の飛鳥了から、地球の先住人類「デーモン(悪魔)」が復活し、地球を人類から奪い返そうとしていることを知らされる。了は明に、デーモンの超能力を取り入れて戦わなくては人類に勝ち目はないと、デーモンと合体する話を持ちかけてくる。明は、悪魔の力と人間の心を持つデビルマンとなることに成功。デビルマン、不動明の戦いが始まるー。