『刻刻』原作・堀尾省太先生、監督・大橋誉志光さん、キャラクター原案・梅津泰臣さんの鼎談インタビュー! 止まった世界をアニメで描くということとは?
2018年1月よりついに放送となるTVアニメ『刻刻』。本作は、時が止まった“止界(しかい)”を舞台に、とある家族に巻き起こった誘拐事件から物語が始まります。
この異質な空間を作り出した堀尾省太先生は、どのような気持ちで『刻刻』を描いていたのでしょうか? そして、アニメに挑戦するスタッフ陣の心持ちは?
ということで、今回はなんと、堀尾省太先生、監督・大橋誉志光さん、キャラクター原案・梅津泰臣さんの鼎談インタビューを実施。豪華メンバーがチャレンジした『刻刻』の世界に迫ります。
堀尾省太先生プロフィール
広島出身。1996年、『磯助』で「アフタヌーン四季賞大賞」受賞。『刻刻』が連載デビュー作でもあり、マンガ大賞2011にノミネートされた。
大橋誉志光監督プロフィール
1965年4月1日生まれ。様々な作品に原画、絵コンテ、演出として参加し、2001年に『ギャラクシーエンジェル』で初監督を務める。
監督作品として『ウィッチブレイド』(2006年)、『セイクリッドセブン』(2011年)、『AMNESIA』(2013年)などがある。
梅津泰臣さんプロフィール
1960年12月19日生まれ。福島県出身。様々な作品に参加しており、特にOP、EDアニメーションに定評がある。
監督作品として『MEZZO -メゾ-』(2004年)、『ガリレイドンナ』(2013年)、『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』(2014年)がある。
樹里は実は……!
——さっそくですが、先生の方からまず最初にアニメ化決定の感想からお願いします。お話を聞いた時どう思いましたか?
堀尾省太先生(以下、堀尾):非常にありがたいの一言ですね。選んでいただいただけでお腹いっぱいと言いますか(笑)。
——ビックリというのが一番ですかね?
堀尾:そうですね、タイミング的にビックリでしたね。
——連載が終わってからちょっとありましたしね。
堀尾:ここまで出なかったから、まぁ今後もないだろうな、なさそうだなという感じだったので。
——ちなみにお二人のことはご存知でしたか?
堀尾:とにかくアニメに疎いもので(笑)。申し訳ないです。
大橋誉志光さん(以下、大橋):さっきもその話をしていたんですよ。『機動戦士ガンダム』は観ているそうです。
梅津泰臣さん(以下、梅津):『ガンダム』シリーズが好きって仰ってましたよ。
堀尾:『ガンダム』シリーズで言えばファースト(『機動戦士ガンダム』)と『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が主です。
梅津:ジブリは制覇してたよね。
堀尾:そうですね。
大橋:梅津さんは『ガンダム』のオープニングがっつりやってるので観て下さいという話を(笑)。
梅津:『機動戦士Ζガンダム』ですね(笑)。
——アニメ化が決まったという発表後、周囲の反応はいかがでしたか?
堀尾:家族友人にはギリギリまで、一応念のため黙っていたので(笑)。公式発表までは言わないでおこうという感じでしたが、普通におめでとうと言われました。
大橋:率直な意見を聞きたいんですけれども。漫画家さんにとって映像化されるってメリット・デメリット当然あると思うんですけれども。考えちゃったりします?「こんなクソなアニメ作りやがって!」みたいな(笑)。
一同:(笑)。
大橋:絶対あると思うんですよ。
堀尾:感覚としては一回自分の手を離れて別のプロ集団の人たちが再構築するものなのかなと。こちらとしてはただ拝見して、出来が良ければ絶賛させていただきますっていう(笑)。そういう感じですね。
梅津:大人ですね(笑)。
堀尾:PVを観た限りでは、ここまでのクオリティに仕上げて頂いて本当にありがたい限りです。
——アニメ化する際にご要望とかなかったんですか?
堀尾:けっこう初期段階で簡単な構成をお話しの方でさせていただきました。その時に原作通りのシーンを入れて欲しいということをこちらから言ったんですが、後になって「あのせいで良くない結果になったらどうしよう……」ということを後から考えて。あんまりこちらから色々言わない方が良いんだろうなって思ったんです。
梅津:そこってわりと制限はされなかったんですか?
大橋:こちらとしても根本の部分でもあるので、「どうしてもここは嫌です」という部分は押してまですることはないと思っていました。僕らの提案した変更点がいくつかあったんですけど、それに関しては「分かりました」という返事をいただけましたね。
作品によってはセリフから顔の向きから何一つ変えるな、みたいな作品もあったりするんですけれど、全くそういうのもなくて、ありがたかったです。
堀尾:原作が割と、ぱっと見が地味目で(笑)。万人受けしないものだという自覚があったので、演出はもうお任せしたほうがいいかなと。
大橋:梅津さんが最初にあげてきたキャラクターが樹里ちゃんだったんですけど、オーダーが胸をもうちょっと大きくして下さいという(笑)。
——そんな要望が(笑)。
大橋:樹里ちゃんってそんなに巨乳だったっけ?って。
堀尾:すいません、ちょっと画力が追いつかないんで伝わってないと思うんですけど(笑)。まあ巨乳とは言わないですけども、普通よりプラスアルファぐらいの感覚で一応本人は考えていました。
大橋:一応アニメ的にも樹里は大きめ、間島はペッタリで(笑)。
梅津:でも間島エンディングでペッタリではなかったね。
大橋:それは梅津さんの欲望が(笑)。
堀尾:絵コンテだけ拝見してます。
梅津:エンディングちょっと間島大きくなっちゃった(笑)。
堀尾:あの内容からしたらそうですね。そういった見栄えはおそらく必要なんだろうなと。
大橋:素晴らしいですね(笑)。
アニメの樹里は女子大生をイメージ
——監督は作品に対してどんな印象を持ちましたか?
大橋:実は第一印象、「アニメに向いてるのか、これ」っていう感じでした。監督として話をもらった時、色々ハードルはあるという話は率直にしました。最初は、企画のプロデューサーから「止まってるからアニメ作るの楽じゃん」みたいなノリで来たんですけど(笑)。
何故大変かというと、例えば物の位置一つでも注意して合わせなきゃいけないんです。アニメはカットごとに集団作業で作るので、Aという人がここに物を描いたけど、Bという人は別の所に描いたりすることも出てくるんです。
しかし、今回は物が動かないからその統一感を取らないといけない。しかも影の向きだったりポーズとか表情まで、全部合わせなきゃいけない。これけっこう大変ですよ。
——そういう調整はどうされているんですか?
大橋:それは3Dでアタリを取って、先に作業した人が申し送り的に「こういうポーズになっています」と指示を出しつつやっています。でも、結局のところトータルで全部把握してるのは僕しかいないので、全部僕がチェックしています。普通だとあるけどお任せして、出来上がりに対して良いとか悪いとかというジャッジをするのが監督の仕事なんですけどね(笑)。
だからバグチェックの感覚に近いですね。多分バグはないと思うんですけど、あったらごめんなさい(笑)。
——作品の物語とか、作品性についてはどう思われましたか?
大橋:スーパーマンが出てこないんですよね。みんな普通の人で、お茶の間でというか。日常の中で戦っている。
もちろん樹里が特殊能力を使えるのはありますけど、能力が特化していて、あまり役に立たないという。一人一人だと役に立たないんだけど、組み合わさって有効に役に立つというのも、今までにない面白い力の使い方だなと。
なので、画面作りとか動きでも、とにかくプロがやるような動きをしないでと指示しています。
物語では、喧嘩になったり殺し合いになったりするんですけど、こういう時、アニメだとどうしてもかっこよく描いちゃうんですね。ポーズが決まってスパンスパンとやっちゃうんだけど。それだと普通の人じゃなくなるから。
無駄な動きもするし、そのぶん動かすのは大変なんですよ。無駄な事いっぱいしながらゴロゴロしながら戦うんです。中盤で人とやり合うシーンがあるんですけど、かなり頑張って普通の人の戦いになっていると思います(笑)。
——普段のアニメではなかなか見られない描写ですね。梅津さんはいかがでしょうか?
梅津:最近、いろいろな漫画を読むんですけど、途中で飽きちゃうんですよ。4巻・5巻ぐらいで。なんとなく展開が読めてきちゃったり、興味が薄れていくっていうのがけっこう多いんです。
でも、『刻刻』はそうじゃなかったんですね。最後まで面白い。次どうなるんだろうと思って読めた漫画だったんです。まずそこに僕は感動しましたね、面白いなと。この原作者は何をモチーフにこういう漫画を描こうと思ったのか。
この漫画だったらやりたいと思ったのが大きいですね。実際関わってみると、先生は地味だっておっしゃってたけど、キャラクターのデザインはきちんと作品の中で機能しています。僕はそのキャラクターのデザインを壊したくないと思ったんですね。
でも、プロデューサーの山本さんの意見もあって、樹里ちゃんだけは変えることになりました。今風の女子大生みたいなイメージと、原作を壊したくないから原作のイメージを入れつつ、樹里ちゃんを作るっていうのが一番今回の命題だったんです。
だから樹里ちゃん以外は基本的に原作を踏襲して、あの世界を壊さずにデザインしたいと思いました。
堀尾:原作者から見ますと、視聴者の人達は全然違うっていうかもしれないんですけど、僕の目から見た限りでは顔は樹里ですね。
大橋:マインドは変えないようにしようというのは、自分の中の大前提でした。原作の彼女のハツラツとした感じというか、一直線でちょっと猪突猛進な感じだったりとか。そこの根幹のマインドは絶対変えていないつもりです。
——今回は、キャラクターデザインではなく、キャラクター原案なのはその樹里を変えようという話が出てきたから原案なのですか?
梅津:基本はデザインした本人が、本編に関わる方が良いと思ってるのですが、今回は原案だけです。デザインだけして本編の絵は別の人っていうのが現場多いんだけど、そういう場合って概ねうまくいかないんですよ。
だからキャラ表にした本人が現場の絵も担当するのが一番良くて。僕の場合は原案もやって、デザインもやって本編もやるっていうのは、ちょっと物理的にできなかったんです。なので今回はちょっと原案だけっていう話になったんです。
だから原案の世界だけできちんと『刻刻』の世界観を確立しようと思って、集中して仕事に取り組んだって感じですね。
——なるほど。ちなみに原作を踏襲するという話が出てきましたけれども、原案でやりやすかった、やりにくかったところは何かありましたか?
梅津:ここ数年のアニメって、10代のキャラクターばっかりという作品が相変わらず多かったりするんですね。女子しか出てこないとか高校生しか出てこないとか。あとは男性しか出てこないとか。
年齢幅が色々あっていろんな世代の人たちが集合する作品って本当に少ないんです。そういう意味でも『刻刻』はとても大好きな作品だったし、やっててとても楽しかったですね。
大橋:新生児からおじいちゃんまでの振り幅(笑)。
梅津:夢のような理想設定や限定世界観を否定するつもりはないんだけども、多すぎて、描く方もへきえきしちゃう(笑)。子供や中年やじいさん描きたい(笑)。
——確かにじいさんはキャラが立っています(笑)。いろんな層のキャラクターを出そうというのは先生ご自身の中でも決めていたんですか?
堀尾:舞台を一つの家族にしようとなった時に、自然とそうなった感じですね。じいさんは本当はもっと年齢を上にする予定でした。ちょっとボケていて、わけもわからず術をつかっちゃうみたいな。でも、途中で『童夢』(※1)だと思ってやめたんです(笑)。
※1:童夢
1980年からアクションデラックスなどに掲載された大友克洋の漫画。とあるマンモス団地で、独身老人が超能力を使い事件を巻き起こす物語。
——ちなみにみなさんのお気に入りのキャラは?
梅津:僕は全部。全員が良いキャラだと思うね。
大橋:自分も全部ですね。主役もそうですけど、端役までちゃんとバリエーションというか、それぞれキャラクターが生きているっていう感じがあるんです。役者さんもすごく楽しそうに演じられていますよ。いわゆる名前がA・B・Cみたいな人も含めて。キャラクターがリアルで、生きてるってこういうことだねっていう(笑)。
そういえば裏エピソードですけど、ロケハンをしにいったときに、風体がじいさんまんまの人がたまたま歩いていて(笑)。頭白くてジャージで、いかつい四角い顔で。向こうから歩いてきた瞬間に、みんな「じいさんだ!」ってじろじろ見るわけですよ(笑)。写真撮っちゃおうかなっていうぐらいの勢いで、ずっと見ていて(笑)。
そしたらじいさんが「何で俺の顔見るんだ?」みたいな感じで歩いていったんだけど(笑)。「本当にいたんだ、ひょっとしてこれモデルで描いたんじゃね?」っていうくらいそっくりな人がいてビックリしましたよ。
止まった世界をどう表現するか
——本作で気になるのは、神ノ離忍(カヌリニ)の存在です。何かモデルがあるそうですね。
堀尾:デザインに関してはビグ・ザム(※2)とかの機械をメインに、質感に巨神兵(※3)、樹木はラピュタ(※4)ですね(笑)。それに何とかオリジナリティが出るように樹を生やしたと(笑)。
※2:ビグ・ザム
『機動戦士ガンダム』に登場する兵器。巨大な全長と2本の足が特徴的。
※3:巨神兵
宮﨑駿の漫画『風の谷のナウシカ』に登場する人工生命体。人間のような姿をしているが、皮膚がなく、筋肉が露出している。
※4:ラピュタ
宮﨑駿監督の映画『天空の城ラピュタ』に登場する城。巨大な樹木に覆われながら空を漂っている。
——神ノ離忍を登場させていたのには何か理由があったんですか?
堀尾:止まった世界で好き放題できるとなった時に、物語に関係ない人間をむやみに殺戮する人が出てきてもおかしくないと思ったんです。そういうシーンを描きたくなかったというのが理由ですね。だから止まっている人を殺そうとすると現れて止めるんです。
大橋:僕自身もあの設定を見た時に、多分みんなが持っているモラルが具現化したものなのかなと。ほっとくとみんなこういうことしちゃうよねっていう。
立法と裁く機関が一緒になった存在というか。ほっとくと人間って悪いこと絶対にしちゃうから、絶対そういう存在も必要だよねっていう意識が、多分あの存在を作ったのでは、という。これは僕の考えですけど。
堀尾:そうですね。物語中でもそういう説明が出てきますけど。そこの理屈付けは担当編集の助けがありました。
梅津:個人的にちょっと質問していいですか? 時が止まった世界を舞台にしようと思ったの何故なんですか?
堀尾:複合的だと思うんですけど、以前、能條純一先生(※5)のところにアシスタントに行ってまして。当時先生が描いてらした漫画で、時間が止まったところで殺し屋に狙われるシーンというのが一瞬だけ出てくるんですよ。そのシーンがすごい面白くて、こういうシーンをもっとたくさん出せばいいのにって、ちょっとやきもきしたことがありまして。
※5:能條純一
漫画家。代表作に『麻雀飛翔伝 哭きの竜』などがある。
梅津:それが発想の源にあったということですか?
堀尾:そうですね。閉じられた世界で、決められた人数だけであーでもないこうでもないってやっていくシチュエーションですね。邪魔が入らないやりやすさというのがひとつ魅力としてあったような気がします。
大橋:アニメでもそのことについて、背景の人と話しをしました。いかにして圧迫されている空間に切り取るかと。
だからなるべく遮蔽物を多くして、見晴らしの良い風景を作らないようにしています。空を見ても電線があったり、何か常に囲まれていて圧迫されている画面作りをしたかったんです。
この作品には、胸が締め付けられるような圧迫感というのが常に存在しているので、何とかこの感情を映像にできないかという話はしていました。
今の話しを聞いて外れてなかったんだなとホッとしています。
堀尾:楽しみです。
——特に気をつけて制作していることは何でしょうか?
大橋:アニメーションというのは、基本的にプラスされていく表現なんですね。例えば川がある、もちろん絵でもサラサラ流れているんだけど、そこに音があり、鳥が鳴いている声が入ったり、ピースを足していくことで実存感って出すんですけど、『刻刻』はその音に関するピースが無い世界なんですよ。
だから実存感をどうやって出すのか。実写の場合はカメラを向けば勝手に音が入ってくるし、実写の絵そのものがかなり情報量があるんですけど、アニメって切り取られた部分は情報量が少ないので。普段はけっこう音に救われている部分があるんです。
音響監督も悩んでましたよ。今回は、その場の雰囲気に合わせた音を流すことで、圧迫感などを表現しています。
——なるほど。生活音ではなく、そういう効果音を入れてると。
大橋:そうです。効果音楽というか、アンビエント(環境)ミュージックっていう感じですね。
視聴者の方は多分、音が鳴っていないことをあんまり意識してないと思うんですけど、その音楽を無くしちゃうと完全にシーンとして何も鳴らない状況になってしまうんです。喋ってる声と、キャラクターが出した音しかしない。案外寂しい映像になっちゃうんですね。
——新しいアニメの形というか、新しい挑戦をされているんだなと感じました。
梅津:僕からもうひとつ質問していいですか? 先生は、物語の死生観ってどういうふうに考えていますか? 哲学みたいなものって。先生の死生観が反映されてるのかなと思ったんだけど。作品全体の雰囲気とか、キャラクターの末路とか。
堀尾:そうですね……。あまり意識して考えたことがないんですけど。まあどこかで誰でもいずれ死ぬというようなことは考えていました(笑)。
梅津:なるほど。有機体って永遠じゃないじゃないですか。人以外にも生物って必ず死ぬわけだけど、その過程で何か先生の中の死生観みたいなものがこのマンガに反映されているのかなと思いながら読んでいました。
もうひとつ聞きたいことがあって(笑)。漫画の中でほのかにちょっとエロティックな部分ってあると思うんですけど。あんまり過剰に走らなかったっていうのは先生の中で理由があるんですか?
堀尾:多分そういう描写をしたことがないというのが一番の原因かなと。でもなんとなく滲み出る感じでは描きたかったんです。
梅津:それは十分出てますね。キャラクターの行動原理にフロイトやユングじゃないけど、性本能のリビドー的な概念も入っているんじゃないかって感じてたけど、どこかでセーブをかけてるのかなと思いました。もしくはご自分の中で、そこはテーマじゃないと割り切っているのか、と。
止界に入っても……
——ちなみにみなさんは止界に入ったら何してみたいですか?
梅津:僕の前作の監督作品で時を止める魔術を使うキャラ(※5)がいて、時が止まる描写を実はちょっとやっているんですよ。その際は愛する人のために、その人の危機を、時を止めて回避していくというシチュエーションで使いました。
この『刻刻』を読んだ時に、こういう時の止め方っていうのは、僕が作った時よりも切なくてかつ悲しいよね、全体的に、と感じました。
※5:時を止める魔術を使うキャラ
2014年に放送されたTVアニメ『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』に登場する天刀もよ。声優は竹達彩奈。
大橋:隣にいるのに会話できないですし。次元が違うような人達になっちゃうわけじゃないですか。
あれはアニメでもそこを若干ブーストしたんですけど、人がいっぱいいるところに行けば行くほどその気持ちがざわざわしちゃうというか。むしろ人がいない方が一人だからいられるんだけど、こんなに人があまりにいっぱいいるのに誰とも話ができない。これは切ないだろうなぁって思いましたね。
堀尾:多分思ってるより早く飽きるんだろうなとは思いますね。
——確かにそうですね。
梅津:嫌だよね、時が止まった世界にいるっていうのはね。一つだけメリットあるとしたら、僕らはその間に原画を進めて(笑)。めっちゃクオリティの高いものあげて、時間をまた動かして「もうできた」って言っちゃうかな(笑)。半年ぐらい止めてやりたいです。
大橋:でもじわじわ年とりますよ。
梅津:代償交換は仕方ないね(笑)。アニメやってると常に時間との戦いだし、いつもタイムアップっていうことが多いから。時間が止められるんだったら止界に入ってアニメ制作をする(笑)。
大橋:同感です(笑)。
——根っからのアニメ—タ—ですね(笑)。
梅津:AVでもそんなAVあったね(笑)。
——ありますね、最近の流行りですよ(笑)。
大橋:だいたい男だったらそういうことを考えるよなっていう。
堀尾:あと人体デッサンがやり放題(笑)。
大橋:いろんな角度から、どんなに近寄っても気にせずデッサンしまくれる(笑)。
——先生は漫画を描いている時に、止界に入ったら……と考えていましたか?
堀尾:いやもう、毎月入りたかったですね(笑)。とりあえず睡眠ですね。
——(笑)。漫画は描こうとは思わなかったんですか?
堀尾:どうですかね。たぶん僕の場合は描けないと思います。いくらでも時間があると思ったら、たぶん遊んじゃうんじゃないかっていう。
大橋:大丈夫です。飽きたら仕事する(笑)。もう遊び飽きたら仕事しようかなって(笑)。
止めをしてこなかったアニメを止める
——『刻刻』の最大の魅力って何でしょうか?
大橋:やっぱり時間が止まっている世界。今回、アニメを作る上で大命題でもあったし、世界観を描き切るっていうところにおいても、やはり時間が止まっているというのをいかに形にできるかっていう部分も含めてですね。
堀尾:そうですね。やっぱり映像で観るとそこはどうなるんだろうっていうのが一番思います。
大橋:でも、やっぱり難しいですよね。止まってる様を描くっていうのは。
梅津:なかなか抵抗がありますよね。違和感も多いしね、最初は。
堀尾:描く上での違和感というのはどういう感じなんですか?
梅津:普通アニメって止めちゃうと、やっぱりお客さんから批判されるわけですよ。止めたら紙芝居だって。動いてなんぼだから、アニメーションって。
作品によって止め絵で成立する場合もあるけど、基本は動いてなんぼ。なかなか我々の中で止まった絵っていうのはちょっと抵抗があるんです。やはりどこか動いているべきだっていうのがあるし。特にジブリアニメなんかは動きが繊細だし。
堀尾:そうですね。とにかくあちこち動かしているところがクオリティが高く見えますもんね。
梅津:宮﨑さんもやはり止めってほとんど多用しないから。止まった世界を表現するというのは頭で分かってても、なんとなく肌感的にちょっと抵抗があるっていうのは最初はあるよね(笑)。
——本当にアニメ史の中でも新しい一歩になるんじゃないかなと思います。
堀尾:良い意味での違和感みたいなものがあったらすごい楽しいだろうなって期待しますね。
梅津:あと、僕はそのキャラクター感、世代論を含めてとても魅力的だと思う。先生が思ってらっしゃる死生観とか、哲学みたいなものがちゃんと作品に反映されていて、それが素敵だなと思う。最後まで持続させて読ませる力というのが大きいですね。
大橋:実はこの作品監督の話をいただくまで申し訳ないですけど読んだことなかったんですね。全8巻渡されて、とりあえず読みますねって言ったら結局朝まで止まらなくなってたんです(笑)。
——確かに一気読みしてしまう、不思議な魅力があります。
梅津:ちなみに、さらに質問があるんですけど。これ、実写化しないんですかね?
堀尾:僕はまだ全然聞いてないんです(笑)。
梅津:オフレコだったりするんですかね?
編集:正式なオファーはないです。漏れ聞こえてきたみたいな(笑)。
——(笑)。では、最後にアニメを楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
梅津:キャラクター原案という形で参加させていただいて、非常に幸せでした。『刻刻』という作品に少しでも貢献できたらいいなと思います。またオンエアの成功を心から願っています。ぜひ見てください。
大橋:実はまだ、1話が100%という意味では完成してなかったりもしているんですけど、もう作業は最終話に入っていて、大分着地点も見えています。現場なりに一生懸命頑張っている状況で、クオリティも日々僕がお尻をひっぱたいて少しでもアップするように頑張っています。ぜひ楽しんでください。
堀尾:僕はどちらかというと視聴者の立場なんですが、個人としてはすごい楽しみです。これまでのアニメとは異なるものとか違和感みたいなものを感じられる作品になっているんじゃないかと。ぜひ見ていただきたいなと思います。
梅津:あ、あと、エンディングは僕がディレクションやってますのでご覧になって下さい(笑)。
大橋:今回も梅津さんワールド全開ですよ。
梅津:もう一つの『刻刻』の世界みたいな感じ(笑)。
大橋:樹里ちゃんのフルスペックが見れますっていう(笑)。
梅津:先生に怒られちゃうかもしれないんで、その辺は声を小さめに(笑)。
堀尾:いえいえ(笑)。
——(笑)。ありがとうございました!
[インタビュー/石橋悠]
作品情報
2018年1月7日よりTOKYOMX、BS11にて毎週日曜24時30分より放送予定
Amazonプライム・ビデオにて日本・海外独占配信
(第1話はテレビ放送に先駆け1月6日(土)24時頃より先行配信)
■イントロダクション
永遠の6時59分……
佑河家に代々伝わる止界術。止界術を使うと、森羅万象が止まった“止界”に入る事が出来る。ある日、主人公樹里の甥と兄が、誘拐犯にさらわれてしまう。
救出の為にやむを得ず“止界術”を使うが、そこにいるはずのない自分以外の“動く”人間たちに急襲される。彼らは、止界術を崇める「真純実愛会」。止界術を使用する際に必要な“石”をめぐり、止界の謎、佑河家の謎が徐々に解明されてゆく……
■スタッフ
原作:堀尾省太「刻刻」(講談社『モーニング・ツー』所載)
監督:大橋誉志光/シリーズ構成:木村暢/キャラクター原案:梅津泰臣
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:日向正樹
音楽:未知瑠/主題歌:「Flashback」MIYAVI vs KenKen
エンディング・テーマ:「朝焼けと熱帯魚」/歌:ぼくのりりっくのぼうよみ
制作:ジェノスタジオ/製作:ツインエンジン
■キャスト
佑河樹里:安済知佳
間島翔子:瀬戸麻沙美
じいさん:山路和弘
佑河真:岩田龍門
佑河貴文:辻谷耕史
佑河翼:野島裕史
佐河順治:郷田ほづみ
潮見:内田夕夜
迫:吉野裕行
原作公式サイト
テレビアニメ『刻刻』公式サイト
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