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『映画ドラえもん のび太の宝島』今井一暁監督インタビュー

『映画ドラえもん のび太の宝島』インタビュー 今井一暁監督が考える“宝物以上の、宝物”とは? 

いよいよ2018年3月3日公開となる『映画ドラえもん のび太の宝島』。映画ドラえもん38作目となる今作は、夢とロマン溢れる大海原を舞台に、突如現れた謎の島に隠された宝を巡って大冒険を繰り広げる物語となっています。

本作で監督を務めるのは、テレビアニメ『ドラえもん』で演出を手がけてきた今井一暁監督。インタビューでは、『宝島』というテーマに込められた監督の想いや制作の裏側について語っていただきました。さらに、山下大輝さんが演じるフロックについてもコメントを頂いています。

▲今井一暁監督

▲今井一暁監督

今井監督が“全身全霊”で取り組んだ『ドラえもん』

――まずは今作の監督を務められることになった経緯からお願いします。

今井一暁監督(以下、今井):脚本の川村元気さん(※1)から企画の段階で、スティーブンソンの『宝島』をベースに、ワクワクするような海洋冒険ものを作りたいというのがありました。

僕は2014年のアニメミライ(※2)の時に『パロルのみらい島』(2014年)という、船に乗って海に漕ぎ出していく話を作っていて。その雰囲気を川村さんが気に入っていただいて、僕の名前が挙がったという風に聞いています。仕事ってこうやって繋がっていくんだなぁと思いましたね(笑)。

――監督に決まった時の感想教えてください。

今井:最初に話が来た時は「えっ!?」って、ビックリしてしまって(笑)。もともと『ドラえもん』シリーズの演出をやっていたんですけど、普段は11分ぐらいの作品を作っているので。『ドラえもん』には9月に誕生日スペシャルがあって、それを経てから監督を務めるという流れがあるんです。

僕は手が遅い方なので、「それぐらいの尺の作品もやれたらいいな」ぐらいに思っていたんですけど。そのスペシャルを飛び越えて劇場版の話が来たので、驚きました。

――そうだったんですね。

今井:もともと僕がアニメ業界に入ろうと思ったきっかけが、小学生の頃にアニメを夢中になって観ていたという、原体験があったからなんです。宮崎駿監督に対する憧れもあって、いつかは子供に向けたアニメ映画を作りたいという気持ちがありました。


『ドラえもん』映画の話が来た時には驚きがあったんですが、「それがやりたくてこの業界に来たんだよね」っていう考えもあって。「難しいかもしれないけど、全身全霊でやらなきゃいけない仕事だな」と思い、引き受けました。

※1:映画プロデューサー。『君の名は。』(2016)をはじめ、『モテキ』(2011)、『電車男』(2005)など、数々の大ヒット作をプロデュースしている。本作では脚本を担当。

※2:2010年から発足された、文化省主催による若手アニメーター育成プロジェクトのこと。2016年より「アニメミライ」ではなく、「あにめたまご」という愛称で呼ばれている。

物語に込められた“家族”への想い

――今作のサブタイトル「見つけたのは、宝物以上の、宝物。」には、どのような意図が込められているのでしょうか?

今井:一番最初にあったテーマは、子供が憧れる宝探しのような、冒険活劇だったんです。子供が楽しめる要素として、なぞなぞを出すオウム型ロボット・クイズ(CV:悠木碧)も、入れています。そこからシナリオを重ねていくうちに、“家族”というテーマが入ってきたんです。

――それは何故でしょうか?

今井:僕には今、5歳の息子がいるんですね。まだ父親になりたてで「どうしよう!? どうしよう!?」と、日々子育てに悩んでいるんですけど(笑)。そんなひとりの父としての僕が普段から考えていたことを、川村さんが折り込みつつシナリオを構成してくれたという感じです。最終的に、宝物っていったい何だろうという話になって。

家族というテーマは、最初から決まっていたというよりは、シナリオ会議の中で徐々に組みあがっていったという感じです。結果、宝探しをあまりしていないので、『のび太の宝島』という題名で大丈夫かという話になれば、たぶん僕のせいですね(笑)。

――作品の中で監督がオススメするシーンや、見所があれば教えて下さい。

今井:全部好きなシーンなんですけど……(笑)。特に、のび太たちが乗っている帆船が嵐に巻き込まれるというシーンが好きですね。宝探しと聞いて、僕がまず思い浮かんだのが帆船だったんですよ。


最初は帆船の資料から探したのですが、日本には帆船の歴史があまりなくて。どうやって動くのかすら、全然分からないという。そんな中で「横浜みなと博物館」に、日本丸という帆船があるという話を聞き、見学に行ったんです。ガイドさんが帆船で航海していた経験のある船乗りの方で、その体験談を話していただきました。

その時に分かったのが、大人数で協力しないと帆船は進めないということ。帆船にはエンジンがついていないので、前に進むには帆で風をとらえなければいけない。そのためには多くの人数と、息のあった操作が必要で、帆船は全員が協力しないと進めないんです。しかも風を利用できたとしても、自転車くらいのスピードしか出ないという。

今作にはのび太と対照的な、フロック(CV:山下大輝)という男の子が登場します。フロックはプログラミングができるなど才能がある少年なのですが、帆船が嵐に巻き込まれるシーンでは、他人を押しのけたり、責めたりしてしまう。


それに対してのび太は「喧嘩しないで協力しようよ」って、みんなに呼びかけるんです。のび太は勉強も運動も苦手ですが、自分ができることを精いっぱいやろうとするんですね。

それを見たみんなは「いっちょ協力するか」という気持ちになって。全員で力を合わせてロープを引いて、嵐を抜けていく。そういうのは帆船っぽいし、すごく好きです。帆船の事をしったとき、ぜひ映画に入れたいと思っていたシーンだったんですね。

――なるほど。ちなみに、フロックは山下大輝さんが演じられていますよね。

今井:今回の話で一番重要なゲストキャラクターが、フロックでした。家族というテーマを描く上で、フロックの芝居はすごく重要なんです。小学生の男の子役を男性の方が演じると、どうしても声が低く入るので、大抵は女性の方になりますよね。

ですが、父親と対峙するフロックには、緊張感のある芝居ができたら面白いと思っていて。男性は人生において、父親と対峙する場面を誰しも体験すると思うんです。なので男性の方が、そういったニュアンスを自然に出せるんじゃないかと思ったんですね。


ちょっとでも声が低くなってしまうと高校生になってしまうので、すごく難しいラインなんですよ。男性の方でも、なんとか小学生ぐらいの声を出せる人がいないかと色々探している中で、山下さんのボイスサンプルを聞いたんです。その声に少年らしさを感じることができたので、山下さんにお願いしました。

実際に声を当ててもらって、すごく上手な方だと思いました。小学生の声を出すために、本人もかなり苦労していたみたいですけど(笑)。徐々にキャラにハマっていきましたね。父親との掛け合いについても、良かったなあって思います。

 

のび太が強いのは、“非力”だからこそ

――『ドラえもん』の作品の中で、一番印象に残っているエピソードを教えてください。

今井:僕が何度観ても泣いてしまうのが『のび太の結婚前夜』(1999年)。しずかパパの「あの青年(のび太)は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ」というセリフで、もう泣ける(笑)。本当に良いセリフだし、それこそがのび太の強さなんだとも思うんですよ。


先ほど話した通り、僕にはいま5歳の息子がいるんですけど。周りのご家庭を見ると、今は早期教育みたいなのが流行っているんですよね。その教育によると、子どもは早い内から英語やプログラミングを習っておいた方が良いとかなるわけです(笑)。

それはもちろん大事だし、本人のためになるとは思うんですけども。もうちょっとベースの部分に、人の痛みがちゃんと分かるような想像力がある方が、より大事なんじゃないかとも思うんですね。

今回の映画の中には、のび太くんがドラえもんのピンチを救うというシーンがあるんです。のび太は大切な友達が苦しんでいる姿を見て、居ても立っても居られなくなる。のび太は弱いからこそ他人の痛みも分かるから、それを助けなきゃ、と思うわけですね。


そういった力の方が、プログラミングだの英語だのというよりも、そもそものベースとして強いだろうと思うんです。

――ありがとうございます。最後に、作品を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

今井:今までの『ドラえもん』の世界観とは少し違うものになっているので、みなさんに受け入れてもらえるか少し不安なところもあります。しかし、自分がこういうのを観たいというものを作るのがクリエイターですし、その思いが無いと作品は作れないので。

子供向けや大人向け、ファン向けなど口で言っても、最終的には自分が観たいものですから。そういう作品を作ったつもりです。みんなに観てもらいたいですし、それでワクワクしてもらえたら嬉しいですね。

――ありがとうございました。

[インタビュー・写真/島中一郎]

作品情報

『映画ドラえもん のび太の宝島』
2018年3月3日(土)公開


原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:川村元気
主題歌・挿入歌:星野源

【CAST】
ドラえもん:水田わさび
のび太:大原めぐみ
しずか:かかずゆみ
ジャイアン:木村昴
スネ夫:関智一
フィオナ:長澤まさみ
トマト:高橋茂雄(サバンナ)
シルバー:大泉洋

【STORY】
「宝島を見つける!」とジャイアンたちに宣言したのび太は、ドラえもんのひみつ道具“宝探し地図”を使って宝島を探すことに。地図が指し示した場所は、なんと太平洋上に突然現れた新しい島だった……。

ノビタオーラ号と名付けられた船で宝島に向かったのび太たちは、あと少しで島に上陸というところで海賊たちから襲われる! 急にあらわれた敵に立ち向かうのび太たちだったが、戦いのドタバタの中でしずかが海賊船にさらわれてしまう!

海賊に逃げられた後、のび太たちは海に漂う一人の少年フロックとオウム型ロボットのクイズと出会う。フロックは海賊船から逃げ出したメカニックで宝島の重要な秘密を知っていた! はたしてのび太たちは海賊からしずかを助けることができるのか!? そして宝島に眠る財宝に隠された秘密とは一体!?

公式サイト

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018
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