ドラマ『インコーポレイテッド』細谷佳正さんが分析!作品見解と、役者としての個性
海外ドラマ『インコーポレイテッド』のDVDが現在好評リリース中!! 2074年、政府が崩壊し、多国籍企業がすべてを統治する近未来。人々は二極化された世界に分断され、支配者たちによって管理されていた。多国籍企業の人間はエリートのスーツ族と呼ばれ、徹底した監視社会と情報セキュリティーに保護された裕福な「グリーンゾーン」に暮らし、壁の向こうには自由ではあるものの、荒廃した貧民エリア「レッドゾーン」が広がる。巨大企業スピーガ社の若き役員ベン・ラーソンは、実は元レッドゾーンの住人だが、愛するエレーナを救うために、身分を偽ってスピーガに潜り込んでいた。時に手段さえ選ばず、彼は破滅と隣合わせの計画に身を投じていく。
本作の製作総指揮はベン・アフレック&マット・デイモン。映画界で活躍し続ける幼なじみで親友のふたりが「このドラマは、私たちが語りたい未来のすべてです」と語る未来の姿に注目です。
今回はDVDリリースを記念して、日本語吹替版で主人公ベン・ラーソン役を演じている細谷佳正さんにお話をお聞きしました。
見どころは、作品のクオリティーの高さと、ベンというキャラクターのギャップ
――ドラマ『インコーポレイテッド』という作品に対する印象をお聞かせください。
ベン・ラーソン役・細谷佳正さん(以下、細谷):作品の台本とリハーサル用のDVDをいただいて、自分で映像を流しながらリハーサルをするんです。この作品は映像のクオリティーがすごく高かったですし、シーンの中に入っている情報量がとても多く感じたので、「映画に近いクオリティーだな」と思いながらリハーサルをしていました。
――作品じたいに緊張感がありましたし、映像もいろいろな角度から撮影されていてハイクオリティーでしたね。
細谷:そうですね。
――作品の見どころを教えてください。
細谷:ベン・ラーソンというキャラクターは、グリーンゾーンで生活している時には、良き夫であり、良き社員であるという非の打ち所がない一面を持っているんですけど、物語が進んでいくに従って、レッドゾーン出身の難民であるということが視聴者の方にも伝わっていきます。
――そうですね。
細谷:その中で、昔レッドゾーンで生き別れた恋人のエレーナを探すために、同僚や上司さえも手にかけたり、罠にかけたりしていき、自分の目的達成のために暗躍しながら目的を遂行していくんです。
その姿というのは、単純に言うとスパイものみたいに見える一面もあります。表向きは良い人なのに、裏では悪いというか、冷酷で残酷なことをしている。ベンに感情移入して観ていただくと、そういったシーンのギャップというのも、見どころとして面白さを感じていただけるんじゃないかなと思います。
――ベンを演じるにあたって、どういうところを意識してされたのでしょうか?
細谷:吹き替え作品ですので、ベン役のショーン・ティールという俳優さんが演じているというのが前提にあります。俳優さんが演じていることを日本語で上手く伝えるということが必要なことだと思っているので、僕はその演技についていく立場。ショーン・ティールさんの演じ方が魅力的に感じているから、自分の感じているものを日本語でわかりやすくやれたらいいなと思って演じていました。
――ショーン・ティールさんの演技も魅力的でしたね。
細谷:彼がベンとしてグリーンゾーンで偽っている良き夫だったり、良き社員だったりというのは、まず最初に視聴者の方に印象付けておきたい事だったのだろうなと思います。グリーンゾーンでのベンはあまり面白味がない完璧な男みたいな感じなんですけど、レッドゾーンでのベンは、未熟なところやもっと人間臭いところがあるんです。作中でもエレーナと一緒にレッドゾーン内の屋上へ行って、ストレス発散をするために叫ぶという、けっこう青春っぽいシーンもあるじゃないですか。
――いいシーンですよね。
細谷:ベンはいろんな面を持っているキャラクターなので、シーンごとに声は変えないんですけど、俳優さんも雰囲気が変わっているので、それに思い切り合わせていくというのは、意識していたと思います。
――思い切り合わせていくというのは?
細谷:例えば、レッドゾーンにいた時の未熟な部分というか、まだ世の中の厳しさを知らない甘い部分っていうのを何となく「いい感じに出来たな」と感じたとします。次にグリーンゾーンでエバークリア(思考や記憶を視覚化する機械)を使って、人を尋問している時に、自分の目的遂行のために、非情になって淡々と作業を進めていくところや、物語の前半、休憩室で同僚ロジャーに「お前も出世を考えているんだったら、俺につくだろ?」って恐喝するシーンなどを思い切りやることによって、「ベンというキャラクターを自分の中で何面も作れたな」という手ごたえを感じてくると、「人物像がより魅力的になっているんじゃないかな」と思いながらやっていました。
作品への手ごたえと、音響監督から送られた大切な言葉
――先程、ご自身で手ごたえを感じられたとおっしゃっていましたが、吹替版の収録中に感じられたのでしょうか?
細谷:実は収録中にはそういったことを感じないんです。この作品に関しては、後から完成した作品を見て思いました。
――吹替版のキャストの方とはお話されましたか?
細谷:作品がドラマで続きものなので、物語が盛り上がってくると、キャストのみなさんが「来週はどんなお話なんだろう?」って、週刊少年誌の次号を楽しみにするような感じで盛り上がっていましたね。
――今回の収録で何か印象的に残っているできごとはありましたか?
細谷:今回全9話収録し終わった時に、音響監督さんから「切り替えが早いし、自分の芝居に固執しない」といったようなことを言っていただけましたね。それは自分のある種の個性であり、特性であると思うから、これから仕事をしていく上でひとつ大事にしていこうと思いました。
――今回の作品は英語なので、英語に日本語で声を吹き込む難しさが加わってくるかと思うんですけど、お仕事をされる際に、海外ドラマ作品ならではの難しさや、海外ドラマ作品で特に意識されているところはありますか?
細谷:映画で公開される吹き替え作品となると、リップシンク(口の動きと日本語の発音の動き)がすごくタイトである場合が多いんです。それを見越して翻訳家の方が脚本を日本語訳にされているというのは感じているんですが、海外ドラマ作品に関しては、リップシンクがそこまでタイトではないなという印象を受けています。
――そうなんですね。
細谷:観客の方は英語版を見ている時に日本語の吹き替えが聞こえてくることはないし、日本語吹替版を観ている時に英語が聞こえてくる場合って少ないと思うんですよね。なので、英語に合わせるというハードルの高い作業ではなくて、画面を離れて観た時に、口ではなく表情や雰囲気に注目しています。その雰囲気を感じ取って、自分がセリフを吹き込んでいくということをするようにはしている気がします。
――今回の作品でも、それはうまくいったなという手ごたえは感じられたのでしょうか?
細谷:それは観ていただく方が判断してくださることなので、僕はもうとにかく必死だったというしかないんですけど……(笑)。
――作品を観て、細谷さんの声はショーン・ティール演じるベンというキャラクターに非常にマッチしていて、素晴らしかったです。
細谷:そう言っていただけると、本当に嬉しいです。
細谷佳正さんが感じる作品見解
――『インコーポレイテッド』は近未来のお話です。気象難民や代理母といったテーマや、PCや携帯電話や腕時計などの最新式機器アイテムが多く登場しますが、細谷さんが気になるテーマやアイテムはありましたか?
細谷:アイテムはやっぱりエバークリアがすごく気になります。エバークリアは思考や記憶を視覚化する機械で、この作品の中では尋問器具として使われていたんですけど、僕は自分が思い出したくても思い出せない過去とか、僕が生まれた時はホームビデオとかなかったので、自分の小さい頃の思い出をちょっと懐かしむためだけに、エバークリアはほしいなと思いました。
――そういう使い方もありますね。
細谷:はい。こんなことがあったなって思いながら、部屋で飲みたいなと。
――エバークリアは気になりますね。
細谷:あとは作中で、ベンと妻のローラが機械を使って生まれてくる子供の見た目のデザインをしているシーンを観て、「これができたらいいだろうな」とは思いましたね。
――お話中に、エレーナという人物の名前がお話に出ましたけど、エレーナとの関係性についてお聞きします。演じられている時はどのように感じていましたか?
細谷:「何でこんなに執着心を持って、エレーナを探すんだろう?」と感じていたんです。ベンがグリーンゾーンへ来て、スピーガ社で出世を続けていって、(上階へ行くほど出世できるという)40階以上のポストを得た時に、アルカディアという極秘な高級クラブに出入りすることができるようになるんです。
そして、エレーナがそこで高級娼婦をやっているらしいという情報をつかむんですけど、もしかしたら、グリーンゾーンにいれば監視の目はきついけれども、やっていけると考える場合だってあると思うんですね。
でも、あえてレッドゾーンの関わりであるエレーナを探し、危険を冒しながら、嘘をつきながらも、目的に向かってやっていくというのは、たぶん何か見解があるんじゃないかなと思ったんです。
――それはどんなことでしょうか?
細谷:今日本でもマイナンバーが導入されているじゃないですか。これから先そう遠くない未来にIDやナンバーによって、個人情報が管理される時代が来る。その象徴のひとつとして、グリーンゾーンというのがあると思うんです。
この作品ではグリーンゾーンとレッドゾーンに分かれていますけど、完全に管理される便利な社会か、自由だけど便利ではない世界か、あなたはどちらがいいですか?と言っている感じがしました。
――本当にそうですね。
細谷:製作総指揮であるベン・アフレックとマット・デイモンが「管理社会に対して、NOというか、アンチテーゼを投げかけたい。本当にそれでいいんですかね?」という気持ちがたぶんこの『インコーポレイテッド』を作った時にあったと思うんですね。
グリーンゾーンとレッドゾーンの間を行き来するベンとエレーナは、その象徴としてのふたりなんじゃないかなと……。だから、探すというのは演出で、「探すことじたいが何かメッセージなんじゃないかな」と、何となく僕は思いながら、「なぜこんな楽なところから、そこ(レッドゾーン)へ行くのか?」という理由って、すごく意味を持ってくるんじゃないかなと思っていました。
――最後に、作品を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。
細谷:先程もお話しましたが、この『インコーポレイテッド』という作品は、スパイものとしてドキドキしながら楽しめるようなエンターテインメント作品としての要素もありますが、「グリーンゾーンのような管理社会なのか? それともレッドゾーンのような自由をある程度尊重した社会なのか?」というものを考えさせるようなテーマも含んだ作品だと思っています。
いろんなエンターテインメントな面と思想面が反映されている作品で、すごく楽しんでいただけるドラマだと思いますので、ぜひハラハラしながらも「どうなんだろう?」って考えながら観ていただくと、より楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。ぜひお手に取って観ていただけたらなと思います。
――ありがとうございました。
[取材・文/宋 莉淑(ソン・リスク) 撮影:相澤宏諒 ヘアメイク/河口ナオ]
■「インコーポレイテッド」
2018年3月7日(水)DVD発売、同時レンタル開始
DVD-BOX 8,900円(税別)
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
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