野上武志×才谷屋龍一×伊能高史×葉来緑のガルパンコミック4作家が語る制作秘話! もちろん秘蔵画像も大公開! ガルパンコミック作家座談会【中編】
前編に続いてお送りする、野上武志先生、才谷屋龍一先生、伊能高史先生、葉来緑先生というガルパンコミック4作家による座談会企画。今回は各先生方に、それぞれの作品の制作秘話を伺いました。
『ガールズ&パンツァー』に初めて触れた時期や印象、コミカライズを描くことになった経緯、さらに普段は表に出ることのないキャラクターラフまで一挙公開! ガルパンファン必見の貴重な話題が続出しています!
【前編】未読の方は、ぜひ【前編】からお楽しみください。
TVシリーズ開始前から始まった『ガルパン』初コミカライズ
――才谷屋先生の場合、TVシリーズが始まる前からコミカライズを始められたわけですが、最初に『ガールズ&パンツァー』という作品に触れた当時の印象をお聞かせください。
才谷屋龍一先生(以下、才谷屋):自分が『ガルパン』に最初に触れたのは、遠藤さんに企画書を持ってきてもらったタイミングですよね?
フラッパー編集部・遠藤編集(以下、遠藤):そうですね。才谷屋さんの場合、タイトルも仮タイトルで、戦車と女の子のアニメ企画を進めていて、できればコミカライズを同時展開したいという頃の話なんですよ。まだ影も形もない、企画書と島田(フミカネ)さんのキャラクターラフがあるくらいで。
才谷屋:シャーマンが戦っている絵があって、車内の女の子は全員ヘルメットを被っていたんですよ。サンダースのアリサの戦車の搭乗員の子が被っていたやつみたいな感じで。それで戦車でスポーツか何かをするみたいなラフだったんです。
葉来緑先生(以下、葉来):その初期段階のラフ……すごく見たいです。
才谷屋:最初に見た印象は、野上さんの『セーラー服と重戦車』(秋田書店 チャンピオンREDコミックス/全9巻)と似た印象のものがアニメで始まるんだな、という感じでした。「まだ決定ではないけれど、大洗という学校があって、戦車はこれが出ます。プラモデルはこれです」みたいな指示書を渡されて、じゃあまずはこのプラモを買おうかというところから始まりましたね。
だから最初は「シャーマンが主役なんだな」と思っていました。でも大洗に戦車がいっぱいあるけどこれ何だろうなって、頭に「?」がいっぱいな感じで始まりましたね。その後に送られてきたキャラ表を見たら、「あれ、シャーマンじゃなかったの!?」みたいな感じで。
たぶんシャーマンは、プロデューサーの杉山(潔)さんが「シャーマンで行きたい」と言って描かせた最初の企画イメージ画だったんだろうなっていう感じがしますね。
葉来:大洗女子がシャーマン軍団だったら、こんなに人気出なかったのかな……。あれ、好きじゃないと一般人には見分けがつきませんよ(笑)。
遠藤:実際の作業に入られる前に、確か脚本だけは、TVシリーズのほぼ決定稿というものが来ていましたね。
才谷屋:脚本の第2話で、みほが沙織に「行く方向を足で指示して」っていうシーンがあって、「届かねぇよ!」って思ったんですけど、脚本がこうだからどうしようかと考えて、クリーニングロッドで指すっていうのをマンガの第1話に描いたんですよ。
才谷屋:それで、アニメのほうではどうなったんだろうなと思って観たら、普通に蹴ってたから「ウソ~!?」みたいな感じで(笑)。その辺の描写はたぶん、日本の戦車を参考にしたんだろうなと思うんですよね。日本の戦車だと狭いし、車長のすぐ目の前に操縦手がいるから足で蹴って指示をするみたいな。そんな感じで最初のほうはけっこうバタバタしながら描いてましたね。
――作品を描く上で、楽しかったところと大変だったところは?
才谷屋:設定だらけだったので、設定を理解してマンガに落とし込んでいくこと自体が難しくて。でも逆に、落とし込めた時は楽しかったですね。後からアニメを観たら「えっ!?」ていうところもありましたけど(笑)。あと、アニメのPVが上がってくるたびに、クオリティがどんどん上がっていったんですよ。それで「あ、これヤバいぞ!」って感じになってきましたね。
――秋山優花里を主人公にするというのは、どのタイミングで決めたのでしょうか?
才谷屋:けっこう最初の段階から、杉山さんに言われました。最初は沙織か優花里のどちらかでっていうことで。
葉来:小説版(MF文庫J『ガールズ&パンツァー』著者:ひびき遊)が沙織視点ですよね。テンションが高い感じがクセになります(笑)。僕がチュートリアルコミックを描いた時は、沙織の「戦車のことは何もわからない! モテたい!」って視点は主人公に適してると感じました。
伊能高史先生(以下、伊能):アニメ初期の頃は、マンガの方向性のチェックとかもかなりあったんですか?
遠藤:放送前に始まるコミカライズだったので、たとえば学園艦も、アニメ第1話のラストで「実はこれは船の上の話だった」と明かすまでは、マンガでは触れないでほしいと言われました。確か10月放送開始のアニメで、雑誌には6月売りの号から載せて、放送直前にコミックス第1巻を出すみたいなスケジュールで。
放送前の時点では、連載はしてほしいし、ウチはコミックスを出したいからたくさん原稿を描いていただきたいけれど、ネタバレはなるべくしないでという感じでしたね。しかもフィルムコミック的な、アニメと同じものを絵に落としただけだと、映像で観た時になぞっているだけになるので、それを避けるためにも別視点とか別主人公で、あらすじは同じだけど別作品にしてほしいというオーダーだったんです。
才谷屋:コミカライズの第3話で学園艦を出しちゃったんですよ。それで完成したネームに「ダメです」ってチェックが入って、大変な想いをしたこともありましたね。既に作画作業にも入っていたから、それを一旦止めて、編集部の会議室に来られた杉山さんと鈴木(貴昭/考証・スーパーバイザー)さんに「これ、どう直したらいいですかね」ってネームの相談をして、「ここはダメです。ここもダメです」「じゃあこれ全部変えなきゃいけないなぁ」みたいな感じになって。
葉来:作画作業入った後の直しはつらいですよね……。モチベーション的にも。
才谷屋:第3話ってもう、聖グロと戦うみたいな話になっているんですよ。そうなると、聖グロがどうやって来るのかとか、大洗が戦場にどうやって行くのかっていう話が出てくるじゃないですか。じゃあ学園艦を出さないわけにはいかない。それを出さないようにという話で、どうしようと。それで仕事場に帰ってから、スタッフさんに「すいません、今月の仕事はナシで! 解散!」って言って、その日のうちにファミレスにこもって大慌てでネームを描き直したことはありましたね。
あと、その当時は聖グロのキャラクターのカラーリストがまだ上がってなくて、アッサムとかオレンジペコの髪の色をどうしようかなと。そこで、どういうふうにでも見えるようなトーンを貼って誤魔化したりとかしてました(笑)。いま考えると、それなりに苦労してたかな。
葉来:それなりどころかメチャメチャ苦労してるじゃないですか! 僕がコミカライズを始めた時は、資料は出揃ってましたからねぇ(笑)。
――これまで3作品やってきた中で、一番苦労したのは最初の連載開始前みたいな感じですか?
才谷屋:自分もこれが初連載だったので、第1話を上げる前段階での打ち合わせは何回もしました。遠藤さんと1日で18時間とか打ち合わせして、6時間寝て翌朝またファミレス行ってネーム書き直したりとか。
葉来:18時間も打ち合わせしたんですか!? そんなに時間を割いてもらってちょっとうらやましい……。
才谷屋:その前にも3回くらい打ち合わせをやってるんですけど。それで第1話が始まって、第2話、第3話と来て「はいダメ!」と言われて、みたいな(笑)。
――そんな状態で、完成したアニメを観た時にはどんな印象だったのでしょうか?
才谷屋:自分は白箱を渡されて家で観たんですけど、観終えた瞬間に「勝ったな!」と思いましたね。「このアニメは絶対に成功する! 今年はこれで間違いない!」みたいな感じで。
いきなり戦車視点でのシーンから始まって、大洗の戦車を舐め回すようにカメラが動いて、それぞれのハッチから麻子とか沙織が出てきて、動く戦車上で会話してる。まるでFPSのゲームをやっているかのような戦車の描写で、「こんなの今まで観たことがないぞ!」と。
遠藤:実は正直、アニメ放送が始まるまではコミックスもそんなに売れてなかったんですよ。9月23日にコミックスが発売されて、10月に放送が始まるまでは、まだみんなアニメを観ていない状態だと反応も大人しかったんです。それが第1話、第2話と来て、「あれ? もしかしてこれ今期で一番人気?」みたいな感じになってきて、第3話、第4話が放送された10月の終わり頃にはコミックスがぶわ~っと売れ始めたんですね。
才谷屋:ちょうど第4話が第1話の冒頭シーンにつながる話で、大洗の街中での戦いになるんですよね。
――当時のアニメ媒体でも、第4話で如実に注目度が上がった感じがありました。
遠藤:コミカライズも最初の時点では、全2巻の予定だったんです。アニメ序盤とほぼ同内容の第1巻と、アニメでは省略されたアンツィオ戦を描いた第2巻までで、あとは「俺達の戦いはこれからだ! 完」みたいな。ただそのために、当初からサンダース戦はカットする予定でした。
才谷屋:サンダース戦までやってたら、終わらなかったですよ。実は今の話を、第1話の原稿を納品した時に言われたんです。僕としては黒森峰戦までやる気満々だったんですけど、アンツィオ戦で終わらせるって話をされて「ハァァ~!?」みたいな。
――アンツィオ戦がオリジナル展開だったことで、描きたいものを描けるという部分もあったのでは?
才谷屋:人気が出れば続きが描けるかもしれないと言われたけど、「そんな話、聞いてないよ!」って感じで。ただ、2巻で終わるのであれば、僕のデビュー作品でもあったわけだから、「読んでくださる方の心を思いっきりえぐる話を描きたい。ただ終わってなるものか!」という気持ちはありましたね。アンツィオ戦が終わった時に、「ガルパンでやりきりました!」みたいな話をしっかりやれたらいいなと思ったので、とにかくアンツィオ校のネタ元になるものを調べまくりました。
みほがやったことのアンチテーゼとしてアンチョビというキャラクターの性格を設定し、新しいキャラクターも作って、戦車はこれとこれで行きましょうと決め、全部のプラモを買って、それらをストーリーに落とし込んで作っていった感じでしたね。
遠藤:あの時点では、アンツィオの設定はアニメで出た1枚絵以外には何もなかったんですよ。戦車も全然決まっていなかったので、鈴木さんに「アンツィオが持っていそうな戦車」についてのアドバイスをいただいて。
才谷屋:「どんな戦略戦術で大洗と戦わせたらいいでしょうか」みたいなことも聞いて。
遠藤:校風とかも全然決まってなかったんです。あんな食べ物集団だなんて思いませんでした(笑)。
葉来:大洗の搭乗員が入れ替わるじゃないですか。あれがけっこう好きなんですよ。搭乗員を色々ミックスさせて、それぞれの役割が変わるみたいな描写はもっとあっていいと思いますね。プラウダ戦では操縦手のおりょうが砲手を務めてましたし、まだまだ隠れた才能が眠ってるかも……。
『ガールズ&パンツァー』
才谷屋龍一/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
全4巻好評発売中
掌返しの『マジノ戦』、待望の『フェイズ エリカ』
――アンツィオ編でオリジナル展開をやられたことが、後にスピンオフの『激闘! マジノ戦ですっ!!』などで完全オリジナル展開を描くきっかけになった感じですか?
才谷屋:そうかもしれないですね。第1巻の頃から優花里視点という意味で、アニメとは少し違う見せ方にするという意図は、僕の作品の根底にあったんです。第2巻で対アンツィオ戦をやらせていただいて、それが自信になったというか、ある種“確立した”みたいなところがあったので、それの拡大解釈として『マジノ戦』は作れた気がしますね。
――『マジノ戦』はどのような経緯で描くことになったのでしょうか?
才谷屋:全4巻で無印(『ガールズ&パンツァー』)が終わった時に、すぐにやれるネタとしてあったので、「どうですか?」と遠藤さんに振ったらうまい感じに通ったんです。
遠藤:その時はこちらが今度は掌返しです(笑)。アニメが大ヒット作品になって、おかげさまでコミカライズも売れましたので、ほかの学校の設定もたくさんあるし、営業的にも売れるものが増えるならどんどん行きましょう! みたいな感じでした。
才谷屋:確か、僕がこれを始める1ヶ月前くらいに『リボンの武者』も動き始めていたんですよ。
葉来:『リボン』はもう動いてましたね。僕が才谷屋先生と初めて会ったのが、2014年7月のOVAアンツィオ戦の試写会の時なんですよ。
才谷屋:懐かしいですね。もうだいぶ昔のような気分です(笑)。
葉来:僕はあの時、カバンの中に無印のコミックスを持っていたんですよ。サイン貰おうと思って(笑)。
才谷屋:思い出した! アンツィオ戦の試写を観に行って、その帰りにアンソロジーのネームの打ち合わせを遠藤さんとしたんですよ。そのアンソロジーの後に『マジノ戦』が動き出した印象がありますね。
葉来:あのアンソロジー、たぶん僕も参加してた気がするな。ウサギさんチーム主役であんこうチームから受け継がれる話を……。まさかその後、ウサギさんチーム主人公の話を描くことになるとは思いませんでしたが(笑)。
――そして最新作となる『フェイズ エリカ』を描くことになった経緯は?
才谷屋:『マジノ戦』が終わった後、正直言うとやることがほとんどなくなってきて(笑)。
――でも、待望のエリカの話では?
才谷屋:やりたいなという話はずっとしていたんですけど、きっかけは遠藤さんからお呼びがかかって、企画を3本出したことなんですよ。『月刊戦車道』で鈴木さんが連載されていた聖グロリアーナの話のコミカライズか、第63回戦車道全国大会のマジノvsアンツィオか、エリカをやりたいという話をして、結果的に製作委員会から「エリカで行きましょう」という話になったんです。まさに待望のエリカでしたね。ヒール大好きなので(笑)。
葉来:ヒールってほどヒールでもない気が。普通にがんばり屋さんですよね?
才谷屋:いや、最初の頃のエリカにはがんばる姿なんてなかったです。
遠藤:出てきた時は、単なる嫌なヤツですよね(笑)。
葉来:確かに。でも、みほのエリカに対するスルーっぷりのほうが一枚上手の酷さでしたね(笑)。エリカなんていないかのように、まほと話していて。
才谷屋:最終回でも最後に「次は負けないわよ」とか言って、「それだけ!?」みたいな感じで本当にあっさりしたキャラだったから。
僕、悪役が大好きなんですよ。悪役のほうが人間性が出ているというか。人間性ってなんだと言われたら、愚かしい部分だと思っているんです。愚かしくない人間が主人公とか英雄だとすれば、敵役、悪役のほうが人間性が溢れている、愚かしい人間として描ける。そっちのほうが僕としてはネタにしたいなと。
その点でまさに適役のエリカが、脚本で読んだ瞬間から大好きになっちゃったんですよ(笑)。いつか描きたいってずっと思っていたんですけど、それが今回作品にできたなっていう感じです。
葉来:『最終章』は彼女が黒森峰を率いていくしかないですからね。『最終章』のアフレコレポートマンガでも描きましたけど、まほにバトンを渡されたエリカの声優の生天目(仁美)さんのセリフが、最初自信がなさそうだったんです。それが力強く変わっていったので、むしろ応援したくなっちゃいました。
才谷屋:どうなるか楽しみですね。
アニメイトオンラインショップでの購入はこちら
『ガールズ&パンツァー 激闘!マジノ戦ですっ!!』
才谷屋龍一/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
全2巻好評発売中
アニメイトオンラインショップでの購入はこちら
『ガールズ&パンツァー フェイズ エリカ』
才谷屋龍一/原作:ガールズ&パンツァー劇場版製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
最新第3巻は2018年4月23日(月)発売予定
杉本功さんも絶賛した『劇場版 Variante』西のリアル顔カット
――伊能先生は、最初に『ガルパン』を観た時の印象はいかがでしたか?
伊能:TVシリーズが始まった頃は一視聴者で、なんとはなしに観始めた感じでした。アニメが好きなので、第1話は大体チェックするんですけど、やはり冒頭の定点カメラの演出には心を掴まれました。
才谷屋:本当にこれは素晴らしいですね。
伊能:戦車の砲塔とカメラがリンクしていて、走りながら砲塔が回転するというシーンなんですけど、画面で見ると砲塔は固定されていて、車体と地面が動いていくんですよ。こういうカメラワークの演出というのが印象的でしたね。
あと僕が好きなのが、このカットなんです。
伊能:みほは変わっていないけど、背景を変えるっていう演出がすごい好きですね。ちょっとマンガでも使わせてもらったんですけど。
伊能:麻子が風呂場から学校に戻ると、ガラッと変わるという。こういうカメラワークの演出がすごい巧みだと思います。劇場版でも――
伊能:そど子の後に麻子が、同じような形で映るんですよ。こうした対比のカットの使い方が絶妙ですね。見やすい演出が随所にあって、特に第1話では力が入っていたので印象的でした。
伊能:その後もテンポ良く決勝戦まで見せてくれて、削ぎ落とし方のバランスと、内容がギュ~ッと詰まった濃密さに感心しました。一視聴者として好きだったんです。
――『ガールズ&パンツァー 劇場版 Variante』を描くことになった経緯は?
伊能:アシスタントで知り合ってからずっと友達だった葉来さんが『World of Tanks』のほうでマンガを描くことになって、その後だいぶ経ってから葉来さんの紹介で、やらせていただくことになったんです。
遠藤:『フェイズ エリカ』と『戦車道ノススメ』が始まる時期と、『劇場版』が始まる時期がちょうど重なっていたんです。それで編集長に「ガルパンで何か3本やれ!」と言われて、『ガルパン』でマンガが描ける人がどれだけいるのかみたいな時に、葉来さんに戦車のことを色々教えてくれる『World of Tanks』に詳しい友達がいて、マンガも描ける人ですと言われたんですよ。
葉来:元々はガルパン作家を紹介するためじゃなくて、異世界ファンタジー系の上手い人として遠藤さんに伊能くんを紹介したら、伊能くんがウォーゲーミングジャパンで依頼されて描いた戦車のイラストを見てガルパンが始まっちゃったんです。しかも同時連載で!
遠藤:そうだ、そっちですね。なろう系のコミカライズが出来る作家さんとして紹介されて、「こういう絵を描く人です」と見せてもらったのが『World of Tanks』の戦車の絵で、「戦車が描けるんだったらファンタジーじゃなくてガルパンで」っていう。
葉来:その前にアンソロジーがあったんですよね。
伊能:僕にとってはこれが初連載だったので、連載を始める前にお披露目的なものを先にやっておこうか、みたいな感じでやりました。
才谷屋:これが最初ですよね。なんか、上手い人がいるなと思っていたんですよ。
伊能:あっ、ありがとうございます。
才谷屋:知波単のネタ戦車! みたいな(笑)。
伊能:『World of Tanks』でイラストを描かせてもらったチニ戦車に絡めた話を作れないかと思ったんです。最初に連載の話を聞いた時は、頭に大きな「?」がつきましたね。いいのかなって。
それまで商業作家としては全然やってこれず、アシスタントで日銭を稼いでいたんですけど、もうこれから商業で使ってもらえることはないんだろうなと。マンガ自体は、今ならどこでも発表できる場があるじゃないですか。だからマンガだけ描ければいいかなと、諦め半分みたいなところもあったんです。
やりたいこと自体は残っているから、これをやっていこうみたいな気持ちを胸にして自分を落ち着かせていたところへ、こういう話が舞い込んできたので驚きました。
葉来:僕のマンガも手伝ってもらっていたので、ウチの現場的にはすっごい戦力ダウンでしたけどね(笑)。
伊能:葉来さんには頭が上がらないですよ。
遠藤:プロデューサーの杉山さんに「こういうものを描く人です」と見せるために、パイロット版のネームを切ってもらったんですけど、最初から1話目の「絶対こぼさないダージリン」の構図が来て、杉山さんからも「すごいですね!」って(笑)。
――戦車に詳しくなくても『ガルパン』は楽しめるのですが、『Variante』を読むと『劇場版』で各戦車がどういう意図を持ってどんな配置からどう動いていたのかが、すごく良くわかるんですよ。
伊能:あっ、ありがとうございます! そう言ってもらえると。
――あと面白いのが、これなんですよ。
――こうした絵柄を変える演出というのは、マンガならではだし、醍醐味じゃないですか。西の心境も、表情にすべて現れている感じでした。
遠藤:そのカットは、杉本功さん(キャラクターデザイン・総作画監督)に資料をお願いした時に、ピンポイントで「ここの絵がすごく面白かったです」って感想が来たんですよ。
伊能:正直、そんなに力を入れたところではなかったんですけどね。間を置くカットが欲しかっただけで、間を置くなら違う表現にしてみようかなと。むしろ最初はカットしようかなとも考えていた部分なんですよ。表現を変えるから、怒られるかなと思いつつ、恐る恐る描いていたんですけど、好評をいただけて嬉しいです。
葉来:大胆に切り込んでる部分が多いから、これからも期待してるよ!
――野上先生も『リボンの武者』で、福田をいきなり某大御所タッチで描いたりされるじゃないですか。
野上:福田って、あんなキャラ『戦場まんがシリーズ』リスペクトをするしかないでしょう!? 手が勝手に動いたんです。ぼくわるくないもん!
才谷屋:あははっ!
葉来:美女じゃないほうの某大御所タッチですよね(笑)。
――これがマンガという表現の面白さかなと。
伊能:わりと自由にやらせていただいているので、キャラの解釈とかも「こんな勝手なことしていいのかな」って心配になるんですけどね。
――描いていて楽しい部分と大変な部分は?
伊能:楽しいのは「ガルパンを描ける」こと自体です。『ガルパン』は資料が山ほどあるので、描くものがないということが逆にないんですよ。あと、技術を追求できる点も非常にありがたいです。色々なことを試せたりするので。
――作品を拝見すると、大洗の街の描き込みにいつも圧倒されるんですよ。
才谷屋:ガイドブックみたいになっているところがありますよね。
伊能:ありがとうございます。
――これが大洗の街にリアルにあるというのも面白いですけどね。
伊能:これはぜひ使いたいギミックだったんですよ。マンガを描かせていただくにあたって、自分の役割というか、自分なりに何ができるんだろうというのを考えたんです。ミリタリーに詳しいとか、女の子を特別かわいく描けるとかいうのもなかったので、それなら自分にできることは宣伝と応援かなと思ったんです。
大洗にキャラクターの等身大ポップとか戦車パネルが置いてあるお店がたくさんあるじゃないですか。そういうのを作中に出したりとか、『ガルパン』の関連グッズとかも少しずつでも紹介していこうかなと。
伊能:たとえばこのボードゲームを遊んでいるシーンなんですけど、実際にある『ぱんつぁー・ふぉー!』というゲームをキャラクターにやらせているんです。
伊能:あとはガルパンキャラのマスコットグッズを、キャラを変えて戦車道のチラシに入れてみたりとか。あらゆるところからガルパンネタを引っ張ってきて、紹介できればなという感じでやっています。
――恩返しで作品作りをしているような感じですね。
伊能:あ、もう本当にそうですね。
葉来:恩返しなら、もっと手を抜け(笑)。
全員:あははっ!
伊能:こういう仕事に携われること自体がありがたいことなので、隙あらばネタを入れていきたいなと。あとはもう『劇場版』自体が作り込まれているので、このシーンを観てほしいとか、背景美術のここがこだわっているとか、そういうところをどんどん描いていきたいですね。
一方、大変なところですが、最後の西住姉妹と愛里寿の戦いをどうやってマンガに落とし込めばいいんだろうと悩んでいます。
葉来:既にいろんなシーンを見事に再現してきてると思うけどね。
伊能:僕はいつも逃げているんですよ。何か違う要素を追加して場面を成立させる、みたいな感じで。でも、あそこは完全に真っ向勝負になるので。
才谷屋:アニメとマンガの表現って違いますよね。アニメは動きが表現できるんですけど、それをいかにマンガに落とし込むか。アニメの1、2、3、4という流れの中から、1と4だけを描いてどう動きを伝えるか。
葉来:マンガは省略の技術とよく言われますからね。しかも元々の『劇場版』のクオリティが高過ぎるから、みんな匙を投げると思う(笑)。
伊能:あと、キャラクターでいうと大変なのはミカですね。まるで取っ掛かりがないので。なんの哲学もなさそうだぞっていう(笑)。
才谷屋:セリフでは何かありそうなことを言っておきながら、行き当たりばったりじゃないのって感じもするんだけど(笑)。
葉来:人生哲学っぽくアキをからかってますよね。参考にしたら多分、えらい目に遭いますよ(笑)。
伊能:とりあえず、かっこよく食べるシーンでも作ればいいのかな。何かアイデアがあったらぜひください。
葉来:フィンランドには昔行ったこともあるけど、旅行本や食文化や神話とかも研究してみるといいんじゃないかな。使えそうなネタはたくさんあると思う。
アニメイトオンラインショップでの購入はこちら
『ガールズ&パンツァー 劇場版 Variante』
伊能高史/原作:ガールズ&パンツァー劇場版製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
最新第3巻好評発売中
『はじめての戦車道』執筆を通じてみるみる戦車博士に!
――葉来先生はどのような経緯でコミカライズを手掛けることになったのでしょうか?
葉来:僕は元々、ギリシャ神話の女神たちのオリジナルマンガを遠藤さんに持ち込んでいて、その時に「ガルパンやりませんか?」って誘われたんですよ。
遠藤:杉山さんから『World of Tanks』をガルパンキャラで紹介する宣伝マンガを描いてくれる人を紹介してほしいと言われたんです。そこでちょうど来ていた葉来さんに、「ガルパンって知ってますか? 戦車は詳しいですか? 『World of Tanks』はわかりますか?」って聞いたら、全部わからないという状態で。しかも締め切りまで1ヶ月ないくらいなんですけどって。
葉来:2週間でしたね。でもこういったご縁は大切にしたいので、「やりたいですか?」「はい!」って二つ返事で答えて、とりあえずアニメ見なきゃってひとりで見たんですよ。そうしたら、昔好きだったスポ根マンガの戦車版みたいな感じですごく面白くて、一気にハマりましたね。リアルタイムで観れてなくて残念でした。
その勢いで『World of Tanks』をインストールしたんですけど、まったく勝てなくて。始めて5秒で死ぬこともあるくらい。生き残れて1~2分とかなんですよ。経験値や実績になるから初心者は狩られるんです。ほとんどゲームを知ることもできないような状態だったので、伊能くんも含めて友達を誘ってチュートリアルに付き合ってもらって、どうにか楽しめるようになった感じでしたね。
ゲームのシステム自体はかなり複雑で、それをガルパンキャラを使って紹介しなきゃいけない。かなりゲームに習熟してないと、普通は説明なんてできないじゃないですか。でも、これはゲーム初心者向けのマンガで、ガルパンキャラたちもゲームのことはまったくわからないから、一緒に学んでいこうって感じで描きました。そうして連載開始したのが『はじめての戦車道』なんです。
戦車も当時で既に300種類くらいあって、細かい違いを把握しながら、ガルパンキャラを使って8ページで説明するんですけど、マンガに入れる情報量がマニュアルで20ページ分くらいあるんですよ。「こんなの入るわけないじゃん!」って言いながら描いてました(笑)。
最初はあんこうチームの5人でゲームの紹介をしてたんですけど、途中からほかのチームも出そうって気になってウサギさんチームを出したら、わりと評判が良かったんですよ。それなら全チーム出そうかなと思いまして。全13話は決定していて、この時点で7話だったから、残りが6話。毎回8ページで戦車の紹介もしなきゃいけないのに、キャラばっかり増えてもしょうがないから、あんこうチームのひとりとほかのチームって感じで1話完結形式でやっていったんです。最終的には大洗チームを全部紹介できたので、良かったと思いますね。
そうしたら今度はスペシャルでライバル校も描いてくださいと言われまして、これも12ページくらいだったんですけど、ライバル校も大洗女子学園も登場させなくてはいけない。時間もなくて、詰め込むのが大変でした。ていうか、詰め込み過ぎだったなと反省してます(笑)。
その後、今度は続編でアプリ版の『はじめての戦車道 Blitz』をウサギさんチームでやることになったんです。これを1年くらいやった後に、最終回と同時に『戦車道ノススメ』の連載開始ですね。なので、僕の戦車知識の土台は『はじめての戦車道』に支えられています。
遠藤:最初に『World of Tanks』の話をした時は「戦車ってなんですか?」みたいな感じだったのに、『戦車道ノススメ』の時には「こういう戦車のネタがありますよ!」ってぶわ~!っと出てきて、ネタ出しとかも正直こちらもよくわからないレベルになっていたので、「好きなようにやってください」と。もはや戦車博士みたいになっていますよね。
伊能:かなり調べてるよね。
葉来:この仕事を始めてからほぼ毎日戦車と向き合ってますけど、戦車にまったく興味がなかった自分がどんどん戦車が好きになっていった過程とか、初心の気持ちは大切にしています。調べて面白かったことはみんなに伝えたいし、描きたいことはいくらでもあって、多数登場するキャラクターの魅力も伝えたい。それを1話完結でやってるから、毎回ページが足りないんです。
遠藤:それなら月40ページくらい描いたらいいじゃないですか! 足りないなら描いていいんですよ!
才谷屋:あははっ! 毎回前後編にしますか?
葉来:前後編は1回だけやって、楽しかったんですよ。「登場キャラやイベントが引き継ぎだ!」って、次でまたリセットかけなくていいから感激でした。毎回主人公がチーム単位で変わるので、いつも新連載の気分で描くよう心がけてます。
才谷屋:毎回ネタを調べてキャラクターを把握しなきゃいけないから大変ですよね。
葉来:『はじめての戦車道』の頃から毎回主人公が入れ替わる形でやってきたので、『戦車道ノススメ』のほうでは初登場にも関わらず、「バレー部、久しぶりに来たな」みたいな感じがあったりして、なんとなく続編のイメージはありました。特にウサギさんチームは『Blitz』で主役としてずっと描いてきたので、『戦車道ノススメ』でもウサギさんチームの回は割とテンションが上がっているかもしれません。
『はじめての戦車道』
葉来緑
『World of Tanks』公式サイト内『はじめての戦車道』各話一覧
『はじめての戦車道 Blitz』
葉来緑
『World of Tanks』公式サイト内『はじめての戦車道 Blitz』各話一覧
アニメイトオンラインショップでの購入はこちら
『ガールズ&パンツァー 戦車道ノススメ』
葉来緑/原作:ガールズ&パンツァー劇場版製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
第2巻好評発売中
スピンオフ作品同士のコラボ企画が熱い!
――『リボンの武者』第8巻に『マジノ戦』や『リトルアーミー』のキャラクターが登場しましたが、スピンオフ作品同士が一気に横につながった感じで、非常に良いコラボ企画だと思いました。
野上:コラボ企画の初出は『らぶらぶ作戦』なんですよ。巻末で出したいという話があって、見てみたらエクレールが胃薬を飲んでいたり、『リトルアーミー』のキャラクターとしずかが対峙していたりと、コミカライズのキャラクターたちをクロスオーバーさせているのを見て、「これ面白いね! こっちでもできないかな」と思ったんです。
そうしたら、こちらの話の展開上それができそうな状況になったので、事前にほかの先生方に「出していい?」と聞いたところ、みなさんOKということで、やらせていただきました。
――その話が来た時は、いかがでしたか?
才谷屋:「やったぁ!」と思いましたね。自分は今『フェイズ エリカ』をやっているから、『マジノ戦』のキャラはほとんど描けない状況なんですよ。だから野上さんがやってくれると聞いた時は「どうぞどうぞ! ぜひやってください!」って感じでした。
僕自身も無印の第3巻で『リトルアーミー』の菊代さん(西住家の家政婦)を出したり、『フェイズ エリカ』にも『リトルアーミー』のキャラを出したりして、横のつながりが出来たら読者的にも面白いかなと思ったんです。
野上:『ガルパン』の作品世界が広がったことで、クロスオーバーができるくらいの縦深を得られたということが大きいと思います。今『リボンの武者』でやっていると、エクレールのキャラがいいんですよ! めっちゃ便利なんですよ!
才谷屋:あっ、ありがとうございます! やったぁ!
葉来:いいですよね。薄幸で苦労人で、胃をキリキリさせて。
――話題は尽きませんが、今回はここまでとして、次回もさらに楽しいガルパン話をお聞かせください。
アニメイトオンラインショップでの購入はこちら
『ガールズ&パンツァー リボンの武者』
野上武志×鈴木貴昭/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
第8巻好評発売中
[取材・文/設楽英一]
発売情報
『ガールズ&パンツァー最終章 第1話』Blu-ray・DVD
バンダイビジュアルより2018年3月23日(金)発売
【Blu-ray 特装限定版】
7,800円(税抜)
【DVD】
5,800円(税抜)
ガールズ&パンツァー最終章
ガールズ&パンツァー公式ツイッター (@garupan)
月刊コミックフラッパー オフィシャルサイト
野上武志ツイッター (@takeshi_nogami)
才谷屋龍一ツイッター (@xxsaitaniyaxx)
伊能高史ツイッター (@matarou123)
葉来緑ツイッター (@hagimidori)
(C)GIRLS und PANZER Film Projekt
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt
(C)Takeshi Nogami,Takaaki Suzuki
(C)Ryohichi Saitaniya
(C)Takashi Ino
(C)Hagi Midori
(C)Maruko Nii