タイ人のオタクはガチだった。開店2周年を迎えたアニメイトバンコク店長インタビュー&タイのオタク事情を調査してみた!
ネットが発達した現代。ネット環境とハードさえあれば、例え海外の離島に居ても、日本で生活するのと変わらないオタクライフがエンジョイできるようになりました。今やジャパンが誇るべき“アニメ・マンガ・ゲーム”は、まさしく、世界のあらゆる場所で楽しめるカルチャーです。
そんな中、日本から飛行機で約6時間ほどの距離にある国・タイでは、東南アジア最大規模のアニメ専門店として2016年にアニメイトバンコク店がオープン。その経営は初年度から黒字を叩き出すほどに好調で、2018年2月6日に2周年を迎え、海外展開を狙うオタクカルチャー専門店から注目を集めています。
「そんなに日本のオタクカルチャーはタイ人に人気なの?」
今回は、そんな疑問を持った筆者が、アニメイト・バンコク店の店長に話を伺ったり、現地(タイ)を1年半ほど取材して見て聞いたタイのリアルなオタク事情をまとめて行きたいと思います。
2周年を迎えたアニメイト・バンコク店では女性客が増加中?
それではさっそくアニメイト・バンコク店に潜入。バンコク店はタイでも有数の電化製品を扱う、サイアム地区の“MBK Center(マーブンクロンセンター)”の7階に店舗を構えています。ちなみに、バンコク店の店長を務めているのは日本人。
???「サワディーカップ!(こんにちは)」
それが彼! おおたに店長です!
おおたに店長はアニメイト・バンコク店の開店以降、ここで“英語とタイ語はできないけど店長”としてお仕事をされています。なお、おおたに店長には取材を通して何度かお会いしており、今回掲載するお話を聞いたのは2018年3月5日(月)のこと。
――お久しぶりです。タイ語と英語はできるようになりましたか?
おおたに店長(以下、おおたに):できません!
(どうやって店長業務をこなしてるんだろう……)
そんな話はさておき、まずは東南アジアで最大規模のアニメ公式ショップが、どんな状況なのかをお聞きしたところ3年目に突入した現在も「タイのお客様のおかげでなんとかやれています(笑)」と好調のご様子。
おおたに:バンコク店は学生層のお客様が多く、年齢は18~30歳と日本のアニメイトよりも若い年齢層がよくご利用されています。ちなみに、男女比率は5:5で、初年度は男性のほうが多かったのですが、この2年で女性のお客様が増えていますね。
私自身、タイで取材する中でさまざまなオタク向けイベントに行き「日本に比べて女性が多い」という印象がありました。それはバンコク店でも同じで、取材に訪れた日も店舗には多くの女性の姿が。特にバンコク店では女性をターゲットにしたイベント・企画も多く開催しており、それが女性客の獲得に繋がっているようです。
なお、具体的な人気作品は、女性向けだと『夢王国と眠れる100人の王子様』『ツキウタ。』、男性向けは『ラブライブ!サンシャイン!!』のほか、根強く『Re:ゼロから始める異世界生活』など。
また、店舗内を見ていて気になったのが日本人声優のCDや雑誌が陳列されていること。
おおたに:日本の声優さんは、タイでも非常に人気です。2月には『ラブライブ!サンシャイン!!』の高槻かなこさんにバンコク店へお越しいただきましたが、抽選式で100人のイベントスペースが満員になりました。中には日本人の方も数名いらっしゃいましたが、参加されたほとんどのお客様がタイ人です。
日本でも大人気の声優ですが、言語の違うタイでも大人気というのは驚いたことのひとつ。ちなみに、声優は女性層に特に人気らしく「2018年1月には『animate 音楽館』の公開収録で蒼井翔太さんがいらっしゃいましたが、その時は女性のお客様を中心にかなりの人数が集まりました」とのこと。時空を駆ける男はタイでも活躍中。
一番売れているのはローカライズ版のマンガ
そんな中、バンコク店で大きな売上を占めているというのが、輸入品を含めたグッズ。これは日本でも販売されているキーホルダーや缶バッチといったアイテムで、その売上は全体の6割を占めているそうです。ただし……。
おおたに:じつは、販売数で見るとタイ語にローカライズされたマンガが一番の人気商品です。タイの出版社は非常に優秀で、日本で新刊が出たら、ローカライズ版が3ヶ月後にはタイの書店に並びます。ローカライズされたマンガは値段もタイの物価に合わせた金額になりますし、なにより自力で日本語を解読する手間が省けるので、やっぱりみなさんそれを購入しますよね。
タイで販売されている日本のコミックは、平均して180~300B(約600~1000円)ほどの金額。タイはコンビニで買うお弁当が約50B~100B(約150~350円)という国であり、現地の物価で考えると、どれほど高級品なのかは想像に難くありません。一方、ローカライズされたコミックの値段は1冊平均40~100B(約100~350円)とかなりお手頃価格。そりゃ、ローカライズ版を買いますよね。
なお、ローカライズ版の値段は(タイの)出版社や紙質によって変わり、おおたに店長によれば「『君の名は』は高級感を出して300B(約1,000円)という価格でしたが、1,000冊以上売れました」という。日本で言えば“完全版”のような感覚でしょうか。どちらにせよタイ人のみなさんに「良いものにはお金を払う」という常識ができているのであれば、かなりすごいことだと思います。
タイに居ても“本物”が欲しい
そんな感じで、2年という月日を使って、誰よりもお客様事情……もとい、タイ人のオタクライフを生で見て、知っているであろうおおたに店長。そこで、私が取材で感じた“見るだけではわからない疑問”をいくつかぶつけてみた。
――タイ人のみなさんは、どうやってアニメの最新情報を手に入れているのでしょうか?
おおたに:さまざまな方法がありますが、ポピュラーなのはFacebookのようです。
――では、タイ人のみなさんが実際にアニメを見る時は、いったいどうしているのでしょうか?
おおたに:リアルタイムとなるとどうしても難しいですが、今はケーブルテレビでアニメが配信されていますし、DEX(Dream Express)が配信するWEB動画で、公式の映像を視聴できます。例えば、タイでも人気の『ラブライブ!サンシャイン!!』は、DEXで配信されたアニメのひとつですね。
――アニメイト・バンコク店では開店当初から“海賊版”や“違法配信”の撲滅を訴えるイベントなどをされていました。そういった「偽物はダメ」という意識はタイ人のみなさんにはあるのでしょうか?
おおたに:その意識は非常に高いです。みなさんが“本物”を求めていますし、だからこそバンコク店で買い物をしてくれています。偽物で満足するのは偽物のルイビトンをぶら下げて歩いているようなものですから、それが恥ずかしいという意識をタイ人のみなさんが持ってくれています。
クリエイターが現れるのはこれから?
――タイで本格的にアニメやゲームといったコンテンツを作ろうとしている方はいらっしゃいますか?
おおたに:イラストレーターになりたい人は多いのですが、本格的なコンテンツを作ろうとしている人は、私が知る限りではあまりいませんね。
――声優になりたいという人はどうでしょうか?
おおたに:声優に憧れてはいるけど、自分自身がなるという意識はあまりないみたいです。そもそも、アニメを見る時、ほとんどの人が字幕版を見てしまうため、吹き替えの需要が少なく、国内だと仕事もない状況です。なので、声優を目指す人は、日本に行っちゃいます。タイ国内でも実力のある方はいらっしゃるのですが。
――タイ発のコンテンツを出すには、まだまだ土台がない状態なのですね。
おおたに:今、オタクカルチャーにハマっているメインの層が10代~20代なので、その世代が大人になり、その子供がまたオタクになり、という流れができると、どんどん状況が変わってくると考えています。
――では、日本のコミケのような形でファン活動をされている方は居ますか?
おおたに:コミケほど大きな形ではありませんが、いらっしゃいますね。しかも、驚くほどレベルが高く、中には面白い4コママンガを描ける人も居てびっくりします。ただ、しっかりとしたマンガになると難しいようで、基本的にはイラスト集を作る人がほとんどです。
――ファン活動の一環として、タイ人のみなさんはコスプレのレベルが高いとお聞きしましたが。
おおたに:コスプレは本当に驚かされますね。「電車にコスプレ衣装で乗ったら駄目!」というルールがないなど、日本ほど抑制されていない影響もあって、レベルが本当に高いです。自主的にコスプレのイベントを開催される方も多いみたいですよ。
現在のタイについて「10~20年ほど前の日本を見ているようです」と話していたおおたに店長。今、日本で『ポケットモンスター』や『カードキャプターさくら』など、名だたる名作がリメイクされ話題を呼んでいるように、20年後のタイでは、自分の息子に「お父さんも昔は『ラブライブ!』にハマったんだ」なんていう一児の父がいるかもしれない……などと想像していたらちょっと面白くなってきました。
タイ人の“ガチオタ”は実在した。
おおたに店長へのインタビューを通して見えてきたタイ人のオタクライフ。そこで、続いてはタイの国内を現地調査!その舞台となるのは、タイの首都・バンコク。830万人もの人々が暮らす、東南アジア屈指の大都市です。(ちなみに東京都の人口は1,370万人です。東京ってすごい※2018年現在)
タイといえば「寺、お坊さん、パクチー、タイガーアッパーカット」といった想像をする人も多いと思いますが、実際のタイはかなり都会。バンコクに至っては、高層ビルが立ち並び、綺麗なショッピングモールが軒を連ね、おしゃれな服でスマホを操作する人々が往来する、日本と比べても見劣りしない都市が形成されています。私も、訪タイしたばかりの時は大きなカルチャーショックをうけました。
これほど大きな都市なら、オタクカルチャー専門店のひとつやふたつ、探せばあるはず。そんな軽い気持ちで取材を始めてみたわけです。するとどうでしょう?
はい、ありました。
ここにも。
……あれ?
というより。
めっちゃ。
あるやん! オタクショップだらけやん!
……そう、驚くことに、バンコクにはオタクカルチャー専門店(しかもガチ)が無数に存在していたのです。それだけでなく、普通の書店でも『化物語』や『悪の召使』といったコアな日本のコミック・小説がタイ語翻訳版で一般流通している状態。
取材した中には“ビルがまるごとオタクグッズショップ”という場所もあり、もはやそこは
タイの中野ブロードウェイ。アメージングタイランド……。
また、定期的に行われている書籍系のイベントや、ジャパンカルチャーを取り上げるイベントに潜入してみると、ほぼ必ず“オタク向けエリア”を発見。しかもかなり大規模なスペースであり、そこではタイ人のオタクはもちろん、タイ人のコスプレイヤーが集まり、みんなが日本のアニメ・マンガ・ゲームをキラキラした目で楽しんでいます。
そして、そこに集まるのは、勿論オタクなタイ人のみなさん! 現地のイベントで僕が知り合ったタイ人・Puenさんは、出会った時に“ラブライブ!×神田明神”のコラボTシャツを着ていたほどのアニメ好き(推しは星空凛ちゃん)。彼は最近の作品だと『ご注文はうさぎですか?』が大好き。現在はバンコクにあるKADOKAWAが運営する専門学校に通っていて、将来は日本の専門学校でイラストの勉強をするのが夢だとか。
また、出会った時に『ラブライブ!サンシャイン!!』の渡辺曜ちゃんの寝そべりぬいぐるみを持っていたNiponさん。「君は日本人かい?『ラブライブ!サンシャイン!!』は好きなら、ぜひこれを見てほしい!」とある画像を見せてくれたのですが……。
そう来たかー。
まさか、タイでフルラッピングの痛バイクを持っている人が居るとは夢にも思いませんでした。日本でもなかなかできない痛バイクを、タイで実現しているのは恐れ入ります。
オタクカルチャーは“日本の文化”なのです
かくして、インタビュー&取材を通してわかったのは「タイで日本のオタクカルチャーは人気」「一方で、コンテンツを作る環境は発展途上」というふたつの事実。この背景には「多くのタイ人にとって、日本は憧れの地」であることが大きく影響していると私は考えています。
タイの国内を歩いていると、料理、電気器材、車、言葉など、至るところで日本の影響を受けていることがわかります。しかも、その人気ぶりは年々上昇傾向にあり、日本は“タイ人の2016年度人気海外旅行先ランキング”で第1位を獲得するほど。
タイ人は日本が大好き。
そんなタイ人にとって、日本のアニメ・ゲーム・マンガもまた“日本の文化”であることは変わりありません。さらに、オタクカルチャーは“高級な物”として扱われている分、タイ人にとってオタクを趣味にすることは一種のステータスで、よりクールな文化に興味を持つ若者を中心に人気を得ているのです。
一方で、コンテンツの作り方という点においては「わからない」というのが現状。当然ですが、これは「材料や環境があっても、作り方がわからなければ日本料理は作れない」のと同じ。我々日本人が“なんとなく”でも小説やイラストを書(描)けるのは、子供の頃からアニメ、マンガ、ゲームに慣れ親しみ、情報を蓄積しているからこそです。
タイ人の若者は、その環境を最近になって手に入れた世代であり、物語を作るにも“まず起承転結という流れを知る”ところから始めています。視覚的に真似しやすいイラストやコスプレができて、マンガやゲームといった一定のノウハウが求められる制作物はまだできないというのが、その証明でもあるでしょう。
ただ、裏を返せば、ノウハウさえあればタイ人もコンテンツを生み出せるということ。事実、既に4コマ漫画を作れるような人が現れていました。これからその研究が進めば、本格的なシナリオが書けたり、アニメーションを描けたり、ゲームを作るノウハウを持った人が続々と登場してくるでしょう。
加えて、おおたに店長が話しているように「オタク世代がこれから大人になっていく」ので、タイ人にとってアニメ・マンガ・ゲームがより一般的な物となっていきます。そんな流れの中で、コンテンツのスポンサーとしてお金を出す人が出てくるのは時間の問題。そうなれば、タイ産のアニメ・マンガ・ゲームがどんどんと生産され、盛り上がっていくでしょう。
日本人とタイ人が一緒になって作品を作り、それを国境を超えて楽しむ。そんなパートナーとしての未来が、すぐそこまで来ているのかも知れません。
[取材・写真・原稿:大島弥月]