スーパーヤサイ人・野沢菜雅子(CV:徳井青空)も降臨!? 『画のないアニメ館』で解き放たれた声優たちのフルパワー
生放送中にリスナーからの投稿をまとめて脚本を書き、声優たちが即興で演技、音声のみでアニメを作る――。そんな規格外のラジオ番組『画のないアニメ館』(NHK-FM)の最終回が、3月31日に放送されました。
同番組は、月1回、約2時間のレギュラー生番組。MC&ナレーション・足立梨花さん、レギュラー声優・徳井青空さんを中心に、この日はゲストとして、赤﨑千夏さん、久保ユリカさん、白井悠介さん、西山宏太朗さんが参戦。計28役をアドリブたっぷりに演じ、“画のないアニメ”を完成させました。
アニメイトタイムズでは、そんな同番組最終回のスタジオに潜入! カオスな放送内容と、スリリングな現場の模様をお届けします。
生放送中に“画のないアニメ”を作る?
『画のないアニメ館』で生披露される“ラジオアニメ”は、毎放送とも全3話構成。桃の匂い消しゴムのキャラクター、ケシザベス・ピーチ(CV:徳井青空)を中心に、バラエティ豊かなキャラクターたちが繰り広げるオムニバス・ストーリーです。これまでに、アドベンチャーもの、刑事もの、ゾンビものなど、さまざまなジャンルのエピソードが作られてきました。
脚本家の清水東さんが書いた第1、2話の台本は、放送前に公式サイトで公開。画に縛られない声優たちがどんな芝居を作り上げるのか、どんなアドリブを入れていくのか、リスナーは台本と比較しながら楽しめるようになっています。そして、第1、2話を聴いたリスナーから寄せられる新キャラ案やストーリー展開案を頼りに、第3話をゼロから制作。放送終了時間までに脚本を書き上げられるのか、そして演じきれるのか……という綱渡りを、毎月やっている番組なのです。
声優たちを追いつめる 兼役×アドリブ×即興ソング
生放送が始まると、挨拶もそこそこに、第1、2話を生披露。今回は3月ということで「卒業」がテーマでした。舞台は、日本全国の物産品たちが集まった「全国物産学園高校」の卒業式前日。この高校に通うケシザベス、きりたポン子(CV:赤﨑千夏)、土佐野カツオ(CV:白井悠介)、コシ・ヒカル(CV:西山宏太朗)は、卒業式をボイコットするつもりの生徒が多いと耳にします。全員で参加する卒業式にするべく、クセのある生徒たち一人ひとりを訪ね、主に拳で説得していくケシザベスたち。そのなかで、裏で生徒たちにボイコットを呼びかける“番長”に迫っていく……というあらすじです。
まず特筆すべきは、キャラクター数の多さと、それに伴う兼役の多さ! 第1、2話の時点で、久保さんが6キャラ、白井さんが4キャラ、赤崎さんが3キャラ、西山さんが2キャラを演じました。しかも番組スタッフいわく、わざと“セルフかけあい”が発生する配役にしているそうで、なんとも声優殺しです……。白井さんは、第1話が始まってすぐに、熱血キャラ同士の暑苦しいセルフかけあいが発生。久保さんも、男女のヤンキー同士のやりとりを演じていました。
画がない、尺が決まっていないからこそできる、たくさんのアドリブも光りました。西山さん演じる“チバなめ郎”がレロレロ攻撃を繰り出すシーンでは、白井さんが「うわ、めっちゃなめてる! お尻めっちゃなめてる!」と悪ノリ。徳井さんが「そんなとこ、なめてません!」とフォローするも、赤﨑さん演じる“きりたポン子”が追い打ちのアドリブで応戦していました。深夜のテンションが止まりません!
もう一つの見せどころは、即興ソング。第1、2話では、赤﨑さん、久保さん、徳井さんが、ピアノの生演奏に合わせて即興キャラソンを披露しました。事前に決まっているのは、歌詞と、なんとなくの曲調のみというハードモードです。久保さん演じる“下仁田ネギー”は、下仁田を下ネタに見立てて、「オイラは下仁田、ぶっといネギ―。熱くなると、甘くとろけた、汁が出る♪」と、ドキッとする声で熱唱。徳井さんは、即興とは思えないほど感動的なバラード『卒業ケシザベス』を歌い上げました。
脚本家も とことん追いつめられる……
第1、2話が終わると、いよいよ第3話の準備が本格始動。新キャラクターや、番長がボイコットの糸を引く理由などのアイデアが募集され、投稿が読まれるたびに、スタジオの一角で清水さんと番組プロデューサーが検討を重ねていきました。また番組では、シミュレーションゲームのように、物語の大きな展開を2ルート用意。ツイッターに投下した、ケシザベスたちは全員で卒業式に参加することが「できる」「できない」という2つのツイートから、リツイートの多く集まった「できる」を採用することになりました。
そして、リスナーから寄せられた多数の展開案や新キャラ案を取り込んで執筆へ。数十分という限られた時間で約15分尺の脚本を仕上げるのは、『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『プリキュア』シリーズなどの国民的アニメで心あたたまるエピソードからキレキレのギャグ回まで手がける清水東先生をしても、簡単ではありません。過去には一度、ラジオアニメの最中に放送終了を迎えたことも……。清水さんにその回について聞くと、「終わらないのかよって一瞬は盛り上がりましたけど、やっぱり現場には、ちょっと寒い空気が流れましたね。お前の原稿が遅いからだっていうような、暗黙の……」と、遠い目で振り返ってくれました。
ゲスト4人が選ぶ「思い出のアニソン」は?
番組の折り返し地点、4月1日の午前0時には、徳井さんの事務所移籍が発生! 「たったいま、事務所が変わりました。これが初仕事でーす!」と、まさかのリアルタイム報告がされました。番組は、第3話(前半)の脚本完成を待ちつつ、「思い出のアニソン」コーナーに突入です。
ゲスト4人が自身の思い出を振り返りながら選んだのは、『幽☆遊☆白書』の初代エンディング曲「ホームワークが終わらない」(赤﨑さん)、『機動戦士ガンダムSEED』のラクス・クライン(田中理恵)による挿入歌「静かな夜に」(久保さん)、『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の初代オープニング曲「ウィニング・ラン! ~風になりたい~」(白井さん)、『とっとこハム太郎』の初代エンディング曲「200%のジュモン」(西山さん)というラインアップ。4曲それぞれのピアノ生演奏をバックに、曲にまつわる思い出が語られました。
特に盛り上がったのは、西山さんによるアツい『ハム太郎』語り。自分と同じ誕生日の“メガネくん推し”だと切り出すと、小学生時代のお小遣いやお年玉など全財産を『ハム太郎』グッズにつぎ込んでいたことや、ゲームボーイカラー専用ソフト『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』の占い遊びで、好きな子との相性を占ってドキドキしていたことなどを、少年のような笑顔で振り返っていました。
そんなときに、清水さんのデスクから、第3話(前半)の脚本完成を知らせるベルの音がカットイン! ゲストが選んだ「春に聴きたくなるおすすめのアニソン」コーナー、「禁断のミッドタイムスイーツタイム」コーナーなどで盛り上がりながら、ラジオアニメ披露に必要な準備時間を確保していきます。台本の印刷、声優陣の配役決めと台本チェック、生BGMの練習、そのほかのBGMや効果音の仕込み、そして第3話(後編)の執筆と、現場はてんやわんやです。番組プロデューサーは忙しく動き回りながら、「今日、めっちゃ難航してます。ダメだ……」と半笑い。第3話は前後半とも、かなり時間が押してのスタートです!
スーパーヤサイ人・野沢菜雅子(CV:徳井青空)が降臨!
リスナー投稿から作られた第3話は、前後半とも、とにかく新キャラの魅力が光るラジオアニメになりました。某歌舞伎役者ふうの“伊勢川 海老蔵”(CV:白井悠介)、某ジャーナリストふうの“イケガニ彰”(CV:白井悠介)、某ゆるキャラふうに振り切れたテンションで「鯖汁」をブシャーする“柿の葉ずっしー”(CV:西山宏太朗)など、パロディーキャラの大盤振る舞いです。
なかでも際立っていたのは、某バディもの刑事ドラマの主人公役っぽい“水炊 豊(CV:久保ユリカ)”と、その初代「相棒」役っぽい“カステラ脇 康文(CV:赤﨑千夏)”の2キャラ。久保さんが例の口調で「はい~?」とリアクションするたびに、出演者全員から笑いが漏れていました。
そして大爆笑をさらったのが、“スーパーヤサイ人・野沢菜雅子(CV:徳井青空)”。「オッス! オラ、野沢菜雅子。御年80のでぇベテランだ。ぐぎぎ……オラに……力を……!」と、本家と某モノマネを取り込んだ演技で登場したかと思えば、野沢さんつながりで現れた某メーテル(CV:赤﨑千夏)と一緒に即退場。これまた徳井さん演じるケシザベスが、「何しに来たのよ!」と、笑いをこらえながらツッコミを入れていました。ちなみに『画のないアニメ館』には、過去に野沢雅子さん本人も出演。「孫悟空」に「忖度」をかけた“ソン・タクウ”を、「オッス! オラ、ソン・タクウ!」と軽やかに演じています。
第3話(後半)が盛り上がる一方で、迫り来るのは番組終了時間。収まるか収まらないか、スレスレの進行となりました。演技中に容赦なく出される「放送終了まで残り1分」というカンペ……。それを受けて徳井さんがとった奥の手は、「セリフを巻く」という荒業でした! 全3話を通じたクライマックスともいえる、ケシザベスによる番長の説得シーンを超絶早口でねじ込み、感動なのか笑いなのか、もしくはその両方なのか、不思議なカタルシスを生みながら、“画のないアニメ”が堂々完結。放送終了の、実に30秒前でした。
今回、出演者6人が演じたキャラクターの数は、ナレーションを含めて計28役。徳井さん3役、足立さん2役(ナレーション含む)、赤﨑さん5役、久保さん8役、白井さん6役、西山さん4役となりました。その28役の役作りや、アドリブ、即興ソングなど、過酷な戦いを乗り切った出演者たち。生放送が終わると、戦友のような一体感が生まれていました。
『画のないアニメ館』は、レギュラー放送こそ終了ですが、特番での継続が決定しているとのこと(放送時期未定)。ギリギリの状況だからこそ垣間見える声優たちのフルパワーに、再び会える日を待ちましょう!
「無茶ですよ! バカなんですよこの番組(笑)」
『画のないアニメ館』、記念すべき最終回を終えた足立梨花さんと徳井青空さんに、お話をうかがいました!
徳井青空さん(以下、徳井):今日も怒涛の進行で、残り20分くらいになるとハラハラしましたね。個人的には、アニメ最終回の内容はもちろんですけど、西山さんの『とっとこハム太郎』トークが最高でした。素敵すぎるでしょ(笑)。
足立梨花さん(以下、足立):私のピークは、野沢菜雅子(CV:徳井青空)ですね! 台本には「野沢菜雅子『(いろいろアドリブ)』」とだけ書いてあって、どうやるのかなぁと思ったら……。
徳井:完全に某モノマネみたいになりました(笑)。
足立:1年間、声優好きにはたまらない番組だったと思います。私はみなさんの演技を特等席で目撃できて、本当に幸せ者ですよね。振り返ると、声優さんのすごさを改めて知ることのできる番組だったのかなと思います。急に台本を渡されて、一人で何役も兼ねながら、アドリブや歌もあって……。無茶ですよ! バカなんですよ、この番組(笑)。
徳井:刺激の塊でしかない(笑)。
足立:でも声優さんたちは、それを快く引き受けて、素敵なお話にしてくださる。いつも見ていて感動でした。こんな貴重な番組、終わらせたらいけないと思うんだよ私は!
徳井:みなさん不安げな表情でやって来るんですけど、ものすごい笑顔で帰られるんです。リアルタイムでのかけあいを、本当に楽しんでくださっているのが伝わってくる。私にとってもこの番組は、全力でお芝居をする、月に一度の楽しみでした。特番になっても、いろんなゲストさんが来てくれたらうれしいですね。また、たくさんの人に聞いてほしいです!
足立:楽しみですね! そんでもって不安です(笑)。
[取材&文・小林真之輔]
>>『画のないアニメ館』 NHK公式サイト